上昇と目的と真実
「ぎゃあああああ!!!お父さんの仇いいいいい!!!!」
「お前のお父さん、生きているだろうが」
突如現れた自称神様──カナリアに突っかかろうとしたレイの頭をハリセンで叩く。
「止めないでください、ご主人!!あいつは私の手で八つ裂きにしなきゃ気が済まないっす!!」
「いつまで気にしてんだよ、純情乙女」
「あー!1番言われたくない事を言ったあああああ!!!幾らご主人でも許さないっすよ!!」
めちゃくちゃ喧しいのでファッション変態兼純情乙女レイの頭をハリセンで叩く。
「本当、あんたらって、いつも楽しそうね。酒のつまみには持ってこいだわ」
「何しにきたんだよ、お前」
酒瓶の中に残った酒を飲み干す自称神様を睨みつけながら、俺は疑問の言葉を口にする。
「言ったでしょ、あんたらを助けに来たって」
そう言って、自称神様は指を鳴らす。
その瞬間、気球の中からエンジンが稼働する音が聞こえてきた。
「なるほど。やっぱ、あの気球みたいな神造兵器みたいなもんは魔力で動くみたいね」
球皮と呼ばれる袋の中にある空気が熱によって温められる。
枯れた花弁のように萎れていた球皮は瞬く間に膨らむと、瞬く間に見覚えのある熱気球の姿になってしまった。
「ほら、さっさとゴンドラに乗りなさい。これからやる事が沢山あるんだから」
「はああああ!!!??誰がお前の言う事を聞くと思うっすか!?大人しくお前の性癖を教えろっす!!じゃないと、お前の言う事何も聞かないっすから!!」
「いいから乗れ」
自称神様に絡むレイの首根っこを掴んだ俺は、ルルと一緒にバスケット──別名ゴンドラ。籠みたいな形をした人が乗り込む部分──に乗り込む。
俺達が6畳の部屋よりも少し狭いバスケットに乗り込んだ瞬間、熱気球は宙に向かって浮かび始めた。
「んじゃあ、移動しながら話すわよ。あのフクロウの目的と真王とやらが目指す最終到達点を」
自称神様が指を鳴らした途端、バーナーから放たれる火力が増し、気球は地面から遠く離れてしまう。
「うわ、……高い。コウさん、これ、落ちませんよね?」
腹を豪快に鳴らしながら、ルルは地面に広がる花畑を見下ろす。
流石に煩かったので、俺は彼女の手から携帯食料を奪い取ると、それを彼女の口の中に突っ込んだ。
「で、どんな気まぐれっすか?前回現れた時は何も話せないって言ってたっすね。何で今頃になって話すんすか?」
「情報が確定したからよ。……って、あんた、ドサクソに紛れて服を脱がそうとすんな」
「お前をとことん辱めてやるっす」
自称神様が着ている服を剥ぎ取ろうとするレイ。
そんな彼女の後頭部にハリセンを叩き込む。
「で、自称神様。あのフクロウの目的と真王とやらが目指す最終到達点ってのは何だ?あいつは……リリィは一体どうなるんだ?お前の知っている事を全部話してくれ」
「ええ、話すわよ。その前にこの娘をどうにかしてちょうだい。隙あればすぐにセクハラしてくるんだけど」
「しゃああああ!!!!」
「そこで威嚇しているルルイエも止めて」
自称神様に敵意を剥き出しにするルルとレイの頭をハリセンで叩く。
ハリセンで頭を叩かれた彼女達は一瞬で落ち着きを取り戻した。
前々から思っていたけど、お前らの頭、昭和のテレビみたいに叩いたら直るものなの?
