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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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契約

 椅子に座るリリィの前で膝立ちになる。そうしろと命令もされていないのに身体が自然と動いた。


 リリィは私の頬に手を添えてウットリとした顔で見てくる。


「綺麗な顔をしているのね」


「リリィさんほどじゃないです」


「お上手ね」


 私も容姿に自信がない訳ではない。それでも、リリィほど整っているかと言われれば疑問だ。


 リリィとそのまま見つめ合う。猫のように大きく開かれた青い目が私を捉えてくる。やや右目の方が大きく開いている。でも、多少のアンバランスさは誰しもあるものだし気にならないレベルだ。


「本当に均一だわ。鏡に写したみたいに左右対称ね」


「左右対称……ですか?」


 リリィは無言で私を鏡の前に連れて行く。私の背後に立ち、髪や服を整えてくれる。それは私のすべてを左右対称にするためだったらしい。


「人はね、左右で非対称のものに魅力を感じ、左右対称のものにはどこか不気味さを感じるらしいわ」


 私の姿を題材にリリィの講義が始まった。酔っているのか、いつもより饒舌だし言葉が優しい。だが、その手は背後から忍び寄ってきてゆっくりと服のボタンを一つずつ解いていく。


 鏡に写る私は、言われてみれば左右で対称だ。それが、作り物のようで少し違和感はある。だがそんな事、今まで気にしたこともなかった。


「貴女は寸分の狂いもない程に左右のバランスが取れている。本当に美しいわ」


 私のバランスを崩さないように、私の肩越しに鏡を覗き込んでいるのが分かる。私の右肩にだけリリィがいる。それだけが、鏡の世界で左右を判別する方法だ。


「以前、お父様に連れられて美術館に行ったの。そこでわざわざ左右対称の胸像と非対称の胸像を見せられてね、館長がウンチクを垂れるの」


 リリィが左肩の方へ移動してくる。ボタンを全て外され、服が床に落ちた。リリィの物とは大違いで、シミも多い使い古された下着だ。


「いかにも非対称の方が美しいと言わせたい説明だったのだけど、私はそうは思わなかった。おかしいのは私? それとも他の皆?」


 どちらもおかしく無い。何に対して美しいと感じるかは人それぞれだ。だから五十一人も候補を集めたとしても投票先がバラける。


「大多数の人が、という前提をつけるならリリィさんかもしれませんね。でも、私もそうですよ。匂いで興奮する変態ですから」


 高尚な話をするためにここに来た訳ではない。我慢ができず、自分から切り出す。左右が対称でも非対称でも良いから早く私を攻め立ててほしい。その一心で、鏡越しにリリィへ求めている事をアピールする。


「今はそういう気分じゃないの。ただ話をしたいだけ。貴女もそうでしょ?」


 服を脱がせておいてその言い分は成立しない。リリィは私の望みをわかった上で躱してきている。焦らされているだけのか、本当にこのまま生殺しで帰されるのか。どうなるのか分からず唾を飲む。


「私は色々とおかしいのよ。普通ではないの」


「そんな事ないですよ」


「そんな事があるのよ」


 そう言うとリリィの五本の指が私の肌に触れるか触れないかという距離感でゆっくりと動き始めた。横腹を中心に攻め立ててくるのでくすぐったい。


 鳥の羽でくすぐられているようだ。厳密にはそんな事はされたことが無いので想像だけど。


 自分でも気づかないくらいにゆっくりと息遣いが荒くなってきていた。


「貴女、何でも興奮するのね。羨ましいわ」


 リリィの「羨ましい」の一言で一気に現実に引き戻される。リリィの手を掴みくすぐるのをやめさせ、体を反転させて彼女と向き合う。


「リリィさん、どうしたんですか?」


 リリィは何か腹に一物を抱えているみたいだ。話がしたい、というのは建前ではなく額面通りだったらしい。「したい」というより「聞いて欲しい」と言う方がしっくりくるだろう。目線を落としている彼女はそれくらい思い悩んでいるように見えた。


