夢への誘いと神殺しの宿木と土下座
「バーカ!バーカ!生娘バーカ!!」
「はっ!罵倒にキレはありませんよ!もしかして、効いてるんですか!?私の口撃、効いちゃってますか!?」
涙声で反論するサキュバスクイーンと調子に乗って罵倒しまくるルル──腹ペコ。
俺はというと、特に動く事も考える事もなく、彼女達の言い争いをボーッと聴き続けた。
何だろう、この不毛な時間。
一体、どうしたらこれから逃れる事はできるのだろう。
「あー!もう頭きた!!もう死んじゃえ、パーカ!バーカ!!」
敵意を感じ取った俺は、反射的に腹ペコの身体を押し倒す。
彼女の身体を押し倒した瞬間、俺達が隠れていた木箱は爆散した。
「くっ……!やっぱり、乳首からビーム出るじゃないですか!」
「乳首からじゃねぇわ、バーカ!!」
爆煙が晴れると同時にヒモみたいな水着を着ている女性──サキュバスクイーンの姿が見える。
彼女の右手には赤を基調にした短剣が握られていた。
「うわ……」
すぐさま起き上がった俺は、サキュバスクイーンの痴女みたいな──いや、紛うことなき痴女そのものの格好をしている彼女にガチでドン引きしてしまう。
うん、見るのは2回目だけど、何回見てもドン引きしてしまう。
一体どういう神経をしていたら、あの殆どヒモみたいな服に袖を通す事ができるのだろう。
恥という概念を持ち合わせていないのだろうか?
「うわって何よ、うわって!私だって好きでこんな格好してるんじゃないから!!この格好の方がサキュバスとしての力を発揮できる訳で……てか、何であんたはドン引きしてんのよ!?あんた、男でしょう!?なのに、私の魅了にかからないの!?」
涙目で恥ずかしがっているかと思いきや、今度は急に焦り始めた。
感情が豊か過ぎる。
どっかのバカみたい──
「はっくちゅ!!……あー、誰か私の噂したのかしら」
……どっかのバカのくしゃみが聞こえてくる。
どうやら、この先にいるらしい。
つまり、このサキュバスクイーンを倒さないといけない訳だ。
「くっ……!なら、直接魔法を掛けるまで……!喰らいなさい、私の全力全霊……!『夢への誘い』
敵の目から桃色の光線が放たれる。
即座に刀を抜こうとするが、身体に走った痛みによって、俺の行動は強制的に停止してしまった。
(しまっ……!)
ろくに抵抗ができないまま、俺の身体は光線をモロに浴びてしまう。
が、幾ら待っても俺の身体に変化は現れず。
身体の状態を見る。
どこを見渡しても、傷1つ見当たらなかった。
「な、何で私の魅了魔法が効かないのよ……!?男だったら、この魔法が当たるや否や■■■丸出しにして腰振り出すってのに!?」
「なんて魔法を掛けようとしたんだ、お前」
敵の驚き方を察するに、恐らく俺は彼女の魔法を無効化したんだろう。
腹ペコのバフを無効化した時から薄々気づいていたが、どうやら俺の身体はバフもデバフも受け付けない身体らしい。
……良かった、バフもデバフも受けつけない身体で。
一歩間違えていたら、ポコチン丸出しにして腰振っていただろう。
……こいつらといい、目の前の敵といい、どうしてこの浮島にいる女性達は、隙あらば尊厳破壊しようとするのだろうか?
「仕方ないじゃない!私だってこんな魔法を使えるようになりたくなかったわ!!もっと可愛くてお洒落な魔法を使いたかったの!!」
「貴方みたいな下賤な売女にはお似合いの魔法だと思いますよ?」
「ぶっ殺す!!」
「ひぃ!助けてください、コウさん!
