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反省会とフクロウの正体と来訪者

「……一応、魔王(お父さん)にお嬢が連れて行かれた事を報告しました」


 リリィがピエロみたいな天使に連れ去られて数時間後。

 "西の果て"に残された変態奴隷兼魔王の娘であるレイと腹ペコ僧侶ルルは途方に暮れていた。


「……すみません、コウさん。私、何もできませんでした」


 謝罪の言葉を述べながら、腹ペコは豪快に腹を鳴らす。


「いえ、ルルちゃんの責任じゃないっす。一瞬で気絶してしまった私の落ち度っす」


「リリィを取られたのはお前達の責任じゃない。敵が俺達よりも優秀だっただけだ」


 俺は懐に持っていた最後の携帯食料である干し肉をルルに投げ渡すと、塔の壁に刻まれている文字を解読する事で気球を動かす手段を知ろうとする。

 だが、壁に刻まれている文字は誰か宛の手紙であって、気球を動かすための手段は描かれていなかった。

 リリィを助けに行くにしろ、下界(おうち)に戻るにしろ、気球を動かさなければ、何も始まらない。

 だから、俺は塔の中を模索する。

 気球を動かすための手段を。


「多分、最善を尽くしたとしても同じ結果になっていただろう。それくらい敵の手際が良かった」


 壁以外に文字が刻まれているかもしれないと思った俺は、床の方に視線を落としながら、彼女達に慰めの言葉を掛ける。


「で、でも、私がリリィさん達に着いて行けば魔法で強化を……!」


「気絶する奴が1人増えるだけだ」


 そこそこ闘えるレイが瞬殺されたのだ。

 魔法を使っていない状態のルルが太刀打ちできる相手じゃない。

 それに、もし魔法を使えたとしても、手の早さから察するに、あの天使はそうなった時の対策を用意していただろう。

 恐らく俺が闘える状態であったとしても、リリィは連れ去られていたに違いない。


「……私を殺せるくらいの実力があったにも関わらず、あいつが私を気絶させたのはご主人を足止めするためだと思うっす。……すみません、コウさん。足を引っ張っちゃって」


「いや、足を引っ張ってなんかいない。お前がやられていなくても、俺はあいつを逃していた」


 レイを宥めた後、俺は話した。

 フクロウの獣人に刀を奪われた事を。

 そして、黄金の風を生み出す力──闘うための力を失った事を。


「というか、あのフクロウは何者なんですか?コウさんから一瞬で刀を奪った時点で只者じゃない事は何となく分かっているのですが……」


「魔獣と合体……というより、人型のフクロウに擬態しているだけっすね。ご主人、あいつの正体に心当たりはあるっすか?」


「…………あいつは俺だ」


 俺の言っている事を飲め込めなかったのか、レイとルルは首を傾げる。


「正確に言ったら、あいつは上流(かみながれ)(こう)ではなく、カミデラコウ。平行(ちがう)世界の俺だ。生者に報いるための生き方を止めた俺。再び"上寺"の姓を名乗るようになった俺。死んでしまった人達に報いる生き方をする事で、自分を罰そうとした俺の可能性(まつろ)の1つだ」


 港町で騎士団長と闘った時に見た白昼夢を思い出す。

 夢の中の俺は北部九州大震災で家族を失った。

 義父母に報いるために神仏系の大学に進学した。

 けど、始祖■■■の顕現により義父母を失った。

 夢の中の俺は義父母の仇を討つため、再び"上寺"の姓を名乗るようになった。

 死んでしまった人達に報いる生き方をする事で、自分を罰そうとした。

 多分、自らの姿を人型のフクロウに擬態しているのも、口調を変えているのも、己を捨てるためにやっているんだろう。

 あいつは俺だ。

 だから理解できる。

 あいつは死んでしまった人達に報いる事しか頭にない事を。

 あいつは最初からリリィを救う気なんてなかった事を。


「ち、平行(ちがう)世界のご主人?何言っているっすか?」


平行(ちがう)世界がある事は確認できている。ほら、水の都でバカでかい塔を一瞬で建てた自称神様と出会っただろ?あいつは平行(ちがう)世界の神様だって自称していた」


「で、でも、平行(ちがう)世界があるとして、アレが平行(ちがう)世界のコウさんである確証は……」


「確証ならある。あの刀だ。俺が使っていたあの刀は、奴から与えられたものだ」


 雪山で騎士団長と闘った時の事を思い出す。

 あの時、騎士団長は心器(アニマ)と呼ばれる己の心を形にした武器を扱っていた。

 俺の感覚が正しければ、騎士団長が使っていた武器と俺が使用していた刀──フクロウが俺に使わせていた刀は同じものだ。

 多分、あの刀はフクロウの獣人──平行(ちがう)世界の俺の心器(アニマ)なんだろう。

 だから、俺はあの刀を扱う事ができたに違いない。

 刀を通じて奴の記憶を読み取る事で"風斬(ふうぎり)を扱えるようになったんだろう。

 港町で白昼夢を視る──平行(ちがう)世界の俺の記憶を読み取る事ができたのは、奴の心器(アニマ)に触れていたからだろう。


「なるほど。あのフクロウとご主人は殆ど同一人物みたいなものだったから、あの刀を扱う事ができた訳っすね」


「じゃ、じゃあ、あの刀がなかったら、コウさん、闘う事も儘ならないんじゃ……」


「ああ、そうだ。つまり、平行世界の俺(あのフクロウ)が現れた時点でどうしようもなく詰んでいたって訳だ」


 あのフクロウが平行(ちがう)世界の俺だから理解できる。

 あいつは最初からリリィを捨て駒にするつもりだった事を。

 あいつは彼女を犠牲にする事で己の目的を達成しようとしていた事を。

 ここまでは理解できた。

 だが、分からない事がある。

 何故、あいつは俺を浮島(ここ)に呼び出したんだ?

