救出と脱出と大魔王の出現
小さい子どもには絶対に言えないやり方でユニーコーンジャックを倒した俺達は、地下通路の奥に向かって、歩き続ける。
倒し方に関しては、……まあ、察してくれ。
俺の口からでは、汚いやり方を使ったとしか言えない。
「いやー、助かりましたよー、本当は自力で出る予定だったんですけど、ユニコーンジャックが中々檻の前から離れなくて。あ、お礼と言っちゃ、なんなんですが、ここらでちょ──あいたっ!?」
檻の中から助け出した変態の頭にハリセンを叩き込む。
「……で、これからどうするつもりだ?」
魔力&手持ちの食料が尽きた事で行動不能状態に陥ったルル──腹ペコを背負いながら、俺はバカ令嬢に今後の予定を尋ねる。
「とりあえず、これから魔王軍の金庫を狙いに……」
「二兎追うもの一兎も得ずって言葉を知っているか?」
「落ち着いて、コウ。これは海よりも深い言い訳があるのよ」
「言い訳じゃねぇか」
「お、ち着……」
「変な所で区切るな」
変態の頭をハリセンで叩く。
「がぶっ」
「腹ペコ、俺の首筋を噛むな」
「単刀直入に言うと、お金がないわ」
「は?」
バカ令嬢の言っている意味が分からずに首を傾げる。
「え、デスイーター討伐報酬と勇者から奪った金は?あれ、結構大金だったよな?」
「あー、それなんだけど……」
バカ令嬢は気まずそうに俺から目を逸らす。
「ごめん。あれ、全部ギャンブルに注ぎ込んだわ」
無言で拳を握り締める。
それを見た変態は俺の身体に抱きつくと、静止するように呼びかけた。
「ちょいちょいちょい!女の子にグーはガチでヤバいと思うっすよ!?社会情勢的に!」
「ああ、炎上は覚悟している」
「あ、ヤベ。この人、完全に殴る気満々っす」
「お、落ち着いてください!リリィさんが悪いんじゃないんです!!諸悪の根源は私達の馬券を全て紙屑に変えたゴールデンウマウマゴーです!全部アレが悪いんです!!」
「ちゃっかりお前もギャンブルやってんじゃねぇかぁぁああああ!!!」
担いでいた腹ペコをバカ令嬢目掛けて、放り投げる。
彼女達は頭をごちんとぶつけると、可愛らしい断末魔を上げた。
「おい、いつギャンブルした?いつ金をドブに捨てた?」
「港街── ルーデルワークに着いた翌日よ。ほら、コウがグースカ寝てたじゃない。あの時よ」
「大穴狙ったら、いつの間にかお金なくなってました」
「こいつらを自由にした俺がバカだった!」
「てな訳で明日の飯が食べられるかどうか分からないくらいお金ないの。だから、魔王軍から金目のものを奪わなきゃいけない訳で」
「悪銭は身につかないぞ」
「ふっ、悪銭だろうが良銭だろうが宵越しの銭は持たない主義だからノー問題よ」
「お前、本当にお嬢様なのか?」
発想が盗賊のそれだった。
「却下だ、却下。虎穴に入らずんば虎子を得ずとは言うが、ここは虎子を求める場面じゃない」
「虎、……穴」
横から茶々を入れる変態の頭をハリセンで叩く。
「ただでさえ道草を食っているんだ。さっさとここから出よう。早くこの浮島から脱出しないと夏休みが終わってしまうし」
「道草って食べられるんですか?」
勢い余って、腹ペコの頭をハリセンで叩く。
「なんで!?」
「あ、ごめん。条件反射的に叩いてしまった」
方針が決まった所で閑話休題。
この地下通路の事をよく理解している変態に案内して貰いながら、俺達は地下通路の中を走り回った。
「ここが仮設用トイレっす!」
「誰がトイレ紹介しろって言った」
ハリセンで変態の頭を叩いた後、もう1度通路の中を駆け回る。
「ここがヤリ部屋っす!!」
「出口紹介しろって言ってんだよ」
ハリセンで変態の頭を叩く。
「ここが魔王軍の金庫っす!」
「だから、出口って言ってるだろうが」
「……」
「おい、バカ。無言で金庫の壁を破ろうとするんじゃねぇ」
バカと変態の頭をハリセンで叩いて、軌道修正する。
「ここが食糧を貯蓄する所っす」
「だから、出口だって」
「あ!見つけました!!ここが出口に繋がる通路っす!」
「誰が出口紹介しろって言っ……あ、いや、合っているか」
つい反射的に変態の頭を叩きそうになるのを寸前の所で堪える。
ふと腹ペコがいない事に気づいてしまった。
「あれ?腹ペコは?」
「あ、そういや、いないわね」
「あ、彼女なら食糧庫の中に特攻を仕掛けていましたよ」
「ちょっと目を離したら、これだよ!」
慌てて腹ペコを回収しに、食糧庫に戻る。
彼女は食糧庫の扉──分厚い金属製──を噛み砕こうとしていた。
「後でご飯あげるから、今は我慢しろ!!」
「ウガアアアア!!!!」
食欲に支配された腹ペコを物理的に制圧後、俺達は再び出口に向かおうとする。
