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天使と貴族風の男とデリケートゾーン

 真っ黒に染まった視界のまま、俺は刀を構える。

 デスイーターと闘った時と同じだ。

 ただ前回と違い、赤い亀裂だけは見えていた。

 赤い亀裂に沿うように刀を振るう。

 何かを斬った手応えを感じると同時に、俺の視界はピエロみたいな顔をした男の顔を映し出した。

 即座に理解する。

 奴は不思議な力で簡易的な密閉空間を造った事を。

 光が入って来ない密閉空間の中に俺を入れる事で視界を奪っていた事を。

 多分、デスイーターも密閉空間を造る事で視界を奪っていたのだろう。

 そんな事を考えながら、俺は敵の脳天目掛けて、刀を振り下ろす。

 ピエロみたいな男は俺の斬撃を右腕で受け止めると、空いていた左拳で俺の顔面に殴りかかろうとした。

 

「遅い」


 敵の右腕に食い込んだ刀を投げ捨てつつ、俺は彼の顔面に右拳を叩き込む。

 咄嗟の判断でやったため、拳に体重を乗せる事ができず、敵の意識を刈り取る事はできなかった。

 鼻頭を押さえながら後退る敵の姿を注意深く観察する。

 敵の強さは大体デスイーターと同じくらい。

 だが、騎士団長や魔王、そして、自称神様と比べると比べるのが失礼なくらいに弱かった。

 地面に落ちた刀をゆっくり拾いながら、俺は敵の出方を伺う。

 今さっきの攻防で力量差を把握したのか、ピエロみたいな容貌をした敵は、無闇矢鱈に襲い掛かろうとしなかった。

 俺の隙を伺う敵の姿を見て、奴に理性がある事を認知する。


「……お前、人間なのか?」


 目の前の敵が魔獣──魔獣と融合した元人間──である事を確かめようと質問を投げかける。 

 だが、敵の口から出たのは俺の想像を遥かに超えたものだった。


「ワタシは魔獣ではありません。──"天使"です」


 驚く隙を与えないと言わんばかりに、敵は猛攻を仕掛ける。

 背中に生えた両翼を巧みに操作する事で、敵は俺を害そうとした。

 迫り来る翼の攻撃を拾った刀で受け流す。

 奴の翼は鋼でできているのか、刀で奴の翼を弾く度、金属音みたいなものが鳴り響いた。


「ワタシを下等な現人類と一緒にしないでください!」


 相手が人間じゃない事を知れたので、遠慮なく敵の首を刎ね飛ばそうとする。

 

