お色気と不自由な選択肢とバカの思考回路
[前回までのあらすじ]
・壁の外に出たコウとバカ令嬢リリィ
・バカ令嬢、バカデカイ鳥に連れて行かれる
・飛ぶ斬撃でデカイ鳥倒したコウ、オークみたいなのに連れて行かれたバカ令嬢を助けに行こうとする。
バカ令嬢を攫おうとした巨大な豚──俗にいうオークの首を刀で斬り落とす。
知性がない獣とはいえ、生き物を殺した事実は、俺に言語化不可能な感情を抱かせた。
「これで終わり、……と」
連戦に次ぐ連戦により、俺の身体は疲弊してしまう。
どうやら俺の巧みな剣捌きに俺の身体はついていけていないようだ。
もう刀を握る事さえできそうにない。
「うっぐ、……えっぐ、……うっぐ……、ど゛う゛し゛て゛わ゛た゛し゛が゛こ゛ん゛な゛目゛に゛」
豚の屍の上で泣き喚くバカ令嬢。
その姿は儚げというより、みっともなかった。
「……にしても、魔獣とやらのエンカウント率高過ぎるだろ。もう刀を振る元気ねぇよ」
血にも汚れず、刃毀れ1つない刀を鞘に収めながら、俺はその場にへたり込む。
が、周囲に散在する死骸を目にした途端、この場に留まる事に強い抵抗感を感じてしまった。
音もなく立ち上がった俺は、目を赤くしたバカ令嬢に手を伸ばす。
「とりあえず、ここから移動しよう。バカ令嬢、立てるか?」
「こ゛し゛が゛ぬ゛け゛た゛ぁぁあ!!!」
小学生でも絶対にしないであろうガン泣きを披露しながら、彼女はボディーランゲージで俺に抱っこしろと要求する。
一刻も早く、オーク達の死骸から距離を取りたかった俺は、大人しく彼女をおんぶする事にした。
疲労により指1本動かない右手を使う事なく、何とか俺は彼女をおんぶする事に成功する。
そして、川のせせらぎが聞こえる音の方に向かって歩き始めた。
バカ令嬢の体重と身体に蓄積された疲労が俺の身体に重くのしかかる。
とてもじゃないが、軽口叩く気にもなれなかった。
俺の背中に乗ったバカ令嬢が自身の豊満な身体を押し付ける。
が、今の疲れ切った俺では彼女の身体の感触を楽しむ余裕は全然なかった。
「むぅ……」
俺の反応がないのが不服なのか、彼女は俺の背中にめり込む勢いで自身の身体を押し付ける。
当然、彼女の身体が減り込めば減り込む程、彼女の腕は俺の身体を締め付ける訳で。
最終的には、彼女は俺の反応を得るためだけに俺の首を絞め始めた。
「んな、元気があるなら、最初から歩けや、バカ令嬢がああああ!!!!」
「あぼー!!!!」
河原に辿り着いた俺は、背中に乗った彼女を川面に向かって投げつける。
彼女は小さい水柱を立てると、川底に沈んでしまった。
「いきなり何すんのよ!親にも川面に叩きつけられた事なかったのに!!」
両手に川魚を持ちながら、バカ令嬢は抗議の意を示す。
「お前が俺の首を絞めるからだろうがっ!正当防衛だっ!!」
「ていうか、さっきから私、お色気アピールしているのに、ピクリとも反応しないどころか、激しく拒絶するってどういう事!!??そんなに私に魅力がないって言うのっ!!??毎日21時には寝ているのに!!??」
「お前が毎日何時に寝ようが関係ねぇよ、バカ令嬢っ!!お前のアピールが下品かつ空気読めてねぇから拒絶してんだ!!」
「はっ!分かったわ、──貴方、男の子が好きなのね」
「女の子の方がタイプだ!!」
「じゃあ、何で私のアプローチを無碍にできるのよ!!??私、ピッチピチの女の子よ!!??ちょっとくらい興奮しても良いと思うんだけど!!??ほら、見て!おっぱいデカいわよ!!」
「そのアピールの仕方が下品って言ってんだよ!!」
