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同一存在とあの日の夜と面白みのないツッコミ

「どうしたんっすか、お嬢様!?豚になる魔法でもかけられたっすか!?」


『誰が豚よ!!こう見えて、私、10ヶ月に及ぶダイエットで10キロ痩せたんだから!!』


「何かリリィさんよりもムチムチしていますね。そんな男受けする身体をして恥ずかしくないんですか?歩く淫肉風情が」


『人を淫肉呼ばわりするな!私だって、こんな身体になりたくて、なった訳じゃないわよ!!こっちの世界のものが美味しいというか、コウが作ってくれる料理が美味しいというか、なんというか……』


 本物のリリィ──俺達がよく知っているリリィを1.5倍肥大化させたような豊満な体型をした美女──は、恋する乙女みたいな表情を浮かべながら、俺の名前を呼ぶ。

 

「え、コウさん、料理作れたんですか!?何で今まで作ってくれなかったんですか!?」


「いや、料理なんてカップ麺くらいしか作れないけど」


「カップメンっていう料理作れるじゃないですか!!??」


 俺の胸倉を掴みながら、腹ペコはカップ麺を作ってくれなかった俺を恨みがましい目で睨みつける。

 仕方ないだろ、この浮島にカップ麺ないんだから。


『ふっふっふっ、あんたらがそんな事を言えるのは、その世界に殆ど娯楽がないからよ。調味料がないからよ。大量消費文明に身を置きなさい。そしたら、私みたいにあんたらの身も心も豚になる事間違いなしだわ!ふっふっふっ、あんたらも欲と怠惰に塗れた生活を送るでしょうね!』


「すみません、俺の地元を悪く言うの止めてくれませんか?」


『その面白みも変哲もないツッコミは、コウで間違いないわね』


「喧嘩売ってんのか」


『おーい、リリィ。そろそろ晩飯できるから、パソコンを閉じてく……え、もしかして繋がったのか?』


 パソコンの中から聞き覚えがあるようで聞き覚えのない声が聞こえて来る。

 誰から命じられる事なく、俺達は画面に視線を向ける。

 画面には肥満体型のリリィと髪を茶に染めた今時の大学生風の男性が映し出されていた。

 その男性の顔には見覚えがある。

 というか、俺の顔だった。

 細部は少しだけ違うけれど。

 

「え!?何でパソコンにコウさんが映っているんですか!?」


「もしかして、ご主人、分身できるんですか!?」


「んな訳あるか」


 飲み込みの悪い彼女達の頭をハリセンで叩く。


「分身じゃないわ。本物のリリィの隣にいる男は平行(ちがう)世界のカミナガレ・コウ……いえ、上寺(かみでら)(こう)よ。あのフクロウやここにいるカミナガレ・コウと違い、北部九州大震災で家族を失わなかった存在。同一人物ではなく、同一存在って言った方がピンと来るかしら?」


 混乱するルルとレイを見ていられなくなったのか、自称神様は補足説明を行う。

 

『へー、これが平行(ちがう)世界のコウか……こっちのコウと比べると幼いわね。よく見ると、可愛い顔しているし』


 俺を褒める発言が癪に触ったのだろうか。

 画面に映し出された大学生っぽい俺は、露骨に不機嫌そうな表情を浮かべる。

 俺に嫉妬している俺を見て、俺は勘づいてしまった。

 ……ああ、平行(あっちの)世界の俺は本物のリリィに"ほの字"なんだな。

 さっきの本物のリリィの表情から察するに、恐らく2人は彼氏彼女の関係なんだろう。

 リリィそっくりな女性に惚れている違う世界の俺を見て、俺は少し複雑な気持ちになってしまう。


『……っと、話が逸れてしまったわね。カナリア……だっけ?貴女がくれたパソコンは普通に機能しているわ。魔力の波長も安定しているから、恐らく数十分くらいは通話できると思う』


「んじゃあ、時間がないから、さっさと話して貰おうかしら。本物のリリードリ・バランピーノ。偽物のリリードリ・バランピーノが何者なのか、を」


『その前に1つ確認させて貰うけど、……あの娘は……リリィは無事なんでしょうね?」


 俺達が知っているリリィを心配する本物のリリィを見て、俺は影武者(リリィ)を犠牲にするという判断は平行世界の俺(あのフクロウ)の独断である事を理解する。

 

「勿論、無事じゃないわよ。あんたをそっちの世界に送ったフクロウ……いや、平行世界のカミナガレ・コウに囮として消費させられたわ」


 バカ令嬢リリィが無事じゃない事を知った本物のリリィは罪悪感に満ちた表情を浮かべると、黙り込んでしまう。

 疑う余地もない。

 彼女は──本物のリリィは悪い人ではない事を。


『……リリィと容姿瓜二つの小間使いは真王っていう奴の所に連れて行かれた……って理解で良いのか?』


 ある程度、事情を知っているのだろう。

 画面の向こう側にいる平行世界の俺──上寺が現在の状況を簡単にまとめる。


「ええ、そんな所。で、今は情報を纏めている所なの」


『情報?情報を纏めて、どうするつもりだ?』


「そりゃあ、判断するためよ。影武者であるリリードリ・バランピーノを助けるかどうかを、……ね」


「……それ、どういう意味っすか?」


 今の今まで黙っていたレイが声を上げる。


「言葉通りの意味よ」


「時と場合によってはお嬢様を見捨てるって事っすか……!?おい、答えろっす!あっちの毛が生えていない自称神様!!」


「落ち着きなさい、純情乙女。その逆よ。時と場合によっては、私"も"偽物のリリードリ・バランピーノを助けなきゃいけない事になるのよ……あと、あっちの毛が生えていない事に触れるな、殺すぞ」


 自称神様の一言により、この場にいる全員──自称神様に噛み付くレイ以外──が困惑する。

 しかし、本物のリリィだけは自称神様の言いたい事を理解していた。


『──っ!まさか……!』


「ええ、そのまさかの可能性よ。だから、話しなさい。本物のリリードリ・バランピーノ。貴方の影武者である彼女の出自を。そして、あんたがお尋ね者になった日の夜、何が起きたのかを」


 そうして、本物のリリィは語り始める。

 俺達が知っているバカ令嬢リリィの出自を。 

 俺が浮島(ここ)に来る前に起きた日の事を。


『……その前にお菓子とジュースを用意してもいいかしら?ちょっと口が寂しいというか何というか』


『「無理にオチをつけようとするな」』


 ほぼ同じタイミングで俺とパソコンの向こう側にいる俺は、本物のリリィにツッコミを浴びせる。

 その面白みもないツッコミを聞いて、俺は向こう側にいる俺が紛れもない俺である事を改めて痛感した。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・レビュー等を送ってくださった方、本当にありがとうございます。

 次の更新は来週12月13日月曜日12時頃に更新予定です。 

 よろしくお願い致します。

 

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