自分の気持ちと本当の願いと自分探し
『──私じゃ、ダメな訳?」
結局、俺はリリィの問いに答える事はできなかった。
彼女の気持ち──彼女が俺に好意を抱いている事──は分かった。
けど、自分が何を考えているのか分からなかった。
俺は彼女にどういう気持ちを抱いているのか、彼女の好意に対して俺はどう思っているのか、幾ら考えても答えは出なかった。
当然だ、今まで自分と向き合ってこなかったから。
自分から逃げ続けた人間が簡単に答えられるものではない。
『あー、やっぱ今のなしで。今の状況で聞く事じゃなかった。コウの自由を束縛しちゃうかもだし。だから、今のは忘れて』
困った様子の俺に気を遣ったのか、彼女は強引に話を終わらせると、非正規の方法で脱出する方法を選択してくれた。
現在、俺と腹ペコは部屋の隅で休憩を取りながら、リリィが魔法陣を無効化してくれるのを待ち続けている。
俺はというと、今までの疲れを取るため、横になっていた。
(あー、自分の事なのに分からねー)
うとうとしながら、俺は自分の気持ちと向かい合おうとする。
すると、俺の腹ペコ──ルルの声が頭の中で再生された。
『コウさん、決して名誉ある死を選んではなりませんよ。それで満足するのは貴方だけで、償いになりませんから』
俺は心の奥底では"名誉ある死"を望んでいる。
けれど、今すぐにでも"名誉ある死"を遂げようとは思わない。
まだ死ぬ訳には行かないのだ。
まだ義父母に恩を返せていない。
今、死んでしまったら、義父母を悲しませてしまうだろう。
だから、死ぬ訳にはいかない。
──でも、もし義父母が亡くなってしまったら?
俺は"名誉ある死"を遂げるための努力をし始めるのだろうか。
生きている人ではなく、死んでしまった人達に報いる生き方をするのだろうか。
分からない。
自分の事なのに自分の事が全く分からない。
(ああ、……頭の中がごちゃごちゃしてきた)
俺は何がしたいんだろう?
なんでリリィの告白を断らなかったんだろう?
なんで俺は彼女に好意を向けられている事を知って、戸惑ったのだろう?
何とも思っていなかったら、速攻で断れただろうに。
もしかして、俺は彼女の事が──
…………幾ら考えても、答えは出なかった。
「よし!できたわ!」
重い瞼を開ける。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
身体を起き上がらせる。
前日の疲れが嘘みたいに抜け落ちていた、
(ちょっと寝ただけで俺の体力、完全回復している……)
刀を片手で振り回せる身体能力といい、謎の風を発生できる力といい、この浮島に来てから徐々に人間離れしているような。
多分、下界に戻る頃には人間を辞めちゃっているだろう。
いや、刀から黄金の風を出している時点で人間辞めているんだけれど。
身体を起き上がらせる。
そして、俺は自分の非を彼女に詫びた。
「ごめん、リリィ。お前が頑張っているのに寝ちゃっ──」
「テッテケテッテーテーテテー、"勝負下着"〜♪」
「なに変なものを作り出してんだよ」
ハリセンを彼女の頭目掛けて、投げつける。
「へ?だって、必要でしょ?」
バカ令嬢は頬の筋肉をだらしなく緩めると、ドヤ気味に勝負下着とやらを天に掲げながら、こう言った。
「だってさ、コウって私の告白を無碍にできないくらいには好意抱いてるんでしょ。なら、私、勝ったわ。あとちょっとでゴールインできるわ。もうコウの心を射止めたって言っても過言じゃないわ」
「過言だよ」
あの時、ハッキリ"その気はない"と言っとけば良かった。
今更ながら後悔する。
ここで"いや、好きじゃねぇし。お前の事を異性として見てねぇし"とか言っても、照れ隠し程度にしか思われないだろう。
「……なんで、お前、俺の事を好きな訳?」
今まで疑問に思っていた事──何で彼女は俺に好意を寄せているのか──を聞いてみる。
「"ずっと一緒にいたいと思ったから"、じゃダメかしら?」
──その答えを聞いた瞬間、父と母、そして、姉の顔を思い出す。
そして、何で自分が"名誉ある死"を心の奥底で望んでいたのか、本当の意味で理解した。
そして、今の自分が"名誉ある死"をそこまで望んでいないのかを理解させられた。
「あ、あと、顔が純粋に好きってのもあるわ。あと、世間一般では受け入れられない際どいプレイでも文句言いながら付き合ってくれるだろうし。あとあと、文句垂らしながらも私の我儘を最後には聞いてくれ──」
「そこまでにしておけよ、バカ令嬢」
お前を甘やかさないと言外に滲ませながら、俺は彼女をジト目で睨む。
「ねえ、前々から思っていたけど、……なんか私だけ当たり強くない?」
「お前が調子に乗れば乗る程、厄介事が増えるから」
「どういう事よ、それ!?」
「そのまんまの意味だ」
ギャーギャー喚く彼女を見ながら、俺は彼女と本気で向き合ってみようと心の中で決意する。
彼女に抱く想いが好意なのか、それとも嫌悪なのか、今の俺には判別できない。
まだ西の果てとやらに着くまで時間がある。
だから、今まで以上に彼女と向き合ってみよう。
もしかしたら、見つかるかもしれない。
本当の自分というものが。
…………なんて、思っていた時が俺にもありました。
「ギャハッハッハッ!!!! カモ背負ったネギとはまさにこの事だ!!!!」
「ネギ背負ったカモな」
一角獣と人間が入り混じった魔獣──ユニコーンジャックが、槍を振り回しながら、俺らを威嚇する。
簡単に今の状況を説明しよう。
非正規の方法で白い部屋を出た瞬間、俺達は魔王軍四天王と遭遇してしまった。
「うわああああ!!!!もうお終いだああああああ!!!!」
人目を憚る事なく、絶望を口にする腹ペコ。
「あー!もう!煮るなり焼くなり好きにすれば良いじゃない!!」
床の上に大の字に寝そべるバカ令嬢。
彼女達は投げやりな態度を見ると、チラリと俺の方を見る。
どうやら俺に全投げするつもりらしい。
数刻前まで再出発しようと思っていた俺は、溜息を吐き出しながら、天井を仰ぐ。
そして、腹の底から声を出しながら、こう言った。
「よし!パーティ解散!」
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これもいつも読んでくれている皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。
この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。
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これからも完結目指して更新していきますので、お付き合いよろしくお願い致します。
次の更新は7月16日金曜日12時頃に予定しております。
これからもよろしくお願い致します。




