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サキュバスの力と乳搾りと空気

前回までのあらすじ:サキュバスクイーンと遭遇した。


 騎士団長戦で力を使い切った俺とルル──腹ペコは、近くにある木箱を用いて身を隠しながら、広間の中央にいるサキュバスクイーンを観察する。

 サキュバスなのもあって、彼女はほぼ全裸みたいな格好──乳首と股間しか隠していない──をしていた。

 角と尻尾が生えた美女を警戒しながら、俺はこの状況の突破口を見出そうと試みる。

 だが、俺の足りない頭では幾ら考えても良い方法は思い浮かばなかった。


(くそ、この場にあいつがいてくれたらなぁ)

 

 バカ令嬢──リリィの顔を思い浮かべる。

 あいつ、普段はバカしかやらないが、こういう危機的状況だと頼りに………なる時もあれば、ならない時もあるんだよなぁ。

 それでもいるかいないかだと、いた方が遥かに良いんだけど。

 

「ねえ、話聞いてる?大人しく捕まって欲しいんですけど」

 

 乳首からビームを発射できるかもしれないサキュバスクイーンは、木箱の裏に隠れる俺達に声を掛ける。

 

「悪いようにしないわよ。だって、あんたらは神器の仲間なんだから」


「……神器?」


「あり?知らないで一緒に行動してんの?なら、教えてやるわよ。リリードリ・バランピーノはね……」


 サキュバスクイーンが重要そうな情報を言いかける。

 それを腹ペコが切羽詰まったような声でそれを遮る。


「コウさん!耳を貸さないでください!油断した瞬間、乳首からビーム出ますよ!」


「マジか!?」


「出ないわよ!」


 どうやら乳首からビームは出ないらしい。

 

「腹ペコ、ちょっと黙って貰えないか?今、重要そうな単語が出てきたか──」


「気を許さないでください!頭蓋骨を膣で粉砕されますよ!!??」


「ガチで!?」


「しないわよ!?あんた、私をなんだと思っている訳!?」


「乳首から毒針を、尻からは致死度の高い毒ガスを噴射し、鍛え抜いた膣で相手の頭蓋骨を粉砕する極悪非道の魔人」


「……!」


「ガチでサキュバスの事をなんだと思ってんの、あんたら!?」


 サキュバスクイーンの絶叫が広間に響き渡る。

 どうやら腹ペコが言っている事は全部嘘みたいだ。


「騙されないでください、コウさん!本人はああ言ってますが、修道院長(おかあさん)の話が本当なら、アレの出す屁は半径3キロを火の海に変えるみたいです!」


「──なっ!?」


「んな訳あるかっ!!」


 聞き迫る表情で俺の警戒心を高めさせようとする腹ペコ。

 そんな彼女にサキュバスクイーンは喉が張り裂けんばかりの勢いでツッコミの声を上げる。

 腹ペコの表情から察するに、彼女は嘘を吐いているように見えなかった。

 ……多分、彼女の言う修道院長とやらが誤った情報を与えたんだろう。

 いや、もしかしたらサキュバスクイーンが嘘を吐いているだけで、腹ペコの方が正しい事を言っている可能性も考慮できる。

 ああ、とてもややこしい。

 この浮島に来て十数日。 

 まだまだ分からない事だらけなので、どっちが正しい事を言ってるのか全然分かっていない。

 分かっている事は2つ。

 目の前の敵は俺達を捕縛しようとしている事、そして、今の俺達は目の前の敵に対抗する手段がない事。

 それだけだ。


「ついでに私が空腹である事も付け加えて下さい」


「心を読むな」


 彼女の頭をハリセンで叩きながら、俺は小声で話しかける。


(おい、腹ペ……ルル。ここから逃げるぞ)


 敵に聞こえないように小声で隣にいる彼女に撤退を呼びかける。

 彼女は首を横に振ると、深刻そうな顔でバカみたいな事を言い始めた。


(逃げる事は難しいと思いますよ。サキュバス は逃げようとする敵に出した糞を投げつける習性を持ち合わせています。その糞が身体に当たったら最後、一瞬でお陀仏です)