「──"風斬(ふうぎり)"」


 黄金の風を纏った斬撃で敵の両翼を打ち砕いた後、躊躇いもなく刀で敵の首を斬り落とす。

 無駄のない動きで放った斬撃は、呆気なく敵の首と胴体を切り離した。


「……よしっと」


 自称天使をコロコロした俺は、パーティメンバーの下に戻ろうとする。

 その瞬間、通路の奥の方から人の気配を感じ取った。


「まさか"天使ラファエル"が瞬殺されるとは。なるほど、真王様が想定しているよりも、神器のボディーガードはかなり厄介らしい」


 今の今まで傍観していたのだろう。

 通路の奥からフランスの貴族みたいな格好をした男性の姿が俺の視界に映り込んだ。


「何者だ、お前」


「私の名前はリヒトルーリ・ヴァルンチーノ。"西"を司る真王四天王であり、──真王様の右腕です。以後、お見知りおきを」


 リヒトと名乗る貴族風の男性の背後から人型の魔獣──魔人がぞろぞろ現れる。

 先程見かけた骨と皮しかない魔人達と違って、彼等は元気そうだった。

 …….目は死んでいるが。


「何で真王の右腕がここにいるんだ?」


「そりゃあ、ここが私の研究所だからです」


 彼は何かしらの秘策があるのか、或いは背後にいる魔人達の大群が自信の源なのか、余裕のある態度を取っていた。

 何が来ても良いように、一応、身構えておく。


「……こんな遺跡みたいな所で何を研究しているんだ?」


 敵の隙を知らせる赤い亀裂は見えている。

 だが、敵の攻撃のタイミングを知らせる黒い亀裂は見えなかった。

 どうやら攻撃する気はないらしい。

 いや、もしかしたら避ける隙を与えないくらい速い攻撃を仕掛けて来るのかもしれない。


「この研究所では、魔人の研究をしているのです」


「……研究?」


「ええ。ちょっと前に呪術師を捕まえてね。今はその呪術師から得た呪術を使って、魔獣と魔人を大量生産しています」


 その言葉により、魔獣と魔神が彼の手で造られた事を何となく察知する。


「……お前らが魔獣や魔人を生み出したのか?」


「ん?知らないのですか?魔王の娘と一緒にいるから知っていると思っていましたが……まあ、いい。神器のボディーガード、君の言葉を肯定しよう。ええ、そうです。私達がこの浮島にいる全ての魔獣と魔人を生み出しました」


 ……多分、彼はこの浮島にいる人達にとって、衝撃的な真実を口に出したのだろう。

 浮島出身じゃない所為なのか、それとも、ただ単に俺が人でなしな所為なのか、彼の言葉を聞いても、俺は素直に驚く事はできなかった。


「呪術というのは人の獣性を操作する事に長けていまして。そのお陰で、私達真王軍は奴隷や使えない騎士団員を魔人に変える事で戦力を補強しているんですよ。まあ、戦力の補強はオマケで、真王様お好みの"新人類"を創り出すのが真の目的なのですが」

 

 聞いてもいないのに、彼は機密情報をペラペラ話し始めた。

 何が目的なんだろう?

 もしかして、時間を稼いでいるのか?


「真王様を新たな星の王に仕立て上げるためとは言え、こんな辺境な地に送られたのは些か腹立たしいのですが、これも私が他の四天王よりも優秀であるが故に起きた事。魔獣と魔人を生産しつつ、新人類の原型を模索するなんて器用な真似、この優秀過ぎる私にしかできないんでしょう。約100年もこんな場所で黙々作業できるなんて私くらいでしょうし」


 いや、違う。

 彼は時間を稼ぐために機密情報を話しているのではない。

 多分、自分に酔っているのだ。

 自分に悪酔いしているから、愚行を犯しているんだ。

 ……いやいや、この推測は流石にないだろ。

 自分に悪酔いし過ぎて重要そうなをペラペラ話す奴とか、どこの世界にいるんだよ。

 そんなバカ、現実は勿論、2次元にさえも存在しないと思う。


「他の四天王は何をしているのでしょう。今の今まで、神器を野放しにするなんて。まあ、神域に至りかけているボディーガード相手では彼等も手を焼くのも当然か。ならば、仕方ない。私が彼を抹殺して、真王様の右腕……いや、四天王としての責務を全うしましょう」


 さっきまで俺と話していたにも関わらず、いつの間にか彼は俺との会話を終え、独り言に熱中していた。

 ……訳が分からない。

 もしかして、彼は正気を失っているんじゃないのだろうか。

 今さっき彼が言った言葉は、全部彼の妄想で真実じゃないのかもしれない。

 というより、バカ令嬢達と違う意味で思考回路が読めない彼を前にして、俺は少しだけ恐怖心を抱いていた。


「さあ、大人しく神器を渡して死ぬが良い!!行け!魔人共!!元の姿に戻りたければ、こいつを殺……ふんぎゃあ!」


 貴族みたいな格好をした男は、背後にいた何者かに股間を蹴られると、床に膝を着いてしまった。

 両手で股間を押さえる彼の姿は、見ていられないくらいに無様だった。

 彼の股間を蹴った奴を見る。

 そこには、のほほんとした表情を浮かべるリリィ──バカ令嬢が立っていた。


「コウ。さっさとここから脱出するわよ」


「男の股間はデリケートゾーンって何回言ったら分かるんだよ、バカ」

 ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・レビューを送ってくださった方、本当にありがとうございます。

 そして、新しくブクマしてくれた方に厚くお礼を申し上げます。

 次の更新は来週の水曜日に更新予定です。

 今週には終わりませんでしたが、「砂の国編」は来週水曜日・木曜日に投稿するお話で終わります。

 まだ書き終わっていませんが、再来週は毎日更新できるように頑張りますので、完結まであと少しですが、お付き合いよろしくお願い致します。

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