壁画と9回裏と狂気
石板の部屋から出た後、俺達は壁画の部屋に辿り着いた。
「どう?コウ?お宝の情報あった?」
「いや、島の歴史しか描かれていない」
壁に刻まれた巨大な絵と英文を見ながら、俺はリリィ──バカ令嬢の疑問に答える。
「初代真王がトスカリなんちゃらって国を建てた事、そのなんとかって国が2000年以上統治し続けたって事、下界から来た"漂流者"ってのがこの浮島に叡智を授けた事、あとは百数年前に"狐の魔獣"が出てきた事……くらいだな、重要そうなのは」
もう1度読み返す。
が、幾ら読み返しても、新情報っぽいのは書いていなかった。
(にしても、俺以外にいたんだな。この浮島に来た奴が)
この浮島で使われている言語が日本語である理由を何となく察する。
多分、俺の前に来た"漂流者"が日本語を広めたんだろう。
その結果、この浮島の公用語が日本語になったんだろう。
何で日本語と比べると習得難易度低めの英語が公用語にならなかったのか、度々"漂流者"が来ているのに文明レベルが中世レベルなのか、"漂流者"達は下界に戻る事ができたのか、色々疑問はあるっちゃあるが、石板にも壁画にも書かれていないので、解明を諦める。
「まあ、この遺跡にお宝はなさそ……」
「さあ!9回裏!張り切って行くわよ!」
「はい!」
「うっす!」
「何か始まった!?」
唐突に野球回が始まってしまった。
真剣な表情を浮かべている彼女達はバットを持ったまま、守備ポジションに向かって走り始める。
何の脈絡もなく、9回表が始まった所為でついていけなかった。
「さあ!来いやあああ!!!!」
マウンドに立った奴隷志願の自称変態──レイはバットを構える。
いや、そこバッターボックスじゃねぇから。
球投げる所だから。
「ここでミドルシュート撃てたら、国技館ですよ!しっかり攻めましょう!」
そう言って、腹ペコ僧侶──ルルはプロレスラーが着けるようなアニマルマスクを被ると、ネクストバッターボックス的な所に座り込む。
いや、お前がキャッチャーじゃねぇのかよ。
というか、甲子園じゃねぇのかよ。
てか、国技館は相撲だし、ミドルシュートはサッカーだと思……
「ボケの大渋滞!!」
ボケの大群 (しかも粗悪過ぎる)を捌き切れず、つい叫んでしまう。
「そもそも、お前ら、何してんの!?野球じゃねぇの!!??」
「しっ!コウ!奴が来たわ!」
「奴って誰!?」
「『私の名前はゴルドワープヨシミ。今宵で43歳になるイケイケなイケオジだ』」
何処からか取り出したマネキンを抱えた腹ペコが、巧みな腹話術を披露しつつ、バッターボックスらしき空間に突入する。
「『今宵、私は"トゥルロード・エパンデーネ"のプロ棋士を引退する。私ももう歳だ。若い頃と違って、身体が思うように動かない。数年前までにできていた棋士としては序の序の口だった奥義"ポッポロポール"ができなくなってしまった。この初歩中の初歩である奥義ができなくなった時点で、今シーズンを乗り切る事はできないだろう。──最悪、命を落としかねない。"トゥルロード・エパンデーネ"とはそういう競技だ。精力がない者はテクノブレイクで至ってしまう』」
「待て!俺を置いて寸劇を始めるな!!」
怒涛の横文字と未知の単語により、俺の頭の中は混乱してしまう。
ていうか、俺、何を見せられているんだ?