「どこを触っても何とも思わないのよ。変な体よね」


「そ……そうなんですか?」


「貴女、自慰はする?」


 急な質問に戸惑ってしまう。言葉攻めの一環で頻度や方法を根掘り葉掘り聞かれるのであれば良いのだが、どうもそんな雰囲気ではない。


「た……たまに。寝付けないときとかにしますね」


 リリィは私の返答を聞いてもうんともすんとも言わない。敢えて少なめに申告したので「本当はもっとしてるんでしょ」とか言って欲しいのだけど。リリィは俯いたまま続ける。


「来る嫁入りに備えて閨房術をメイドに教わったわ。自分に試しても感覚がないからあんなので人が悦ぶなんて信じられないの。……もちろん座学だけよ。親と同じくらいの女性と……そんな事は出来ないから」


 リリィは不感症なのだろうか。田舎で友達と話している時もそういう人がいたので意外と多いのかもしれない。


「でも私を虐めている時のリリィさんは本当に楽しそうですよ。後、脚に触れている時も」


「性的な興奮はないわ。魅力的だと思うけれど、美術品を愛でるようなものね」


 リリィは自分がおかしいのだとばかりに自嘲気味に笑う。そんな顔をしないでほしい。リリィには絶対的な差を見せつけてくる、私の女王として君臨して欲しい。


 でも昨日リリィに踊りを見てもらった時の反応は明らかに興奮していたように見えた。慣れていないだけで、きちんとした手順で呼び起こせばリリィも人並みに感じるのではないかと思った。


「リリィさん! 昨日、私の踊りで興奮してましたよね? 頑張ります! 頑張って、リリィさんがイクまで踊り続けます!」


「ちょ……そんな直接的な表現はやめなさい」


 リリィは恥ずかしそうに顔を逸らす。こういうところはお嬢様らしい振る舞いだ。そんなリリィが指を咥え、愉悦の表情に浸る瞬間を拝みたくなってくる。


 表現に注意は入れてきたが、リリィも私の案に前向きな態度を示すように私の目を見てきた。


「でも、昨日は驚いたわ。自分の身体だとは思えなかった。驚きすぎて、追い出してしまってごめんなさいね」


 昨日、部屋を追い出される前の事を思い出す。私の踊りを見てモジモジとしていた彼女は急に激高した。そのまま無理矢理部屋から追い出されたのだった。


「リリィさん、一緒に頑張りましょう! 私ももっと気持ち良くなりたいんです!」


 リリィの手を取って握りしめる。彼女はポカンとした目で私を見かたと思うと微笑む。


「本当に変態なのね。だけど、その前向きな姿勢は見習うべきかな。リフィ、頼りにしているわ」


 リリィも手を握り返してくる。


 私は変態だったのではなく、変態にさせられたのだと思う。自分の本質でもあったが、それに気づかずに淑女として生きる道もあったはずだ。リリィに出会って変わってしまった。


「そうね。じゃあ契約をしましょうか」


「契約……ですか?」


 私達の関係を言い表すなら「友人」だとか「協力者」だと思う。その関係においては聞き慣れない「契約」という言葉。何が起こるのか期待を寄せてしまい、ゾクゾクとしてくる。


「家を出入りしている商人に教わったの。人を縛り付けるには契約が一番だってね」


 リリィはそこからも法治国家が云々と難しい事を言っている。半分も意味は分からなかったが、要するに契約を破れば厳しい罰がある、という事だ。罰とはいえ私が欲するものではない。この関係の解消という、私にとって最悪な罰が待っている。


 ペラペラと高説を垂れたリリィはテーブルに置いてある箱の中に手を入れる。白く細い指は、水の滴る透明で四角い物体を摘んでいた。


「それは……氷ですか? まだ冬じゃないですよね」


「そうよ。製氷機といってね、魔法で氷を作る装置なの。このフロアの端にあるでしょ?」


 私が見慣れていないと察したのか説明をしてくれた。氷なんて冬にしかお目にかからないものだ。シャワー然り、魔法を使った装置は基本的に庶民では手が出せないほど高価だから、どんなものがあるかなんて知らない。


 リリィはその氷を口に含むと私を壁に押しやる。


「ほほはふはらひはほ」


「断るなら今よ、ですか?」


 リリィは頷く。今更引き返せる訳がない。その頷きに対して首を横に振ると、リリィは私の唇に、氷で冷たくなった自分の唇を押し当ててきた。

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