魔人達とあの時と今
「……な、何だよ、これ……」
瘦せぎすとなった魔獣達を眺めながら、俺は困惑した声を口にする。
俺の疑問に答えたのは魔獣──ではなく、リリィだった。
「いえ、よく見てコウ。あれは魔獣じゃない。──魔人よ」
リリィに言われて、ようやく俺は目に映る全ての魔獣が人型である事を把握する。
確かに彼女の言う通り、俺の前にいるのはオークキングやサキュバスクイーンそっくりだった。
「……って、お前ら、正気を取り戻したのか!?何で!?何きっかけで!?」
「ん?私達はいつでも正気よ?」
「何言ってるんすか、ご主人」
「ですです」
「あれ、素面による奇行だったのかよっ!?」
どうやら先程の世にも奇妙な○語的奇行は、正気を失ったからではなく、彼女達の自発的な行為らしい。
「お前ら、唐突に奇行するの本当に止めろよ!訳分からな過ぎて、精神攻撃受けているかと勘違いしたじゃねぇか!!」
「しっ、コウ。空気を読んで。この魔人達をここまで追い詰めた人が来るかもしれないでしょ」
「そうっすよ、ご主人。ここは慎重さが求められる場面っす」
「ですです」
「お前らにだけは言われたくねぇよ!」
普段空気を読まない彼女達に空気を読めと言われてしまった。
漠然とした屈辱感が俺の背にのしかかった所で、閑話休題。
俺達は骨と皮しかない魔人達が敷き詰められている部屋の中に入る。
中に入った瞬間、酸っぱい臭いが俺の鼻腔を擽ぐった。
空気を読んだリリィが魔術とやらで部屋の中を照らす。
灯りに照らされた魔人達は、栄養が足りていないのか、いつ死んでもおかしくないような顔をしていた。
……殆ど死骸みたいな彼等を見て、俺は震災で亡くなった人達を思い出してしまう。
今は感傷に浸っている場合じゃない事くらい分かり切っているのに、俺の身体は俺の思うように動いてくれなかった。
「ん?コウ、どうしたの?」
「死にかけている人達を見て、勃っちゃいましたか?」
「変わった性癖していますね」
「コウ……そんな性癖を持っていたのね」
「……んな訳ないだろ」
首を横に振る事で脳裏に過った両親と姉の死に顔を振り払おうとする。
すると、彼女達の顔が目に入った。
彼女達は今までにないくらい緊張感に満ちた表情を浮かべていた。
「冗談はこれくらいにして……どうしましょうか、この人達」
魔人──魔獣と人間が融合した存在──を眺めながら、リリィは眉間に皺を寄せる。
「何で衰弱した魔人達がこの部屋にいるのかは一旦置くとして……どうしましょうか。この人達をこのまま放置していたら、間違いなく死ぬわ。早く何とかした方が良いのは確かなんだけど……」
かなりヤバイ状況の時にしか真面目にならないリリィが深刻そうな顔をしながら、魔人達を見つめる。
「いえ、魔人は普通の人と違って、魔力さえ与えれば、ある程度の傷や病を治す事ができるっす。道具や資源がなくても、最悪の状況だけは回避できるっすよ」
魔王の娘であるレイは、魔王軍にいた時に得た知識を俺達に提供する。
「あの、リリィさん。この人達を助けるんだったら、先ずはすぐに助けなきゃヤバイ人とそうでない人達を区別しましょう。そうしないと助けられる人達を助ける事ができません」
「貴重な情報ありがとう、レイ、ルル。じゃあ、私とルルはすぐに助けなきゃヤバイ人とそうでない人を判別。大量の魔力を持っているレイは、私達がヤバいと思った人に魔力を提供して頂戴。コウは敵がいつ来ても良いように身構えといて」
「え、あ、ああ、……」
リリィだけでなく、レイもルルも今まで見せた事のないようなシリアスな雰囲気を身に纏うと、瘦せぎすになった魔人達を救うために動き始めた。
事情を把握するよりも先に魔人達を助けようとする彼女達を見て、俺は面食らってしまう。
俺は今にも死にそうな魔人達を見ても、彼等を助けようなんて思わなかった。
助けるという事さえも考えなかった。
あの時と同じだ。
震災に遭った時と。
あの時も俺は誰かを助けようなんて思わなかった。
親に言われるがまま、俺は避難所に行った。
避難所にいた大人達に言われるがまま、俺は避難所に引き篭もった。
誰も助けようとしなかった。
ただ言われるがまま、俺は目の前の現実と向き合う事を避け続けた。
今、俺はあの時の過ちを再び繰り返している。
俺はまた動こうとしなかった。
助けられる力があるというのに。
自分自身に自己嫌悪しながら、魔人達を助けようとしている彼女達をぼんやり眺める。
すると、遠くから足音が聞こえてきた。
「……ちょっと行ってくる」
魔人達を助けようとする彼女達に声を掛けた後、俺は足音が聞こえて来る方向に向かい始める。
足音は俺が斬った壁画とは正反対の所から聞こえてきた。
自己嫌悪に陥りながらも、俺は刀をいつでも抜けるように身構えつつ、足音の主の下に向かう。
足音の主と遭遇したのは、魔人達のいる部屋から出て、数分後の事だった。
「……何者だ、お前?」
足音の主はピエロみたいに蒼白い顔した男だった。
身長は多分180cm程度。
線が非常に細く、爬虫類のような目をした気味の悪い男だった。
(ん……?この雰囲気、どこかで感じたような……?)
俺の言葉に一切反応する事なく、佇む男に違和感を抱いたその時、唐突に攻撃が飛んでくる。
漆黒の飛礫みたいなものを抜刀術で叩き落とす。
飛礫を斬ったその瞬間、男の背中から漆黒の翼が突き出た。
「……っ!?」
男の背中から突き出た漆黒の翼を見た瞬間、俺の視界は真っ黒に染まる。
その翼を見るや否や、視界が真っ黒に染まるや否や、俺は確信してしまった。
──目の前の男とデスイーターが同一である事を。
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次の更新は金曜日12時頃に予定しております。
土日にストック貯められなかったんで、今週中に『砂の国』編終わらせるのはチョイ厳しいですが、ちゃんと完結させるので、これらからもお付き合いよろしくお願い致します。




