鎧武者と神造兵器と壁の外
[前回までのあらすじ]
・刀を手に入れたコウ、王子の護衛数十人を倒す。
・壁の上に到達した途端、謎の鎧武者が現れる。
高速で迫り来る鎧武者を見た瞬間、俺は手に持っていた刀を再び鞘から解き放ってしまう。
使い慣れていないにも関わらず、居合の技術を身につけた覚えがないにも関わらず、俺は鞘から刀を抜き放つと、迫り来る鎧武者に向かって抜刀術を浴びせた。
宙を滑走していた鎧武者は、鉄の塊と言っても過言ではない大剣で俺の刀を受け止める。
瞬間、金属同士がぶつかり合う音が辺り一面に木霊した。
俺と鎧武者の間に火花が舞い散り、刀と剣は拮抗する。
俺は鎧武者の攻撃を受け流すと、そのまま奴の懐目掛けて刀を振るった。
──宙にいながらも不思議な力で体勢を整えた鎧武者は、俺の攻撃を紙一重で避けると、俺との距離を取る。
鎧武者は壁の上に着地するや否や腰を低く落とすと、剣を上段の位置に構えた。
「あの鎧にあの剣……間違いないわ、この国最強にして最高の騎士──アランドロンよ」
近くにいたバカ令嬢は張り詰めた声色で敵の正体を俺に教える。
が、そんな事を言われても、俺にはどうしようもなかった。
「リリードリ・バランピーノ。王妃の命により、今から貴様を拘束する」
「交渉の余地はあるかしら?」
「ない」
「ごめん、万策尽きたわ。あとはよろしく」
「あとはよろしくって……この国最強の騎士相手によろしくできるかよ」
「できるわよ、貴方は最強の剣士だから」
バカ令嬢は腕を組みながら、鎧武者の隙を伺う。
彼女の視線に気づいた鎧武者は、警戒しているのか、大剣を上段に構えたまま、ピクリとも動かなかった。
いつ鎧武者が襲いかかってきてもいいように、俺は刀を構える。
まだ刀を握っても1時間も経っていない俺にとって、目の前の敵は街を取り囲む壁よりも厄介な存在だった。
この高い壁を乗り越えなければ、俺はお家に帰れないと思うと気が滅入ってしまう。
あの時、カフェインを摂取しようと思わずに素直に寝ていたら、俺はここにいなかったと思うと溜息しか零れなかった。
(……何で俺がこんな目に……)
つい溜息を吐き出しそうになったその時、視界に黒い亀裂が俺の首を通り過ぎた。
冷たい感覚が首元を撫でる。
本能的にこの亀裂が奴の攻撃である事を悟った。
「くっ……!」
持っていた刀で色が濃くなりつつある亀裂を遮る。
色の濃さが最大限になると同時に、刀は鳴いた。
──鎧武者の放った斬撃を刀で受け止める。
手に痺れが走るのを知覚するのも束の間、視界に現れた黒い亀裂は空間の中を縦横無尽に駆け回り始めた。
黒い亀裂が目に入った途端、俺の身体から無駄な力が消え失せる。
殆ど無意識の状態で、鎧武者の連撃を防ぎ切った。
敵の攻撃を受ける度に、刀は啼き、手は痺れ、火花が舞い散る。
正直、防ぐだけで手一杯だった。
酸素を求めた肺のために、息を吸い込む。
それと同時に、赤い亀裂が視界に入り込んだ。
殆ど無意識だった、刀を振るっていたのは。
赤い亀裂をなぞった刀は、鎧武者が持っていた大剣を弾き飛ばす。
鎧武者の視線が己の得物に向いた途端、俺はバックステップすると、バカ令嬢に指示を飛ばした。
「今だ!バカ令嬢!!」
「言われなくても用意してるっての!」
バカ令嬢の手から風の砲弾が放たれる。
砲弾は瞬く間に鎧武者の腹に衝突すると、奴の身体を壁の中に──煉瓦作りの家が広がる街の方に吹き飛ばした。
「よしっ!やった!!やっぱ、貴方凄いわ!!だって、アランドロン相手に圧倒してるんだもん!!あのフクロウの言う通り、貴方は最強……いや、無敵の剣士だわ!!」
「そ、……そうか?」
煉瓦造りの屋根の上に着地するこの国最強にして最高の騎士の姿を見届けた俺は、過剰に褒めるバカ令嬢の姿に戸惑ってしまう。
……最強だとか言う割には全然強くなかったような気がした。
俺が強過ぎただけなのか?
