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野宿と返事と狸寝入り

 寝てしまったパーティメンバーから目を逸らしつつ、俺は空に浮かぶ大きな月を仰ぐ。

 "西の果て"に着いて十数時間。

 俺達は下界に行く手段を見つける事ができず、花畑で野宿をする事になってしまった。

 

(でも、まあ、この野宿も残り僅かと感じると名残惜しいな……)


 月から目を逸らしつつ、周囲に敵がいないか確認する。

 "西の果て"は今までの道中と違い、魔獣は全く出て来なかった。

 恐らくここには魔獣は生息していないのだろう。

 いつものように夜通しで見張る必要はないと思うが、それでも万が一の可能性に備えて、俺は見張りを続ける。

 ここでリリィが真王軍の追っ手に連れ去られたり、魔獣に食べられたりでもしたら今までの苦労が水の泡だ。

 詳しい事情は知らないが、フクロウの獣人と水の都で会った自称神様、そして、魔王の娘であるレイの反応から察するに、リリィが真王の手に渡ったら碌な事にならないらしい。


(……流石に真王の追っ手、下界(おうち)まで来ない……よな?)


 そんな事を考えていると、寝ていた筈のリリィが起きてしまった。

 彼女はゆっくり起き上がると、見張りをしていた俺の方に視線を向ける。

 そして、じっと俺を見つめると、唐突にこんな事を言い始めた。


「告白の返事を聞かせて」


「唐突だな、おい」


 今の今まで保留にしていた答え。

 それをリリィは聞き出そうとしている。

 けど、前回と違って、俺はその問いに対する答えを持っていた。

 だが、その答えを彼女に告げるよりも先に俺は聞き出さなきゃいけない事がある。


「……その前に俺の質問に答えろ、リリィ」


 俺のシリアスな雰囲気を感じ取ったのか、リリィの背筋は真っ直ぐ伸びる。

 そんな緊張状態に陥った彼女に俺は聞きたい事を遠慮なくぶち撒けた。


「お前、何を隠している?」


「ん……?隠している?」


 本当に心当たりがないのか、彼女は困惑した様子で首を傾げた。


「んじゃあ、もっと答え易い質問をしてやる。お前、本当に二十歳以上(おとな)なのか?」


「どういう意味よ、それ!?」


 俺の失礼な質問に彼女は声を荒上げる。

 確かに俺の質問は失礼そのものだ。

 彼女が本当に二十歳以上(おとな)だったら。


「俺はお前を二十歳(おとな)だとは思えない。言動も価値観も子ども染みている。とてもじゃないが、お前の肉体年齢と精神年齢が釣り合っているように見えない」


「ねえ、それ、言葉責め!?言葉責めしているの!?ねぇ!?」


 リリィと出会った直後の事を思い出す。

 あの時、俺はリリィに亡くなった姉──震災の所為で10年しか生きる事ができなかった──の面影を見出した。

 リリィと本気で向き合い始めて、俺は1つだけ気づく事ができた。

 リリィと姉は似ているのだ。

 言動も性格も、そして、無邪気に善も悪も為す所も。

 子どもというのは残酷な生き物だ。

 些細な事がきっかけで残酷な事をしでかす。

 子ども(かれら)は平気で羽虫の翅を捥ぐし、蟻の巣に水を注ぎ込むし、地を這う虫だって喜んで踏み潰す。 

 生前の姉も残酷な子どもの1人だった。

 興味本位で芋虫を鯉のいる池に放り投げ、庭にいた蛞蝓にも塩をかけ、空き地にいた猫の尻尾を握ってジャイアントスイング──回転しながら相手を振り回し、平衡感覚を失わせる事でダメージを与えるプロレス技──をかけていた。

 勿論、姉は加虐趣味の奇人ではない。

 ただの普通の女の子だった。

 けど、"周りの子ども達がやっていたから"、"それをやったら友人達のウケを狙えたから"、"それが悪い行為だと薄々気づいていたけれど、誰にも咎められなかったから"、といった理由で姉も姉の友人も、そして、姉の影響を受けた俺も無邪気に残虐な行為をしては悦に浸っていた。

