真・婚約破棄と花火と悪役令嬢(前編)
『リリードリー・パランピーノ。本日を以て、貴様との婚姻を破棄させて貰う』
フェスティリア王国第一王子『トスカリナ・フォン・フェスティリア"は、公爵家令嬢リリードリ・バランピーノに婚約破棄を言い渡しながら、隣にいる女性──リリィが憎き平民と呼ぶ光魔法の使い手──を抱き寄せる。
舞踏会の来賓者達は、王子の口から飛び出た婚約破棄に驚きつつも取り乱す事なく、事態の成り行きを支配者層の矜持を持って見守っていた。
婚約破棄を言い渡されたリリードリ・バランピーノ──本物のリリィは、王子に抱き寄せられた平民の女性の嫌がる顔を見ながら、呆れたような溜息を口から吐き出す。
この時の彼女は拒食症を疑う程に痩せており、モデルが裸足で逃げ出してしまう程のスタイルを保持していた。
(……なるほど。本物のリリィは元々痩せていたのか)
俺──上流光はルル・レイ・自称神様と共に本物のリリィの手中にある水晶を見続ける。
水晶の中には映像が映し出されていた。
本物のリリィ曰く、水晶に映し出された映像は過去の映像──俺が浮島に呼ばれる数時間前の出来事──らしい。
何でも水晶に映し出される映像は、本物のリリィの記憶を下に生み出されているんだとか。
"本当、魔術というものは現代科学よりも便利だなぁ"と思いながら、彼女の記憶を下に再構成された映像を見続ける。
『貴様の成した悪行は全て把握している。王宮の宝物庫の中から勝手に神造兵器を持ち出したのも、王宮の近くにある歴史ある教会を爆破したのも、俺のお気に入りであるこの女を虐めた主犯も、全部お前の所為だって事をな。言い逃れようとも無駄だぞ。大人しく断罪されるがいい』
水晶に映し出された王子は下卑た笑みを浮かべていた。
そんな王子の様子に呆れながら、水晶内に映っている本物のリリィは再び溜息を溢す。
『いいえ、それは私が犯した罪じゃないわ。この際だから白状してあげる。貴方のケツを魔術で爆破し、寝ている貴方の肛門を爆破し、王務に勤しむ貴方のケツを爆破し、貴方が座る椅子に爆弾を仕掛けた犯人の正体を。貴方は気づいていないんでしょうけど、あれの犯人は私よ。私が貴方の汚いケツを爆破したの』
そう言って、リリードリ・バランピーノは肩にかかった長い金髪を手で払う。
『知っているわ!お前が暇さえあれば俺のケツを魔術で爆破していた事くらい!!お前は俺のケツに何か恨みでもあるのか!?』
『貴方のケツを爆破したのは魔術ではない。──ただの火薬よ』
『ぶっ殺すぞ、てめえ!!』
淡々と己の罪を語る本物のリリィに対し、王子は恥も外聞も投げ捨てる勢いで怒り狂う。
『恨みなんてないわ。ただ私は自作した火薬の火力チェックしていただけ。何も悪い事はしていないわ。ほら、貴方ってお尻弄られるの好きでしょ?夜な夜な娼婦を呼んではお尻を弄って貰っているんでしょ?なら、WIN-WINじゃん?』
『公共の場で人の性癖晒してんじゃねぇぞっ!』
『私の策に見事ハマったわね、バカ王子。これで99パーセントが100パーセントに変わったわ。みんなー!!!聞いてー!この国の王子様の性感帯ってね、お尻なのよ!!おーしーりー!!!!』
『死刑だ!お前みたいな無礼者を生かしておけねぇ!』
『はっ!残念でしたああああ!!!不敬罪は適用されませえええええん!!!だって、王子には害する程の名誉はありませんからああああ!!!!というか、王子様が被虐性欲持ち且つ尻穴攻め愛好者である事はみんな知っているからあああああ!!!!』
『それを広めたのはリリィ、お前だろ』
今の今まで沈黙を貫いていた騎士団長が口を開く。
彼女の呟きに同意するかのように他の騎士団員も首を縦に振った。
『あ、そういや、そうだった。ごめん、トスカリナ。あんたの性癖広めたの、私だわ』
『騎士団!!アイツを捕縛しろ!!これ以上、俺の名誉を傷つけられる前に!!』
血管がはち切れる勢いで王子は怒鳴り声を上げると、舞踏会の警備に当たっていた騎士団に命令を飛ばす。
騎士団長は鎧越しに溜息を吐きながら、やる気のなさそうな雰囲気を隠す事なく、呆れた様子で本物のリリィの方に歩み寄ると、彼女に声を掛けた。
「本当、お前は学習能力がないのか。いつもいつも王子を煽って……今回で何回目の投獄だ?」
「私が記憶している中では18回ね」
「奇遇だな、私もお前を18回くらい投獄しているような気がする」
呆れたように溜息を吐きながら、騎士団長はいつものように無抵抗のリリードリ・バランピーノを王宮の地下にある牢屋に連れて行こうとする。
『私もいつものように騎士団長と共に地下の牢屋に向かおうとしたその時。──いつもと違う事が起きてしまったのよ』
映像から流れる音を遮る形で本物のリリィが、緊迫感溢れる声で俺達の注意を惹きつける。
話に聞いていたよりも酷いものを見せられた俺は、"早くこの話を終わってくれないかな"と心の中で思いながら、彼女の話を聞き流した。
いつも読んでくれている方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・レビューを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
今回のお話が想定以上に膨れてしまったため、前後編に分けさせて貰います。
次の更新は本日18時頃に更新予定です。
夕方更新分のお話もお付き合いよろしくお願い致します。




