石板とお宝と戦歴
見覚えのある未知のダンジョンを歩く事、数時間。
俺達は不思議な部屋に辿り着いた。
「……これは、石板……なのか?」
仄かに発光する天井が、部屋の中央にある石板みたいなものを照らし上げる。
その石板みたいなものは俺達の背丈を優に超える程に巨大であり、かつ不思議な絵が刻まれていた。
「お宝の匂いがするわ!!」
先程まで冒険云々言っていたリリィ──バカ令嬢はウキウキした様子で壁画の方に向かう。
腹ペコ僧侶──ルルはというと、いつものハイテンションっぷりが嘘みたいに静まり返っていた。
「……な、何でここにこれがあるんすか……?」
「レイ、何か知っているのか?」
固唾を飲みながら、壁画を見つめる変態奴隷を志している純情乙女──レイに疑問を投げかける。
「知ってるも何もこれはこの浮島の歴史を記したものっす。数十年前に消失したって聞いていましたが、まさかこんな所にあろうとは……」
彼女の驚きっぷりを見るに、この壁画はかなり価値のあるものらしい。
「つまり、この石板自体がお宝って事ね。コウ、一生に一度のお願い!これ背負って旅をして!」
「過去最高の無茶振り」
超巨大な石板をどうやって運べって言うんだ、このバカ。
「うーん、でも、これ、お宝って言う程、お宝って訳じゃないっすよ。この石板に書かれている事って、教会とか宿とかにある歴史本で知る事できますし。まあ、骨董マニアだったら欲しがるかもしれないっすけど」
「いや、もしかしたらお宝の情報があるかもでしょ!?諦めたらそこで勝負はお終いよ!!だから、コウ!今すぐこの石板を解読して!」
「ただの高校生ができる訳ないだろ、解読なんて」
ダメで元々精神で石板の解読を試みる。
「ん……?この文字って……もしかして、」
石板に刻まれている文字がアルファベットである事に気づく。
「それ、エーゴっていう古代文字っすよ。私も詳しい事は知らないっすけど、古代の浮島で使われていた文字らしいっす。現在の浮島ではニホン語を使う人が多いっすけど、一部の地域では今でもエーゴを使う所があるみたいっす」
「もしかして、コウ、この古代文字を読めるの?」
一応、アルファベットで構成された文字列に目を通す。
そこには中学校で習うレベルの単語と文法で構成された英文が刻まれていた。
「え、ああ、一応、読む事はできるけど。これ、下界で使われている言語だし」
「よっしゃ!コウ!今すぐこれを解読して!そして、私達に教えるのよ!宝の在処を!!」
バカ令嬢に急かされて、俺は石板の解読を試みる。
所々、習っていない英単語が出てきたが、英文自体は簡単なものだったので、単語の意味を推測する事は容易だった。
「えーと、この石板に刻まれているのは浮島の歴史……というより、ガイア神とやらの履歴書っぽいな」
「え、この浮島の歴史じゃないっすか?」
「それは最後の方でチョロっとしか書かれていないな。殆どはガイア神が"この世界"に来るまでの道程だ。どうやらガイア神ってのは、この星で最初に行われた戦争──生存競争とやらを行うために生み出された全能の生き物の事を指すらしい」
「生存競争を行うために造り出された?それって、どういう事かしら?」
「これに書かれている事が本当なら、この星は"始祖"っていう全能の生命体に人類を造らせようとしたらしい。で、この星を支配するに相応しい人類の祖を選出するために始祖同士を戦わせたみたいだ」
「始祖同士を闘わせる?んじゃあ、ガイア神の他にも全能の生命体がいたんすか?」
「ああ、ガイア神を含めて12体いるらしい。いや、神様っぽいから、12体じゃなくて12柱か」
「なるほど。その生存競争とやらの勝者がガイア神な訳ね。で、ガイア神が私達人類の祖になっ──」
「いや、勝者はガイア神じゃない。勝者は第12人類始祖『フィアナ』。ガイア神は生存競争に勝ち残る事ができず、敗北したみたいだ」
この石板が書かれている事が本当なら、ガイア神は弥生時代くらいに蘇ったらしい。
そして、蘇ったガイア神をリィガと呼ばれる始祖が封印したみたいだ。
しかし、その封印は永続的なものじゃなかったらしく、ある日、ガイア神は復活したらしい。
復活したガイア神は生存競争の勝者になるという本能に従い、地上にいた人類を虐殺し始めるも、リィガの力を借りた『ユウキ』と呼ばれる英雄が復活したガイア神を倒したみたいだ。
しかし、ガイア神は最後の力を振り絞って、その世界から離脱。
