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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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草の根

 一週間の訓練期間が終了した。ローズは色んな踊りを教えてくれたけれど、実際にどこまで活躍できるのかは未知数だ。


 リリィは体調が悪いのか、部屋に遊びに行っても相手をしてくれず追い返されるばかりだった。


 明日からいよいよ一次審査が始まる。前日の今日は日曜日。束の間の休息だと思っていたのに、全員が朝から王都内にある公園に集められた。


 だだっ広い公園に、日除けのテントと椅子がズラッと並べられている。飾り付けもされていてお祭りみたいだ。


「うわぁ! お祭りでもやるのかなぁ!?」


 メリアも目を輝かせて公園を見ている。


「そんな訳ないでしょ。昨日説明があったの聞いてないの?」


 ピオニーが呆れた顔でメリアを見てくる。だが私も今日の趣旨について聞いていない。最終日という事もあり、ローズの店でご馳走になっていたのだ。ベロンベロンに酔っぱらい、新聞記者の女の子に肩を借りて宿舎まで帰った頃にはとっくに日を跨いでいた。


「遅くまで飲んでたから……」


「私も早めに終わったからお昼寝したら寝過ごしちゃって……」


 ピオニーは「そんなだからアンタ達は最下位なんだ」と言いたげな目で私達を見てくる。だが、一つため息をつくと説明を始めてくれた。ピオニーはツンツンしているけれどなんだかんだで優しい。


「投票は国民の人がしてくれる訳でしょ? 今日は国民の人の話を直接聞くことができる機会なのよ。握手をしながら、じっくり話をする会ってわけ」


「握手会ってこと?」


「握手をするのはあくまで客寄せのためよ。目的は自分を推してくれている人との交流だったり、新たな支持者を獲得する事ね」


 ピオニーは真面目に今日の趣旨について説明してくれる。


 皆、そんな真面目な話をしてくれるのかと疑問に思う。去年の男勇者オーディションの時に村の女の子達もこぞってイベントに参加していたけれど、やれ誰がかっこいいだの、誰と誰のカップリングがどうのだのという話しかしていなかった。


 結局、私達はマスコットとして見られているのだと自覚する会になりそうだ。そもそも私のところに来てくれる人がどれだけいるのか分からないけれど。


 ヒースの号令で一位のリリィから順番に並んでいく。リリィは背筋をピンと伸ばして椅子に座った。微動だにせず一点を見つめ続けている。握手会であっても気を抜かないのだろう。


 あれよあれよと言う間に私も席に案内された。会場の端なので入り口からはかなり遠い。遥か向こうにある入り口を見ていると入場が始まったようだ。我先にという感じで大量の人が押し寄せてくる。


 その人の波は三十位くらいのところで弱くなり、私やメリアの席まで届くことはなかった。閑古鳥が鳴くとはこの事だろう。


「誰も来ないわね……」


「アハハ……まぁ、私達って埋もれちゃってるよね」


 人気が無いのではなく、そのポテンシャルはあるはずなのに芽が出ていない。そんな気持ちが込められた「埋もれている」というメリアの言葉で少し勇気づけられる。


「そうよね……埋もれているだけよね。誰かが掘り出してくれれば……」


「そうそう! だから落ち込まないで!」


 メリアの励ましもあり、他の人と握手を求めている民衆の列を眺めていると徐々にこちら側へも人が分散してきたのが分かる。最初に人気の人と話して、それから更に下位の人とも話す予定だったのだろう。


 チラホラと四十位代の人に、短いながらも列が形成され始めた。私のところに来てくれる物好きはまだ来ないみたいだ。


「ちょっとトイレに行ってくるわね」


 メリアに言い残して席を立つ。トイレに行くついでに他の人の後ろを歩いてみたが、皆一人一人とそれなりに話し込んでいるようだった。こういう細かい努力が実を結ぶのだろう。私も待つだけではなく自分から動いた方が良いのかもしれない。


 どうやって目立つか考えていると上位陣の席の後ろに辿り着いた。上位のリリィ、ネリネ、ピオニー、ラン、レンの前にはまだまだ長蛇の列が出来ている。


 時間制限を設けないと人が捌けないようで、屈強な男が横に立って人の流れを整理している。一人あたり十秒くらいだろうか。握手をして一言二言の言葉を交わすとすぐに追い出されている。私のところに来れば一時間でも話をしてあげられるのに。


 別に嫉妬はしない。ただただ落ち込む。自分の支持者、自分を見てくれている人の量を可視化されている。圧倒的な物量差に押し潰されそうだ。


 それは即ち、これからの人生が変わるのかを見極める指標にもなる。今の所、私は何も変わらない。また田舎に戻って薄汚い酒場で踊る日々に逆戻りだ。


 だけど、そもそもここにいる事が偶然の結果なのだし、むしろあるべき姿に戻るだけだ、と自分を慰める。


 気落ちしながら再び上位陣の客層を眺める。


 全体的に男性比率が高いが、リリィは老若男女を集めていて幅広い支持層がいそうだ。見たことのない爽やかな笑顔を振りまいている。


 逆にネリネの列に並んでいるのはほとんどが男。やはり男ウケするのはああいうタイプなのだろう。私も「皆の妹のリフィです」みたいなキャラにした方がいいのだろうか。


 全体的に男比率が高いという事は、ここに来ていない人の票田がまだ未開拓ということになる。つまり女性だ。そこをターゲットに絞れば私にもまだチャンスはあるのかもしれない。




 トイレを済ませて自席に戻ると数人の人が私の席の前に並んでくれていた。驚いてしまい、駆け足で席に戻る。


「すみません! おまたせしました! リフィ・ルフナです」


 先頭にいたのは中年のおじさんだった。綺麗な服を着ているので裕福そうな人だ。


 手を差し出すと両手で私の手を掴み手首の辺りまで撫で回してくる。少し気持ち悪いがこれも票の為なので笑顔で耐える。


「お嬢ちゃんは『草の根』をやるのかい?」


 聞き慣れない言葉だ。王都で流行っている遊びだろうか。


「草の根……ですか? すみません。知らないので……」


 横で暇そうにしているメリアを見ると首を横に振る。話は聞いていたみたいだが知らないらしい。


 中年のおじさんはそれだけ聞きたかったのかすぐに立ち去っていった。並んでいた他の人も同じだった。握手をすると『草の根』なる活動をしているか聞かれ、知らないというとあからさまに舌打ちをする人もいた。


 人が捌けたところでもう一度メリアに聞いてみる。


「メリア。『草の根』って何なの?」


「私も聞かれたんだけど、知らないんだよね。ダリアさんは知ってる?」


 メリアが更に隣の人に尋ねる。四十九位の人だ。顔に見覚えがある。初日の立食パーティの時、平民ゾーンで私を皆の前で馬鹿にしてきた人だ。


 ゆるい縦巻きにされた茶髪や目尻にあるホクロが大人の色気を醸し出している。何歳なのかは分からないが、私達よりは年上だろう。


「知ってるわよ。興味ある? 今日から早速あるのだけど……」


 ダリアは値踏みするように私とメリアを見てくる。


「具体的に何をするんですか?」


 ダリアは不気味に微笑む。


「夜のお楽しみよ。じゃ、二人も参加ね。私はダリア・ギャル。よろしくね、踊り子さん」

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