「あら?バッターボックスに戻ってきたの?」
いや、ここは一旦深呼吸して落ち着くのがベターなは……
「『ああ、当然だ。私には養わなければいけない家族がいるのだからね。負ける訳にはいかないのさ』……そう言って、私はバッターボックスの上に立つ。バッターボックスの中は雪が降り積もる柳の木の下よりも冷たい場所だった。『ああ、ここに来るのも今宵で最後か』、私は己の死期を悟った。そして、このバッターボックスが私の墓穴になる事も」
できねぇわ、
怒涛の情報量で頭の中がパニック状態だわ。
何を言っているんだ、テメェ。
「おい、台詞と地の文をごちゃ混ぜにするな。訳が分からなくなるだろうが」
そして、何を言ってるんだ、俺。
ツッコミ所、そこじゃないだろ。
もっとツッコむ所沢山あるだろ。
というか、最初は理解していた風潮止めろ。
最初の時点で訳が分からないから。
「ふっ、ようやく会えたっすね。チェゲルゲンバーヨシミ!貴方に殺されたお父さんの恨み、ここで晴らさせて貰いますっすよ!」
「生きているから。お前の魔王、生きているから」
「いえ、死んだようなものっす。昔のお父さんは1日に7回シュコシュコしてもノー問題な性豪でした。……けど、今では1週間に1度か2度しかシュコシュコできない身体になってしまったっす。そこにいるカリゴマーネヨシミの所為で!!」
「お父さんを亡き者扱いするのは良くないと思う」
だから、ツッコミ所、そこじゃないって。
「お父さんの性欲を返してください!お母さんを精○ボテにするくらい性豪だったお父さんの性欲を!」
「おい、ちょっと待て。ヒートアップするな、お前らはどこに向かっているんだ?」
「『クックックッ、あの時の娘か。久しいな、元気にしていたか?』」
普通に無視された。
「ええ、元気にしていたっすよ……!規則正しい生活を送ったんで、こんな色っぽい身体になれました!」
「頼むから俺を世にも奇妙な物○的な世界観に放り込まないでくれ。現在進行形で恐怖味わっているから」
「『クックックッ、そうか。だったら、私がここに来たのはディスティニーだったという訳か』」
「ごちゃごちゃ話していないで早く13階段を登りなさい、ゴルドワープヨシミ。今日の死刑囚は貴方以外にも沢山いるのよ」
「『ああ、そうだった。こんな事をしている場合じゃなかった』──そう言って、俺は階段を登り始める。この長くて険しい階段を、たった1人で……」
「隙ありだわ、ドキュン!」
「『ぐわっ!背中を撃たれた!?』」
世にも○妙な物語に出てくる登場人物達はこんな心境なのだろうか。
訳の分からない応酬を見せられた所為なのか、俺の視界は少しだけ潤んでしまった。
何だよ、これ。
何なんだよ、これ。
せめて伏線は回収してくれるよな?
○にも奇妙な物語みたいに訳の分からないオチになったりしないよな?
「私に背中を見せたのが全ての過ちね。ゴルドワープヨシミ。貴方に憎しみを抱いているのは1人だけだと、いつから錯覚していたのかしら?」
「『ぐっ……!?お前はまさか……!』」
「ええ、そうよ。私こそが"トゥルロード・エパンデーネ"の裏の顔であり、プルルントゥゲーザーをゴルゴンチェイネーの領域にまで押し上げたゴルドワープを超えたゴルドワープ……つまり、私よ」
「『ふっ、つまり、ディスティニーって訳か』」
「いえ、グルービーですよ」
「『クックックッ、つまり、そういう事か』」
「いいや、そういう訳じゃないわよ」
つまり、どういう事だよ。
いつも以上に狂っている上、いつも以上に話を聞かない彼女達に頭を抱える。
え?何?これ、どういう状況?
まさか俺が見ていない内に、あいつら、変なものでも食べたか?
それとも、この浮島の独特な文化?
或いは俺には効かない精神攻撃系統攻撃を受けている的な?
奇行に走る彼女達から目を離し、俺は周囲を隈なく見渡す。
どこにも異常は見当たらなかった。
が、人の気配らしきものを微かに感じる。
壁画の向こう側からだ。
もしかしたら、彼女達に精神攻撃を仕掛けている何者かが壁画の裏に潜んでいるのかもしれない。
一刻も早く、この惨状をどうにかしたい一心で、俺は刀を引き抜くと、刀で壁画を斬り刻む。
俺の斬撃を浴びた壁画は、砂埃を上げながら崩れ落ちると、隠していた景色を俺に見せつけた。
そこにいたのは──
魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣人魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣魔獣
「──なっ!?」
俺の視界に映し出される魔獣の大群。
魔獣の殆どは皮と骨しかなく、微かに人型を保っていた。
「……な、何だよ、これ……?」
敵意のない痩せ細った魔獣を見て、俺はパニック状態に陥る。
縋るような思いでバカ令嬢達の方を見る。
彼女達はマネキンを胴上げしながら、奇声を上げていた。
「ひきょえええええ!!!」
「くかええええええ!!!」
「ひゅとろとおおお!!!」
「何だよ、これ!?」
死にかけの魔獣の大群に奇声を上げるパーティメンバー。
訳が分からな過ぎて、俺は少しだけ泣きそうになった。
……次回に続く。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いてくださった方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
先ずはこの場を借りて謝罪させて頂きます。
私情により、砂の国編を告知通り完結させる事ができませんでした。
申し訳ありません。
今後このような事がないように気をつけますので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。
次の更新は10月12日火曜日12時頃に更新予定です。
まだ書き終わっていないので、断言はできませんが、来週で砂の国編は終わる予定です。
あと爆破令嬢は今月中に完結は無理っぽいです。
なるべく今月中に終わらせるように頑張りますが、
今月Stage5〜6
来月Stage7〜8
みたいな更新ペースになると思います。
来週は沢山投稿できるように頑張りますので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。




