性処理と必殺技と倫理観
金庫を破ろうとしていたリリィ──バカ令嬢と食糧庫を食い破ろうとするルル──腹ペコ僧侶を回収した俺は、地下通路から脱出する。
「あー、もう!あとちょっとで金庫破れそうだったのに!!」
「せめてお肉だけは最後まで食べさせてください!!」
「今度、自由行動やったら首輪つけるからな!!」
「え、ちょ、……コウってそういう性癖なの……?」
「違う!!」
「肉食えるなら、首輪だろうがなんだろうがつけてやりますよ!!」
「なら、お前は夕飯抜きの刑な!」
「上等です!革命を起こしてやるですよ!」
ギャーギャー言い争いながら、俺達は地下通路から抜け出す。
1日振りに外の光を浴びた俺が先ず目にしたのは体操座りしているレイ──変態奴隷だった。
「くそー、またお父さんに負けたっす。うーん、どうしたら勝てるんだろーなー」
声は明るいものだったが、彼女の身体からは不機嫌そうなオーラが漏れ出ていた。
やべ、話しかけたくねぇ。
そんな事を考えていると、近くにあった茂みから誰かが出てきた。
「「「「「あ」」」」」
茂みの中から出てきたのは昨日遭遇したオークキングだった。
彼の右手にあるエッチい女性の裸体が表紙の本を見て、俺は色々察する。
「お嬢!?それにお嬢を連れ去ったお仲間達!?なんでここに……なるほど、そうか。侵入者はお前らだったんだな」
オークキングは腰を低く落とすと、背負っていた戦斧を手に取る。
腹ペコの魔法を警戒しているのか、彼女に熱い視線を向けていた。
「……なあ、オークキング。我慢しろとは言わんけど、大魔王に愚痴られる頻度でマスを掻きに行くのはちょっとアレだと思う」
先程の大魔王の愚痴を思い出しながら、俺はオークキングに苦言を呈する。
「い、いや、オレだって我慢してぇよ!けど、オークはその、なんだ、……ちょっと性欲が人間よりも強くてさ。こうやって、定期的に処理しないと他の女の子を衝動的に襲いそうでアレなんだよ」
意外としっかりした理由だった。
「なら、それを大魔王に教えてやれよ。あの人、お前が頻繁にマスを掻きに行く事に苦言を呈していたぞ」
「そんな恥ずかしい事を魔王に言えるかよ」
「魔王の娘と敵にバレた時点で恥もクソもないと思う」
ドン引きした様子でバカ令嬢達は首を縦に振る。
「う、うっせー!オレが良いって言ったら良いんだよ!!というか、お嬢!またどっかに行くんですか!?早く魔王様の所に帰りましょう!心配していますよ!!」
「あ、その件だけど、オークキング。もう大魔王はリリィもレイも捕らえるつもりは──」
「オークキング。私、修行の旅に出るっす。お父さんを倒せるレベルになるまで、私、帰らないから」
「何を言っているんです!?」
言わなくていい事を言って、変態はまたまた場を掻き乱す。
「だから、オークキング、私を諦めるっす。私はお父さんを超えるまでお家に帰らない……!!」
「ああ、もう!本当、誰の言う事も聞かないのだから!!こうなったら、力尽くでやりますからね!!」
「あ、あの、オークキング、俺の話を聞いて……」
「問答無用!」
そう言って、オークキングは戦斧を構えると、俺達に襲い掛かった。
……本当、何で俺の周りの人達って話を聞かないんだろう。
闘い始めたオークキングと変態奴隷を眺めながら、俺は溜息を吐き出す。
すると、バカ令嬢が俺に指示を出した。
「こうなったら、こっちも力尽くよ。コウ、オークキングを倒しなさい」
「そんな簡単に言うなって。多分、泥試合になると思うぞ」
「そう?今の貴方なら簡単でしょ?今のオークキングに勝つ事くらい」
「騎士団長の時に放った技を使えばな。けど、あれって結構反動が……」
「無駄な力が入り過ぎているからよ。あの技って、相手の隙を作るための技なんでしょ?わざわざ全力の一撃を13発もやる必要あるのかしら?」
「いや、あの技はな、必殺の一撃で隙を作るための技で……」
「全力じゃないと必殺の一撃で隙を作れないの?」
その言葉を聞いて、俺は目から鱗が落ちるような気持ちに陥ってしまう。
確かに彼女の言う通りだった。
常に必殺技を放ち続けるなんて、無理なんだから、必殺技を放てる状況を作るのが遥かに効率的だ。
「…………お前ってさ、いつもバカなのに何で要所要所で知能高い発言すんの?」
「え、もしかして、ガチで私の事をバカだと思ってんの?」
そんな事を話している内に、変態奴隷はオークキングに負けてしまう。
彼女はオークキングによる大振りな一撃による余波を受けると、地面の上をゴロゴロ転がった。
「あー、無理っす。今の私じゃオークキングにさえも勝てませーん」
勢い良くゴロゴロ転がりながら、彼女は俺達の下に戻ってくる。
擦り傷だらけだが、傷らしい傷は殆どなかった。
「んじゃあ、ご主人、あとは任せました」
偉そうにふんぞり返りながら、変態は投げやり気味に俺に託す。
俺はそれを溜息を吐き出しながら聞き流すと、刀を抜きながら、オークキングの方に歩み寄った。
「お前もオレの邪魔をするのか?」
「本当は闘う必要さえないけどな。──俺の話を聞く気はあるか?」
「問答無用」
オークキングは戦斧を構えながら、俺の一挙手一投足に注目する。
俺は溜息を吐き出すと、地面を思いっきり蹴り上げた。
