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あの日とチェゲルデンバーと次回予告


『あの日の事は今でも思い出せるわ』


 そう言って、本物のリリィは語り始める。

 指名手配犯になったあの日の夜の事を。


『文武両道容姿端麗才色兼備雲中白鶴純粋可憐錦上添花光彩陸離国色天香豪華絢爛明眸皓歯羞月閉花仙姿玉質な美少女であり、公爵令嬢でもあった私は、フェスティリア王国第一王子『トスカリナ・フォン・フェスティリア"から婚約破棄を言い渡されました』


 どっかで聞いた事のあるお話が始まった。

 既視感を覚えつつ、俺は本物のリリィの話に耳を傾ける。


(ねえ、コウさん。何か同じような意味の単語が入り混じっているような気がしますが……)


(俺も以前聞いた時、お前と同じような事を思っていた)


 右横からコソコソ話をするルルとコソコソ話しつつ、本物のリリィの語りに耳を傾ける。


『"貴様の成した悪行は全て把握している。俺様のケツを魔術で爆破したのも、王宮の宝物庫の中から勝手に神造兵器を持ち出したのも、寝ている俺様の肛門を爆破したのも、王宮の近くにある歴史ある教会を爆破したのも、王務に勤しむ俺様のケツに追尾型攻撃魔術を打ち込んだのも、俺のお気に入りである女を虐めたのも、俺様が座る椅子に爆弾を仕掛けたのも、全部お前の所為だって事をな"。私は殆ど身に覚えのない罪を着せられてしまいました。それも舞踏会という沢山人が集まる場で』


(殆どが王子の尻を爆破した件っすね)


(ああ、俺も以前聞いた時に同じ事を思った)


 左横からコソコソ話しかけてくるレイに小声で囁く。


『当然、私は反論しました。"王子のケツを爆破したのは魔術ではない。ただの火薬だ"と』


(王子の尻を爆破した事実は同じですよね?)


("殆ど"って事はそれなりに身の覚えのある罪があるって事っすよね)


 両サイドからルルとレイにコソコソ話しかけられながら、俺は本物のリリィの話を聴き続ける。

 以前──この浮島に来た時──聞いた話と何ら変わりないけど。


『王子はこう言いました。"お前は俺様のケツに何か恨みがあるのか"と。私は声を荒上げながらこう言いました。"恨みなんてない。ただ自分は自作した火薬の火力チェックしていただけだ。何も悪い事はしていない"と。"ぶっ殺すぞ"と王子は殺意を露わにしました』


(何か王子の事が可哀想に思えるっす)


(尻を爆破されなきゃいけない理由が彼にあったんでしょうか?)


(多分、あったんだろう……多分、な)


 この場で唯一王子に会った事がある俺は苦笑いを浮かべる。

 尻を爆破された王子は、あまり良い人では無さそうだった。

 まあ、めちゃくちゃ悪者って訳でもなかったが。

 良くて小悪党というレベル。

 盗難というガチ犯罪を犯しているリリィコンビと比べると、王子の方がマシに見える。

 ……まあ、俺、王子の事をよく知らないから偉そうな事を言えないんだけど。


『突然、向けられた殺意に怯えた私は他の人に助けを求めようと、周囲を見渡しました。しかし、あの時の私は四面楚歌。私の事を助けようとする人は誰もいません。初めて触れる人の殺意と悪意に耐えきれなくなった私は涙目になりながら、王子にこう弁明をしました。"わ、私は何も悪くないわ。だって、王子様は夜な夜な、城下町に屯している娼婦を王宮に呼んでは、高い金を払って娼婦達にお尻を攻めさせていた。だから、自分は良かれと思って、王子のケツに手持ち花火を打ち込んでいた。WIN-WINの関係だった筈だ。だから、私は何も悪くない"と』


(めちゃくちゃな暴論っすね)


(流石、本物のリリィさん。リリィさんよりも人の攻め方というものを熟知しています)


 本物のリリィの隣にいる今時の大学生みたいな格好をした俺を画面越しに見る。

 彼は頭を抱えていた。


『王子はこう言いました。"公共の場で人の性癖晒してんじゃねぇぞっ!"と』。私は胸を張りながら言いました。"私の策に見事ハマったわね。これで99パーセントが100パーセントに変わったわ"と。』


(これが今流行りの"ざまあ"ってやつっすか)


(多分、違うと思う)


(なるほど、そういう尋問の仕方があるんですね。勉強になります)


(参考にするな)


 感心する2人に釘を刺しながら、俺は本物のリリィの話を聴き続ける。


『彼女の言葉が図星だったのか、怒り狂った王子はこう言いました。"やっぱり婚約破棄だ!!お前みたいなイカれた女と結婚できるか!!俺は彼女と結婚する!!"……そう言って、王子は隣にいた女性──光系統の魔法を扱う事ができる才能に満ち溢れたあの憎き平民を嫁にしようとしました』


 聞き覚えのある話が、一転して聞き覚えのない話になる。

 ん?光系統の魔法を扱える憎き平民?

 誰だ、それは?


