相談とガチヤバ系の変態さんとボロ布
バカ令嬢──リリィは本気で俺の事が好きみたいだ。
今までの人生で異性に好意を向けられた経験が殆どないので、どうしたら良いのか分からない。
なので、俺は隣にいる別嬪さんに知恵を借りる事にした。
「ふむふむ、最近パーティメンバーの女の子に告白されちゃって、その返事に困っていると」
水の都『アルカンティカ』の広場にあるベンチに腰掛けながら、俺は見知らぬ別嬪さんと語り合う。
ちなみにパーティメンバー達とは街に入った瞬間、逸れてしまった。
今はどこにいるのかさえも分からない。
「好きなのか嫌いなのかさえも分からないんですよ」
「彼女の事はどう思っているの?」
「……正直、手のかかるペットくらいにしか思ってないです」
「そっかー、人間として見ていないのかー」
「バカ犬を連れ歩いているような感覚です……まあ、躾がなっていないのは彼女だけじゃないんですが」
リードを食い千切る程に元気なバカ、待てもできない腹ペコ、そして、年中発情期の変態。
……とてもじゃないが、女の子として見る事はできそうになかった。
「それもあって、客観的に自分の気持ちを見る事ができないというか何というか……まあ、迷走しています」
遠くから人々の絶叫とバカ令嬢の高笑い声が聞こえてくる。
全力で聞こえない振りをした。
「そっかー、君も大変なんだね。そういう私も大変でさ」
別嬪さんは何度も頷きながら、俺の肩に触れる。
「ああ、貴女もパーティメンバーに振り回され……」
「私も行方不明になった想い人を探して、今、旅をしているのよ。幾らあの人の残り香を追っても、中々出会えなくて」
想い人の下着──可愛らしい女性もの──らしきものを鼻に当てながら、別嬪さんは溜息を吐き出す。
「本当、そろそろあの人の匂いを嗅いでユートピアしないと、気が狂っちゃいそうなの」
「相談相手がまさかの変態だった」
「あ、私とあの人の馴れ初め聞きたい!?」
「いや、聞きたくないんです」
別嬪さん──いや、匂いフェチの変態さんは聞いてもいないのに、あの人との馴れ初めを語り始める。
「あの人とはね、王国にある魔導学園で知り合ったの!私はなんか何ちゃらとかいう魔法が使えるとかいう理由で、貴族だらけの学校に入らなくちゃいけない状況に陥ってね!そこで私はあの人との運命の出会いを果たしたの!」
広場で野良猫と餌の取り合いをする腹ペコを見ない振りをしながら、俺はベンチから立ち上がろうとする。
立ち上がった俺を変態さんは無理矢理座らせた。
どうやら俺に選択の余地はないらしい。
「いやー、学園に入った瞬間、何かキモいナルシストみたいなのに言い寄られてさ。その時、あの人が助けてくれたの!んで、ナルシみたいな男のケツを蹴り飛ばしてくれたの!"ごめん、この子は私の玩具にするから"って!そこから色々良くして貰ったの!」
変態さんは想い人のものらしい下着を頭に被りながら、あの人の素晴らしさを力説する。
力尽くで逃げようと思ったけど、広場で大道芸を披露している見知った変態がいたので、逃げるのを止めた。
「あの人はさー、めちゃくちゃ優しくてさー、よくあの人の上履きをペロペロさせて貰ったり、あの人の座った椅子をペロペロさせて貰ったり、あの人の使ったペンをペロペロさせて貰ったりしてたの」
「そうか、恩を仇で返したんですね」
「本当、あの人、超優しいのよ!私があの人の私物をペロペロする度にペロペロしたのを私にくれたの!"もうそれ使えないからあげる"って言ってくれて!それだけじゃないの!私があの人の身体をペロペロしようとする度にケツを蹴ってくれるし、あの人の寝室に忍び込んだら崖の下から落としてくれるし、あの人の胸を揉もうとするものなら、ゴミを見る目で見てくれるの!もう本当最高!」
「行方不明になった原因が分かりました」
