表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/143

敵襲と幼稚な王子と落ちてきた刀

[前回までのあらすじ]

バカ令嬢に召喚されたコウ。お家に帰るための方法を探るため、コウはバカ令嬢と一緒に街の中を探索した。

 壁の外から聞こえる獣の雄叫び。

 それに釣られる形で街にいた騎士達は次々に浮遊し始めた。

 色がついた風の上に乗る騎士達を見た俺は唖然としてしまう。

 彼等は浮くのが当たり前であるかのような態度で壁の外にいるであろう獣の下に向かっていく。


「な、……何が起きて……」


 壁の上に向かう騎士達に見つからないようボロボロの外套を羽織ったバカ令嬢は、ローブで自身の顔を隠しながら俺の疑問に答える。


「魔獣や反乱分子(まおうぐん)が壁に接近した場合、騎士達は壁の上から弓や魔術を用いて、敵を排除するらしいわ。私も直に見るのは初めてなんだけど」


「頻繁に起こっているのか?」


「いや、1ヶ月に1回か2回程度って聞いたけど……それがどうかしたの?」


「いや、騒ぎに乗じて壁の外に出れないかと思っただけだ」


 遠目で門兵を見る。

 先程と比べて、人数自体は減っていたが、それでも無視できないくらいの騎士達が門の前にズラッと並んでいた。


「騒ぎに乗じてってのはいい案だけどこの程度の騒ぎじゃ無理ね。壁の外からの攻撃者に対するマニュアルは騎士団内で用意されているし。魔王軍が内からも外からも攻めてくるみたいな不測の事態が起きない限り、あそこにいる門衛は動かないと思うわよ」


 フードで顔を隠していたバカ令嬢は、ピクリとも動かない門前の騎士達を睨みながら呟く。


「不測の事態、ねぇ……自分で起こすにはハードルが高そうだな」


「あの騎士達のケツ、爆破して来ようか?」


「お前のケツに対する拘りなんなんだよ。もしかして、性癖なのか?」


 んなアホな事を言っていると、壁の上にいた騎士達の叫び声が聞こえてきた。


「魔王軍だぞおおおおお!!!!魔獣を引き連れて、ここに攻め込もうとしている!!!!門衛!!門を閉めろ!!!!」


 壁の上にいる騎士の野太い声が木霊する。

 それを聞いた瞬間、隣にいたバカ令嬢がボソッと呟いた。


「不測の事態が起きたわね。今がチャンスよ!!」


「今がチャンスって……一体、どうやって出る気だ!?」


「………!!」


 バカ令嬢は不敵な笑みを零しながら固まる。

 どうやら思いつきで話してたみたいだ。


「……とりあえず、ここから降りるぞ。壁の外に行くにしろ行かないにしろ、ここから動かないとどこにも辿り着けない」


「降りてどこに行くのよ?」


「お前があの騎士達みたいに宙を浮く不思議な力が使えるんだったら、騒ぎが起きている壁とは反対側の壁に向かう。そして、騒ぎがピークに達し、俺らへの注意が向けられなくなった瞬間、壁を乗り越える。それが1番ベターな選択肢だと俺は思うんだが……」


「よし、それにしましょう!そうしましょう!!さ、早く降りるわよ!!」


 即興で立てた俺の作戦に不服を唱える事なく、バカ令嬢は梯子を降り始める。


「おい、もう少し考えろ!!自分で言うのがアレだが、この作戦、粗だらけだぞ!!」


「別にいいわよ!動きながら考えれば!!善は急げ!チャンスの神様の後頭部はつるっ禿げ!急がないと千載一遇のチャンス逃すわよ!!」


 階段を跳ぶように降りた俺とバカ令嬢は、家屋の外に飛び出すと、騒ぎが起きている反対側の壁に向かって走り始める。

 街の人達──金髪金瞳の老若男女は、獣の雄叫びと轟音が聞こえる壁の外に向かって視線を向けていた。

 自分達に視線を向けられていない事に気づいたバカ令嬢は、フードで顔を隠すのを止めると、全速力で街の中を駆け出す。

 土地勘のない俺は、ただ黙って彼女の後を追い続けた。

 徐々に人気のない裏路地に入り込む彼女。

 "この道で合っているのか?"という疑問が生じ始めた頃、背後から蹄の音が聞こえてきた。

 走りながら振り返る。

 背後には馬車を引き連れた馬2頭が俺らの後をつけていた。

 

