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神速の貴公子とケツバットと修行の成果

 槍の鋒が右頬を掠める。

 敵が放った突きを最低限の動きで躱した後、俺は刀の峰で敵の胴体を叩こうとした。


「おっと!」


 敵──上半身を露出させた青年は後方に跳ぶ事で俺の一撃を避ける。

 

「へっへ!"神速の貴公子"と呼ばれた俺の突きを躱すなんてやるな!こりゃあ、かなり楽しめそうだぜ!」


「うおりゃあ!」


 偶然、彼の着地地点にいたレイが何処からか取り出した鉄棒で彼の尻を殴打した。


「ぐおっ!」

 

 小気味良い乾いた音が城内に響き渡る。

 不思議な力で身体能力でも強化したのか、レイに尻を叩かれた彼はバットで打たれたボールのように宙を舞う。


「発射!」


 ケツバットにより吹き飛ばされた敵が着地するよりも先に、バカ令嬢──リリィは何処からか取り出したロケット花火の束を一斉に掃射する。

 彼女が投げたロケット花火は青年のケツに直撃した。

 

「あ、ぎゃあああああ!!!!」


 カラフルな爆炎が青年のケツを焦がす。

 花火特有の爆音がケツを爆破された彼の滑稽さを際立たせた。

 先程まで強者の雰囲気を漂わせていた敵は、頭から地面にダイブすると、ケツを焦がした状態で気絶してしまった。


「……うわぁ」


 直視する事を躊躇う程に無残な姿を晒す敵。

 それを見て、俺は思わず彼に同情してしまう。

 ……人って、こんな一瞬で無様な格好になれるんだな。


「コウ、同情する暇はないわ。これは戦争なのよ。敵に情けをかけている暇はないのよ」


「戦争だからって相手の品位を貶すのは良くないと思う」


「甘いっすね、ご主人。戦争だから、どんな事をしても許されるっすよ。"勝てば竿役、負ければ性奴隷"って言葉を知らないっすか?」


「言っている事が殆ど悪人」


「いたぞ!侵入者だ!!」


 遠くから他の騎士の声が聞こえて来る。

 先程と同じように"風斬(ふうぎり)"を応用した技で敵を吹き飛ばそうと──


「ふぁいあああああああ!!!!」


「「「「ぎゃああああああ!!!!」」」」


 バカ令嬢が放った超火力の銃撃──高層ビル1つ消し飛ばずくらいの威力──により、騎士団の人達は爆炎と爆風により吹き飛ばされる。

 彼等の着ている鎧は丈夫なのか、鎧は割れる事も溶ける事もなく原型を留めていた。


「ふっ、またつまらぬものを撃ってしまった」


「殺す気か!」


 ハリセンでバカの頭を叩く。


「大丈夫よ。あの鎧、めちゃくちゃ硬いらしいから。多分、大丈夫よ」


「多分程度で撃つな!」


「コウ、これは戦争なのよ。相手の尊厳を破壊しようが相手の肛門を爆破しようが、敵さえ殲滅すれば勲章貰えるレベルで称えられる。それが戦争なのよ。だから、褒めて」


「戦争って言えば、何をやっても良いと思うなよ!?」


 撃墜された騎士達の方を見る。

 バカが言っている通り、あの鎧は頑丈だったらしく、騎士達は"あの女、イカれている"だの"お前ら、気をつけろ。あいつ俺達を殺す気だ"だの元気そうに呟きながら起き上がろうとしていた。

 ……良かった、あの鎧が頑丈で。


「よし、元気そうね。んじゃあ、もう1発」


「撃つな!」


「戦争だから仕方ないケツバット!」


「追い討ちをかけるな!」


 立ち上がろうとするボロボロの騎士達の尻にレイは鉄棒による一撃を叩き込む。

 ケツバットされた騎士達の身体は勢い良く吹き飛ぶと、頭から壁に突き刺さってしまった。

 ……壁の中からケツバットされた騎士達の断末魔が聞こえて来る。

 ……………俺は聞かなかったフリをした。


「どうよ!これが修行の成果よ!!」


 追っ手達を返り討ちにしたバカと変態は、大袈裟に胸を張ると、ドヤ顔を披露する。


「いつの間に修行したんだよ」


「本編では描かれていなかったけど、道中で修行してたじゃない」


「本編とは一体」


「思い出してください、ご主人。一緒に滝行とかしてたじゃないっすか」


「存在しない記憶」


「コウ、忘れたの?アレやったじゃない。アレアレ、こう……岩をホイッとする的な」


「もう少しディテール固めてから喋ろうな」


「アレっすよ、アレ。ほら、ご主人したじゃないですか。私の背中に蝋燭を垂らす的な奴を」


「そんなアブノーマルプレイした覚えがない」


「な……!?忘れたの、コウ!?私との蜜月を!?アレをやったじゃない、アレを!」


「だから、アレって何だよ」


 すっかり油断し切っている彼女達に代わって、俺はいつ何が起きても良いように警戒し続ける。

 とりあえず、ここから離れた方が良いだろう。

 いや、それよりも何処かに行った腹ペコを探さなけれ──


「よっしゃ!この調子で騎士団長にリベンジしに行くっす!!」


「待って、それは止めて」


 バカな事をやろうとするレイを止めようとするバカ令嬢。

 俺が考え事をしている隙に真のバカ決定戦を始めようとしていた。

 おい、ここ、敵の陣地だぞ。


「大丈夫っす!今度は自信ありますから!!」


 根拠なき自信を抱えたまま、レイは明後日の方向に向かって駆け出し始める。

 

