壁と探索と外から来た敵
(前回までのあらすじ)
家に戻るため、コウはバカ令嬢と手を組む事になる。
バカ令嬢、コウに「あい、らぶ、ゆー」と告げる。
「さて、先ずは壁の外に出る方法を模索しましょうか。この街じゃ、私の手配書が出回っているから金稼ごうにも金稼げないし。一刻も早く、壁を越えないと資金が尽きて動けなくなるわ」
煉瓦造りの家──バカ令嬢曰く、ここは空き家らしい──にて、俺はバカ令嬢と壁の外に出る方法について話し合う。
……先程のキスとか愛の告白とかは忘れる事にした。
………本能がこれ以上、深掘りするなと告げていたので。
「不思議な力……魔術って言ったっけ?あれで壁を乗り越える事はできないのか?」
椅子に浅く座った俺は木製の机に肘を突きながら、彼女に疑問を呈する。
「私の魔術の腕じゃ無理ね。まあ、できたとしても、街の中央にある塔で壁を監視している騎士から見つかってしまうわ。現実的な方法じゃない」
「じゃあ、商人の荷車に隠れるとか?」
「それも無理ね。門を出入りする際、騎士達が荷物を隅から隅までチェックするから」
「じゃあ、壁を破壊するってのはどうだ……?」
「騎士達を無駄に集めてしまうわ。破壊後、壁の外に走って逃げたとしても、馬に乗った騎士達に追いつかれてしまう」
淡々と俺の意見を批判するバカ令嬢。
やはり言動がアレなだけで、知能自体は高いみたいだ。
バカと天才は紙一重というものだろう。
「……やはり、王国から許可を得る方法……或いは許可を偽造する方法は取れない、よな……?」
「私が指名手配犯じゃなければ余裕で許可取れたでしょうね、2週間かかるけど。あと、許可の偽造も非現実的だわ。王族の魔力を帯びた印鑑と王宮で製紙された書類が必要だし」
「それを奪う事は……?」
「できたとしても、王族も騎士団も馬鹿じゃないから、印鑑と書類を取り戻す……或いは新しいのを作るまでの間、門の出入りを禁じると思うわね。ていうか、そんな事をしたら、"何者かが不法出国しようとしている事"が王族達にバレてしまうわ」
「なるほど、かなり難易度が高いって事か……」
難易度ベリーハードにしやがった原因をチラ見する。
「おい、バカ令嬢。何か良い案とかあるのか?」
「この街を爆破する」
「んな事したら、かなりの人に迷惑かかるだろうが」
「ぷきゃああああ!!!」
目の前にあった机をちゃぶ台返しして、俺は彼女に制裁を下す。
「何で一々爆破したり燃やしたりしようとしてんだ!?俺の元いた場所じゃ放火ってかなり重い罪なんだぞ!!!!それで人が死んだらどうする!!??」
「だ、大丈夫よ!そっちの国じゃ、どうか分からないけど、こっちの世界は初級魔術使える人が沢山いるから、火事の1つ2つくらい子どもだって消せるし!!焼死する人なんて、魔術師か魔獣に焼き殺された人しかいないわよ!!本当よ!嘘じゃないわよ!!」
机攻撃をモロに受けた彼女はヨロヨロ立ち上がりながら弁明する。
その目はちょっとだけ泳いでいた。
多分、消せる人は多いけど、全員が全員消せる訳じゃないんだろう。
「ガキでも消せるからって、放火していい理由になり得ねぇんだよ!火事で家失くした人の気持ちになって考えろ!こっちの世界の事は知らんが、家建てるのだって金とか手間とかかるんだろう!?思いつきで人が寝起きする場所を奪ってんじゃねぇよ!!」
「家がないなら路地裏で寝起きすればいいじゃない!!」
「なら、お前が路地裏で寝起きしろ!クソ令嬢!!」
人に迷惑かかるやり方は良くないと認識したので閑話休題。
とりあえず、俺達は少しでも情報を収集するために、街の中を散策する事にする。
街は中世ヨーロッパの街並みを想起させるものだった。
煉瓦造りの家に煉瓦造りの道。
赤色の屋根と白色の壁が街を彩り、槍みたいな頭をした建物みたいなのが街に緊張感のようなものを与える。
そして、家の近くには街路樹と思わしき緑色の葉を実らせた木が突っ立っていた。
ゲームとかでよく見る街並みを目の当たりにして、ちょっとだけ興奮してしまう。
が、その興奮は街を取り囲む無粋な壁によって打ち壊されてしまった。
街の景観をぶち壊す壁を忌々しく睨みつけながら、俺はつい言葉を発してしまう。
「……なあ、バカ令嬢」
煉瓦の道を歩きながら、俺は壁の外を指差す。
「あの壁の向こう側には、一体何があるんだ?」
「さあ?行った事がないから分からないんだけど……聞いた話によると、魔獣とか盗賊とか危ないものが沢山いるらしいわよ。荒れた荒野だっていう人もいたわ」
彼女の語る外の世界は夢も希望もなかった。