「おい!バカ令嬢!俺らの事を誰かつけてんぞ!!」


「──っ!?あの馬車は……!」


 覚えがあるのか、振り返った彼女は馬車を見て驚きの声を上げる。

 だが、驚愕はこれだけでは終わらなかった。

 俺らの前に乗馬した男達が立ちはだかる。

 馬に乗った男達は上品な衣服を着込んでいた。

 彼等が富裕層である事は、火を見るよりも明らかだ。


「……どうやら、見つかったみたいね」


 俺らの後を追いかけていた馬2頭は歩を止める。

 すると、馬車の中から高そうな衣服、高そうな宝石を身に纏った鼻の高そう(プライドがたかそう)な男が出てきた。

 

「やっと見つけたぞ、リリィ。ったく、俺様の手を煩わせやがって」


 偉そうに胸を張りながら出てきた男を注意深く見つめる。

 俺の事が気にならないのか、男は俺に視線を向けなかった。

 バカ令嬢は男をゴキブリでも見るかのような目で見ると、俺に聞こえるかどうかの声量で語りかける。

 

「……あれよ、私の元婚約者であり、この国の第一王子のお尻弄り虫は」


「……ああ、お前の被害者か」


 偉そうな態度の男──バカ令嬢の元婚約者である王子は、俺が想像しているよりも下衆そうな人間だった。

 ……哀れな被害者には見えないくらいに。


「で、私との婚約を破棄したご多忙極まる王子様が何故このような所にいらっしゃるんでしょうか?さっさと王務に戻るか娼婦にお尻弄って貰った方が時間を有意義に使えると思いますわよ?」


 開始早々、王子に皮肉とは呼べない直球ど真ん中ストレートの悪口を打ち込むバカ令嬢。

 王子は眉間に血管を浮かび上がらせると、落ち着くために何度か深呼吸を行う。

 そして、苛つきを隠す事なく、言いたい事だけを隣にいるバカ令嬢に告げた。


「……今ならお前の罪をなかった事にしてやる。婚約破棄もなかった事にしてやる。だから、さっさと王宮に戻って来い」


「やだ。あんな鳥籠に戻るくらいなら、指名手配犯の方が遥かにマシだわ」


 バカ令嬢は肩にかかった自らの金髪を手で払うと鼻で笑う。


「貴方が婚約破棄を宣言した時点で、貴方と私の縁は綺麗さっぱり切れたのよ。加えて、今の私は公衆の面前で王族を貶した卑しいお尋ね者。当然、バランピーノ家も私との縁を切っているでしょう。たとえここで再び婚約を交わしたとしても、貴方がバランピーノ家の後ろ楯を得る事は未来永劫あり得ないわ。ご愁傷様」


「バランピーノ家の後ろ盾なぞ、どうでもいい!俺様はお前を連れ戻さなければいけないのだ!!」


 バカ令嬢の表情が真面目なものになる。

 恐らく彼女にとって、予想外の事が起きたのだろう。

 事情をよく分かっていない俺には、よく分からない代物だった。


「いいから戻って来い!お前は俺様のものだ!!所有物が人らしい事を言ってるんじゃねぇ!!」


「……なるほど。王族は"私がバランピーノ家の御令嬢"だから欲したのではなく、"私が私だから"欲したのね」


 何かに気づいた彼女は小声でボソッと呟く。

 そして、意を決したような表情を浮かべると、俺の二の腕に抱きついてきた。


「ごめんなさいね、王子様。私、この人と駆け落ちするから」


「はぁ!?なに道具が偉そうに自由を語ってんだ!?お前を連れ戻さなきゃ、俺は王妃に……」


「私、この人に一目惚れしたの。だから、貴方達みたいな人の事を出世の道具にしか思っていない家畜に囚われる訳にはいかないの。だから、ここでさよならさせて貰うわ」


「おい、俺を巻き込むな」


 ドロドロな修羅場に巻き込もうとするバカ令嬢から逃れようとする。

 が、彼女はバカみたいな力で俺から離れようとしなかった。

 ……先程のアプローチ云々の話を思い出す。

 恐らく彼女はこの状況になる事を見込んで、俺に求婚したのだろう。

 元婚約者に諦めさせるため、そして、下界での安定した生活を獲得するため、俺を口説こうと考えたのだろう。

 戦略的に俺を口説いた方が利になると判断して。

 ようやく彼女が俺に告白した理由、そして、キスした理由を理解できた。

 彼女は俺を王子の当て馬にするために、俺の唇を奪ったのだろう。

 ……俺が思っているより数十倍、頭が回る上、強かで、かなり頭がキレるお方だった。

 バカ令嬢と見くびっていたら、間違いなく俺は彼女に足元を掬われる。


「ふざけんなっ!!お前が帰って来ないと俺様は王位継承権を剥奪されるんだぞ!!下手したら王宮から追放されかねん!!お前が婚約破棄した所為で、俺は父上と縁を切られるかもしれないんだ!!」


