触手と便意と暴走(破)
「で、どうやって助けるべきだと思う?」
再び茂みの中に隠れた俺と変態と腹ペコは、作戦会議──触手に捕まったバカを助ける方法──を開く。
「とりあえず、『ぐきゅぅぅぅう〜』をするべ『ぐぎゅぅぅうううう〜!』います」
「うん、腹の音の所為で何を言っているか、さっぱり分からない」
腹ペコの腹の中から地獄の門を叩いているような音が出始めた。
「頼むから、その音を止めてくれ。うるいから」
「ふっ、もっとうるさくできますよ」
腹ペコは腹の音だけでベートーヴェンの運命みたいなメロディを奏で始めた。
「うるせぇ!」
「なら、ご飯ください!」
「今、そんな状況じゃねぇから!!」
腹ペコの腹の音の所為で触手に俺達の場所がバレてしまった。
触手の方から液体みたいなのが飛んでくる。
それを間一髪の所で避ける事に成功した。
「と、溶けている!?」
触手の攻撃を避けた俺達が目にしたのは、触手が飛ばした液体で溶ける茂みと地面の姿。
それによりあの液体は触れたものを溶かす事ができる──超強化版硫酸みたいなのである事を理解した。
「はっ──!?これが噂の服だけを溶かす液体っすか!?」
「服だけじゃなく肉も骨も溶けると思うぞ」
「いつもは見えない所が見えると思うと、めちゃくちゃエッチっすね!」
「そのいつも見えない所さえも溶けるって言ってんだよ」
頓珍漢な事を言う変態に釘を刺す。
「──っ!?コウさん!」
緊迫感溢れる腹ペコの声により、俺は反射的に振り返ってしまう。
腹ペコは顰めっ面しながら、見慣れない果実を食べていた。
「この果実、めちゃくちゃ臭いです!」
「なに呑気に拾ったものを食って……って、臭っ!?ガチでくっっさ!!!」
糞尿とは違う臭さ──腐敗した食べ物の臭いと言ったら伝わるだろうか──が俺の鼻腔に届く。
あまりの臭さに思わず吐きそうになった。
「皮を剥いた途端、臭いがブワーっと広がりました!でも、味は結構美味し……うおえっ!?」
生々しい嘔吐音と共に腹ペコの口から光のシャワーが漏れ出る。
異常な食い意地を持つ彼女が吐くレベルという事は、多分、普通の人間では咀嚼すら無理なレベルなのだろう。
「こ、この臭さはマルジャンブルナッグっす!!この周辺にしか生息していない植物の果実っす!!その臭いはお父さんの屁の1000倍の臭さで有め、……おぼぼぼぼぼ」
変態の口からも光のシャワーが漏れ出た。
俺も貰いゲロしそうになるが、辛うじての所で我慢する。
急いで腹ペコが持っていた果実を取り上げると、それを遠方目掛けて放り投げた。
「あー!コウ達が何か楽しそうな事をしてるー!!まーぜーてー!私もまーぜーて!!仲間外れは良くないと思うの!」
「本当、お前はいつでも楽しそうだなぁ!!」
現在進行形で触手に拘束されつつ、ズレた事を言うバカ令嬢にツッコみながら、水筒に入った水で手を洗う。
石鹸で洗っていないにも関わらず、匂いは水で洗っただけで綺麗さっぱりなくなった。
臭いが取れて安堵するのも束の間。
唐突に何の前触れもなく彼女は顔を青くなる。
「あ、ヤバ。無駄に大声出した所為で、排泄欲が高まったかも………ねえ、コウ、貴方の性癖的にお漏らしはどうですか?」
「この状況で肯定の言葉が出ると思うなよ!?」
"うん"とか"はい"とか言ったら、即漏らしそうな勢いだったので、否定の言葉を口にする。
というか、お漏らしは俺の性癖じゃないし。
「どうします、コウさん!?このままじゃ、リリィさんお漏らしする上、食べられちゃいますよ!?」
「その前にお前は口を濯いでこい!!」
口から酸っぱい異臭を漂わせる腹ペコに水筒を与える。
臭いとは流石に言えなかった。
彼女が傷つくと思うので。
うがいする腹ペコから目を逸らし、俺は改めて触手の方を見る。
「ああ、もう!やっぱ力尽くで行くしか……」
「待ってください、ご主人!暴力では根本的な問題を解決する事はできません!だから、ここは私に任せるっす!」
そう言って、変態はどこからか取り出した蜂蜜を頭からぶっかけると、全身蜂蜜塗れになってしまう。
「何してんの!?お前!?」
この浮島には塩とか砂糖とか胡椒とか味をつける調味料は殆ど流通していない。
故に蜂蜜みたいな食べ物に甘さを付け加える代物は高価なものである訳で。
どういう思考回路をしているのか、彼女はそれを全身に塗りたくった。
「本当、何してんの、お前!?」
「リリィさんを助けるために私が囮になります!あの触手──ピュトンはめちゃくちゃ鼻が利く事で有名な魔獣っす!これなら、私も囮に──!」
そう言って、変態は1歩前に出る。
それと同時に触手はバカを締め付けた。
「あ、そもそも近づけないんだった」
「蜂蜜無駄に使っただけ!」
「今、出そうになった!今、出そうになった!」
「どっちが出そうになったっすか!?」
「小さい方!!」
「もっと緊張感のある会話をしてくれ!!」
仲間が喰われそうになっているにも関わらず、助けようとしている側も助けられる側も呑気な会話をしていた。
「とりあえず、力尽くで行──」
「ぺろぺろぺろぺろ」
「あ、やめてください、腹ペコちゃん!今舐められると、変なドキドキが止まらなくなるっす!もっと舐めて!!」
「そこ!変態プレイをおっ始めるな!!」
変態の肌についた蜂蜜を舐め回す腹ペコの首根っこを掴む。
すると、変態は自分から舐められに行った。
変態の奇行を空いている手で止める。
その所為で、俺の両手は塞がってしまった。
「蜂蜜ペロペロの邪魔しないでください!!」
「そんな事やっている場合じゃねぇんだよ!!」
「そうっす!今はそんな事やっている場合じゃないっす!!」
「そう言って、蜂蜜を追い足しすんのやめてくれないかな!?」
再び蜂蜜を自分の頭にかける変態を言葉で止めようとする。
が、彼女達は言葉だけでは止まらなかった。
各々が全力で好き勝手に暴れ回れ、全力でこの場を混沌に誘う。
俺1人では収拾をつけられそうになかっだ。
ああ、早くお家に帰りたい。
「くっ……!こうなったら作戦よ!!」
本格的にヤバいのか、バカ令嬢は真剣な表情で俺達に指示を飛ばす。
「作、戦……?何か考えがあるのか!?」
欲求の所為で磁石みたいに引き合う変態と腹ペコを食い止めながら、俺はバカ令嬢の作戦とやらを聞く。
「逆転の発想よ──みんな捕まれば良いのよ」
「は?」
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
そして、新しくブクマしてくれた方・評価ポイントを送ってくださった方に厚くお礼を申し上げます。
本当にありがとうございます。
また、先日、3話連続更新というゴリ押しを行ったお陰で、日別の最多PVを更新する事ができました。
本当にありがとうございます。
次の更新は明日の12時頃に予定しております。
これからも完結目指して更新し続けますので、よろしくお願い致します。




