戯言と雑談と恋バナ
「冒険に飽きたわ」
「飽きるな」
見覚えのある未知のダンジョンを歩く事、十数分。
リリィ改めバカ令嬢は、いつもの如く、突拍子のない事を言い始めた。
「いや、だってさ、刺激的な事が起きるよりも歩く事多くない?流石に飽きるというか何というか。現地の人との交流とか、その土地の名産物食べるとか、街で起きた騒動を解決に導いたりとか、古の財宝を手に入れるために未知の洞窟に入るとか、そういう胸躍る系の冒険はない訳?」
「お前、この旅の目的を忘れているだろ」
「へ?私とコウの駆け落ちでしょ?」
「お前という指名手配犯を逃すためだ」
自分が指名手配犯になった事を忘れているバカに釘を刺す。
本当、俺もお前がさっき言っていたような冒険譚を期待してたんだけどな。
お前が無駄に追われる身だから、長く街に滞在できない&現地の人と交流できない&古の財宝を手に入れる寄り道できないんだよ。
そんな隙を見せたら、騎士団長に捕まっちまう。
「あー、そういや、私、指名手配犯だっけ。忘れていたわ」
「普通、忘れられねぇよ。どういう生き方をしていたら、そんな図太くなれるんだ」
「お昼前と夕食前に王子の尻を爆破すれば、私達みたいになれるわよ」
「だから、婚約破棄された上に指名手配犯になるんだよ」
あ、でも、指名手配犯になったのは王子の尻を爆破したんじゃなく、100数万発の花火を打ち上げたからだっけ?
「まあ、過ぎた事を振り返っても意味がないわ。大事なのは"今"よ」
「反省しなきゃ同じ間違いを際限なく繰り返す事になるぞ」
「ふっ、私の人生に間違いなんてないわ。だって、生きているんだもん」
「致命傷以外は擦り傷精神は止めろ。いつかガチで取り返しのつかない事になるぞ」
「大丈夫よ、その時はコウも道連れにするから」
「俺の知っている大丈夫じゃない」
通路の脇に生えていたキノコを食べようとするルル──腹ペコの首根っこを掴みながら、溜息を吐き出す。
ついでに自分の履いていた下着を俺の頭に着けようとしたレイ──変態の顔面にアイアンクローを決め込んだ。
「という訳で、私はこの現状に不満を抱いているのよ。もっと胸躍る冒険がしたいのよ」
「あ、私は美味しいものを食べたいです」
「だったら、私は娼館とか沢山ある所に行きたいっす!酒池肉林の限りを尽くしたいっす!」
「これが終わった後にやってください」
「という訳で恋バナしましょう、恋バナ」
「どこから恋バナ湧き出た」
「ねぇ、みんな、誰が好きなの?私?私はコウが好き」
さっきまでの冒険の話は飽きたのか、唐突に恋バナの話をし始めた。
本当、こいつ自由過ぎる。
「好きな相手なんかいねぇよ」
「私もいないです。一応、僧侶だったんで」
「私もいないっすね。あ、調教して貰いたいご主人だったら、ご主人一択なんすけど」
「無理すんな、純情乙女」
「よっしゃ、表に出ろっす!」
「その表に出るために、今、こうして歩いているだろうが」
今にも胸倉を掴みそうな勢いの変態の顔面に再度アイアンクローを決め込む。
アイアンクローを決められるのが快感なのか、変態の口から嬉しそうな声が漏れ出た。
……もう十二分に変態だよ、お前。
「え、ルルは聖職者だったから分かるけど、……コウもレイも好きな人いないの?流石に初恋の相手くらいはいるでしょ」
「いないっすね。私、つい先日まで箱入り娘だったんで」
「俺も初恋はまだだな」
一瞬、脳裏に亡くなった家族の姿が過ぎる。
彼等の顔──震災で亡くなった死骸の顔を思い出す度、"助けを求める彼等を助けなかった俺が、人並みに恋して良いのだろうか"と思ってしまう。
サバイバーズギルド──というものなのだろうか。
友達と恋の話をする度、いや、幸せを感じる度に俺は"自分なんかが幸せになっても良いのだろうか"という疑問を抱いてしまう。
多分、バカ令嬢──リリィの好意から逃げているのは──
「なに悩んでいるのよ」
リリィ──バカ令嬢から声を掛けられて、俺は考え事を止める。
「え、あ、ちょっと考え事を」
「考え事って何っすか、初恋の人っすか?」
「もしかして、初恋の人……いえ、彼女がいたパターンですか?」
食い気味に俺の初恋の人に反応する腹ペコと変態。
俺は動揺しつつも、彼女達が求めているものは何もないとキッパリ告げる。
「いや、いない。彼女いない歴イコール年齢だ」
「えー、本当っすか?その割には女子慣れしているように見えるっすけど。ほら、ご主人の歳くらいの男の子って、女の子と話す時、"あ、ひょ!デュフフ"みたいな反応するじゃないっすか」
「年頃の男の子に謝れ。歳頃の男の子はそんな不審者みたいな言動しないから」
「でも、女の子に触り慣れしているのは事実ですよね?ほら、私達の事を躊躇いもなく触っていますし。年頃の男の子じゃ女の子の柔肌に触れただけで射精ものですよ」
「お前らの中の年頃の男の子って、どんだけ初心なんだよ」
「じゃあ、何でコウさんは女の子慣れしているんですか?」
