刀と赤い亀裂と鎧武者
[前回までのあらすじ]
・刀が落ちてきた。
空から降ってきた日本刀を手に取った俺は、何かに導かれるように鞘から刀身を引き抜く。
鞘から解き放たれた刀身は、陽の光を浴びた途端、鈍く光り始めた。
銀色に輝く刀身を見るや否や、隣にいたバカ令嬢はアホみたいな声を上げる。
「な、……何その変わった剣!?見た事も聞いた事もないんですけど!!」
どうやらここには日本刀という武器はないらしい。
未知の武器を目にした男達──王子の護衛達はバカ令嬢と同じように驚きの声を上げると、俺の出方を伺い始めた。
手に持った刀を構えようとする。
が。
(刀、重っ……!!)
刀は俺の想定しているよりも重かった。
鉄アレイよりも重い鉄塊が俺の両腕に負荷を強いる。
情けない話、これを持って戦うのは今の俺にはできそうになかった。
……というより、今までの人生で喧嘩をした事も刀を使って闘った事さえもない。
中学の時の体育の授業で剣道があったから、ギリギリ竹刀の構え方と竹刀の握り方を知っているくらいだ。
今の俺は素人であると言っても過言ではない。
「何をしている!さっさとリリィを捕まえろ!!」
王子の怒声が表通りに響き渡る。
王子に雇われているであろう護衛達は、警戒しながらも、腰に携帯していた剣を鞘から引き抜き、俺に斬りかかろうとした。
「ええい、一か八かだ!」
俺では扱う事ができそうにない刀を迫り来る男達に向かって振り抜こうとする。
男達を斬る気はない。
ただ牽制のために剣撃を行おうとする。
──その時だった。
俺の視界に幾千もの赤黒い線みたいなものが飛び込んできたのは。
「──っ!?」
空間に亀裂のように走る赤黒い線。
それを見た瞬間、俺の身体は綿のように軽くなった。
腕にのしかかっていた刀の重さが消失してしまう。
俺の身体は殆ど無意識のうちに動いた。
刀の鋒は空間に走る亀裂──1番色の濃ゆい亀裂をなぞるように駆け抜ける。
赤黒い亀裂をなぞった刀は、迫り来る男達の西洋風の剣を難なく破壊してしまった。
そのまま、何かに導かれるように空間に走った色の濃ゆい亀裂を刀でなぞる。
俺が亀裂を刀でなぞる度、男達の武器や防具は豆腐のように砕け散ってしまった。
羽根のように軽い刀を振るう度、男達の瞳から戦意というものが喪失してしまう。
それくらい今の俺は──刀を握った俺は圧倒的だった。
刀固有の力なのか、それとも俺がここに呼び出された際に付与されたチート能力なのか、──それとも、俺が先天的に持っていた才能なのかは、よく分からない。
が、少なくとも、今の俺には男数十人を圧倒するだけの力がある事だけは確かだ。
「な、何してやがる!?たかが1人にやられて恥ずかしくねぇのか、てめえら!!」
数分も経たない内に無力化された男達に怒声を浴びせる王子。
武器も防具も失った護衛達は刀を持った俺を怯えたような目で見ると、その場から動く事なく固まってしまった。
逃げるなら今がチャンスだ。
俺は背後にいたバカ令嬢の下に駆け寄ると、そのまま彼女にこの場から逃げよう指示を飛ばす。
「逃げるぞ、バカ令嬢!」
「え、……あ、うん!」
俺の実力に驚いているのか、どこか心非ずと言った感じで彼女は俺の言葉に応えるが、動こうとしなかった。
辛抱できなくなった俺は、彼女の手を引くと、この場から撤退しようとする。
再び路地裏に入った俺とバカ令嬢は、王子達が追っていないにも関わらず、全速力で駆け抜けた。
──そして、俺達はようやく騒ぎとは反対方向の壁に到達する。
「よし!着いたわ!!じゃあ、飛ぶわよ!!」
「ああ、頼むっ!」
刀を鞘に収めた瞬間、俺とバカ令嬢の身体は不思議な力によって浮き始めた。
「うおっ!?」
色のついた緑色の風は俺達の身体を空に向かって放り投げる。
足場のないエレベーター、と言ったら伝わるだろうか。
突然、浮上したため、俺の股はヒュンってなった。
「よし!やっと、ここまで辿り着いたわ!」
あっという間に、俺達の身体は高さ30メートルある壁の上に辿り着いてしまった。
壁の上に着地した俺は壁の外を目の当たりにする。
壁の外は緑に囲まれていた。
緑以外の部分を探すため、壁の外を一望する。
が、どこを見渡しても森しか見えなかった。
「この森を越えた先に町があるわ!先ずはそこまで行きましょう!!」
「町ってどこにあるんだよ!?地平線の彼方まで緑に染まってるぞ!!」
「こっから100キロ離れた所にあるのよ、1番近い町は!!」
両掌から色のついた風を発生させる事で、壁から降りようとするバカ令嬢。
「ひゃ、100キロ!?下手したら日が出ている間に辿り着かない可能性があ……」
──風を切る音が俺の鼓膜を揺さぶる。
音源の方に身体の正面を傾ける。
俺の視界に映し出されるは、物凄い速さで宙を駆け抜ける鎧武者。
全身を鎧に包んだ何者かは、宙を疾走しながらも、背中に着けていた大剣を引き抜こうとした。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
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