「それがどうかしたの?」


「いいからお前は大人しく俺様の言う事を聞け!!お前は俺様の言う事を聞けば良いんだ!お前は俺様の物なんだから!!」


 王子は自分本位な主張でバカ令嬢を連れ戻そうとする。

 その姿は駄々を捏ねる子どもみたいでみっともなかった。

 ……婚約破棄の件は、バカ令嬢だけでなく目の前の王子も悪い事に気づかされてしまう。

 この典型的かつ幼稚な俺様系の男に同情する点はどこにもなかった。

 ……まあ、王子が愚かだったとしても、バカ令嬢がバカやらかしたのは変わらないんだが。

 呆れ半分、感心半分といった感じでぼんやり眼前の修羅場を見守っていると、遠くから爆音が聞こえてきた。

 

「ちっ……!魔王軍、既にこの街に潜んでいたのか……!?」


「こっちよ!」


 憎々しげに呟く王子を尻目に、バカ令嬢は俺を連れて、近くの民家に入り込む。


「この騒ぎに乗じて王子たちを撒くわ!そして、壁を乗り越えて、壁の外に向か……きゃっ!」


 背後から生じた爆風により、俺とバカ令嬢の身体は侵入した家の外に吹き飛ばされてしまう。

 表通りに吹き飛ばされた俺達を待ち受けていた男達──先程、王子と一緒にいた高そうな服に身を包んだ若い男性15人──だった。


「……簡単に逃してくれないって訳か」


 立ち上がった俺とバカ令嬢は、逃げれそうな場所を一望する。

 が、逃げられそうな場所は全て俺達を睨みつける男達によって遮られていた。


 ……戦わなければいけない状況に陥ってしまった。

 生まれてこの方、殴り合いの喧嘩をした事がない俺にとって、この状況はかなり分が悪いとしか言いようがない。

 バカ令嬢の方を見る。 

 バカ令嬢は首を横に振ると、右耳に着けていたピアスを見せつけた。


「一応、とっておきはあるわ。けど、ここで使ったら、間違いなく見ず知らずの人達を巻き込んでしまう。……ごめん、カミナガレ・コウ。今の私にはどうする事もできないわ」


 初めてバカ令嬢の口から不安げな言葉が漏れ出る。

 それを聞いた瞬間、今まで蚊帳の外だった俺にも危機感を感じ取る事ができた。

 一か八かで特攻を仕掛けるか。

 或いは無理矢理逃亡するか。

 どちらにしろ、俺らにとって勝ち目のない賭けである事には変わりない。

 どうしようかと悩んでいる内に、じわりじわり血気盛んな男達が近寄って来る。

 どうしようもなくなった俺は、活路を切り開くため、バカ令嬢の手を引いて、逃げ出そうとした。


 ──その瞬間、空から棒状の何かが振り落ちる。

 落ちてきた何かは吸い込まれるように俺の手中に収まった。


「な、……何よ、その剣……!?」


 俺が手に取った剣は漫画やアニメとかでよく見る日本刀だった。

 

 ここまで読んでくれた方、そして、ブクマしてくれた方にお礼を申し上げます。

 本日の更新は終了です。

 次の更新は明日4月1日12時頃に更新します。


 催促して申し訳ありませんが、もしよろしければ、広告の下の☆☆☆☆☆をタップ・クリックして評価する・ブックマークをする・お気に入りユーザー登録してくれると嬉しいです。


 また、前作からお世話になっている方には申し訳ありませんが、毎日12時頃に更新している『価値あるものに花束を』の宣伝もさせて貰います。

 『価値あるものに花束を』は喧嘩が強い男子高校生が魔法使いや怪物と喧嘩するアクション重視の小説です。

 100話以上ありますので、もしお時間があるのなら、こちらの方も読んでくれると嬉しいです。

 以下、URLを張り付けておきます。(https://ncode.syosetu.com/n7025gs/)


 これからも皆様が楽しめる物語を提供できるよう、頑張りますので完結までお付き合い頂けると幸いです。

 これからもよろしくお願い致します。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