「あれ?あのバカは?」
「金庫の方に向かったっす」
すぐさまバカの下に向かう。
案の定、彼女は金庫を破ろうとしていた。
「よし!あとはこのダイヤルの番号を特定……うぎゃあ!?」
錠を破ろうとしていたバカ令嬢の後頭部にドロップキックを打ち込む。
俺はバカと腹ペコの首根っこを掴むと、再び出口に向かって駆け出した。
「頼む、レイ。最短距離を教え──って、あれ?あいつ、どこ行った?」
「彼女ならヤリ部屋とやらに行きましたよ。何でも喘ぎ声が聞こえるとかで」
「俺1人じゃ対処できねぇ!!」
「しっ、コウ。静かにして。大声を出したら、見つかっちゃうわ」
「大声で熱唱してた奴に言われたくねぇよ!」
うろ覚えの知識で俺はさっき変態が紹介してくれたヤリ部屋とやらに向かう。
が、急いで走っていたのもあって、どこがどこなのか分からなかった。
「ええい!儘よ!!」
ヤケクソ気味に俺は扉を蹴破る。
そこにはザ・悪魔みたいな容貌をした偉そうな男が玉様が座っていそうな椅子の上でふんぞり返っていた。
「………………貴様か、我が娘を誑かす男──」
「すみません、部屋間違えました」
違う部屋だったんで、部屋を後にする。
「ちょ、ちょ、ちょ!コウ!?あれをスルーして良い訳!?なんか如何にも魔王って感じの態度を取っていたけど!?」
「我が娘とか言ってましたよ!?確かレイさんって魔王の娘ですよね!?あれ、モノホンの魔王なんじゃ……」
「うるせぇ!今はそれどころじゃない……」
「──知らないのか?大魔王から逃れられ……うごぉ!?」
突如、俺達の前に煙の如く現れた悪魔みたいな人の顔面を思いっきり蹴る。
「ちょい待て!今、ヤバい人蹴らなかった!?瞬間移動とかいう超上級魔術を扱う偉そうな人を蹴らなかった!?」
「だから、アレ魔王ですって!!ほら、なんか偉そうな態度ですし!!」
「んな訳ねぇだろ!?大魔王がこんな序盤のダンジョンに出て来る訳ないだろ!!アレは偽魔王だ!!魔王の振りをしている魔王みたいな魔王だ!!」
「現実逃避してない!?コウ、現実逃避してない!?」
彼女達の首根っこを掴んで走り続けていると、顔を真っ赤にしながらヤリ部屋の中を覗き込んでいる変態と遭遇した。
「あ、ご主人!今、ちょうど良いところっすよ!見てください!あの人達、あんな過激なプレ…….ごふっ!?」
首根っこを掴んでいたバカと腹ペコを変態の顔面目掛けて投げつける。彼女達は頭をぶつけ合うと、その場に伏せてしまった。
「このご時世、暴力はどうかと思うの」
頭にデカいたんこぶができたバカ令嬢は、俺に抗議の意を示す。
「そうです!女の子に暴力はいけない事だと思います!」
これまた頭にデカいたんこぶを作った腹ペコが抗議する。
「理性的に動く事ができる女の子と欲望の赴くまま動くお前らを一緒にすんじゃねぇよ、女の子に失礼だろうが」
「あり?私、女の子扱いされてない?」
「じゃ、じゃあ、私達が女の子じゃなかったら、一体何だと言うんですか!?」
「獣」
「「ペット扱い!?」」
「私的には大歓迎っすけどね!」
ハリセンで変態の頭を叩く。
その音の所為で、俺は引き寄せてしまった。
──序盤で遭遇するべきじゃない相手と。
「──知らないのか?大魔王から逃れられ……」
「神殺しの木!」
「ぐぎゃあ!!」
黄金の風により音速を超える速さで撃ち出された鞘は、自称大魔王の額に直撃した。
ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方に厚くお礼を申し上げます。
また、この場を借りて、感想を書いてくださった勇人さんに厚く厚くお礼を申し上げます。
勇人さん、いつもいつも有り難い感想を贈ってくださって、本当にありがとうございます。
いつもいつも同じようなお礼の言葉で本当に申し訳ありません。
でも、本当に感謝しております。
勇人さん、本当にありがとうございます。
重ね重ねになりますが、この場を借りて、お礼の言葉を申し上げます。
次の更新は来週の月曜日12時頃に予定しております。
来週も今週と同じように月・水・金の12時頃に更新致します。
あと、再来週の告知ですが、再来週は本編をお休みにして、番外編みたいなのを投稿する予定です。
過去に掲載した短編「異世界から追放された悪役令嬢は身も心も丸くなり過ぎた。怠惰な生活を送っている所為で長生きできないかもしれない。」のリメイクと新規に書き下ろした短編を投稿する予定です。
後者はともかく、前者は終盤に関わる話なので、読んでくれると嬉しいです。
これからも完結目指して更新していきますのでお付き合いよろしくお願い致します。




