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自称と一般性癖と旧姓


「お前が……この塔の、主……なのか?」


 額から血を垂れ流す腹ペコ僧侶──ルルを抱き抱える変態改めレイ、目の前の存在に気圧される俺、そして、いつにも増してシリアスな雰囲気を見に纏うバカ令嬢──リリィは目の前にいる塔の主らしき少女を睨みつける。

 少女は酒瓶を手で弄びながら、余裕たっぷりな表情で俺達に自己紹介をした。


「あ、うん、そうよ。私がこの塔の主よ。名前はカナリア。ティトマト神話の最高神の娘……って言っても分からないか。平行(ちがう)世界の神様って言ったら分かるかしら?」


「か、神様っ!?」


 気絶していた腹ペコは反射的に飛び上がる。

 どうやら聖職者として神について何か思う所があるらしい。


「それよりも平行(ちがう)世界って何よ。もしかして、この世界以外にも別の世界があると言う訳?」


「ええ、あるわよ。数えるのがアホらしくなるくらいにね」


 間髪入れる事なく、少女はリリィの質問に応えると、再び酒を浴びるように飲み始める。


「……で、違う世界の神様が私達の世界に何の用かしら?観光?それともビジネス?」


「想像に任せるわ。説明すると、めちゃくちゃ長くなりそうだから」


 余裕を含んだ笑みを浮かべながら、自称神様である少女は俺達──いや、俺と腹ペコを観察し始める。

 爬虫類を想起させる彼女の瞳に映った瞬間、俺の身体は喩えようのない不安に駆られてしまっ──


「あ、分かったっす。エロ本探しに来たんですね。分かります、私もエロ本探している最中に知り合いと出会ったら、想像に任せる云々言っているんで」


「違うから!エロ本探しにこの世界に来てないから!!」


「なるほど。──大人の玩具を買いに来たのね」


「そこ、乗っかるな!」


「神様にも性欲ってあるんですね。このドスケベ(しん)が」


「風評被害!」


 変態の頓珍漢な推測とバカ令嬢と腹ペコの悪ノリにより、声を荒上げる平行(ちがう)世界の神様。

 ……先程の緊張感はどこにいったのか、一瞬でいつものアホみたいな雰囲気になってしまった。

 

「ほら、何を司っている神なのか言ってみるっす。どうせ性愛とか男根とか司っているっしょ」


「いや、そんなの司ってないし!普通に時空を司る神だし!!」


「時空を司る神……という事は時止めプレイやり放題って訳ね」


「だから、風評被害だって!私、神様だけど、時止める事はできないし!」


「なるほど。時間を巻き戻して、気に入った子どもの童貞や処女を何度も奪うんですね。このハレンチ(しん)が」


「いや、時を戻す事もできない……というより、時戻せたとしても、そんな事しないから!ショタコンでもロリコンでもないから、私!」


「分かったっす!貴女、ふた○りっすね!!」


「どこから湧き出た!?その特殊性癖!?」


 え、ふ○なりって特殊性癖なの?

 つい反射的に聞きそうになる。

 が、俺まで脱線したら取り返しのつかない事態になりそうなので、聞きたい気持ちをグッと堪え、シリアスな表情を維持した。

 

「ふたな○如きで特殊性癖って笑わせる。本当の特殊性癖ってのはね、搾乳、セル○フ○ラ、異物挿入、薬物、鼻フック、妊婦、寝取られ、尿○責め、髪○キ、よだれ、未亡人の事を指すのよ」


「「「え」」」


 バカ令嬢の主張を聞いた俺と腹ペコと変態は、つい驚きの声を発する。

 いや、セル○フ○ラ、異物挿入、薬物、尿○責めはそうだけど、搾乳とか妊婦とか未亡人とか髪コ○とか寝取られとかも特殊性癖に分類されんの?


「──リリィさん。搾乳、セル○フ○ラ、異物挿入、寝取られ、尿○責めは一般性癖です」


 不満そうに反論する腹ペコ。

 いや、常識人面するな。

 お前の主張の中にも異常性癖混じっているぞ。


「お嬢。特殊性癖ってのは、百合とかロリ巨乳とか性転換とか状態変化とか臍コ○とかセル○フ○ラとかっす。それ以外は一般性癖っす」


 いや、百合とか性転換とかロリ巨乳とかは一般性癖だと思う。

 俺も俺の友達も百合ものとか性転換ものとかロリ巨乳とか好きだし。


「え、セイ、……テンカン?じょーたいへんか?何それ?」


「あー、それはっすね……」


 変態がバカにそれらの概念を教えようとした瞬間、俺と腹ペコは何かに引き寄せられるかのように神を名乗る少女と目を合わせる。

 赤子でも見るかのように俺とルルを見る少女の態度に俺達は寒気を覚えた。

 ──こいつはヤバイ。

 デスイーターとか騎士団長とか比べ物にならないくらいにヤバイ。

 人の領域を優に超えている。

 根拠はない。

 確証もない。

 けど、身体が叫んでいる。

 天地がひっくり返ったとしても、あいつにだけは喧嘩を売るなと──!


