痛い人と大魔王と過去話
直撃すれば岩さえも粉々に砕く鞘による一撃。
それを喰らったにも関わらず、悪魔みたいな容貌をした男はピンピンしていた。
「嘘、だろ……」
初めて姿を見た時から確信していた。
あいつは俺よりも強い。
あいつは瞬間移動が使える。
だから、騎士団長の時みたいに吹っ飛ばす事もできないし、逃げる事もできないだろう。
(…………やっぱ、赤い亀裂も見えないか)
攻撃のタイミングを教えてくれる赤の亀裂はどこにも見えない。
つまり、何が言いたいかと言うと、今の俺じゃあの悪魔みたいなのに傷1つつけられない訳で。
「嘘!?コウの若さの至りを体現したような名前の必殺技が通用しないというの!?」
「3日3晩徹夜で考えても出てこないような痛い名前の必殺技が効かないなんて……!?やっぱり、あれ魔王ですよ!!」
「羞恥プレイ好きな私でさえも言うのを躊躇うご主人の必殺技を物ともしないとは……やっぱ、ウチの父さんって強いっすね!!」
「いっそ、殺せぇ!!」
お前ら、俺が必殺技を叫ぶ度にそんな事を思っていたのかよ。
もう恥ずかしくて、2度と必殺技を叫べなくなったじゃんか。
「大丈夫よ、コウ。若さ故の過ちは誰だってあるから」
「そうですよ。だから、これからも頑張って必殺技を叫んでください」
「私達は温かい目で見守るっす」
「やめろ!俺を痛い人扱いするのを止めろ!!」
生暖かい視線を送る彼女達の所為で、心が折れかける。
恥ずかし過ぎて、お家帰りたい欲求が過去最高に高まった。
「お、お前らだって、そういう時があるだろ!?自作の詩を作ったり、授業中に架空の必殺技を考えたり、飲めないブラックコーヒーを好きなフリをしたり、英語の論文を読んで知的アピールしたりとか!!みんな、表に出さないだけで、裏ではやっているんだろ!?」
「やってないわ」
「やってないです」
「やった事ないっすね」
「クソがああああああ!!!!」
俺の味方をしてくれる人はいなかった。
彼女達の純粋な眼差しを見るに、ガチで1度もやった事はないんだろう。
俺は恥ずかしさで死にそうになった。
「くっくっくっくっ、……話を元に戻していいか?」
今の今まで蚊帳の外だった大魔王を名乗る悪魔みたいな容貌をした男は、尊厳な態度を崩さぬまま、俺達に話しかける。
「我が娘、何故大魔王の手から逃れようとする?貴様は真王によって獣に堕とされた人達を見て、何とも思わないのか?」
「え!?もしかして、魔人って元々は人だったんですか!?」
「ちょっとちょっと!今、世界の根底がひっくり返すような事実がサラッと出てきたんだけど!?え、真王って人間を魔人にする事ができるの!?」
腹ペコは見ていて面白いくらいに動揺する。
どうやらかなり衝撃的な事実みたいだ。
いや、俺的には痛い云々思われていた事がかなり衝撃的なんだけど。
「……なるほどね。だから、魔王は真王と敵対しているのね。──魔人にされた人達を元の人間に戻すために」
「くっくっくっ、そういう事だ」
魔王は不敵な笑みを浮かべながら、魔王軍の真の目的を明かす。
俺はというと、この浮島について何も知らないのもあって、あまり衝撃を受けなかった。
「これで分かっただろう?真王ではなく、魔王軍に正義がある事を」
くっくっくっ、と悪そうに笑いながら、悪魔みたいな容貌をした男は、偉そうに胸を張る。
「もう1つだけ真実を明かそう。リリードリー・バランピーノ、貴様が追われている本当の理由を」
「本当の、理由……?」
「教えてやろう。真王はリリードリー・バランピーノの肉体を使って、神をお──」
「せえええええやあああああああ!!!!」
何か重要な事を言い出そうとする魔王に向かって、飛び蹴りを披露する変態。
魔王はそれを難なく片手で受け止めた。
頼むから、ちょっとくらい空気読んでくれ。
今、大事な事を言いかけていただろうが。
「ご主人!お嬢様!そして、腹ペコちゃん!あいつの言葉に耳を貸さないでください!あいつは過激な純愛厨!マイナーな性癖に理解を示さないクソ野郎っす!!」
「ごめん、変態奴隷。今、大事な話をしているから黙っててくれ」
「実は私、小さい頃から凌辱されたいって思ってたんです」
「俺の話、聞いてた?」
「小さい頃の私には自由がありませんでした。毎日毎日、次期魔王になるための勉強や訓練ばっかで遊ぶ暇さえありませんでした。退屈で窮屈で卑屈な日々を送っていました」
「唐突に過去編を始めないでくれる?」
「本当にあの日々は地獄だった。毎朝8時に起きて、ラジオ体操させられて、大好きな目玉焼きを食べた後、9時から正午までお勉強、お昼はお肉と果実を食べて、またお勉強。15時にはおやつを食べて、お昼寝した後、17時から身体を動かす訓練、19時に家に帰ってお父さんが沸かしてくれたお風呂に入って、お父さんが作ってくれた美味しい晩飯を食べて、21時に寝る。そんな地獄みたいな日々を送っていました」
「めちゃくちゃ健全な1日」