敵の隙を告げる赤い亀裂は未だ見えず。
それを見るためだけに、俺は全力かつ必殺の一撃を繰り出す。
「──"風斬"」
刀に纏った黄金の嵐が奴の重く鋭い必殺の一撃を弾き飛ばす。
俺の全力かつ必殺の一撃は、敵の身体に触れる事さえも叶わなかった。
敵は体勢を崩す事なく、カウンターを取ろうとする。
その瞬間、微かにではあるが、赤い亀裂が俺の視界に映り込んだ。
間髪入れる事なく、俺は全力ではないが必殺の一撃を繰り出す。
やはり辛うじて見える程度の赤い亀裂では、必殺の一撃になり得ないのか、彼は難なく俺の攻撃を防いだ。
再び赤い亀裂が俺の視界に映り込む。
先程の亀裂よりも色が濃ゆかった。
全力ではない必殺の一撃を繰り出す。
彼は先程よりも苦しそうな体勢で、俺の攻撃を防いだ。
それを何度も何度も繰り返す。
俺が攻撃を繰り出す度に、視界に映る亀裂はより濃ゆくより太いものに変わっていく。
俺が攻撃を繰り出す度に、彼の防御は拙いものに変わってしまう。
自身の劣勢を悟ったオークキングが徐々に後退し始める。
俺は彼が1歩退いた瞬間を見計らって、突きを繰り出した。
「くっ……!?」
戦斧の腹で俺の突きを食い止める。
「──神の御手は眼に映らず」
刀から黄金の嵐が溢れ始める。
それを見た彼は、慌ててバックステップしようとした。
「"神の見えざる手"」
刀から溢れ出た黄金の風が1つの塊となる。
塊と化した黄金の風は、砲弾の如く前方に発射されると、瞬く間に彼が着込んでいる鎧と唯一の武器である戦斧を粉々にした。
「く、そ……!」
防具も武具も失ったオークキングは殆ど丸裸になる。
ダメージはそんなに受けていなかった。
拳を握り締めるオークキングを見て、まだ闘いが終わっていない事を確信する。
(これは、……もしかしたら泥試合になるかもな)
彼の瞳の中にある闘志を見た瞬間、俺の右脇を何かが通り抜けた。
「──お手本を見せてあげるわ」
「へ?」
オークキングと俺の間に赤い光を纏ったバカ令嬢──リリィが割り込む。
腹ペコ僧侶から素早さのバフを受けたであろう彼女は、瞬く間にオークキングの目と鼻の先まで接近した。
「必殺技は──っ!」
目にも映らない速さで彼女はオークキングの股間を蹴り上げる。
「敵の急所を突く事で必殺技になり得るのよっ!!」
嫌な音が周囲に木霊すると同時にオークキングの断末魔が聞こえた。
「良心がないのか、お前は!!??」
股を蹴られる彼の姿を見た瞬間、俺の股間はヒュンってなった。
「何やってんだよ、……何やってんだよ、……」
オークキングの睾丸から聞こえたらいけない音が聞こえてきた。
それを聞いて、俺のタマタマは怯え始める。
「へ?私の必殺技『ゴールデン・クラッシャー』を披露しただけだけど」
「お前、後で性教育な」
「ん……?セイキョーイク?何それ?」
性教育の概念さえ知らなかった。
……ああ、だから、あんな必殺技を躊躇いもなく放てるんだな。
「な、なるほど……!その手があったか……!」
「絶対に真似をしないでください」
バカ令嬢の必殺技を見て、感心した声を上げる変態に釘を刺す。
「でも、リリィさんの必殺技って男の人にしか必殺技になり得ないのでは?」
「女の人の場合は堕胎パンチを打ち込めば良いのよ」
「な、なるほど!」
「なるほどじゃねぇよ。お前らの倫理観、本当どうなってんだ」
これまた感心した声を上げる腹ペコ達に怒鳴りつける。
……今更ながら教育の大切さを改めて実感した。
かくして、全ての四天王達を退け、魔王軍の仮本拠地から抜け出した俺達は旅を続ける。
次に向かう場所は水の都──"アルカンティカ"。
俺達はそこで──平行世界の化物と遭遇する。
ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
また、またまた感想を書いて下さった勇人さんに厚く厚くお礼を申し上げます。
ブクマや評価ポイント、そして、感想は執筆の励みになります。
皆様から頂いたそれらを糧にこれからも完結目指して執筆していきますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。
特に勇人さん、毎回のようにベタ褒めして下さって、本当にありがとうございます。
いつもいつも簡略なお礼しか言っていませんが、勇人さんの感想は本当に励みになっています。
この場を借りて、厚く厚くお礼を申し上げます。
勇人さん、本当にありがとうございます。
来週の更新は先日告知した通りです。
前半は「異世界から追放された悪役令嬢は身も心も丸くなり過ぎた。怠惰な生活を送っている所為で長生きできないかもしれない」のリメイク版。
後半は地下通路脱出した後から水の都に辿り着く間に起きた短編を投稿致します。
先に「異世界から追放された〜(略)」を(https://ncode.syosetu.com/n3421gt/)で読んだ方は、ほぼ同じ内容を読まされる事になると思いますが、後半の展開に必要な番外編になるので、お付き合いよろしくお願い致します。
7月26日月曜日12時頃から更新予定です。
また、本編の続きである短編は7月28日水曜日から投稿を予定しております。




