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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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解決

「首謀者は誰かしら? 派手にやってくれたものね」


 リリィがこの会の参加者を見渡しながら言う。私と目があっても動じずに、他の人を見る時と同じように視線が通り過ぎていった。


「アンタ達はいいよね。実家も太けりゃ、オーディションも勝ち残れる。こっちだって必死なんだよ!」


 私がいる下位の平民集団の中から誰かが声を上げる。それに同調するように他の女の子も「そうだそうだ」と不満をあげ始めた。


 貴族と平民、魔法使いとそれ以外。なぜか人は派閥を作りたがる。そして、今は順位が下位の平民とそれ以外。複雑に物事が絡まり合って派閥が細分化されていくのを感じる。


 声の発信源を特定したようで、リリィは一人の女の子に近づき胸ぐらを掴んだ。


「必死になるのなら、せめてルールの中で藻掻きなさい。こんな掃き溜めみたいなところで藻掻いたところで搾取されるだけ。そんな事も分からない?」


 敢えて選んだのであろう「掃き溜め」という言葉。それが更に下位の平民集団に火をつけたらしい。更に不満の声が高まっていく。リリィはその声を無視するように、女の子から手を離すと拘束されているルナットを連れてきた。


「ルナットさん。貴方からは商売を何たるかを良く教わりましたね。確かに、物心ついた時から私を見る目つきがいやらしいと思っていたら、こんなお祭りを催していたとは。私もまだまだ人を見る目を養わないといけないようです」


 リリィはルナットの薄い髪の毛を無理やり引っ張り、顔を持ち上げる。うめき声を出すものの、リリィは手を緩めない。


 私とリリィが交わした『契約』の重要性をリリィに説いた人物。ルフナ家に出入りしている商人だと言っていたがそれがルナットだったらしい。


「勇者オーディションにおいて、金銭やその他の見返りを対価に投票してもらうのは禁止されています。これは明らかにそういった類のものですよね?」


 ルナットは無様に顔を持ち上げられたまま何も言わない。リリィは舌打ちをすると髪をもう一度引っ張って続ける。


「ルナットさん。貴方の商会は食品を多く扱っているわね。そろそろ今年の審査の時期じゃないかしら? 今年はどう? 衛生面は大丈夫? 無能な部下が、王家や我が家に腐ったクズ肉を納品して怒りを買わないように気をつけないといけないわね」


 世間話をしているのではないとすぐに分かった。これは脅しだ。ルナットの商売を潰すことなんて、リリィの実家であるルフナ家にかかれば造作もないこと。


 リリィ、というよりは親兄弟の権力ではあるが、この場ではリリィがその代行者だ。嘘を真実に、真実を嘘にできるのは力のある者だけ。この場ではリリィが一番の力を持っている。


「わ……私はこんな小娘達の事は知らん! オーディションなんて興味もないし、投資もせん!」


 ルナットは声を上ずらせながらそう言う。その言葉を聞いたリリィは私を虐めるときのような笑みを浮かべ、私達をグルリと見渡す。


 他の商人たちも同じように頷いている。誰も投票に介入しないという意思表示だろう。


 下位の平民集団の心の支えは、ここに何人もいる金持ちの商人が投票にあたって力を尽くし、脱落してもパトロンとなってくれると信じている事にあった。


 だが、ルナットの矮小な自己保身によりその道は絶たれた。その事を知った下位の平民集団は肩を落とす。


「さて。これにて一件落着ですわね。これからも、正々堂々と勝負致しましょう。今日の件は他言無用とします。お互いにその方が利するかと思いますので」


 平民の神経を逆撫でするような猫撫で声でオリーブが締める。今日の会に参加していた者達からすれば、その方がありがたいだろう。身体を売って、その引き換えに投票をしてもらっていたなんてバレたら世間からの目が厳しくなる事は明白だ。


 貴族連中のメリットは何だろう。弱みを握れた事もあるし、勇者オーディションの名に泥を塗らないようにしたい、というところだろうか。


 まずは乱入してきた貴族連中がゾロゾロと出ていき、そこから肩を落とした平民集団が出ていく。平民の人は一様に私を睨みつけてくる。


 まるで、私がこの会を貴族連中に密告して潰したと言いたげな目線だ。実際そうなのかもしれないけれど、この屋敷から最初に脱走して事を荒立てたのはメリアだ。助けてくれたとはいえ、私だけが恨まれるのは釈然としない。