時代はもう平成終わって、安久だぞ。
もうテレビは箱型じゃないんだぞ。
「さて、……どこから話しましょうか」
ある程度まで高度を高めた気球は、ゆっくり東の方に向かって進み始める。
その速度は車よりも少し遅いくらいで、俺達が歩くよりも圧倒的に速いスピードだった。
「うん、先ずは真王について話しましょうか」
そう言って、彼女はどこからともなく新しい酒瓶を取り出す。
そして、酒を飲みながら、俺達に真相を語った。
彼女の話を簡単にまとめると。
平行世界で白銀の籠手の使い手に負けた始祖ガイアを"天使ガブリエル"──始祖ガイアが創り出した人工生命──がこの世界に連れて来たらしい。
そして、自分の上司であり親でもあるガイア神を生き返らせるため、天使ガブリエルは古代ギリシアにあった"アルカディア"という島を浮上させた。
ここまでは俺達が知っている──砂漠の迷宮で得た情報そのままだ。
「……で、"アルカディア"を浮上させた理由なんだけど、天使ガブリエルは浮島(この地)を"神堕し"を行うための儀式場にするため……と予想しているわ。奴は約2000年間、人類の集合無意識体である『ティアナ 』に邪魔されないような所で着実に準備をしてきたって訳」
ティアナ 。
以前、自称神様をこの世界から弾き飛ばした謎の存在。
恐らくこの世界の人類にとっての防衛装置みたいなものだろう。
天使ガブリエルとやらは、自称神様のようにこの世界から弾き飛ばされないよう、浮島を作ったみたいだ。
「で、"神堕し"ってのは、膨大な魔力を持つ"神器"と呼ばれる者に始祖の魂を宿らせる事を目的にした大規模魔術儀式の事よ。簡単に言ってしまうと、……」
「天使ガブリエルは神器である"リリードリ・バランピーノ"の身体に始祖ガイアの魂を宿らせようと企んでいる……って理解で合っているか?」
ここまでの道中で得た断片的な情報のお陰で、ここまでの事は何となく推測できていた。
その推測が確証に変わる。
「つまり、真王は始祖ガイアとやらの力を得るため、リリィを犠牲にしようとしているって訳か」
「ええ、大体はそんな感じよ。その理解で合っているわ」
真王とやらの目的は単純なものだった。
権力者が更なる力を求めるため、他者を犠牲にしようとしている。
ただ、それだけの話。
あらゆる創作物で描かれた典型的な悪者だ。
目新しさも何もない。
真王とやらは数多の創作物で使い古された面白みも深みもない在り来りな黒幕だった。
「……まあ、天使ガブリエルの目的は真王とやらに始祖の力を与える……なんて単純な目的じゃないと思うんだけどね」
不吉な一言を呟きながら、自称神様は話を前に進める。
「まあ、天使ガブリエルの目的は今の時点で確定していないから置いといて。次はフクロウの目的よ。あいつは……」
「あいつの目的は分かっている。この世界を救うため、あいつは"リリィ"を犠牲にしようとしている。彼女に犠牲になって貰う事で、あいつは"神堕し"とやらができない状況に追いやったんだ」
「……え?ご主人、その結論、何かおかしくないっすか?」
「リリィさんは神器なんですよね?儀式に必要不可欠な存在なんですよね?」
「……ああ、"リリードリ・バランピーノ"は真王と天使ガブリエルとやらにとって必要不可欠な存在だ」
「だったら、リリィさんを犠牲にするのは……」
「お前らは水の都で出会った筈だ。"リリィ"のそっくりさんを探す変態と」
ルルもレイもピンと来ていないようで首を傾げる。
自称神様は俺の言いたい事を理解しているのか、敢えて口出ししなかった。
「ルル、お前は俺と一緒に聞いていた筈だ。リリィがセグウェイ擬き……いや、"ヘグウェイ"とやらに乗った事がない事を。あの時のお前とリリィの言葉が正しいとしたら、"貴族の人は旅行する時も街の中を散歩する時も学校に通う時も全部ヘグウェイに乗って移動する"んだろ?なら、お嬢様であるリリィも1度くらいは乗った事がある筈だ」
「で、でも、あの時は趣味じゃないって言ってましたよ」
「レイ。雪山の時、お前は俺と一緒に聞いた筈だ、リリィの失言を」
「失言……それは、『新しい性癖を身につける事じゃない。──1つを極める事よ』っすか?」
「それもそうだけど、今回はそれじゃない」
「『私との蜜月云々』っすか?」
「あいつ、失言してばっかだな」
俺は頭を抱えながら、あの時リリィが言っていた事を一言一句違う事なく思い出す。
「あいつは雪山の時、こう言っていた。『おじょ……私の姉気分が言っていたわ。"新しい性癖を開拓する事と同じように性癖を尖らせる事も大事"だと』」
「いい言葉ですね」
「それ、私の家訓になったっす」
「煩悩よ、立ち去れ」
脳内ピンク女達の頭をハリセンで叩く。
「……あの時、あいつは自分の姉貴分を"お嬢様"って言いかけた。あいつ自身がお嬢様であるにも関わらず、な」
「ん?私も魔王の娘ですけど、普通にお嬢様の事はお嬢様って言ってるし、コウさんの事もご主人呼ばわりしているっす」
「しまった、特殊なパターンがここにいた」
「あんたは性癖に従っているだけでしょうが」
脱線しそうになった話を元に戻すため、自称神様が口を挟む。
自称神様に話しかけられて苛立ったレイは威嚇の声を上げ始めた。
……閑話休題、本筋に戻る。
「……お前らはその場にいなかったから聞いていなかったと思うけど、騎士団長は言っていたんだ。『私が守りたいのは"リリィ"、唯一人だ』、私は私の守りたいのものを守るために、彼女を犠牲にする』……って」
「ん?どういう意味っすか?お嬢を守るためにお嬢を犠牲にするって……」
「騎士団長が守りたい"リリィ"と俺達が知っている"リリィ"は別人なんだよ」
その言葉により、ようやくルルもレイも理解する。
俺が言いたい事を。
"リリィ"の正体を。
「──俺達が知っている"リリィ"はリリードリ・バランピーノの影武者だ。平行世界の俺と騎士団長は、影武者を犠牲にする事で、本物のリリィを守ろうとしたんだよ」
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、本当にありがとうございます。
想定以上に文章量が膨れてしまったので、予定を変更して、明日も更新します。
次の更新は明日12月9日12時頃に投稿予定です。
恐らくStage7.5は早くて来週水曜日くらいに終わると思います。
来週から最終章であるStage8を開始できるように頑張りますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。