「んな習性持ち合わせていないんですけど!!??サキュバスがそんな色気のない事をする訳ねぇんだけど!」


 小声で話しているにも関わらず、サキュバスクイーンは腹ペコの戯言をちゃっかり聞いていた。

 どうやら敵は地獄耳らしい。


「乳首から毒針やビームを出さない。尻からは致死度の高い毒ガスを噴射しやい。鍛え抜いた膣で相手の頭蓋骨を粉砕もできず、屁も糞もただの人間と変わらない……じゃあ、貴方は何だったらできるんですか!?」


「何でキレられなきゃいけないのよ!?キレたいのはこっちの方だわ!!」


 逆ギレする腹ペコにブチギレるサキュバスクイーン。

 皆さん、現場はカオスな状況に突入しつつあります。

 

「いい!?サキュバスはねぇ、異性を魅了したり、巧みな性技で異性を絶頂に導いたり、異性から吸収した精気という名の魔力を他の人に渡したりとか、対異性に特化した力を使う事ができるの!あんたが言っているみたいな面白おかしな攻撃はできないっての!!」


「え!?じゃあ、貴方は異性にエッチい事しかできない能無しなんですか!?」


「喧嘩売ってんなら、買うぞコラァ!!」


 怒り狂うサキュバスクイーン。

 そんな彼女に油を注ぐかの如く、腹ペコは挑発する。


「エッチい事しかできない癖によく魔王軍四天王になれましたねえ!?そんなんで魔王軍四天王になれるんですか!?なら、私、魔王軍の四天王になりたいんですけど!こう見えて、牛の乳搾り、すっげぇ上手いんですよ!!」


「サキュバスの力と牛の乳搾りを一緒にすんな!!無礼者!!」


「同じようなもんでしょう!ミルクをビュービューさせる事が目的な時点で、男の■■■絞りも牛の乳絞りも大差ないです!」


「あるわ、ボケェ!男の■■■絞りの方が牛の乳搾りよりも難しいわ、ボケェが!!というか、その発言で分かりましたー!あんた、処女でしょ?生娘でしょ?■■■■未経験歴イコール年齢でしょ!?だから、そんな事が言えんのよ!あんたみたいな生娘には分からないでしょうけど、男って中折れするのよ!?萎えたって言って、途中でふにゃふにゃの■■■になんのよ!?刺激さえ与えれば勝手にビュービュー出す牛の方が何万倍も楽だわ!!」


「それは貴方に魅力がないからでしょう?主はこう仰いました。"男の人の肛門の中にはやる気スイッチがある"と。そのスイッチの存在を知らずに百戦錬磨を名乗るなんてゴルゴーン防弾!」


「言語道断な」


「どうせ貴方は前戯くらいしかやってないんでしょう?そりゃあ、やる前に"本番はNGで"って言ったら、中折れしちゃいますよ。主はこうも仰いました。"手だけで満足するのは10代まで"と。貴方は男性の精力を過信しています。だから、相手の■■■をポッキリ中折っちゃうんです!」


「ちゃう!中折れは■■■の骨折ちゃう!挿入中に萎えるのが中折れなの!あんたが言ってるのは陰茎骨折!」


「そんな事を話しているのではありません!淫乱処女ビッチ!私は貴方の将来について話しているんです!!」


「あれ!?そんな話だったかしら!?」


 いや、そんな話じゃなかったと思う。

 腹ペコとサキュバスクイーンの言い争いは続く。

 俺はそれを聞き流しながら、天井を仰ぐ。

 俺達の頭上を見知らぬ魚が気持ち良さそうに泳いでいた。


 ……やべ、今の俺、かなり空気だ。


 ……後編に続く

 ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。


 そして、感想を書いて下さった勇人さんにこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。

 勇人さん、いつもいつも貴重な時間を削って本作品の感想を書いてくれて、本当にありがとうございます。

 このありがたい感想を糧にこれからも精進していきます。

 重ね重ねになりますが、いつも感想を贈って下さってありがとうございます。

 この場を借りて、厚く厚くお礼を申し上げます。

 

 

 次の更新は明日の12時頃です。

 これからも完結目指して執筆していきますので、お付き合いよろしくお願い致します。

 

 

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 僧侶って決して大人しい性格じゃないよね この性格でどうして勇者パーティの中で迫害されてたのか判らん めっちゃ文句言って暴れそうじゃないか?
[良い点] 新作、今回も楽しく読ませていただきました! ルルさんの大暴走が止まらない・・・。 しかし、ここにリリードリやレイがいたら、さらにカオスな展開になっていたことでしょうな。サキュバスがまるで…
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