正座と罠と自分の気持ち
サキュバスクイーンを退けた俺と腹ペコは、リリィ──バカ令嬢を助ける事に成功した。
現在、人気のない小部屋──衣類の入った木箱が沢山ある事から恐らく物置みたいな所だと思われる──に避難していた。
「何で正座させられているか分かるか?」
「そういうプレイだから」
「な訳ないだろ」
ハリセンで彼女の頭を叩きそうになるが、寸前の所で堪える。
ガチでそういうプレイになっちゃいそうなので。
「でも、本当に心当たりないのよね。ねえ、コウ。なんで私、正座しているの?もしかして、正座する女の子にキュンキュンしちゃう系男子なの?」
「腹ペコ。このバカの膝に重しを乗っけてくれ」
「いや、雇い主にそれはちょっと……」
「はい、干し肉」
「とりあえず、10キロくらい乗せときますね」
「ちょっと!忠義はどこにいった!?」
「すみません、実家に帰りました」
「だったら、私は干し肉3つあげるわ!」
「コウさん、すみません。やっぱ、リリィさんを裏切れな──」
「お前、ドライフルーツ好きだったよな?」
「リリィさん。ちゃんと罰を受けるべきだと思います」
彼女の手の平は返し過ぎてドリルみたいになっていた。
話が逸れてしまったので閑話休題。
俺達から貰ったご飯を食べる腹ペコを横目に、俺とバカ令嬢は再び向かい合う。
「色々言いたい事は山程あるが……」
「愛の告白ならいつでもオッケーよ」
「愛の告白をして貰える程、俺の好感度稼げているとでも?」
またまた話が逸れそうになったので、思いっきり尋ねてみる。
「なあ、バカ令嬢。レイはどこ行った?」
「彼女はどこかに連れて行かれたわ」
「どこかって事はどこに連れて行かれたのか知らないんだな……」
「ええ。恐らく魔王の下だと思……」
部屋の外から人の気配を感じ取った。
多分、敵だ。
恐らくバカ令嬢の脱走に気づいたのだろう。
「今すぐここから離れるぞ」
正座し続けるバカと食欲を満たす腹ペコを連れて、ここから離れようとする。
が。
「ごめん、コウ。足が痺れて動けない」
反省させるために正座させたのが裏目に出てしまった。
俺、頭を抱える。
腹ペコ、干し肉を噛み続ける。
「くそ……!正座させるの失敗した……!!」
「これに懲りたら、2度と私に正座強要しない事ね」
「うっせぇ!そろそろグーで殴るぞ!!」
「とりあえず、今は木箱の中に入って!それでやり過ごすわよ!」
「んなの、調べられてお終……」
「コウさん!リリィさん!木箱の裏に隠し通路ありました!!」
「でかした!!そっちに逃げるよ!」
「罠かもしれないだろ!もう少し警戒し……」
俺の忠告を聞く事なく、バカと腹ペコは隠し通路──大人がしゃがんでやっと通れるくらいに狭い──の中に入ってしまう。
悩んでいる暇もないため、俺も彼女達の後に続いた。
隠し通路の中を匍匐前進する事、数分間。
俺達が辿り着いたのは白い空間だった。
壁も天井も白く、床には魔法陣らしき模様が描かれていた。
「どうやら行き止まりみたいね」
「どうすんだよ!?このまま追っ手に見つかったら、すぐに拉致されるぞ!?」
「大丈夫よ。ほら、背後を見て」
背後を見る。
穴は閉じかけていた。
慌てて引き返そうとする。
しかし、俺達が入って来た穴は跡形もなく、消え去ってしまっていた。
「これで誰も出入りできなくなったわ」
「どっちにしろ最悪な状況である事に変わりはない!!」
まんまと罠に引っかかってしまった。
これが魔王軍のものなのか、それとも元々地下通路そのものに備わっているものなのかは分からないが、今となってはどうでもいい。
とりあえず、俺はどうやったらここから出られるのかバカ令嬢達に尋ねた。
「ちょっと待ってて。……ふん、ふんふん、ふん、なるほど……」
「何か分かったのか?」
「この魔法陣の形式から察するに、男同時にと女が部屋に入らないと発動しないみたい」
「なるほど、同性同士だったら閉じ込められなかったのか。で、脱出方法は?」
「生命の誕生」
「……ん?つまり、どういう事だ?」
「つまり、子作りしないと出られないって訳よ」
