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露出願望と気合&根性と名誉ある死

 前回までのあらすじ:バカと変態が魔王軍に捕まった。


 ガラスでできた通路を通りながら、俺とルル──腹ペコは湖の底に広がる地下通路を探索する。


「あの、本当に闘えないんですか?」


 絶望感満載の表情で腹ペコは俺の隣を歩く。


「無理だな。騎士団長との闘いの所為で刀を振る事さえできそうにない。今は走るくらいで精一杯だ」


 流石に"風斬(ふうぎり)"13連発は無茶だったのか、俺の身体は悲鳴を上げていた。

 戦闘を重ねる度に、俺は着実に強くなっている。

 浮島(ここ)に来たばかりの頃の俺では"風斬(ふうぎり)"13連発を放っている最中に力尽きていただろう。

 今歩けている事実が成長を物語っている。

 けど、まだ身体が技の反動に耐えられる程鍛えられていないのだ。

 ただそれだけの話。

 

(次に披露する新技は威力じゃなくて、コスパを重視したものにしないとな)


「じゃあ、もし逃げられない状況に陥ったらどうするんですか?」


「そん時はデッドエンドだな」


「服脱ぎます」


「何でだ」


 虚な目をしながら、シスター服を脱ごうとする腹ペコ。

 彼女を羽交い締めする事で強引に止める。


「止めないでください。死ぬ前に後悔だけはしたくないんです」


「後悔しない事と服を脱ぐ事にどういう因果関係があるんだ?」


「一度、全裸で……」


「いや、言わなくてもいい。分かったから」


「分かったのなら、離してください!」


「理解と納得は別物だぞ」


「ここで全裸になれずに魔王軍に殺されたら、私、めちゃくちゃ恨みますよ!いいんですか!?化けて出ますよ!!全裸で!!!!」


「結局、全裸になるじゃん」


「ていうか、私が全裸になった所で何も問題ないでしょう!?ここには魔王軍しかいないんですし!コウさんが目を瞑ってくれれば問題ナッシングです!!」


「嫌だ、目を瞑ったままじゃ前に進めないし」


「なら、私が手を引いてやります!全裸で!!」


「全裸の女に手を引かれたくない」


「だったら、私に首輪をつけてください!盲導犬みたいに私がコウさんを導いてやります!」


「余計嫌だわ。マニアック過ぎる」


「というか、私が全裸になった所で誰が不利益を被りますか!?私みたいな見窄らしい女の全裸を見て興奮する人なんていないでしょうし!なら、服を着ても着なくても同じじゃないですか、コンチクショー!!」


「もっと自信を持て。そなたは美しい」


「ドキン!な、なに口説こうとしてるんですか!?変態!!私みたいな食欲だけの女を口説いても何も得られませんよ!」


「口説いてないから」


 ギャーギャー騒ぐ腹ペコを止めていると、通路の奥の方から足音が聞こえてきた。


「げ!?見つかった!?」


 徐々に足音が近づいて来る。

 俺はどこかに隠れようとした。

 が、そう都合良く身を隠せる所がある訳でもなく。


「くそ……!一か八か……!」


「いや、コウさん。一か八かするなら、あそこに隠れましょう」


 腹ペコは天井を指差しながら、刀を抜こうとする俺を止める。


「主は仰いました。"上を向いて歩く人はいない"と」


「いやいや、絶対にバレるって。ていうか、どうやって天井に隠れるんだよ」


「気合い&根性で張り付くんです」


「気合い&根性でなんとかできるもんじゃ──」


 背後から気配を感じ取る。

 それと同時に俺達は気合いと根性でガラスの天井に張り付いた。

 ……人って案外、気合いと根性でどうにかできるもんだな。

 魔王軍の兵士らしき怪人は、俺達に気付く事なく、素通りしていく。

 ……人って案外、上見て歩かないんだ。


「よし、先に進みましょう」


 床に着地した腹ペコは前に向かってスタスタ歩き始める。 

 色々言いたい気持ちはあったが、俺は大人しくその後を追いかけた。

 そして、俺達はバカ令嬢達を探すため、地下通路を探索し始める。

 その間、俺は腹ペコ──ルルの生い立ちを簡単に聞いた。

 どうやら幼い頃、彼女は戦災で家族を失ったらしい。

 天涯孤独になった彼女は衣食住を確保するために僧侶になったそうだ。

 しかし、数ヶ月前、所属している教会の財政難の所為で冒険者にならざるを得ない状況に陥ってしまい。

 何やかんやで勇者からスカウトされて、何やかんやで俺達のパーティに所属する事になったんだとか。


「戦災……か」


 彼女の生い立ちは俺によく似ていた。

 違う点はただ1つ。

 俺は彼女と違って、助けられるかもしれない家族を見捨てて逃げ出した。

 そして、揺れが収まるまで、何かしようとも思わなかったし、何も動こうとしなかった。

 ……今でも悔やんでいる。

 あの時、俺が動いていたら別の道があったんじゃないかと。

 

