温泉と戦利品と開拓者
温泉に浸かりながら、昼間に遭った自称神様の事を思い出す。
「……一体、何だったんだろうな、あいつ」
水の都1番の温泉という風評は伊達じゃないらしく、多くの人が露天風呂に浸かっていた。
肩までお湯に浸かりながら、俺はいつもより近くにある月を仰ぐ。
月は下界にいた時と変わらない姿を俺に見せてくれた。
久し振りにお湯に浸かったような気がする。
この浮島に来てからお湯に浸かる機会なんてなかったので、ちょっと新鮮だ。
やっぱ、水浴びよりも、こうやって風呂に入る方が──
「お嬢!ルルちゃん!!見てください!私の華麗な飛び込みを!!」
「ちょ、レイさん!風呂場で走るのは危ないですよ!」
「そうよ、レイ。風呂場は走るものじゃないわ、滑るも──あいたっ!?」
「ちょ、大丈夫っすか、お嬢!?何か勢い良く転倒したますけど!?」
「調子乗って滑るからで……がぼぼぼぼぼ」
「ルルちゃん!?なに足を滑らせて温泉ダイブしちゃって……ぐはっ!」
……女湯の方からバカと腹ペコと変態の断末魔が聞こえて来る。
一体、女湯で何が起きているのだろう。
彼女達のアホな断末魔を聞いていると、胃がキリキリ痛み始めた。
……ああ、また他の人に迷惑をかけている。
折角の温泉くらい堪能させてくれよ。
ヤンチャなのが許されるのは小学生までだぞ。
心の中で愚痴りながら、俺は聞こえなかったフリをする。
女湯に突入する訳にもいかないので。
そっと女湯の方から離れながら、俺はあの自称神様が消えた後から今に至るまでの出来事を回想する。
自称神様が消えた後、俺達は普通にあの塔から脱出した。
手ぶらで帰るのもアレだったんで、神様が玉座の裏に隠していた大量のお酒を戦利品として頂いた。
で、そのお酒を水の都にある質屋に持って行ったら、何と高値で売れてしまった。
質屋の主人曰く、自称神様が持っていた酒の殆どは高級品だったらしい。
結果、俺達は小金持ちに。
戦利品の酒のお陰で、資金不足が解消された訳である。
その後、バカ令嬢達にお金を持たせておくのは危険だと判断した俺は、手に入れた資金を自分の手で管理しようと試みた。
……このお金をギャンブルで溶かされないように。
"いいわよ、この大金を持ち運べるのなら"
バカ令嬢が手渡した全財産──金貨数百枚を見て、俺は金の管理を断念する。
とてもじゃないが、収納魔術とかいうクソ便利な力を使えない俺では、金貨数百枚を持ち運ぶ事はできそうになかった。
ていうか、この浮島、ハイパーインフレ起きているだろ。
金貨5キロ相当で大体2日分の食糧って舐めてんのか。
キャッシュレスにしろとは言わんが、せめて紙幣を発行してくれ。
……話が脱線してしまったが、そういう訳で、俺はバカ令嬢にお金を預けている。
ああ、またギャンブルとかで溶かしそう。
これから待ち受ける最悪な可能性を予期しながら溜息を吐く。
本当、お家帰りたい。
そんな事を考えていると、女湯の方からこんな声が聞こえてきた。
「うわあああああ!!!!あの人、そっくりな美女発見!!!!」
「んなあああ!!!あ、あんた、どこに顔埋めているの!?」
「──っ!?気をつけてください、リリィさん!その人、シスター長並みの変態です!!」
「シスター長って誰!?」
「ちょいちょい!ウチのお嬢に何してくれてんですか、この変態!同じ変態として見過ごす訳にはいかないっす!人に迷惑をかける系の変態はただの犯罪者っす!」
「ん?私、変態じゃないよ。好きな人に似ている人の胎内に回帰しようとしてるだけの常識人よ」
「この人、変態通り越して狂人っす──!!」
「コオオオオオオオオオオオウウウウウウウウウ!!!!!!助けてええええええ!!!!」
「ちょ!本当、いい加減にしてくださ……くぎゅう……」
「ルルちゃんが瞬殺されたあああああ!!!」
「ちょ、そこ入らないから!!入らないからああああああ!!!!」
パーティメンバーのガチ目の悲鳴が聞こえてくる。