「そんな蜜月も平民である私に惚れたとかいうナルシの所為で終わりを告げちゃったの。なんかナルシが暴走しちゃった所為で、あの人、指名手配犯になっちゃったみたいで。くそっ……!あのナルシさえいなければ、今頃私はあの人とレズ○○○○できていたというのに!!」
お魚咥えたバカ令嬢が裸足で俺の前を駆け抜ける。
俺は指名手配犯である彼女に全力でここから立ち去るようにジェスチャーを送った。
「うーん、やっぱ、この街にもあの人の残り香匂わないなぁ。本当、あの人、どこに行ったんだろう?」
クンクンしながら、あの人の匂いを探す変態さん。
王子の尻を爆破して指名手配犯になったバカ令嬢の匂いに彼女は反応しなかった。
良かった、この変態さんが探している指名手配犯がバカ令嬢じゃなくて本当に良かった。
これ以上、手のつけられない変人が増えても困るので、彼女の探し人がバカ令嬢じゃなかった事に心の底から安堵する。
「次は"北の聖地"に行こうかな。ガイア教の聖地であるあそこに亡命しているかもしれないし」
そう言って、変態さんは立ち上がると、俺に別れを告げた。
「じゃ、私、行くから。君の悩み、解決するといいね。袖振り合うも他生の縁って言うから、私は私なりに君の幸運を陰ながら祈っとくよ」
「貴女が法に裁かれる事を俺は切に祈ります」
自称平民の変態さんと別れた後、俺は再びどっかに行ったバカ令嬢達を探し始める。
街の中は縦横無尽に水路が走っていた。
こう言っちゃ、なんだがまるでヴェネツィアみたいだ。
水路沿を歩いていると、ゴンドラそっくりな木舟に乗っている人とすれ違う。
多分、あの船は下界でいう車みたいなものだろう。
観光地みたいな街並みを1人で歩きながら、俺は目の前の風景を眼に焼きつける。
青く透き通った水の上に浮かぶ木船、カラフルな色の建物、気取った形をしている橋に槍のように尖った天井の大聖堂。
目に映るもの、全てが新鮮だった。
ここ最近、風景に目を奪われる事が多くなったような気がする。
浮島に来た当初は、風景に目新しさを感じても、じっくり見る事はしなかった。
心境が変化したからだろうか?
自分や他人と向き合おうと思い始めたからだろうか?
幾ら考えても答えは出ない。
そんなセンチメンタルな気分に浸っていると、センチメンタルな気分に相応しくない光景が、俺の視界に飛び込んできた。
裏路地の袋小路。
そこには布切れ1枚になったバカ令嬢達が死んだような魚の目で体操座りをしていた。
「……何しているの?」
バカ令嬢に尋ねる。
彼女は自棄になったような笑みを浮かべると、こう言った。
「……ギャンブルで全財産、失っちゃった」
そんな訳で新章スタートです。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送って下さった方、感想を書いてくれた方、レビューを書いてくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方、新しく評価ポイントを送って下さった方、誤字報告して下さった方に感謝の言葉を申し上げます。
そして、新しく感想を書いて下さったAionさんに厚く厚くお礼を申し上げます。
貴重な時間を削って、本作品に感想を書いて下さって、本当にありがとうございます。
感想欄に書かれていたサキュバスクイーンと精力UPの件ですが、少し長くなったので、後書きの最後の方で回答させて頂きます。
重ね重ねになりますが、Aionさん、面白いと言って下さって、本当にありがとうございます。
この場を借りて、厚く厚くお礼を申し上げます。
次の更新は8月4日水曜日12時頃に更新を予定しております。
本日更新したお話で、本作品は折り返し地点に突入しましたが、これからも皆様から頂いたブクマや評価ポイント、感想、レビュー等を糧に完結目指して執筆していきますので、お付き合いよろしくお願い致します。
