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賭けとお金と豪運

前回までのあらすじ。

 ただでさえ少なかった全財産を失った。

 それどころか、バカ令嬢達は服も失った。


「なっ……!?10回連続ロイヤルストレートフラッシュ!?そんなのあり得るんですか!?」


「イカサマやっているように見えないし……え、ガチで運だけで勝ってんの?どんだけ運が良いのよ」


「ドン引きする程にご主人、豪運っすね!」


 今日の宿代、飯代、そして、バカ令嬢達の衣服を取り戻すため、俺はギャンブル場でポーカーをやっていた。

 結果は連戦連勝。

 必要最低限の金を稼いだので、俺は彼女達を連れて、ギャンブル場から出ようとする。

 が、欲に溺れた彼女達──全員、ボロ布1枚しか着用していない──は俺の撤退を許してくれなかった。


「いやいやいや、路銀稼ぐだけで満足しちゃダメでしょ。ここは行ける所まで行かないと」


 バカ令嬢は強引に俺を座らせる。


「そうっすよ、小さな勝利ではなく、男ならドカンと大きな勝利を狙わないと!」


 変態奴隷は俺の肩をバシバシ叩く。


「勝って勝って勝ちまくりましょう!そして、手に入れるのです!莫大な富を!!」


 腹ペコ僧侶は俺の事を金のなる木にしか見ていなかった。


「もういいだろ。お前らの服買う金だけじゃなくて、今日の宿代と飯代も稼げたし。……これ以上、やったらガチでイカサマを疑われる」


 チラリとディーラーの方を見る。

 彼は純粋に運だけで勝ち続ける俺が信じられないのか、目を大きく見開いた。

 恐らく疑惑を口に出さないのは、俺が小銭稼ぎに徹しているからだろう。

 もしこれでバカ令嬢達が求めているように大金狙いに行ってしまったら、ガチでディーラー達に潰される。 

 そしたら、運だけで勝てなくなるだろう。

 

「んじゃあ、俺にジャンケンで勝てたら、お前らの要求を呑んでやるよ」


 金に目が眩んだ彼女達は怪しく目を輝かせた。

 ほぼ同時に拳を握ると、ほぼ同時に。


「「「さいしょは、ぐー!!!!」」」


「ちょ、3人同時は反則だろ!?」


 それぞれグーチョキパー出しちゃえば、俺にジャンケンに勝つ事ができる。

 運関係なしに。

 流石にこういう運が絡むゲームで不敗を貫く俺でも、そのイカサマには対応できない───


「「「じゃんけん、ぽおおおおおおんんんんん!!!!」」」

 

 バカと腹ペコと変態はグーを出した。

 パーを出した俺の勝利である。


「バカなのか、お前ら」




 ひん剥かれた彼女達の衣服を取り戻した俺は、まだ負けを認めぬ彼女達を引き連れて、街の中を練り歩く。

 目指す場所はこの街のギルド。

 さっさとお金を稼がなければ、"西の果て"に辿り着く前に行き倒れてしま──


「ねえねえ、コウ。私、服買いたいかも」


「そんなお金、ウチにはありません!!」


 服屋を指差しながら、俺の裾を引くバカ令嬢に現実を突きつける。


「またまた〜、そんな事言っちゃって。私、知っているっすからね。ご主人が最高級の宿泊3泊分くらいのお金持っている事くらい」


 俺が背負っている布袋いっぱいに詰め込まれた金貨──米袋よりも少し重い──を指差しながら、変態はお金を催促する。


「持ってても1日で消えるんだよ!!こいつの食費でな!!」

 

 1回の食事で10人前をペロッと食べる腹ペコを指差しながら、俺は変態の言葉を否定する。

 腹ペコは"えっへん"と言わんばかりに胸を張っていた。

 いや、褒めてねぇから。


「というか、こいつの食欲がヤバいってのもあるけど、それ以上にこの浮島の物価が高過ぎる」


 1番安い食べ物でさえカップラーメン10個分くらいの値段するし。


「え?下界って、そんなに物価安いの?」


「ここと比べたら、だ。1時間店に立っとくだけで安い飯1日分くらいのお金を稼げるし」


 本当、自給自足するか冒険者なんていうハイリスクハイリターンな職に就かないと、その日の飯さえ儘ならない。

 どうなってんだ、この浮島の経済状況。


「でも、今のうちに服とか必要なものを買っておいた方が良いと思うわよ。ここから先、冒険者ギルドはあってもお店はないと思うし」


「は?」


「あり?言ってなかったっけ?ここから先は砂漠と雪山くらいしかないって」


 初耳だった。

 え?もしかして、ここが最後の街なの?