 リリィを"西の果て"に向かわせた理由は?

 最初からリリィを犠牲にするつもりだったら、そんな手間をかけなくて良かった筈だ。

 西の空に沈む夕陽を見つめながら、俺は納得のいく答えを見つけ出そうと思考し続ける。

 だが、考えるための材料が少な過ぎる所為で真実に辿り着く事はできそうになかった。


「……あの、コウさん」


 ルルは俺から手渡された携帯食料を血走った目で眺めながら、腹を豪快に鳴らす。


「どうした?もしかして、あのフクロウの目的が分かっ……」

 

「……私、この旅で何か役に立てたでしょうか?」


 ……………1番、触れたらいけない事に触れやがった。


「思い返せば、私、コウさんに迷惑をかけた記憶しかないんですが………」


「…………そ、そんな事ないぞ」

 

 思わず声が上擦ってしまう。

 仕方ないだろ、俺、嘘吐くの苦手なんだから。


「港町や水の都でレイさんを魔法で強化しましたが、それで状況が好転したって訳じゃありませんし……」


 流れ弾がレイに突き刺さる。

 レイ自身もあまり役に立っていない事を自覚しているのか、渇いた笑みを浮かべ始めた。


「………わ、私もこのパーティに貢献できた記憶ないっす」


「い、いや、役に立ったぞ。ほら、何だかんだ闘っていたじゃん」


「港町の時も水の都の時も砂の迷宮の時も雪山の時も強敵はご主人が処理してんじゃないっすか。というか、全部ご主人が何とかしてんじゃないっすか。私はご主人が瞬殺できるような雑魚を狩った記憶しかないっす」


「リリィさんもリリィさんでコウさんの足を引っ張っていましたが、何だかんだこのパーティに貢献していました。ほら、コウさんに的確なアドバイスしていましたし、持ち運ぶ事ができない程に重いお金や旅に必要な荷物を収納魔術とかで持ち運んでいましたし」


「そうっすね。ご主人とお嬢がいなかったら詰んでいた場面は多々ありますが、私達がいて良かったっていう場面は皆無っす。……あり?足を引っ張るだけの存在である私達が存在する理由って何すか?」


 リリィがいなくなった所為で、ルルとレイが卑屈になってしまった。

 自責の念で食べる事を躊躇しているのかルルは手渡された携帯食料を食べようとしない。

 レイもレイで、いつもは1分に1度のペースで変態発言するのだが、リリィが連れ去られてから真面目モード保ち続けている。

 ……本当、調子が狂うから止めて欲しい。

 いつもの元気はどこに行った?

 

「い、いや、お前らはなんだかんだ役に立っているぞ。思い出せ、ルル。お前は俺の相談に乗ってくれただろ?レイ、お前は砂の迷宮で衰弱した人達を救ってくれただろ?あれは俺もリリィもできなかった行為だ。だから、卑屈になるな。お前らは十分役に立っているぞ、うん」


「私がコウさんに与えたアドバイスは神の言葉を借りたものです。私個人の力ではありません」


「私も魔王(おとうさん)の力を借りただけっす。私個人の力じゃないっすよ」


 どんどん卑屈になるルルとレイ。

 ……本当、やりにくい。

 いつもみたいに暴走してくれた方がまだマシだった。

 

(……こんな時にあいつがいてくれたからな)

 

 リリィがこのパーティのムードメイカーであった事を今更ながら痛感する。

 やっぱり、あいつの存在は必要だ。

 ていうか、あいつが食料とか水とか持っているんだけど。

 あいつがいなくなったら、俺達、いつ餓死してもおかしくないんだけど。

 ………今更ながらヤバい事を痛感する。

 本当、リリィ(あいつ)、このパーティにとって必要不可欠な存在だったんだな。

 いなくなって、初めて彼女のありがたさを痛感する。

 何でいる時よりもいなくなった時の方が好感度上がってんだよ。

 普通、逆だろうが。


「──あら、お困りのようね」


 背後から声が聞こえて来る。

 声の主の方に視線を向けた俺達は、背後の空間に穴が空いている事に気づく。


「ひぃ!この声は……!?」


「また出やがりましたか!!」


 ルルは怯え、レイは敵意を剥き出しにする。

 空間に空いた穴から聞こえてきたのは、聞き覚えのある声だった。

 

「別に闘いに来た訳じゃないから、警戒しなくても良いっての」


 穴の中から人が出てくる。

 酒瓶片手に現れた"それ"は見覚えのあるものだった。


「何でお前がここに……!?」


「そりゃあ、決まっているでしょ」


 そう言いながら、彼女は爬虫類を想起させるような瞳に俺達の姿を映し出す。


「──あんたらを助けに来たのよ」


 俺達の前に現れた少女。

 "それ"は水の都で遭遇した自称神様──カナリアだった。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・レビューを書いてくださった方にこの場を借りてお礼を申し上げます。

 次の更新は12月8日水曜日20時頃に予定しております。

 Stage7.5の文量が想定以上に膨らんでいるので、恐らく12月中旬に爆破令嬢は完結しないと思いますが、今年中に本編を終わらせる事ができるよう頑張りますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

 どんどん寒くなってきていますが、皆様、風邪など召されませぬようご自愛ください。


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