約4000年前にタイムリープする事で、何とか生き長らえたみたいだ。
その後、ガイア神は"神器"として加工された人間の肉体を入手したらしく、何やかんやあって、自分を主神とした宗教「ガイア教」を立ち上げ、始祖としての力を取り戻そうとしたみたいだ。
だが、ガイア神は完全復活直前で第11人類始祖リィガと組んだ預言者テーベのによりまたもや敗北。
その結果、肉体と力の大部分を再び喪失したみたいだ。
リィガと預言者テーベに敗北後、ガイア神は再び最後の力を振り絞り、今度は未来にタイムリープ。
未来に着いたガイア神は再び神器として加工された人間の肉体するも、白銀の籠手──"アイギス"とやらを身につけた"代弁者"に負けちゃったみたいだ。
「……で、"代弁者"に負けたガイア神を生き返らせるために、ガイア神の直属の部下"天使ガブリエル"が過去にタイムリープ。自分の上司であり親でもあるガイア神を生き返らせるため、天使ガブリエルは古代ギリシアにあった"アルカディア"という島を浮上させたんだとか」
「その浮上させた島が"ここ"って訳っすね」
「ねえねえ、コウ。天使ガブリエルはどういう方法でガイア神を生き返らせようとしているのか書いていないの?」
「うーん、書いていないっぽいな。ガイア神の遺骸がどこにあるのかも記されていないみたいだし……」
他に記されている事は、この石板の著者──"ルーチェ・クティーラ"の名前と補足説明だけだ。
何でもこの著者は千里眼の持ち主だったらしく、平行世界の出来事を視る事ができたみたいだ。
恐らくガイア神がタイムリープを繰り返す度に世界が派生したのだろう。
英雄『ユウキ』がいた世界と白銀の籠手を身につけた"代弁者"とやらがいた世界と俺達がいる世界は、文脈から察するに別物らしい。
つまり、平行世界というものだろう。
確かあの自称神様も平行世界から来たとか言ってたっけ。
この石板と自称神様の話が本当なら、平行世界ってものは実在するのだろう。
そして、分かった事がもう1つ。
"神器"ってのは、要するにガイア神が憑依できる人間の事を指すらしい。
魔王も自称神様もバカ令嬢──リリィの事を"神器"と呼んでいた。
つまり、そういう事だろう。
確証を得た訳ではないが、恐らく騎士団や真王とやらがリリィを求めているのは──
もう一度、石板に刻まれた英文に目を通す。
しかし、何度読んでも、この浮島を造った詳しい理由やガイア神の死骸の在処は書かれていなかった。
「要するにこの石板はガイア神の戦歴が刻まれているって訳っすね」
「ねえ、コウ。本当にお宝の情報書いてないの?」
「ガイア神以外の事は書かれてない」
「へえ、そうなんっすか。……にしても奇妙っすね。何でこの石板を造った人はこれを残したんでしょうか?」
「この情報を後世に残すためだと思うけど……」
「何のために?」
「それは、……この石板を造った人にしか分からないと思う」
今の今までダンマリだった腹ペコの方を見る。
彼女は微妙な表情で俺達と石板を交互に見ていた。
どういう表情だよ、それ。
「まあ、この件は忘れて先に進みましょう。あー、お宝見つけたかったなあ」
そう言って、バカ令嬢は先に向かって歩き始める。
俺達はその後を追う事にした。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いてくださった方、レビューを書いてくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
皆様がブクマしてくれたお陰で、本作品のブクマ件数が200台に乗りました(9月22日11時現在)。
前作である価値花に続き、ブクマ200件突破できたのは皆様の応援のお陰です。
本当にありがとうございます。
この場を借りて、厚く厚くお礼を申し上げます。
ブクマ200件記念短編は本編終了後に投稿しますので、少しお待ちください。
ブクマ100件記念短編同様、既に構想を練っているので、本編完結後もお付き合いよろしくお願い致します。
また、次の更新ですが、公募用の小説の最終チェックに追われているため、もしかしたら来週はお休みを貰うかもしれません。
その時はTwitter(雑談垢:norito8989・宣伝垢Yomogi89892)で告知致しますので、よろしくお願い致します。
なるべく今月中に砂の国編を終わらせるように頑張るので、これからも完結までお付き合いよろしくお願い致します。