『チェゲルデンバーで私の婚約者だった奴と知り合ったあの憎き女よ。あいつが王子の肛門に雪玉投げつけた所為で、乙女ゲー定番の『へっ、面白い女だ』イベントが起きたの。あの平民の所為で、私は……!私は……!くそ、変な仏心出さなければ良かった!!」


 事情は分からないけど、どうやら憎き平民とやらと憎き女が出会ってから色々おかしくなったらしい。

 というより、チェゲルデンバーって何だよ。


「チェゲルデンバーってのは、乳首を凍らせた裸の女性が、四つん這いになった全裸の男の肛門目掛けて雪玉を投げつけるお祭りの事っす」


「ギャグに振り切り過ぎて抜けなくなるエロ漫画の導入!!」


 想像していたよりも狂気に満ちたイベントだった。

 頭を抱える俺を見て、本物のリリィは懐かしいものでも見るような目で俺を見つめる。


「私は下賤な身分であったため、参加した事はないのですが、貴族の人は物心ついた時から参加するみたいですよ」


「頭おかしいのか、浮島(ここ)の人達は!?」


『ちなみに女の人の乳首を凍らせるのは春まで母乳を節約するためらしいわよ。で、春になったら、その時の豊作を祈って女の人達が畑に母乳をぶっかけるの。まあ、殆どの参加者が未婚かつ生娘だから、母乳出ないんだけど。だから、牛から搾り取った乳を胸に垂らしながら、まだ何も植えていない畑に振りかけるって訳』


「徹頭徹尾、頭のおかしい祭りだな、おい!!」


「あと、男の人の肛門に何で雪玉を投げつけるのかについてなんですけど……これに関しては未だに謎に包まれているらしいです。国立魔導学園の偉い教授達が研究しているらしいですけど、未だに解明されていないとか」


「性癖だろ、絶対誰かの性癖の所為で起こった悲劇だろ」


魔王(おとうさん)の話が本当なら、雪玉を投げつける理由は健康促進のためらしいっす。ま、私はその祭りに参加した事ないっすけど」


 残念そうに呟く変態から目を逸らしつつ、俺は話の筋を元に戻そうとす──


「そういや、本物のリリィさんは自分の婚約者を奪った平民を憎んでいるみたいですけど……もしかして、王子の事が好きだったんですか?」


 空気を読む事なく、全力で話を横道に逸らすルル。

 もうお前は喋るな。

 いつものように何か食っていろ。


『はあ?んな訳ないじゃない。あいつは財布よ、財布。あのお尻弄り虫なんか好意を抱く訳ないじゃない』


「かー、らー、の?」


『何かウザいわね、そこの僧侶っぽいの』


「だったら、何で平民の事を憎んでいるっすか?王子の事を好んでいないのなら憎む理由はないっすよね?」


 レイの一言により、本物のリリィは長い溜息を吐き出す。

 そして、やつれたような表情を浮かべると、再び言葉を紡ぎ始めた。


『……あるわよ。だって、あの憎き平民、何故か私に惚れているみたいで、私にめちゃくちゃセクハラしてくんのよ。私の下着を盗んだり、私の下着の臭いを嗅ぐなんてまだ序の口。あの憎き平民、あろう事か私の上履きを舐めたり、私が座った咳を舐めたり、私が愛用しているペンをおしゃぶりみたいに咥えたりしてくんのよ。……私のお気に入りのパンツを頭に被って登校してきた日はガチでぶっ殺そうと思ったわ」


 ガチ寄りのガチの目で、本物のリリィは憎き平民に対して憎悪の炎を燃やす。


(……ご主人、本物の方が言う憎き平民って、もしかして)


(いや、もしかしてもクソもないです。……あの人で間違いないでしょう)


(……ああ、あの人で間違いないな)


 水の都で出会ったガチの変態女を思い出す。

 多分、あいつで間違いないだろう。

 "あの人"とやらの私物をペロペロしていたって自慢げに言っていたし。


「ねえ、話が脇道に逸れているような気がするんだけど」


 呆れた様子で自称神様は再び脱線した話を元の本筋に戻そうと試みる。


『ごめんごめん。……で、どこまで話したっけ?』


『王子が婚約破棄を言い渡した所までだ』


 今の今まで黙って聞いていた大学生みたいな格好をした平行世界の俺が口を挟む。


『ああ、そうだったわ。……で、婚約破棄を言い渡された私は王子なんかと結婚したくないと言い張る憎き平民に同情して、王子の肛門をぶっ壊そうとしたんだけど、……』


 だから、何でお前は王子の尻を執拗に狙うんだよ。

 このツッコミをしたら再び話が脱線すると思った俺は沈黙を貫く。

 俺以外の皆んなも同じ事を思っていたのか、口を"へ"の字にしていた。


『私が憎き平民を助け出そうとした瞬間、ある事件が起きたの。──それが原因で私は追われる身になったわ』


 そう言いながら、本物のリリィはどこからともなく水晶を取り出す。


『ここから先は言葉にすると面倒臭いから、過去の映像を流すわ。では、皆さん、水晶をご覧ください』


「「「「『横着すんな』」」」」


 俺達のツッコミの声が同じタイミングで重なる。

 というか、水晶で過去の映像を映せるのなら最初からやれや。


『……という訳で、次回、"真・婚約破棄と花火と悪役令嬢"。みんな、絶対に見てくれよな』


「何で次回予告しているんだよ」


『というか、誰に向かって言っているんだ、お前は』

 

 俺と平行世界の俺の面白みのないツッコミが炸裂する。

 彼のツッコミを聞いた俺は思った。

 "センスのあるツッコミをしよう"と。


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・レビューを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は12月16日木曜日12時頃に更新を予定しております。

 また、想像以上に文章量が膨らんでいるため、今週中に最終章であるStage8.0を始めるる事はできません。

 本当に申し訳ありません。

 Stage7.5は後3〜4話くらいかかりますが、今週中に終わらせる事ができるように頑張りますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

 

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