「どこかで聞いた事のある部屋!!」
SNSとかでよく見る例の部屋だった。
……どうやら下界でも浮島でも発想がぶっ飛んだ変態さんはいるらしい。
実際、かかってみると極悪以外の何者でもなかった。
「大体分かりました。さ、コウさん、子作りしましょう」
「もう少しよく考えてから発言しろ!」
服を脱ごうとする腹ペコを止めながら、俺は今までずっと言いたかった事を彼女に告げる。
「大丈夫です、できちゃった子どもは私が育てますから」
「お前が大丈夫でも、俺が大丈夫じゃない!!そういうのはちゃんと付き合って、色々愛を深めて、結婚した後にニャゴニャゴする事だと思う!!」
「なら、結婚しましょう」
「それで良いのか!?そんな軽い感じで伴侶を決めて良いのか!?」
「安心してください。"名誉ある死"なんか望めなくなるくらい幸せにしてやりますから」
「いやいやいやいやいや!!」
淡々とプロポーズをする腹ペコの思考が読めず、俺の頭はこんがらがる。
あれ?なんで俺、こんな状況に陥っているのだろう。
縋るようにバカ令嬢──リリィの方を見る。
彼女は困ったような表情を浮かべていた。
「り、リリィ、助けてっ!このままじゃ、俺、学生結婚してしまう!!」
服を脱ごうとする腹ペコの両腕を掴みながら、俺はリリィに懇願する。
愛称を呼ばれたにも関わらず、彼女はいつもみたいに暴走しなかった。
「り、リリィ……?」
彼女の様子が変な事に気づいたのか、腹ペコも服を脱ごうとするのを止める。
「も、もしかして、俺達、出られないのか……?」
「あ、いや、そうじゃないの。出られる方法は2つあるわ」
不安になっている俺達を見るや否や、リリィは気難しそうな表情を浮かべながら、俺達に脱出方法を2つ提示する。
「先ず1つ目はさっきも言ったように子作りする方法。これが1番確実にこの部屋から出られる方法である事に間違いはないわ」
「2つ目は?」
「私がこの魔法陣を無効化にする。少し時間はかかるし、出られたとしても、この地下通路内のどこかにワープするから、下手したら部屋から出た直後に魔王軍と遭遇しかねない」
「なるほど。正規の方法を取るか、非正規の方法を取ってペナルティを受けるかしかないって事か」
「そういう事」
「本当に魔法陣を無効化にできるのか?」
「下手したら1日かかるかもしれないけど、できない事はないわ。この魔法陣、古いものだし」
「じゃあ、魔法陣の解析を頼んで良いか?」
子作りしても責任を取る事ができないので、俺はリリィに非正規の方法を取ってくれと暗に告げる。
彼女は気まずそうに頬を掻くと、俺の目をじっと見つめ始めた。
「ん?どうし──」
「あの、ほら、ここって子作りしたら出られる部屋じゃん」
「ああ、そうだけど」
「これは強要ではなく、コウの自由を束縛しない提案なんだけど……」
リリィは意を決したような感じで少しだけ声を張ると、少し不機嫌そうな様子でこう言った。
「…………私じゃ、ダメな訳?」
その言葉を聞いて、俺は彼女が俺に向けている好意が本物である事を理解する。
出会ってから今に至るまで、彼女の思考回路は未だに理解できていない。
それでも、彼女が抱いている俺への好意が偽りでも何でもなく、本物である事を今更ながら痛感した。
頭の中が真っ白になる。
結局、俺は彼女の質問に答える事ができなかった。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
また、この場を借りて、感想を贈ってくださった勇人さんに厚い感謝の言葉を申し上げます。
勇人さん、いつも感想を贈ってくださって、ありがとうございます。
いつもいつも簡素なお礼で申し訳ありませんが、本当に感謝しています。
本当にありがとうございます。
3万PV達成記念キャンペーンの件ですが、今週と来週は月・水・金に更新して、再来週は毎日更新するつもりです。
公募用の小説に集中しているため、このような変則的な形になりますが、これからも頑張りますのでお付き合いよろしくお願い致します。
次は明後日の12時頃に更新します。