「それでも、私は外の世界を見てみたいわ、この目で。だって、刺激が沢山あって退屈しそうにないじゃない」
「退屈、……ねぇ」
今までの人生で退屈を感じた瞬間を思い出そうとする。
……校長先生の話と家庭科の授業中しか思いつかなかった。
多分、目の前にいる彼女は日常的に退屈を感じるような日々を送っていたのだろう。
毎日のように校長先生の話を聞かされる人生なんて嫌だと思った。
「とりあえず、街を一望しましょうか。闇雲に歩くのは時間の無駄でしょうし」
そう言って、彼女は3階建てのマンションみたいな建物の中に俺を誘導する。
石造の階段には手すりがなく、傾斜も急だったため、非常に登り難かった。
多分、ここにはバリアフリーなんて概念は存在しないんだろう。
転倒しないように気をつけながら、階段を登り切った。
そして、最上階に辿り着いた俺は、リリィに促されるがまま、屋上に繋がる梯子をよじ登る。
屋上に辿り着いた俺達が目にしたのは、煤だらけになった巨大なお城だった。
姫路城以上にデカい洋風のお城は、灰色を基調にしている所為で薄暗さを感じさせる。
何年も修繕していないのか、城の外装は遠目でも薄汚れている事が分かった。
「……あれか?お前がいた王宮って」
「いや、アレじゃないわ。ここからじゃ見えないけど、アレの下にある王宮がそうよ。アレは王族の中でも初代国王の直系の者にしか立ち入る事ができないお城。今は真王とその妻、そして、子ども数十人しか住んでいないと聞くわ」
「マオウ……?それって、魔を統べる王って書いて魔王か?」
「いいえ、真実の王と書いて、真王。魔王は別にいるけど、貴方が言っているみたいな魔を統べる王じゃないわ。真王を倒そうとする反乱分子の長が魔王と呼ばれている……って言ったら分かるかしら?」
「大体分かった。つまり、この王国に敵対する組織のリーダーって訳か」
"そういう事"と呟く彼女を尻目に俺は街を取り囲むように聳え立つ壁を注意深く観察する。
パッと見、壁にはよじ登れそうな穴とかは見当たらなかった。
さっきバカ令嬢が言っていた街の中心にある塔──壁を見張る騎士達を見る。
塔の天辺から反射した太陽光が垣間見得た。
あの反射した光の数が壁を監視する騎士の総数である事を把握する。
恐らく反射しているのは望遠鏡のレンズみたいなものなのだろう。
「……数はざっと30くらいか。なあ、ここの望遠鏡って暗い所でも見える性能持ってんのか?」
「ええ、5キロ先なら余裕で見えるそうだわ」
「……5キロのキロってキロメートルの事か?」
「?それ以外に何があるのかしら?」
「いや、いい。なんでもない」
どうやらここの距離の単位も俺が元いた所と共通みたいだ。
フクロウが不思議な力で俺の認識を弄っているのか、それとも、元々ここは言語も単位も日本と同じものを適用しているのか。
判断材料が少ないため、今の俺では答えを導き出す事はできそうになかった。
「さて、どうやって出ましょうか」
「魔術とやら以外に壁を乗り越える方法は?気球や飛行機とかはないのか?」
「キキュウ……?ヒコウ、キ……?」
「いや、何でもない」
彼女の反応から気球や飛行機などの乗り物がここにない事──いや、そもそも空を飛ぶための手段が魔術とやら以外にない事を把握する。
「と、なると……あそこを出入りするしかないって事か」
荷車を引いた馬が出入りしている大きな門を眺めながら忌々しく呟く。
大きな門の前には、商人らしき人と厳つい鎧を着た大男達が屯していた。
「あそこ以外に出口はないのか?」
「ないわね。過去に下水道を経由して逃げようとした犯罪者がいたらしいけど、次の日、死体の状態で発見されたみたいだし」
「……と、なると、あそこにいる奴等を欺くしかないって事か……」
苦々しく呟いた瞬間、街全体に鐘の音が鳴り響く。
「──っ!?なんだ!?」
「どうやら、"来た"みたいね」
バカ令嬢は苦虫でも噛み潰したような表情を浮かべる。
「来たって……何がだよ」
「"敵"よ」
彼女がそう言った瞬間、壁の外から獣の雄叫びが聞こえてきた。
ここまで読んでくれた方、そして、ブクマしてくれた方に厚くお礼を申し上げます。
これからも皆様がブクマして良かった・評価ポイントを送って良かったと思えるような作品を執筆していきますので、完結までお付き合いしてくれると嬉しいです。
次の更新は本日21時を予定しております。
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