恥じらいも知らずに迫って来るバカ令嬢に苦言を呈した所で閑話休題。
日が暮れてきたので、俺とバカ令嬢はここで野営をするための準備を始める。
「別に無理に迫らなくてもいいって。お前を助ける事に益がなくても、お前が助けを求め続ける以上、俺はお前を見捨てない」
バカ令嬢が不思議な力で出したテントを組み立てながら、俺は彼女に無理にアプローチする必要はない事を伝える。
「無理じゃないわよ。私がしたくてやっているだけだから」
「は?何を言って……」
「私はね、貴方の事が好きなのよ。だから、貴方に不自由な選択肢を突きつけたくない」
バカ令嬢は不機嫌そうな表情を浮かべながら焚き木に火を点ける。
彼女の表情を見た瞬間、俺は再び彼女の思考──彼女が俺の唇を奪った理由──が分からなくなってしまった。
「"私の言う事を聞かないんだったら、貴方に力を貸してやらない"なんて前提、不自由そのものでしょ。そんなの自由でも平等でも何でもない。私はね、何の縛りもない貴方を惚れさせる事に価値を見出してるのよ。私しか得のない交渉なんて何も価値がないっての」
不自由というワードを忌々しく呟きながら、バカ令嬢は自分の主張を力説する。
今さっき彼女が吐いた言葉には彼女の価値観というものが詰め込まれていた。
けど、俺は彼女の考えている事や価値観を完璧に理解する事ができなかった。
「不自由を強いるのが嫌なら、そもそも俺を呼ぶなっての」
「そ、それはあのフクロウが勝手に呼んだだけよ。私は何も悪くないって言うか……」
「あと、不自由を強いるのが嫌だからという理由で求婚するのもどうかと思うぞ。俺が好きで求婚するなら、まだしもお前は俺の事、好きでも何でもないんだろ?自由を求めた結果、逆に不自由になっているぞ、今のお前」
「い、……いや、そういう訳じゃ……」
「けど、お前の言いたい事は分かった。だから、さっき交わした交渉は一旦、忘れてくれ」
彼女の価値観を何となく理解した俺は、彼女の意思を尊重した提案をする。
「リリードリ・バランピーノ。俺と一緒に旅をしよう。"西の果て"まで着いて来なくてもいいし、何だったら下界にある俺の地元まで着いてきてもいい。お前が俺との旅に飽きるまで、俺と一緒に旅をしよう。旅の終わりを決めるのはお前の自由だ。俺はお前の選択を尊重する。……それなら、俺もお前に不自由ならなくて済むだろ」
俺の言った事が意外だったのか、彼女はポカンとした表情を浮かべる。
そして、頬を赤くすると、俺の身体に抱きついてきた。
「うおっ!?おま……何をして……!?ぐげっ!?」
再びバカ令嬢はバカみたいな力で俺の首を絞め始める。
そして、目にハートを浮かべながら、こう言った。
「やっぱ、貴方、私が見込んだ通りだわ!!顔も考え方も私好みな上、王子や貴族の坊っちゃまと比べると、何億倍も良い男だし!!合格!!絶対、この旅の間に貴方を落としてみせるわ!!あい、らぶ、ゆー!!」
「は、な、せ、えええええええええ!!!!!」
命の危機を感じたので、疲れ切った身体に鞭を打った俺は、首を締める彼女を地面に叩きつける。
そして、息を切らしながら、地面に伏せた彼女に向かって、こう言った。
「お前、チョロ過ぎない!!??」
この日、俺は彼女の思考回路について考えるのを止めた。
……衝動的に動くバカの考えを沢山考えた所で真実に辿り着けないと思ったので。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方、本当にありがとうございます。
次の更新は明日の13時頃を予定しております。
よろしくお願い致します。