「こっから先は魔王軍でさて足を踏み入れない辺境の地っすからね。ここで装備を整えないと、ガチで詰むっすよ」


「で、でも、装備を整える余裕はあるんでしょうか?ほら、こないだみたいに騎士団が登場するかもしれませんし」


「多分、ここにも少なからずいると思うわ。しらみ潰しに探すでしょうから、何日も滞在はできないと思うわよ」


 チラッと俺の方を見る彼女達。

 彼女達の目には大金が映し出されていた。

 ……装備を整える必要性、長く滞在できない理由はよく理解できた。

 恐らくギャンブルで稼ぐのが1番手っ取り早いやり方なんだろう。

 ………まあ、デスイーター討伐とか勇者からカツアゲとかやるよりかは健全なような気がする。

 ………………けど、なあ、ギャンブルで稼ぐのもなぁ。

 なんかダメ人間に1歩近づいているというか。

 彼女達に楽をして稼ぐやり方を教えるのは良くないというか。

 俺がギャンブルで勝てば勝つ程、彼女達がダメ人間という底なし沼に沈んでいきそうと言うか何というか。

 幾ら考えても、彼女達の教育に良くないような気がする。


「ねえ、コウ。楽かつ安全にお金を稼ぐやり方があ──」


「冒険者ギルドに行くぞ」


 少しでも彼女達を真人間に近づけるため、俺は堅実に稼ぐ方法を選択した。

 うん、幾らお金と時間がないからと言って、ギャンブルに手を染めるのは良くないと思う。


「ご主人ってギャンブル否定派っすか?」


「別にギャンブル否定派という訳じゃない。ギャンブルは娯楽であって、金を稼ぐ手段じゃないって事を言いたいだけで」


「コウってさ、真面目過ぎて、時々つまらない事を言うよね」


「うぐっ!?」


 バカ令嬢の何気なく呟いた一言は、俺の胸に深く突き刺さった。


「コウさん。そんな堅実な人生では何も為す事ができませんよ。お金は天国に持っていく事はできません。だから、貯めるだけ貯めても無駄なのです。生きている間に使わないと、ご臨終の際、"特に盛り上がりのない人生だなー"って思いながら死んじゃいますよ」