Aionさんから頂いた質問に答えさせて貰います(もしかしたら、頓珍漢な答えになっているかもしれませんが……)
サキュバスクイーンは自分の性感度は勿論、接触している相手の性感度を自在に操る事ができるため、腹ペコの性感度+9999は効きません。速攻で自らの性感度をマイナス9999にして、無効化してしまいます。
また、サキュバスクイーンは吸収した相手の精力や自分の精力を魔力に変換する力を持っているので、精力+9999の魔法をかけてサキュバスクイーンの精力を増大させても、すぐに魔力に変換されるため、イキ狂う事はありません。
Aionさんのお察しの通り、精力+9999の魔法をかけたら、サキュバスクイーンはとんでもないパワーアップを果たしてしまい、並大抵の相手では殺せない存在に成り果てちゃいます。
(*ここから先は裏設定を開示します。無駄に長い上、本筋には関係ないので、読み飛ばしても結構です)
本編ではあまり活躍しませんでしたが、サキュバスクイーンはめちゃくちゃ強いです。
指を鳴らすだけで敵(男限定)をテクノブレイクさせるわ、一度に数百人(男限定)洗脳できるわ、味方の男に強化バフを与える事ができるわ、色香で敵の思考力を削ぎ落とす(これは男女問わず)わで、めちゃくちゃ強いです。
サキュバスクイーンの魔法を完全に無効化できる人は、騎士団長みたいに対魔力に優れている武装具を着用している武人、魔王みたいに魔法と魔術を極めた玄人魔術師、物語冒頭で出てきたフクロウのような神域到達者だけです。
そんな奴に腹ペコの精力+9999の魔法を付与してしまったら、魔王や騎士団長を物理で瞬殺できるくらいに強くなります。
サキュバスクイーンは善人ではありますが、調子に乗りやすい性格なので、魔王を倒せるくらいに強くなったら力に溺れ、私利私欲の限りを尽くすようになるでしょう。
徐々に欲望はエスカレートしていき、最終的には人類にとっての絶対悪(人類の繁栄を阻む神的存在)になって、人類を滅亡させていたと思います。
本編では唯一の異性が魔法を無効化できるコウしかあの場にいなかった事、常に衝動的に動いている腹ペコ相手では思考力を削ぎ落とす色香をかけてもあまり意味がない事、腹ペコに魔法をかける余裕がなかった事、「侵入者の中に男がいるんだったら私1人で余裕っしょ」という慢心を抱いて1人で行動していた事が原因で負けちゃいました。
が、もしバカ令嬢が捕まっていなかったら、変態が腹ペコの魔力を回復していたら、腹ペコがサキュバスクイーンに精力+9999をかけていたら、コウ達は瞬殺されていましたし、最悪の場合、人類は滅亡していました。
本編はちょっと選択肢を間違っただけで人類滅亡の危機を招いていたケースが多々あります。
(人類滅亡の危機は、主にリリィが真王率いる騎士団に捕縛された場合・腹ペコ僧侶が誤った選択肢した場合のみ引き起こされる)
そういう訳でサキュバスクイーンに精力+9999をかけたら、彼女と同じ領域にいる人にしか殺せない究極生命体ができあがっちゃいます。
ですが、サキュバスクイーンは性感度+9999と精力+9999等は無効化できるだけで、それ以外のバフ──たとえば、便意+9999等は──は無効化できないので、性に関するバフ以外をかければ、簡単に攻略できます。
ちなみにボツシナリオでは便意+9999をかけられたサキュバスクイーンが便意と闘う展開もありました。
(めちゃくちゃ汚い話になっていた上、軽く一線を超えていたので、ボツにしましたが)
以上、長々となりましたが、質問に答えるついでに本編のネタバレにならない範囲で裏設定を開示させて頂きました。
本筋とは関係ない、自己満でしかない文章ですが、長々と付き合ってくれて、本当にありがとうございます。