「自業自得だ、バカ」
「仕方ないじゃないですか!?これでも聖職者だったんですよ!?清貧禁欲を心掛けていた者としてサキュバスの存在は許せないんです!」
「清貧はともかく、お前、禁欲できてねぇじゃん。煩悩塗れじゃん」
「コウさん、食べられる時に食い溜めしておかないとお腹が減るんですよ?」
「いや、お前、食い溜めしてもすぐお腹減るじゃん」
「無視すんなあああああ!!!!」
サキュバスクイーンは同じ技をもう1度俺に喰らわす。
が、彼女の魔法は俺に作用しなかった。
「何で効かないのよ!?……はっ!もしや、あんた、女よりも男の方が好きな訳……!?」
「そうなんですか、コウさん!?」
「普通に女の子の方が好きです」
「じゃあ、何で私の魔法を無効化したのよ!?ランクの高い魔道具でも持っているいる訳!?」
「ふっ、敵に教える訳ないじゃないですか」
「キィぃぃいいいい!!!」
俺に投げかけられた質問を何故か勝手に答える腹ペコ。
おい、俺から発言権を奪うな。
今でさえ空気なのに、もっと空気になるじゃないか。
「ああ、もう!何でこんなに上手くいかないのよ!!怒りで脳の回路パンクしそうだわ!こうなったら、ゴリ押しで……!」
サキュバスクイーンは赤を基調にした短剣を握り締めると、その鋒を俺達に向けようとする。
それよりも先に俺は鞘に入れたままの状態で刀の鋒を敵に向けた。
「──新芽はやがて光神を穿つ」
刀の柄を両手で握り締めた途端、鞘の中に収められていた刀身から黄金の風が漏れ出る。
この技に刀は要らず。
刀を抜かず、刀を振らず、最小限最低限の力で繰り出す1度きりの飛刀術。
「神殺しの宿木」
刀を収めていた鞘は、黄金の風により銃弾のように撃ち出される。
駆け抜ける姿、まさに矢の如し。
鞘は音速よりも少し遅い速さで空間を駆け抜けると、敵の短剣を粉々に撃ち砕いた。
「きゃっ……!?」
敵の武器を破壊した鞘は、その役目を終えると、勢い良く床の上を転がる。
俺の攻撃により武器を失ったサキュバスクイーンは、その場に尻餅を突いた。
「へ……?な、何が起きて……?」
キョトンとした様子のサキュバスクイーンに俺は残った力を振り絞って、刀の鋒を向ける。
「どうする?まだやるか?」
「ひ、ひぃ!」
脅しは十分に効いたらしく、サキュバスクイーンは慌てて立ち上がると、脱兎の如くこの場から撤退した。
敵がこの場から去ったのを目視した後、俺はその場に膝を突く。
最小限最低限の力で放った筈なのに、俺の体力はそろそろ尽きかけようとしていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
腹ペコ──ルルは慌てて俺の下に駆け寄ると、今にも倒れそうな俺を抱き締める。
「悪い、ルル……肩を貸してくれ。今の内にこの先にいるであろうバカ令嬢を助け出したい」
「む、無理ですよ!?そんな状態で敵と遭遇したら……!」
「いや、大丈夫だ。気配から察するに、この先にいるのはあのバカだけだ。……さっさとあいつを助けて、どっかで休憩しよう。今はそれが最善手だ」
そう言って、俺はルルの肩を借りて、バカ令嬢──リリィの下に向かう。
広間の先にある小さな部屋にバカはいた。
バカはジュースを飲みつつ、果物らしきものを齧りつつ、本を読みながらごろ寝していた。
「………………」
「………………」
結構な時間もかけて歩き回った挙句、四天王と闘い疲弊した俺と腹ペコは、リラックスした様子で獄中生活を満喫しているバカ令嬢に殺意に似たものを抱く。
俺と腹ペコは無言で彼女に背を向けると、部屋から出ようとする。
「あ、コウ!ルル!助けに来てくれたの……え、なんで私に背を向けているの?え?なんで退室しようとしてるの?え?なんで私を助けてくれないの?……あ、分かった。私がバカやった挙句、獄中ライフを満喫しているから怒っているのね。いや、これはその、何て言いますか、その……こ、これは戦略なのよ!私が考えなしに魔王軍に捕まる訳がない……ごめんなさい。ガチで調子に乗ってました。暇だったからという理由で歌いました。ごめんなさい、反省しています。だから、助けてください。お願いします」
振り返る。
俺はこの時の彼女の姿を生涯忘れる事はないだろう。
それはもう見事としか言いようのないとても綺麗で思わず見惚れてしまいそうな土下座だった。
……次回に続く。
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次の更新は7月12日月曜日12時頃を予定しております。
これからも完結目指して、頑張りますのでよろしくお願い致します。