「うぐっ!うぐっ!」


「ご主人、冒険あるのみっす!ここで冒険しないと、真面目な所しか取り柄のないクソつまらない人間になるっすよ!!」


「うぐっ!うぐっ!うぐっ!」


 "真面目過ぎる"・"つまらない"というワードが俺の胸に突き刺さる。

 そんな俺を見て、好奇と思ったのか、彼女達は叩き込むように俺を煽ってきた。


「まあ、コウが"真面目過ぎてつまらない"人間であっても、私はコウの事を愛し続けるけど」


「別に"真面目過ぎてつまらない"のは悪い事ではありません。まあ、欲がない人間なんて死んでいるのと同じだと思いますが」


「ご主人って、"真面目過ぎてつまらない"大人になりそうっすね。派手な遊びができるのは子どもの内っすよ?」


 "真面目過ぎてつまらない"というワードを浴びせまくる。

 落ち着け、これは彼女達の挑発だ。

 俺にギャンブルをやらせるための安い挑発だ。

 こんな安い挑発、俺が乗る訳──


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!もうやめてくれえええええええ!!!!」


 や っ て し ま っ た。


 子どもみたいに号泣するディーラーとギャンブル場の支配人を見て、俺はようやく冷静さを取り戻す。

 結局、俺はバカ令嬢達の挑発に乗って、ギャンブルに手を出してしまった。

 挙げ句の果てには、純粋な運だけで勝ち続けてしまった。

 当然、俺の予想通り、ディーラーとか支配人とか、なんかギャンブルのプロっぽい人達が勝ち続ける俺を潰そうとした。

 けど、数多のトラブルがプロっぽい人達を襲った所為で、結果的に俺は運だけで彼等に勝ってしまった。

 勝ち取った金額を見る。

 天文学的な数字が目に入った。

 億や兆といった慣れ親しんだ桁じゃない。

 京や垓を余裕で超えている。

 もしかしたら、那由多や不可思議の位まで行っているかもしれない。

 何でこんな金額になったんだろう。

 支配人やディーラー、あと、ギャンブルのプロっぽい人達が負けを取り返そうと、バカみたいな金額を次々に賭けまくった結果、こんな状況に陥った事をぼんやり思い出す。

 うん、そりゃあ、バカみたいな金額賭けまくって、全勝したらこうなるわ。

 当然、そんな化物級の金額を払える人がいる筈もなく。

 ディーラーと支配人は、人としての尊厳をかなぐり捨てた土下座を披露すると、恥も外聞もなく、勝者である俺に頼み込んだ。

 "この勝負をなかった事にしてくれ"と。

 バカ令嬢達を見る。

 彼女達は化け物でも見るような目でギャンブル無敗の俺を見ていた。

 

「……いいか?ギャンブルってのは勝ち続けたとしても、今回みたいにお金が貰えない事もあるんだ。だから、ギャンブルは程々にしよう。お金を稼ぐ事を目的にしたギャンブル程、虚しいものはないんだ、うん」


 彼女達にギャンブルの虚しさを説く。

 だが。


「それ、コウだけだから」


「普通、運だけじゃここまで勝てませんよ」


「なんか、そんな大勝ちを見せられるとギャンブルするのがアホらしくなるっすね」


 彼女達の心に何も響かなかった。

 俺の周囲にいたギャラリーも青褪めた顔をしており、"あ、こんな奴相手にギャンブルしてもカモになるだけだわ"みたいな目をしていた。

 みんな、心が折れていた。

 絶望感に浸るギャラリーから目を逸らす。

 すると、絶賛ドン引き中のバカ令嬢と目が合った。


「ひっ!私をカモらないで!!」


「化け物を見るような目で俺を見るな」


 バカ令嬢達にトラウマを植えつける事に成功した。

 …………もう2度とギャンブルをやらないと固く誓った。

 

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を送ってくださった方、レビューを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。


 勇人さん、またまた感想を書いてくださって、本当にありがとうございます。

 この場を借りて、厚く厚くお礼を申し上げます。


 コウがバカ令嬢──リリィにお金を渡していたのは、競馬でデスイーター討伐報酬と勇者達から奪い取った大金を失うまでは特に問題視してなかったからです。

「浮島の常識を知らない自分よりも"常識"を知っているリリィに渡しておいた方が良いだろう」的な考えでバカ令嬢に全財産を預けていました。初期はバカ令嬢に対する好感度とか信頼感は高かったのです。

 競馬で大金を失った事が発覚した後は「今度、大金が入ったら俺が管理しよう」的な考えを抱いていましたが、コウはバカ令嬢達が"競馬で全財産を失った"と勘違いしていたため、それ以上のアクションをしませんでした。

第44話「救出と脱出と大魔王の出現」を読み返したら分かるんですが、バカ令嬢は大金を失ったとしか言っていません。一応、少量ながらギャンブルができるくらいのお金を持っていました。

 結果、前回、残ったお金&自分達の衣服を賭けてギャンブルに挑みますが、全敗。あのような結果になったという訳です。


 以上がコウがバカ令嬢にお金を渡していた理由です。

 恐らく本編でも上述した内容を描写すると思いますが、あまり重要な設定でもないので、開示させて頂きます。

 

 この場を借りて、もう一度、勇人さんにお礼の言葉を申し上げます。

 勇人さん、感想を贈って下さって、本当にありがとうございます。

 

 次の更新は8月6日金曜日に更新を予定しております。

 次の次の回から冒険が始まるので、お付き合いよろしくお願い致します。


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