「ちょ、どこに行くの!?騎士団長は止めときなさい!あいつはガチで強いから!!」


「だから、燃えるじゃないっすか!うおおおおおおお!!父の仇いいいいい!!!!!」


「レイイイイイイ!!!!!」


 バカ令嬢の悲鳴染みた声が城内に響き渡る。

 お前ら、さっきから騒いでいるけど、ここ敵地だからな。

 余裕で俺達の居場所バレるからな。


「お父さん、待っていろっす!お父さんの仇は私が取るっすううううう!!!!」


 馬鹿げた事を叫びながら、何処かに向かって走り去ってしまった。

 残ったのは俺とバカ令嬢──リリィだけ。

 彼女はレイの奇行にショックを受けているのか、床に膝を突いたまま動かなくなってしまった。

 ……引き際を分かっている分、バカ令嬢の方がまともかもしれない。

 というか、腹ペコと変態がヤバ過ぎる。

 お前ら、ガチでヤバそうな時も全力で暴走するのか。


「……お前の魔王(ちち)生きてるじゃん」

 

 いや、そんな事をツッコんでいる場合じゃないだろ。

 心の中でセルフツッコミを行っていると、床に両手両膝突けたリリィが反応する。


「乳がイキっている……?」


「お前の耳はどうなってんだ」


 やっぱ、こいつも頭おかしいわ。

 彼女達の奇行の所為で緊張感が緩みかける。

 

 ──だが、背後から漂ってきた圧迫感に似た何かによって俺の身体は否応なしに緊張状態になってしまった。

 刀を構え、圧迫感を感じる方に刀の鋒を向ける。

 すると、金属同士が擦れる音と重厚な足音が俺の鼓膜を優しく揺らした。

 音源の主がゆっくり俺達の下に向かって来ている事を把握する。

 今の今まで感じていた"奴"の気配が時間が経過する度に濃くなっていく。

 これまでにない緊張感を感じながら、俺はいつ何が起きても良いように身構える。


「……コウ、もしかして」


「ああ、その通りだ」


 足音が止む。

 俺達の視界に足音の主が映し出される。

 全身を鎧に包んだ何者かが現れる。

 鉄塊と呼称する程に大きい剣を背中に携帯した"敵"が俺達の視界に映し出される。

 今の今まで俺達を追い詰めて来たトスカリ王国最強にして最高の騎士──アランドロンが現れる。

 

「……リリードリ・バランピーノ。王妃の命により、今から貴様を拘束する。そして、──」


 奴は刀を構える俺を鎧越しに真っ直ぐ見据える。

 奴の視線に怯んだ俺は額に脂汗を滲ませる。

 

「リリードリー・バランピーノを守りし者。今から貴様を斬り伏せる」


「やれるもんだったら、やってみろよ」


 奴の気迫に負けないよう、俺も煽り言葉を口にする。


「……あんたよりも先に俺があんたを斬り伏せる」


「──やれるものなら、やってみろ」


 奴は背中に携帯していた鉄塊を鞘から引き抜くと、それを頭上に高く振りかざす。


「──貴様にそれができたらの話だけどな」


 奴の言葉を最後に静寂が城内を包み込む。

 俺も騎士団長も微動だする事なく、相手の出方を伺う。

 油断も慢心もする事なく、目の前の敵を見据える。


「ぶえっくしょん!」

 

 リリィ──バカ令嬢の可愛いらしさも欠片もない"くしゃみ"が俺達の鼓膜を揺らす。

 それを合図に俺達はほぼ同時のタイミングで地面を蹴り上げた。


「──"風斬(ふうぎり)"っ!!」


 奴との距離を一瞬で詰めた俺は渾身の一撃を放つ。

 それを待っていたと言わんばかりに、奴も渾身の一撃を放った。


「──"万物を切り裂くのは(ドゥオン・)

我が忠義のため(マグナ・カルラ)"」


 黄金の嵐と赤黒い光が衝突する。

 それが開戦の合図だった。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 そして、申し訳ありません。

 今週は月〜金に更新を予定していると告知しましたが、更新できそうにありません。

 今週は月・水・金に更新します。 

 恐らく残り2話ではStage6を終わらせる事ができないと思うので、土日のどちらかにもう1話更新するつもりです。

 土日更新の詳細は金曜日更新分の後書きにて告知致しますので、よろしくお願い致します。

 次の更新は水曜日12時頃に予定しております。

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