「ルル、お前は……その、後悔していないのか?」


「ん?何がですが?」


 俺の疑問がピンと来ていないのか、彼女は首を傾げる。


「生き残った事だよ、お前は後悔していないのか?」


「する訳ないじゃないですか。後悔した所で、お腹いっぱいになる訳ないですし」


「…………死んでいった人達に報いる生き方をしようと思わないのか?」


「私はお腹いっぱい(しあわせ)になるために生きているんです。極論を言ってしまえば、他の人がどうなろうが世界がどうなろうが構いません」


 俺とルルの価値観が違う事を思い知らされる。 


「言っておきますけど、これは極論ですからね。流石に受けた恩を仇で返す程、私は人でなしじゃありませんし、世界が滅亡しそうになったら何かしら思う所はあります。ただ死んだ人や誰かのために生きるくらいなら、自分のために生きてやるって思ってるだけで」


 彼女が出した結論は俺と真逆のものだった。

 環境の違いか、それとも個人の資質の問題なのか分からない。

 同じ災害(じごく)から逃れたというのに、彼女は生に貪欲だった。

 

「コウさんも私と同じように災害(じごく)から抜け出したんでしょ?」


「……リリィに聞いたのか?」


「いや、ただの勘──というより匂いです。コウさんの眼から火の粉の匂いがしたんで」


「……悪いな、未練たらたらで」


 どうやら俺の後悔はとっくの昔に見抜かれていたらしい。

 気まずくなった俺は彼女から目を背ける。


「これは私個人の立場ではなく、かつて神に仕えた者の立場から言わせて貰います。コウさん、決して名誉ある死を選んではなりませんよ。それで満足するのは貴方だけで、償いになりませんから」


 名誉ある死──その単語を聞いた途端、自分が本当に望んでいた事を理解した。

 そうだ。

 俺は死んだ人に報いる生き方でも、生きている人に報いる生き方をしたい訳じゃない。

 名誉ある死を望んでいたのだ。

 あの震災で見捨てた犠牲者に詰られないような死に方をしたかっただけで、特に幸せになりたいとか長生きしたいとか思っていなかったのだ。

 ただ言い訳が欲しかっただけ。

 あの日、家族を見捨てた理由と苦しんでいる人達を助けにいかなかった理由が欲しかっただけ。

 ただ誰にも責められないような生き方をして、誰にも詰られないような死に方を求めていただけなのだ、俺という人間は。


(……ああ。俺が望んでいるのは、こういうものだったんだ)


 名誉ある死を欲していると自覚した途端、自分という人間が正しさを求めているだけである事に気づいた。

 そして、自分の中身が空っぽである事に気づかされた。


「で、これは僧侶とかいう腹の足しにもならないクソみたいな立場ではなく、私個人から言わせて貰いますと、コウさんは現実と向き合い過──」



 木箱が沢山積まれている広間──恐らく弾薬などを置く場所だろう──に辿り着くや否や、俺は敵意を感じ取った。

 

「──っ!?」


 人の気配を感じ取った俺は、腹ペコの前に立つと、飛んで来た攻撃を鞘で受け止める。

 飛んできた攻撃──桃色の光線は、鞘に直撃すると、小さく爆ぜた。

 無理に動いた所為で、俺の身体に筋肉痛に似た痛みが走る。

 とてもじゃないが、闘える状態じゃなかった。


「あんたらで合ってるわね?お嬢様とリリードリ・バランピーノが言っていたお供は」


 近くにあった木箱の陰に隠れながら、俺とルルは広間の真ん中にいるであろう敵の攻撃に備える。


「何者だ、お前は……?」


「魔王軍の四天王"サキュバスクイーン"と言ったら分かりやすいかしら?ねぇ、あんたら、大人しく捕まってくれない?そうしてくれたら、かなり楽なんだけど」


 妖艶な女の声を聞きながら、俺はルルと目を合わせる。

 彼女は虚な瞳のまま首を横に振ると、服を脱ごうとしていた。

 俺は彼女の頭をハリセンで叩いた。

 

 次回に続く。

 

 ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。


 また、レビューを書いてくださった勇人さん、感想を書いてくださった瘴気領域さんに厚くお礼を申し上げます。

 本当にありがとうございます。

 頂いたレビューや感想を糧にこれからも完結目指して執筆していきますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

 次の更新は明日の12時頃に予定しております。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >シスター服を脱ごうとする腹ペコ シスター辞めるて言ってたじゃん もう町で着替えてたのかと思ってた 主人公たちにスカウトされたから、僧侶続けてたってことか
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