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偽物とここに呼ばれた理由と本物

「……かげ、むしゃ……?」


「すみません、"かげむしゃ"ってなんですか?」


「残念だったわね、カミナガレ・コウ。この浮島に影武者っていう概念ないみたい」


「くそ!こんな所でカルチャーショックが!!」


 何でかこの浮島には影武者という概念はなかった。

 まあ、当然か。

 リリィ達の様子から察するに、この浮島には日本語はあれど、刀みたいなザ・和風のものはないみたいだし。

 

「そりゃあ、そうわよ。だって、この浮島……いえ、魔術が体系化されている世界では影武者なんて意味ない訳だし。影武者っていう概念がなくてもおかしくないわよ」


「え……?そうなのか?」


「ええ、指紋や声紋みたいに魔力の流れ方とか波長とかも個人によって違うの。だから、外見を似せただけじゃ無意味って訳。外見だけを似せた偽物なんか並の魔術師でも看破できるわ」


「じゃあ、コウさんが述べていた推測は真実では……」


「いえ。こいつの言う通り、あんたらと一緒に旅をしていた"リリードリ・バランピーノ"は偽物よ。あのフクロウは本物の"リリードリ・バランピーノ"を守るため、偽物の"リリードリ・バランピーノ"を犠牲にしようとしていたの」


 自称神様の支離滅裂な主張を理解する事ができずに俺達は首を傾げる。

 つまり、どういう事だ?


「言ったでしょ。外見を似せただけじゃ無意味だって。けど、外見だけでなく、魔力の大きさ・流れ方・波長を似せる事ができたら?」


「……つまり、あのフクロウはリリィの魔力とやらを弄る事で、リリィを本物の"リリードリ・バランピーノ"そっくりに仕立て上げたのか」


「そういう事。あいつは一流魔術師でもできない……いや、この浮島には存在しない技術を用いる事で、偽物を本物と寸分違わない形に加工したの。それで真王や天使ガブリエル達の目を欺こうとした訳」


「で、本物のリリードリ・バランピーノは安全な所に逃がし、偽物のリリィは敵の目を引きつけるため、この浮島に留まらせた」


「ただ偽物のリリードリ・バランピーノだけでは敵の目を引きつける事はできない。彼女1人の力では、騎士団からも魔王軍からも逃げる事は不可能だった。だから、あいつは……」


平行世界の俺(あのフクロウ)は、この世界にいる俺を浮島(ここ)に呼んだ。偽物のリリィが簡単に真王や天使ガブリエルに捕まらないように」

 

 何であいつが俺を浮島(ここ)に呼んだのか想像するまでもない。

 俺が"カミナガレ・コウ"だからだ。

 肉体も魂も経歴も、そして、胸の底に抱いている願望(ねがい)もあいつと殆ど同一。

 故にあいつは俺を選んだんだろう。

 自分の力である心器(アニマ)──刀を貸す事ができる唯一の存在である俺。

 俺を浮島(ここ)に呼び出す事で、あいつは偽物のリリィを囮として機能させたのだ。


「つまり、どういう事なんですか?」


「要するにあんたらと一緒に旅をしていたリリードリ・バランピーノは偽物だって事。あのフクロウは本物の方を逃すため、偽物を囮として使った。そして、偽物に囮としての役割を全うさせるため、この世界の自分である"カミナガレ・コウ"を浮島(ここ)に呼んだって訳」


「……なるほど。コウさんがここに来たのは偶然ではなく、ちゃんと理由があったからなんすね」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、レイは腕を組み始める。


「……自称神様、何であいつはリリィを囮にするやり方を選んだんだ?もっと良い方法は幾らでもあった筈だ。なのに、何であいつはリリィを囮にしたんだよ」


「断言はできないけれど、そのやり方を選んだ理由は何となく理解できるわ。多分、あいつは確実な方法で世界を救いたかったんでしょう」


 ある程度、予想できていた答えが自称神様の口から零れ落ちる。 

 ……死んだ人に報いる生き方。

 それは死んでしまった人達のためのものであって、生きている人達のためのものではない。

 あいつは、あのフクロウの獣人は、平行世界の俺は、自身の自己満足のために、自分が2度と後悔しないように、自分が過去に犯した罪を帳消しにしようとするために、世界を救おうとしている、死んでしまった家族や義父母に報いる生き方をしている、自分の犯した罪から目を背けている、誰かと向き合う事を避け続けている、自分の気持ちと向き合う事を避け続けている。