「……コウ、何か額から冷や汗滲み出ているけど、……あれ、そんなにヤバイの?」


 変態の説明を聞き流しながら、バカ令嬢──リリィは塔の主と思われる少女に聞こえない声量で疑問の言葉を口にする。

 俺はそれを首を縦に振る事で肯定した。


「なるほど。コウとルルには分かっているのね、あいつのヤバさが」


「……お前には分からないのか?」


「この状況がヤバイって事は何となく理解できるわ。けど、あの娘がヤバいかどうかは分からない。……ヤバイっていう実感が湧かない事にヤバさを感じているって言ったら分かるかしら?」


 緊張感に満ちた表情でリリィは少女を観察し続ける。

 その姿にいつもの余裕は感じられなかった。

 少女の力量を把握し、真っ先に自死を選んだルル。

 少女の力量を把握できず、焦っているリリィ。

 彼女達の様子から否応なしに理解させられる。

 俺の勘は正しいものである事を。

 あいつにだけは歯向かったらいけな──


「おらぁっす!!」


「「何してんの!?」」


 力量を把握できていないのか、それとも空気を読めていないのか、それとも両方なのか分からないが、変態は少女に殴りかかる。

 少女は軽やかなステップで回避すると、変態から大きく距離を取った。


「バカか!?お前もバカなのか!?」


「お嬢程、バカじゃないっす!」


「ちょ、私がバカ前提で話進めないでくれる!?」


 俺達の声が聞こえていないくらいに激怒しているのか、変態は憎悪に満ちた目付きで少女を睨む。

 まるで親の仇でも見るかのような目で。

 その姿に俺は少しだけ違和感を抱いた。


(……もしかして、こいつ、あの少女と何かしらの因縁があるのか……?)


 そう考えると、この態度にも納得がいく。

 きっとあの少女には並々ならぬ因縁があるから、変態は躊躇いもなく殴りかかったんだろう。

 そうじゃないと、この愚行に説明がつかない。

 一体、彼女と少女に何の因縁があるんだろう……


「お前っすね……!あの趣味の悪い鏡を設置したのは!?」


「まだ引き摺っているのかよ」


 めちゃくちゃ浅い因縁だった。

 そんな理由でお前は浅はかな愚行をやっているのかよ。

 

「あの鏡の所為で、私は、……私は、……!!」


「そろそろ切り替えろよ。俺とバカ令嬢は自分の醜態を速攻で忘れたぞ」


「私はご主人やお嬢と違って、恥知らずじゃないんです!!」


「お前よりも恥じらい持っているわ」


「ちょ!私は恥知らずじゃないんですけど!?」


 リリィ──恥知らずのバカ令嬢が何か言っているが、脱線してしまいそうなので、敢えて無視する。


「ご主人やお嬢と違って、私はいつまでも引っ張るっすよ!末代まで恨むタイプの人間っす!!」


「そうか。お前、かなり根に持つタイプなんだな」


 こいつの恨みだけは買わないようにしようと思った。

 いつも通りの変態に呆れると同時に俺の身体に強烈としか言いようのない敵意が降り注ぐ。

 その敵意を受けた瞬間、俺の身体は強張ってしまった。


「私の敵意に反応したのは、僧侶っぽい子と"カミデラコウ"、か。……うーん、カミデラコウはそうだと思っていたけど、まさかこの娘まで神域に至ろうとしているとは」


 自称神様の口から出た自身の名前──いや、自分の旧姓に驚いてしまう。

 今、俺の旧姓を知っているのは俺と義父母だけの筈。


「何でお前が俺の名前を──いや、旧姓を知っているんだ……?」


 動揺した俺は咄嗟の判断で、鞘に収められていた刀を引き抜く。

 戦闘態勢を取った俺を見た瞬間、神を名乗る少女はニヤリと笑った。


「さて、何ででしょう?私に勝てたら、教えてやっても良いわよ」


 彼女の身体から放たれる敵意と殺意が最高潮に達する。

 それを感じた瞬間、彼女との闘いが避けられないものである事を確信した。


「お前ら! 今すぐ離れ──」


 一か八か、全身全霊の風斬(ふうぎり)で彼女を斬り伏せようと試みる。

 が、玉座に座っていた彼女は、瞬きしている内に煙のように消えてしまった。


「こっちよ」


 背後から声が聞こえる。

 振り返ろうとした瞬間、俺の顔面に鋭い蹴りが叩き込まれた。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いてくださった方、レビューしてくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方、本当にありがとうございます。

 先月は更新ペースが遅くなって、申し訳ありません。

 今月は更新ペースを少しだけ上げていくつもりです。

 具体的には今週にStage4:水の都編完結、今月中にStage5:砂の遺跡編を完結させる予定です。

 砂の遺跡編では、この浮島の成り立ちや真王軍の掘り下げをする予定なので、楽しみにお待ち下さい。

 そして、来月にはStage6:雪山編、Stage7:西の果て編、Stage8:???編をやって、本編を完結させる予定です。

 もしかしたら文量が膨れて、来月には終わらないかもしれないのですが、一応完結な目処が立ったので、この場を借りて、ご報告させて貰います。 

 完結後もブクマ100件記念短編をやる予定なので、もしかしたら今年一杯まで連載するかもしれませんが、最後までお付き合いしてくれると嬉しいです。

 これからもお付き合いよろしくお願い致します。

 次の更新は明日の12時頃に予定しております。

 まだ金曜日分のお話が書き終わっていませんが、明日には完成報告ができるように今から頑張ります。

 まだ暑い日やコロナ禍が続きますが、体調を崩さないように気をつけてお過ごし下さい。

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