すぐさま助けに行こうと思ったが、女湯に入る度胸が俺にはなかった。
どうやって彼女達を助けようか悩んでいると、指の鳴る音が辺り一面に鳴り響いた。
──その瞬間、男湯にいた人も男湯と女湯の間にあった仕切り壁も跡形もなく消えてしまった。
残ったのは俺とタオルを身体に巻いたバカと腹ペコと変態だけ。
何が起きたのか把握するよりも先に聞き覚えのある声が俺達の注意を引いた。
「こっちよ」
男湯だった露天風呂には見覚えのある顔──先程俺達を追い詰めた自称神様が浸かっていた。
「な、何でお前が──!?」
タオルで大事な所を隠しながら、俺は何が起きてもいいように身構える。
「身構えなくてもいいわよ、もう襲わないから」
少女の形をした"それ"は、露天風呂に酒が乗った器を浮かべながら、日本酒みたいな飲み物を嗜む。
本当に何もするつもりがないのか、自称神様は敵意も殺意も放っていなかった。
「また現れたっすね!?今度は容赦しないっすよ!」
変態は怒り狂いながら、自称神様に罵声を浴びせる。
「待って、レイ。彼女の話を聞きましょう」
そんな冷静さを失った変態をバカ令嬢──リリィは静止させる。
腹ペコはというと、自称神様に怯えているのか、露天風呂の隅っこに移動していた。
「話を聞くって、こんな女に聞く事なんて何もないっす!お嬢、さっさとこいつを瞬殺してやりましょう!今度はちゃんと仕留めますから!!」
まだ鏡にファッション変態と言われた事を根に持っているらしく、変態はほぼ半裸の状態でプンスカ怒っていた。
…………あまり心臓によろしくないので、ほぼ半裸の彼女達から目を背ける。
…………結構胸あるのな、あいつら。
「無理よ」
「あ゛あ゛ん゛!?」
少し間の抜けたドスの利いた声で変態は温泉に浸かりながら酒を飲む自称神様を睨みつける。
「あんたの攻撃を防ぐだけで、私はこの世界から追放される状態に陥ってんの。だから、これ以上あんたらと闘うのは無理な訳」
自称神様の口から出た言葉は俺達の理解を超えたものだった。
「それって、どういう意味だ?何で俺達と闘うだけで、お前はこの世界から追放されるんだ?」
「私は他の世界の神域到達者──現代風に言うと"開拓者なの。だから、この世界の人に必要以上に干渉したら、この世界から追い出されるって訳」
「……追い出されるって誰から?」
「世界からよ」
何だか曖昧かつスケールの大きい話だった。
「正しく言えば、世界というより集合無意識体なんだけど。あ、ティアナって言うのはね、この世界の人類の無意識の集合体の事よ。この世界の人達の"生きたい"という願いを叶えるために存在し続けている"この世界の人類の安寧を守る防衛機能"……って言ったらピンと来るかしら?私はその防衛装置に有害認定されたから、さっき、この世界から追い出されたって訳」
「だったら、とっとと出て行けっすよ!オラ!」
変態は落ちていた石鹸を全力で投げつける。
自称神様は飛んできた石鹸を首を動かすだけで躱すと、淡々と自分の話したい事だけを話し続ける。
「出て行っても良いわよ、この世界が滅んでも良いならね」
「「「「は?」」」」
俺達の声がほぼ同時のタイミングで重なった。
いつも読んでくれている方、ここまで読んだ方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いてくださった方、レビューを書いてくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
そして、この場を借りて謝罪の言葉を言わせてください。
申し訳ありません。
本日でStage4完結すると告知しましたが、1話の文量が5000字超えたので、分割させて貰います。
これの続きは明日の12時頃に更新するので、明日もお付き合いしてくれると嬉しいです。
これからもお付き合いよろしくお願い致します。