 あれはそういう亡霊(いきもの)だ。

 自分の満足のために生き続けている死屍(いきもの)

 あいつの瞳に映っているのは死んでしまった人達だけで、生きている人達は映っていない。

 故にあいつの自己満足からは何も生まれない。

 

 ──だって、生者が死者にしてやれる事は何もないのだから。


「……リリィさんが偽物だという事は分かりました」


 恐る恐るといった様子でルルは口を開く。

 そして、意を決したような表情を浮かべると、こう言った。


「じゃあ、本物のリリィさんはどこにいるんですか?」


「…………」


 その問いの答えと言わんばかりに、彼女はどこからともなくノートパソコンを取り出す。


「何すか、それ?石板っすか?」


「電子機器よ」


 そう言いながら、自称神様はパソコンの電源を点ける。

 パソコンから起動音が出てきた瞬間、驚いたルルとレイはその場で飛び上がった。


「うおっ!?この石板みたいなやつ、唸り声上げたっす!!」


「さ、さっきまで真っ黒だった表面に文字が浮かび上がりました!!それに、何かブオオオンみたいな音が微かに聞こえます!!」


 現代にタイムスリップしてきた江戸っ子みたいな反応をするレイとルル。

 浮島の文明レベルの低さから察するに、恐らく彼女達はパソコンを初めて見たんだろう。

 多分、彼女達がテレビを見たら、"面妖な箱の中に小さな人間がいる!出てこい!"みたいな江戸時代の人間みたいな事を言い出しそう。


「なあ、自称神様。ノートパソコンを取り出したのは良いけど、ここWi-Fiないと思うぞ?ネットに繋げないパソコンなんか取り出して、どうするつもりだ?ソリティアでもやる気か?」


「今、私が把握できている情報は全部伝えたわ。でも、把握できていない事もある」


「リリィさん……いや、偽物のリリードリ・バランピーノの正体、……ですか」


「ええ、そうよ。私の予測が正しければ、彼女は……」


 自称神様が不吉な事を告げようとしたその瞬間、パソコンの中から聴き慣れた声が聞こえてきた。


『……あり?コウ?何でそこにいるの?』


 目を大きく見開いた俺は、パソコンの画面に視線を向ける。

 パソコンの画面には見慣れない女性が映し出されていた。

 画面に映し出された金髪碧眼の美女を凝視する。

 画面の向こう側にいる女性は、俺達と一緒に旅してきたバカ令嬢──リリィを1.5倍肥大化させたような容姿をしていた。

 デリカシーのない言い方をすると、リリィよりも太い。

 無駄な肉が殆どリリィと違い、画面に映し出されたリリィそっくりな女性は、駄肉だらけ──否、ふくよかな体型をしていた。


『あり?電波悪いのかしら?あっちの音が聞こえないんだけど、おーい、聞こえてるー?』


 パソコンのカメラに向けて、手を振っているデブなリリィを見つめながら、俺達は言葉を失ってしまう。 

 脳が理解する事を躊躇っていた。

 けど、今まで得た情報と画面に映し出されたデブリリィの姿により、ある結論に至ってしまう。

 そうか、こいつがリリィの……


「「リリィさん/お嬢様が豚になってるうううう!!!!!」


『誰が豚だあああああああ!!!!』


 ルルとレイのデリカシー皆無の悲鳴とパソコンから出た怒声が俺の耳を劈く。

 ……はい、そんな訳で本物のリリィとご対面です。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、本当にありがとうございます。

 そして、この場を借りて、予定通り更新できなかった事をお詫び申し上げます。

 うっかりミスで12時に更新できませんでした。

 本当に申し訳ありません。

 今後、このような事がないように気をつけます。


 次の更新は明日の18時頃に投稿を予定しております。

 現在、想定以上に文章量が膨れているため、もしかしたら年末に完結させる事さえも怪しくなっていますが、ちゃんと完結させるので、もう暫くお付き合いよろしくお願い致します。

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