「別に慣れてはいないって」
「だったら、質問を変えるわ──コウ、貴方、仲の良い女の子、何人くらいいるの?」
今の今まで黙っていたバカ令嬢が口を開く。
「いや、数える程度にしかいないって」
彼女の質問に即答しようとする。
が、結構多かったため、即答する事はできなかった。
「え、えーと、……幼馴染と部活の先輩と中学の時に部活の後輩だった娘と風紀委員長と神社でバイトしている巫女さんトリオと義父が持っているアパートに住んでいる女子大生と社会人、暫く会っていないけど、親戚のお姉ちゃんと義理の従姉妹と……」
「もういいです。貴方が一般的な歳頃の男の子じゃない事は分かりましたから」
げんなりした様子で腹ペコは俺の言葉を途中で遮る。
「あー、これはかなりのフラグ作ってますね。お嬢、こいつヤベェっすよ。私の勘が当たっていたら、ご主人、かなりの女垂らしっす」
「いや、今挙げたのは女友達だから。お前らが考えているような事は一切ないから」
「甘いですね、コウさん。男女間の友情なんて成立しないんですよ。女の子の男友達ってのは簡単に言っちゃうと彼氏候補みたいなものですから。もしかしたらコウさんを落とすため、先ずは友人関係からスタートしているのかもしれません」
「腹ペコ、お前は俺の事を彼氏候補と思ってんのか?」
「彼氏候補というよりは将来的に寄生させて頂こうかと」
「やべえ、変な女に捕まってしまった」
「そうよ、コウ。所詮、人は獣。貴方が女友達と思っている人は、みんなコウの事を狙っている肉食獣と言っても過言ではないわ」
「過言だと思うぞ」
「ちなみに私はいつだってコウの肉棒を狙っているわ」
「野生に帰れ、獣」
「そうっすよ。油断は禁物っす。ご主人みたいに"自分エッチい事には興味ありませんよ"アピールしている人程、エッチな事にハマるのは世の常ですから。きっと女の子に童貞狩られたら、どんどんガードが緩くなって、最終的にはヤ○チ○になるのは火を見るよりも明らかっす」
「お前は俺を何だと思っているんだ」
「いずれ鬼畜系調教師になる者」
「お前の願望だろ、その将来像」
俺がモテている前提の下、話は明後日の方向に進んでいく。
正直、彼女達からモテ男扱いされるのは嬉しかった。
いや、俺も歳頃の男の子ですし。
モテ男扱いされたら嬉しくなるのは当たり前というか何というか。
照れ臭さよりも嬉しさの方が遥かに優っているというか。
このモテている前提で話が進んでいくのは正直快感というか。
だが、しかし、現実は甘くない。
女友達が多い=モテているという訳ではないのだ。
彼女達からラブレターどころか義理チョコさえも貰った事ないし。
恋愛漫画や恋愛ドラマみたいなリアクションを見せた事もないから、多分、彼女達は俺の事を異性として見ていないのだと思う。
いや、もしかしたら、友人関係と思っているのは俺だけで、彼女達は俺の事を知り合いとしか思っていないのかもしれない。
……そう考えると、今さっきまで感じていた高揚感というものはなくなっていた。
「……別にあいつらとは、そういう関係じゃないから。俺とお前らみたいな関係だから」
現実を再認識した俺はテンション下がり気味に彼女達の主張を否定する。
"モテていないから"という事実は口に出さなかった。
もしかしたら、ガチでモテているかもしれないので。
というより、俺のプライドが許さなかった。
「特に幼馴染や先輩、女子大生はお前ら同様手の掛かる奴らでな。幼馴染は朝弱いから毎朝起こしに行かないといけないわ、先輩は頭悪いから部活時間返上して勉強教えないといけないわ、女子大生は2週間も経たない内に汚部屋にするから掃除しに行かないといけないわで、お前らと別ベクトルで厄介なんだよ」
「何っすか?モテてる自慢っすか?」
「朝起こしに行くって事は女の子の部屋に上がり込んでいるんですか?掃除しに行くって女の子の部屋に上がり込んでいるんですか?」
「コウ、気をつけて。そいつら、私並みの変態よ。隙を見せたら、間違いなく狩られるわ」
「だから、そういう関係じゃないって。てか、バカ令嬢、変態っていう自覚あるなら自重しろや」
「そうしないと、好意伝えられないじゃない」
「好意伝える事と性欲ぶつける事は全然違うぞバカ」
そんなバカみたいな事を話しながら、俺達は出口目指して進み続ける。
……出口は未だに見えない。
ここまで読んでくれた方、いつも読んでくれている方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送って下さった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
申し訳ありません。今週の木・金曜日に投稿する予定だったお話を書き終わる事ができませんでした。
なので、次の更新は来週の水曜日に予定しております。
これからも完結目指して投稿し続けますので、お付き合いよろしくお願い致します。




