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平民の私が美女揃いの勇者オーディションに手違いで参加できたのですが何故か貴族の娘に絡まれます  作者: 剃り残し


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同姓同名

 演劇でも上演されるのかと言わんばかりの大きな舞台セットが目の前に組み立てられている。その舞台の上には一番から五十番まで番号が振られた椅子が等間隔に並べられている。


 ここは勇者オーディションの会場だ。番号はここに集められた五十人の勇者候補生の現在の順位を示し、最終的に上位の四人が晴れて国公認の勇者となる。私は絶対に通らないだろうとダメ元で申し込んでみたところ、最終選考の五十人に残ってしまった。今日はその五十人のお披露目会だ。


 私も他の候補者も、現時点の順位発表が始まると番号のついた椅子のどれかに座る事になる。今はその豪華な舞台と向かい合うように並べられた安っぽい椅子、そちら側に座れと指示があった。安っぽい椅子の後ろは観客席。私の出身の街の人がすべて詰めかけたかのように、多くの人でにぎわっている。


 安っぽい椅子は何故か全て埋まっていた。一人で二つを使うような太い人はいない。一人が一つずつ、行儀良く使っているように見えるのに椅子が足りない。


「あの……すみません。椅子が一つ足りないのですが……」


「えぇ? ちゃんと数えたのにおかしいな……どうぞ」


 近くにいる係員に声をかけると予備の椅子を用意してくれた。二列あるうちの後列の端に椅子を持っていき座る。


 隣、つまり、元々後列の端にいた彼女はずっと大きな胸に手を当てて目を瞑り、深呼吸をしている。人生が大きく変わる日の始まりなのだ。どんな心臓を持った人でも緊張するだろう。


 そんな彼女も私が横に来ると、深呼吸をやめて微笑みながら話しかけてくる。


「メリア・ラエリアです。よろしくおねがいしますね」


 胸の大きい彼女はメリア・ラエリアというらしい。微笑むと目が半月型になるのが印象的だ。頬に散らばるそばかすが可愛らしいのだが、本人は気にしているかもしれないので褒めることができない。


「リリー・ルフナです。よろしく」


「えぇ!? ルフナってまさか……」


「違いますよ。ただのルフナですから」


「あ……そうだったんですね。失礼しました」


 ルフナというのはこのフラティ王国ではありふれた姓だ。何代にも渡って大臣を輩出したルフナ家という名家がある。そこにあやかって庶民もルフナの姓を名乗り始めた結果、ありふれた姓となった。私の先祖もそんなミーハーの一人だ。


 普段であればルフナ姓に会っても何も思わない。だが、この勇者オーディションは王国肝いりの政策なので、『本物のルフナ家』が出てこないとも限らない。それ故にメリアの反応にも違和感は抱かない。


 メリアとの会話もそこそこに、荘厳な音楽と共に舞台に司会と思しき一人の男が出てきた。


『選ばれし五十名の皆様、第三回勇者オーディションへようこそ。ここに皆様が無事集まれたことに感謝いたします』


 厳かに台本を読み上げる司会の男は、参加者の誰もが知っているであろう、勇者オーディションの意義について説明をしてくれた。


 腕に自信のある者は冒険者となり、各地の街や都市に出向いて仕事をこなし、出世をして財を成すのが一般的だ。


 もちろん、老いても尚そんな生活をする訳にはいかないので、ある程度の財を成した冒険者はギルドを設立し、若手の冒険者に金を払って人手を集めて更に大きな仕事を受け、手数料をピンはねして稼ぐ。


 有力な冒険者には商人がパトロンとして付くため、ギルドの設立は容易だ。だが、誰しもがそんな簡単に名を挙げられる訳ではない。


 だから国の税金を使って、将来有望な若者を支援する。その支援対象を選抜するのが勇者オーディションだ。身分や出自に関わらず与えられる一発逆転のチャンス。


 というのは大人の建前。


 実際には、国王の求心力が下がってきており、国民の不満は溜まる一方。そこで、勇者という偶像を仕立て上げ、求心力の下がった国王の操り人形として表に立ち、国民を導く存在となる。


 これが、性格の悪い私が過去二回の勇者オーディションを見て抱いた感想だ。勿論、勇者の肩書を得ることで名を上げる事は出来るので、その後の生活を考えれば偶像とはいえ悪い話ばかりではない。


 勇者オーディションは今年で三回目。初代も二代目も美男美女揃い。それもそのはずで、勇者は国民の投票で決まるため、実力や性格に加えて、見た目が重要視される。


 投票する国民の中には実力を重視する人もいるのだろうが、蓋を開けてみれば見た目が重要なファクターと言われるような結果であった。


 だから、私を含めここに集まっているドレスで着飾った五十人は美しい女性ばかりだ。結果的に美女ぞろいになってしまったので、その中で実力や優れた人格がアピール材料になるだろう。


 去年は男子だけでオーディションが行われた。一昨年は男女混合。勇者候補生同士の痴情のもつれが多すぎて男女混合は初年で廃止となったらしい。


 舞台の上にいる司会がダラダラと冗長な説明を終えたようだ。早速、ここまでの暫定順位が発表されるらしい。


 既に最終候補者の五十名の似顔絵とプロフィールが国内の各街で配られており、それを元に既に第一回の投票が行われているので、順位が付いている。


 これからの課題への取り組み等も評価されるのだが、まずは第一印象がどうなのか、というのを知ることが出来る機会だ。


『それでは、第一位から発表いたします。暫定順位、一位は、リリィ・ルフナ!』


 名前を呼ばれた瞬間は信じられない思いだった。あまりの驚きで胸がドクンと高鳴る。田舎から出てきた私が一位。奇跡が起こったのかと思った。


 誇らしげに椅子から立ち上がり前に進み出ると、背後の四十九人がざわつき始めた。一位の圧倒的な美貌に驚いているのだろう。


『どなたですか! お戻りなさい!』


 司会が私を呼び止める。ふと横を見ると、もう一人の女性が前に進み出ているところだった。その女性も私に気が付いたようで、こちらに向かってくる。


「えぇと……リリー・ルフナです。あなたは?」


 戸惑い気味にその女性に尋ねる。


「私もリリィ・ルフナよ。……なるほど。そういう事ね」


 私と同じ名前を名乗ったその女性は、長い銀髪をたなびかせながら舞台の方を向く。眉間から真っすぐに伸びる鼻も相まって横顔は彫刻のようだ。自分が一位に相応しい美貌だと思い込んでいたのが恥ずかしくなるほどの美女だった。


「私達、同姓同名みたい! どっちの事か教えてくれない?」


『もちろん、あなた様です。この国の大臣たるアカツ・ルフナのご息女たるリリィ様』


 司会は銀髪の方のリリィを見ながらそう告げる。どうやらこの美女は『本物のルフナ家』の娘だったらしい。

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