「リリーちゃん、帰ろっか」


 メリアがピオニーと二人で三角座りをしている私を迎えに来る。二人共、私に気遣っているのか不気味なくらい笑っている。メリアが差し出してくれた手を取ると、肩が外れそうになるくらい思いっきり引っ張ってくる。


「メリア、痛いわよ」


「アハハ……ごめんごめん」


「でも、二人がいたらどれだけ大怪我をしても治せそうね」


「治せるけど、あまり怪我はしないでね。いい事ばかりじゃないから」


 メリアもピオニーもあまりいい顔をしていない。別に治癒の力をあてにしている訳ではないのだけれど。少しだけモヤッとしながら三人で固まって歩き出す。




 そのまま三人でルナットの屋敷の敷地から出る。門を出てすぐのところにリリィとオリーブがいた。


「あ! リリィさん! 今日はありがとうございました。私ひとりじゃどうしようも出来なくて……本当に助かりました」


 メリアがリリィを見るなり頭を下げる。メリアは屋敷を飛び出すなり宿舎に戻り、リリィを呼んでくれたのだろう。


「メリアさん、気にしないで。不正投票なんてされたら私達も困っていたから、こちらこそ助かったのよ」


 あくまで勇者オーディションを公正に進めるために乱入したという事らしい。私を助けるために、なんて事は期待していなかったけれどそれでも少し寂しい気持ちがある。


「さてと。私がメリアさんでよろしいのかしら?」


「えぇ。それでいいわよ」


「分かりました。リリィさんもお人よしですのね」


 オリーブとリリィが何やら二人で話を進めている。メリアと二人で顔をかしげる。


「えぇと……何の事ですか?」


「今回の会を潰された事で寝込みを襲ったり、報復があるかもしれないから、私とオリーブで二人を守ろうと思って。不要なら良いわ。私も一人部屋の方が楽だから」


 リリィが説明をしてくれる。どうやら、オリーブとメリア、リリィと私で同部屋になるという事らしい。


「そ……それなら私はピオニーの部屋でもいいかな」


 メリアはオリーブに若干苦手意識があるらしい。苦笑いしながらピオニーに助けを求めている。


「私は構わないけれど、治癒師二人じゃ襲われても戦えないからね。オリーブもノリノリみたいだし試しに行ってみたら? 突入する時に見たけれど、魔法の腕も中々だったから頼りにはなるわよ」


「うぅ……分かったよぉ」


「あら。嫌なら他所で寝泊まりしていただいて構いませんのよ」


 嫌々承諾するメリアをオリーブがチクリと刺す。いつもほど嫌味成分が濃くないので、普段からこのくらいならまだ話せる人なのに、と思ってしまう。


 どういう風の吹き回しかは知らないが、ランやレンと実行した下着の件も水に流して私達に協力してくれるみたいだし大人しく甘えておく方が良いのだろう。


「まぁ、ほとぼりが冷めるまでだから。とりあえず数日様子を見ましょう」


「私は乗り気ではないですのよ。あくまで、リリィさんが提案してきた事ですの」


 オリーブは何やら予防線を張っているが、別に悪い事をしているわけではないのだから堂々としていればよいのに、と思ってしまう。普段から平民を見下している界隈なので、同じ部屋で寝泊まりをする時点で悪い事をしている認識なのかもしれないが。


「ごめんなさいね、オリーブ。でもこれでメリアさんやリフィさんが怪我でもしたら寝つきが悪くなっちゃうでしょ? 私達のオーディションを守ってくれたんだから」


 怪しく笑うリリィの言葉にオリーブが頷く。


 結局この二人は自分達のためにやっているのだろう。リリィも私のため、というよりは不正を未然に防いでくれたことへの恩返し、という側面が強そうだ。




 宿舎に戻ると手早く荷物をまとめてリリィの部屋に移動する。廊下ですれ違った平民の勇者候補生に唾を吐きかけられたが、蛙にでも出会ったのだと思ってやり過ごした。


「お待たせしました」


 リリィの部屋の扉を開け挨拶をする。


 リリィは部屋に入ってすぐのところで待ち構えていた。そして、何も言わずに私を抱きしめてきたのだった。

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