「ちなみに勉強と訓練する日は週3で、それ以外は休日でした」
「くっくっくっ、伸び伸び育てるのが魔王家の教育方針だ」
歪む要素がないくらいめちゃくちゃ健全な過去編だった。
「そんな時、私はオークキングが隠し持っていたエロ本を見つけました。結構ハードな凌辱系っす。そのエロ本に出てくる女の子達は、最初性行為に対して激しい嫌悪感を抱いていました。けど、調教が進むにつれ、みんな笑顔になりました。そんな笑顔になった彼女達を見て、思ったんです。"魔王よりも奴隷になりたい"って」
「そうか、伸び伸び育てる教育方針が仇になったのか」
「くっくっくっ、……すまない。もう少し娘に自由を与えるべきだった。大魔王、深く反省している」
娘の性癖開花話を聞かされて、魔王は尊大な態度を崩す事なく、深く反省していた。
「それから私は凌辱系のエロ本を収集しました。それを読む度に○○○や×××や△△△をされたいとか、人間として生まれてきた事を後悔するような調教を受けたいとか人の言葉も話す事を許されないような家畜になりたいとか思うようになったんです。……でも、お父さんは認めてくれませんでした。"是が非でも魔王になれとは言わん。他になりたいものがあるなら、その道を進むが良い。だが、奴隷になるのは別だ。大魔王的に娘が奴隷になるのはちょっと賛成できない。もう少し別の道を考えた方が良いのでは?奴隷になる事がお前の幸せになるとはとてもじゃないが思えない"って……私の夢はその一言で否定されちゃいました」
「多分、俺が親でも同じ事を言うと思う」
「私は奴隷になる夢を諦めたくないんです!さっき言った○○○や×××や△△△だけじゃなく、それよりも上の■■■や■■■、■■■■に、■■■■■■■なんてものをやりたいんです!というか、人間扱いされたくない!なんか、ゴミみたいに扱われてポイ捨てされるような扱いをされたいっす!!心臓が破裂するくらいドキドキすると思うんで!!」
変態のぶっちゃけ話を聞いて、俺や彼女の父親である魔王だけではなく、バカ令嬢も腹ペコもドン引きしていた。
うん、性癖は人それぞれだから、かなりアブノーマルであっても、間違っているとは言わない。
けど、性癖で将来を決めるのはどうなんだろう。
うーん、でもなー、世の中には性癖で進路決めている人いるからなー。
一概に間違っているとは言えないんだよなー。
「くっくっくっ、我が娘。貴様が願っている事は破滅の道。大魔王として、そして、父親として、貴様の願いを認める訳にはいかぬ。もっと純愛とかイチャラブ系の書物を読むといい」
「だから、お父さんが言う純愛とかイチャラブとかクソっす!!全くドキドキしません!それよりも寝取りとかSMとかの方がドキドキするっす!!」
地面に唾を吐き捨てながら、変態は魔王に毒吐く。
親の心、子知らず。
「我が娘、貴様は知らないのだろう?純愛系の尊さ。イチャラブ系の癒しを。愛なき○○○○に真の快楽はない。貴様の言う寝取りやSMは愛なき○○○○だ。仮初の快楽に何も価値はない」
「価値があるとかないとかの話じゃないっす!どっちがドキドキできるかどうかの話っす!!」
「恋の駆け引きを知るが良い、我が娘。かなりドキドキするぞ?」
「なら、こっちは調教の素晴らしさを思い知らせてくれるっす!!ご主人様!!今からお父さんを調教してやりましょう!!ひん剥いて全裸でわんちゃんプレイさせれば、奴隷になる喜びも分かるっす!!」
「くっくっくっ、そこの純愛が好きそうな若人よ。大魔王と一緒に大魔王の娘を止めるがいい。報酬と言ってはなんだが、大魔王厳選の純愛官能小説を贈呈してやるぞ」
「ごめん、俺を巻き込まないで」
こうして、現魔王と次期魔王候補の血で血を争う死闘が始まった。
うん、勝手に闘え。
ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、新しく評価ポイントを送ってくださった方に厚くお礼を申し上げます。
また、この場を借りて、感想を書いてくださった勇人さんに感謝の言葉を申し上げます。
勇人さん、いつもいつも感想を書いてくださって、本当にありがとうございます。
ちなみにロケットランチャーみたいな高火力でツッコミすると、彼女達はガチで避けにいくので、周囲の被害が拡大してしまいます。
多分、ロケットランチャーで大破した街や森を見たら、ハリセンで叩くよりも反省すると思いますが、ツッコミ側の精神が耐え切れなくなるので、多分やらないです。
(海とか砂漠とか人や自然に被害が及ばない所かつ冷静さを失うくらい激怒した状態かつロケットランチャーを持っていたら、やるかもしれませんが)
少し脱線してしまいましたが、再度勇人さんにお礼の言葉を申し上げます。
本当にいつもいつも感想を書いてくださって、ありがとうございます。
次の更新は7月21日(水)12時頃に予定しております。
これからも完結目指して更新していきますので、よろしくお願い致します。




