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爆音と意味と本物そのもの


『……という訳で、私とリリィは追われる身になったのよ』


 水晶に映し出されていた過去の映像が停止してしまう。

 全ての始まりを一部始終見た俺は全力で頭を抱えた。

 結局、全ての元凶は殆どリリィだった。

 いや、こういう場合って、普通は"実は冤罪でした〜"みたいなオチがつくもんだろ。

 普通にあいつが悪いじゃねぇか。

 何だよ150万発の花火を暴発させたって。

 一体何があったら150万発の花火を暴発させるんだよ、誰か教えてくれ。

 

『まあ、簡単にまとめると、リリィが作り置きしていた花火を暴発させちゃった所為で指名手配犯になっちゃったって事。で、何やかんやあって、私とリリィはあのフクロウに出会い、何やかんやあって今に至るって訳。アンダスタン?』


「……なるほど。あんたの言う"憎き平民"と偽物のリリィの所為で、騎士団が麻痺状態に陥ったのね。そのお陰であんた達は真王の手から逃れる事ができた……と」


 自称神様は苦い顔をしながら、本物のリリィの話を簡単にまとめる。


『まあ、そんな感じね』


「……何で偽物のリリィは花火を暴発させたのかしら?」


『分からないわ。だって、聞いていないし。どうせいつものドジでしょう。あの子、地頭は良いけど、調子に乗るとすぐにアホの娘になるから』


 本物のリリィの言葉に全力で同意する。

 確かにあいつは頭が良い。

 けど、調子に乗るとメチャクチャ頭が悪くなるのだ。

 ……その所為で何度窮地に陥った事か。


「……なるほど、ね」


 そう言って、自称神様は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 その表情は俺に焦燥感を与えた。


「……自称神様、お前、一体何に気づいた?」


「今さっきの話のお陰で、騎士団長と騎士団は動けない状態だった事は分かったわ。……じゃあ、天使ガブリエルは?何であいつは本物のリリードリー・バランピーノを見逃したの?」


 天使ガブリエル──リリィを連れ去った敵を今更ながら思い出す。

 ああ、そうだ。

 自称神様の言う通りだ。

 何であいつはリリィ達を見逃したんだ?


「どうして天使ガブリエルはもっと早い段階でリリードリー・バランピーノを回収しなかったの?あいつが五体満足だったら、偽物のリリィとカミナガレコウが城下町から出るのを阻止できた筈なのに」


 自称神様の言う通りだ。

 何で天使ガブリエルは"西の果て"に辿り着くまで俺達の前に現れなかった?

 あんなに手際良く回収できるなら、もっと早い段階でできた筈だ。

 

「そして、爆音の件。あれは本当に工房にある花火が暴発したからなの?あの時に起きた爆発は花火によるものだと断言できるのかしら?」


『何が言いたい訳?』


「まだ隠されている真実があるかもしれないって事よ。……今の時点では情報が足りな過ぎて、何も断言はできないけれど」


 自称神様は後頭部の髪を掻きながら、眉間に皺を寄せる。


「で、最後の質問だけど……リリードリ・バランピーノ、あのフクロウの獣人は偽物の方にどのような処置を施した訳?」


『真王達の目を欺くために、リリィの魔力の大きさや波長を私と同じものにしたわ。それがどうかしたの?』


「追加で質問させて貰うわ。あのフクロウは本当に貴女と偽物の魔力を完全に同じものにできたの?」


『いえ、そっくりにしただけで、完全に同じものにする事はできなかったわ。それがどうかして……──っ!まさか……!』


「ええ。貴女の想像通りよ、リリードリ・バランピーノ。もうアレは貴女の偽物じゃないのよ」


 自称神様と本物のリリィが何かに気づく。

 だが、俺もルルもレイも、そして、本物のリリィの横にいる平行世界の俺──今時の大学生みたいな格好をしている──も彼女達が何に気づいたのか理解する事はできなかった。


「カミナガレコウ。何で天使ガブリエルは偽物のリリィを連れ去ったと思う?」


 顔に出ていたのか、自称神様は自らの推測を俺に理解させる事を目的に質問を投げかける。


「そ、そりゃあ、本物のリリィと勘違いしたからだろ」


「何で勘違いしたと思う?」


「本物のリリィと偽物のリリィの姿形が似ていたから。あと、お前の話が本当なら平行世界の俺(あのフクロウ)はリリィの魔力を弄って、本物のリリィそっくりにしたんだろ?魔術に長けている人達を騙すために」


「ええ、魔力の大きさや波長を似せる技術は浮島(ここ)にはないけど、平行(べつの)世界にあるわ。けど、似せる事はできても"本人そのもの"にする技術は存在しない。つまり、魔術では本物のリリードリ・バランピーノそっくりにする事はできても、そのものにする事は基本的にできないのよ。"魔法"でも使わない限り、は」


「何が言いたい?」


「魔術ってのは存在する先天的超能力である魔法を再現した技術の総称。つまり、全ての魔術は魔法の後追いなのよ。ここまで理解できる?」


「つまり、火を起こす魔法がないと火を起こす魔術が生まれないって事っすか?」


「そういう事」


 普段変態発言連発しているレイの例えにより、俺は自称神様の言いたい事を理解する。

 …….え?レイって俺よりも理解力高いの?


「魔力を本人そのものにする魔法も魔術も存在しない……という理解で合っていますか?」


「ええ、その通りよ。もしかしたら私が知らない世界では魔力を同一にさせる魔法や魔術はあるかもしれないけど。少なくともこの浮島には存在しないわ」


 腹ペコ僧侶ルルも自称神様が言っている事を理解したらしく、"なるほど"みたいな顔をしている。

 ……え?もしかして、このパーティで1番頭悪いの俺?


「……えと、……つまり、どういう事だ?」


「偽物を本物そっくりにする事はできても、本物そのものにする事は基本的に不可能って事を言いたいのよ。なのに、天使ガブリエルは偽物を連れて行った。並の魔術師ならともかく、万能の生物──始祖から生まれた天使が偽物と本物を判別できない訳がない──あいつは偽物が偽物だと分かった上で連れ去ったのよ」


 ……意味が分からない。

 というより、意味を見出せない。

 リリィが偽物である事を知った上で、リリィを連れ去った?

 そんな事をしても意味がない筈なのに。

 だって、偽物ではガイア神を憑依させる事はできないんじゃ……


『んじゃあ、天使ガブリエルとやらがリリィの影武者を連れて行ったのは、影武者がリリィそのものになったからなのか?』


 本物のリリィの隣にいる平行世界の俺が核心に迫るような一言を発する。

 それでようやく気づく事ができた。

 天使ガブリエルが影武者であるリリィを連れ去った理由を。

 

「ええ、恐らくね」


 自称神様は眉間に皺を寄せながら、自らの推測を告げる。


「天使ガブリエルが偽物のリリィを連れ去ったのは、彼女が魔法で本物のリリィと変わらない存在になったからよ」

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・レビューを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は明日の18時頃に予定しております。

 明日でStage7.5終わらせる事ができるように今から執筆してきますので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。


追記:12月18日土曜日の更新時間を18時から20時に変更させて頂きます。唐突に更新時間を変更して、本当に申し訳ありません。

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