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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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お披露目会

 皆、サプライズでの五十一人目の登場には驚いたようだが、特に揉める様子もなくヒースによる次の説明が始まった。


 基本的な流れは第一回、二回と変わらず、何度かの課題をチームで取り組み、その様子を新聞で全国民に周知する。国民はこれを次の投票先を選ぶための判断材料とする。課題で成果を上げる事が、国民への分かりやすいアピールとなるのは言うまでもない。


 そして、国民へのアピールは投票という形で帰ってくる。見た目が美しい事は最低限なので、差別化要素にはならない。付加する要素として、課題を通して自身の魅力を示していく必要があるのだ。


 課題終了時点での得票数が下位の勇者候補生が脱落し、残った人で次の課題に取り組む。こうして最終的に四人まで絞られる。


 今からは自分の実力をこれでもかと誇示する時間だ。ドレスから戦闘服に着替えた勇者候補生が一人ずつ前に出て、自身の得意技を披露していく。今後の課題はチーム戦になるので、各々がどんな能力を持っているのか確認する意味合いもあるのだろう。


 披露する順番は一位のリリィ・ルフナからだ。当然私は最後。リリィ・ルフナで始まり、リリー・ルフナで終わるのは何とも皮肉だ。私は人前で披露できるような芸は踊りしかないので、この場の空気がどうなるのかは簡単に予想が出来る。


 さっきまで安っぽい椅子が並べられていたところは、椅子が片づけられ、的として藁の案山子が何体も並べられた演舞場となった。


 リリィ・ルフナが演舞場に出てくる。実戦を想定しているようで、きちんと鉄の鎧を着こんでいる。何もしなくてもいい暮らしが出来るお嬢様がわざわざ勇者オーディションに参加する理由は何なのだろうと、鎧を着ていると思えないほど軽快に動き回る彼女の背景に思いを馳せる。


 だが、平民の出の私がいくら考えたところで彼女の悩みを理解する事は出来ないのだろう。参加理由の推察はすぐに打ち切った。


 推察を打ち切ったのは身分の違いの他にも理由がある。彼女の演武が始まったのだ。


 登場からずっと変わらない、平服を身にまとっているような軽快な身のこなしで案山子に走り寄り、髪の毛と同様に白銀に煌めく剣を振りかざす。一体目の案山子が二つに別れ、胴体が地面に落ち切る前に二体目、三体目の案山子を同じように切り伏せる。


 結果として、三体の案山子の胴体が地につくときの音でダン、ダン、ダンと小気味良いリズムを奏でた。


 勇者候補生の誰もが息を飲んだ。彼女の凄さは絶対的なものだ。相対的に誰々と比較して剣捌きが優れている、だとか、身のこなしが踊るように軽やか、というレベルで語れるものではない。ただ、リリィ・ルフナという人物の能力が常人を越えて飛びぬけている、という事実だけが示された。


「私、リリィさんが何をしているのか見えませんでした」


 隣に座っているメリアが私に向かって呟く。さすがに人並みの動体視力であれば捉えられる動きだったと思うが、自分の驚きを最大限に表現したいのだろう。


「そうですね。大臣の娘なのに剣まで達者だなんて凄い人ですね」


「本当にそうですよね! 美人さんだし憧れちゃうなぁ……」


 メリアは祈りをささげる時のように両手の指を絡ませながら嬌声をあげてリリィ・ルフナを見つめている。明らかに「憧れ」という言葉では説明がつかない視線だった。ピンク色の光線がメリアからリリィ・ルフナに向かって飛んでいくようだ。


 五十人が順番に披露するという事で、リリィ・ルフナの演武もそこそこにすぐに次の候補者と入れ替わった。次は二位だ。ネリネ・キャンディ。キャンディ家は田舎者の私でも聞いたことがある。


 キャンディ家の祖は、平民ながらもいち早く魔法に可能性を見出し、魔法使いに転身した。その結果、王国における魔法の第一人者となり、平民にも関わらず貴族の仲間入りを果たす大躍進を遂げた。


 魔法の入門書の一ページ目にはキャンディ家の躍進の歴史が書かれている。平民でも愚直に鍛錬することでこうなれる、という例なのだ。


 勿論、当時と今では状況が違うので誰しもが魔法を使えれば立身出世を成し遂げられる訳ではない。それでも、魔法の初学者にそう思い込ませることでキャンディ家は更に自身の名声を高めているのだろう。


 そんなネリネ・キャンディの演武は、案山子に向けて腕を伸ばす動作から始まった。私のところまでは詠唱は聞こえないが、何かしら口を動かしているのが分かる。


 次の瞬間、閃光がほとばしり咄嗟に目を覆う。目が慣れてきたころには、案山子は跡形もなく消えていた。黒い炭が残っているので、何かしらの爆発が起こったのだろう、という事は分かるが、それ以上の理解が出来ない。これがキャンディ家の跡取りの実力なのか、と舌を巻く。


 そこからも順番に演武を披露していった。意外にも魔法を使わない人が多くいた。三割くらいだろうか。


 そのほとんどは私でも知っているくらいに有名な貴族の姓を名乗っていたので、恐らくは伝統を重んじるあまりに魔法を拒絶している人達なのだろう。彼女たちこそ、ヒースが適当にでっち上げた「レジェンド枠」にふさわしい人だと思う。


 一方で、平民の出のような魔法使いが過半数を占めていた。魔法も人によって得意分野、不得意分野があるようだが、ネリネ・キャンディほどの大技を披露する人はいなかった。


 あれよあれよという間に私の番が回ってきた。ドレスよりも露出の激しい踊り子の衣装に着替えていると、私の前に演武を披露していたメリアが拍手を受けながら戻ってきた。何を披露していたのかは知らないが、好感触だったようだ。


 メリアは私の格好を見ても眉をひそめない。それどころか朗らかに笑いながら、私の手を取ってくる。


「リリーさん、お疲れ様です。頑張ってくださいね!」


「え……えぇ。ありがとうございます。メリアさん」


「メリアでいいですよ。それに敬語も止めてください。多分、これから私達は仲良くしないとなので……」


 五十位と五十一位。普通に課題をこなすだけでは次の審査に残ることが出来ない二人だ。仲良く、とオブラートに包んではいるが、早い話が協力関係を結ぼうという事だ。


 私も自分一人でどうにか出来るとは思っていない。軽く頷いて言葉を返す。


「じゃあ私もリリーでいいわ。これからよろしくね」


「うん! よろしくね! リリーちゃん!」


 メリアは笑顔が素敵だと思った。もう少し話していたかったが、司会のヒースが私の名前を呼んだのでメリアとお別れの握手をし、入れ替わりで演武場に進み出る。

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