「さ、行くわよ!!正直、あの方法じゃ数十秒くらいしか稼げないと思うわ!」
「あ、……ああ!」
バカ令嬢は俺の手を握ると、俺を緑広がる地面──壁の外に連れ出そうとする。
「さあ!行くわよ!カミナガレ・コウ!!夢と希望に満ち満ちた自由で浪漫溢れる冒け──」
「させるか」
目を輝かせながら壁の上から飛び降りようとする彼女に火の玉が迫る。
俺は手に持っていた刀で火の玉を切ると、火の玉を放った張本人──王国最強にして最高の騎士を睨みつけた。
「やっぱ、あいつを倒さなきゃ進めないって事か……!」
宙に浮いた鎧武者は、剣で俺に敵わないと悟ったのか、距離を取ったまま、火の玉を延々と撃ち続ける。
俺はそれを刀で斬り落とした。
「いや、倒さなくても進めるわ!」
そう言って、彼女は右耳につけていたピアスを取ると、そのピアスを不思議な力で銃に変形させる。
「な、何だ、そ……」
「でりゃあああああ!!!!」
彼女は手に持った銃の引き金を引くと、膨大な光に包まれた巨大な弾を大空に向かって放つ。
花火のように打ち上げられたそれは、上空500メートル地点の所で爆ぜると、強烈な閃光と突風を巻き起こした。
爆風は街にある屋根の瓦や通行人だけでなく、宙に浮いていた騎士も壁の上に立っていた俺らの身体さえも吹き飛ばしてしまう。
「うおっ!?」
爆風に煽れて壁の外側に落ちた俺の身体に浮遊感みたいなものが襲い掛かった。
──落ちる。墜落死してしまう。
本能で自身の死を直感する。
が、窮地に陥った俺を救ったのは、俺を窮地に陥れた張本人──リリードリ・バランピーノだった。
彼女は遠足を前にした小学生みたいな無邪気な笑みを浮かべると、俺の身体に抱きつく。
墜落死への恐怖と彼女の柔らかい肢体を押し付けられた事により生じた煩悩が、俺の脳裏で暴れ狂った。
「な、何やって……!?」
恐怖と煩悩で頭の中がこんがらがる。
が、俺の胸中を察する事なく、バカ令嬢は言いたい事だけを俺に告げた。
「さあ、改めて……!行きましょう!カミナガレ・コウ!!夢と希望に満ち満ちた自由で浪漫溢れる冒険へ!!」
宝石のように煌めいた彼女の瞳を見て、俺は喪ってしまった子供心を思い出す。
子どもの頃、海の向こう側には、喋る木やお菓子の家、神話にしか出てこない不思議生き物や魔法使いが存在すると信じていた。
いつか大人になったら魔法の力が使えると本気で思っていた。
だが、歳を経るにつれ、現実を知り、空想は空想でしかない事を理解した俺は、いつしかメルヘンな世界を夢想しなくなった。
勉強と部活に明け暮れる日々を送る事で夢を見なくなった。
妄想の領域でしかなかったんだメルヘンな世界が、この壁の向こう側──木々を越えた先にあるかもしれない。
そう思った瞬間、俺はバカ令嬢の身体を思いっきり抱き締めてしまった。
この時、俺は現実──予備校の事とか模試の事とか煩わしい事──の事を忘れる事ができた。、
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次の更新は明日の13時頃を予定しております。