 けど、俺も姉も母から怒られたのがきっかけで、残虐な行為をやらなくなった。

 母に何を言われたのか分からない。

 けど、あの時の母が怖かった事と残虐な行為に罪悪感を抱くようになった事だけは覚えている。

 子どもだったのだ、俺も姉も。

 残虐な行為をしても罪の意識が芽生えないくらいに。

 今のリリィはあの時の姉と似ている。

 勇者達をテクノブレイク一歩手前の状態まで陥れたり、オークキングや自称真王の右腕の急所を蹴り上げたりなど、残虐な行為を何も悪怯れる事なく無邪気に行っている。

 それをやっているのは、多分、彼女の精神年齢が低いからだ。

 ……善悪の区別がつかないくらいに。

 

「お前の精神年齢が低いで終わるんだったら単純な話だった。けど、それだけじゃない。お前が無邪気に残虐な行為をする時は、いつだって調子に乗り過ぎた時や窮地に陥った時──精神的に不安定になった時だけだ」


 俺は思い出す。

 腹ペコと変態と一緒になって調子に乗るリリィの姿を。

 水の都で酒を浴びて赤ちゃんみたいになったリリィの姿を。

 初めての迷宮(ダンジョン)探索で死体を見て取り乱すリリィの姿を。

 多分、精神的に不安定になった時に見せる姿──幼い言動こそが彼女の本当の姿なんだろう。

 根拠はない。

 ただの勘だ。

 

「水の都──自称神様との闘いの時、お前は神がかりな対応で敵の隙を作り出した。あの時のお前は覚悟を決めたのか、それとも窮地に陥って精神的に不安定になり過ぎたのか、いつものお前じゃなかった」


 いや、あの時のリリィは別人が乗り憑っていたかのように有能だった。

 自称神様が油断していたのもあったが、あの自称神様の裏をかく事ができたのだ。

 普段の彼女ができるものではない。

 

「多分、お前はあの時……いや、ピンチに陥る度に自分ではなく"誰か"の真似をしていたんだと思う。誰かの真似をする事でお前は自分に自信をつけていたように見える。そして、自信をつけたお前は自分のスペックをフルに活用する事ができた……と俺は推測する」


 いや、ピンチになった時だけじゃない。

 リリィは時々"誰か"の真似をしていた。

 多分、"時々"だったのは、彼女が誰かの真似を徹底できていなかったからだろう。

 以前、腹ペコ僧侶──ルルは言っていた。

 リリィは"何か"を騙すために"誰か"を演じている、と。

 騎士団長は言っていた、"自分が守りたいのはリリィだけだ"と。

 これらの言葉から、リリィが誰を演じていたのか推測できる。

 俺には人を見る目も真実を見抜く洞察力もない。

 だから、この推測は間違っているかもしれない。

 故に尋ねる。

 この推測が当たっているかどうかを。

 唯一、正解を知っている彼女に。

 

「なあ、リリィ。お前の口から話してくれないか?」

 

 ……もしも俺の推測が当たっていたら、彼女の好意に応える事はできない。

 何故なら、本当の彼女は俺よりも──


「じゃないと、俺はお前の告白の返事をする事ができな……」


 リリィ──バカ令嬢の方を見る。

 彼女はいつの間にか寝転んでおり、わざとらしい寝息を立てていた。


「ぐう」


「狸寝入りしてんじゃねぇよ」


 結局、この日は彼女の口から真実を聞き出す事はできなかった。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方・評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。

 皆様が読んでくださったお陰で、王子の尻を爆破した悪役令嬢(略)」の累計PV10万突破する事ができました。

 本当にありがとうございます。

 価値花に続き2作品連続で10万PV突破できたのは皆様のお陰です。

 この場を借りて感謝の言葉を申し上げます。

 累計PV10万超えを祝し、ブクマ100件達成記念短編やブクマ200件達成記念短編と同じように、累計10万PV達成記念短編も本編終了後に書く予定です。

 恐らく投稿するのは年明けてからになると思いますが、もう暫くお付き合いよろしくお願い致します。

 

 次の更新は11月29日月曜日12時頃に予定しています。

 恐らく次回か次々回でStage7は終わると思います。

 来月完結目指して描き進めるので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。



追記: 11月29日月曜日12時頃に更新と告知しましたが、諸事情により更新時間を20時頃にさせて貰います。急に更新時間を変更して申し訳ありません。

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