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白昼夢と果たすべき事と見えない亀裂

 ──生まれて初めて白昼夢を観た。

 夢の中の俺は生まれたばかりの赤ん坊だった。

 死んだ筈の父と母、そして、姉が俺の生誕を祝う。

 夢の中の俺はすくすくと成長した。

 真っ直ぐ健やかに。

 夢の中の俺は夢見ていた。

 未知の世界を探検する事を。

 冒険家になって、見た事のない風景を見る事を。

 ──だが、夢の中の(かれ)は夢見る子どもではいられなくなった。

 北部九州大震災。

 それにより、俺は父も母も姉も、そして、夢見る資格も奪われた。

 家族を見捨て、救いを見捨てる人を見捨てた俺は、今までのようにのうのうと生きてはいけない身体になってしまった。

 だから、俺は死んでしまった人達に報いる生き方をしようと思った。

 見捨てた事を正当化するために生きようとしていた。


『──生者が死人にしてやれる事なんて1つもない』


 夢の中の俺は神社の境内で義父の話に耳を傾けていた。

 遥か昔、俺がまだ"上寺"の姓を名乗っていた時に聞いた言葉だ。


『葬式も埋葬も墓参りも死人に報いる生き方も、全部、生者の自己満足だ。だから、どうせ生きるのなら死んだ人よりも生きている人のために生きた方が良い』


 義父の言葉は共感できなかったが、理解だけはできた。

 だから、俺は生きている人に報いる生き方をしようと思った。

 義父母が誇りに思えるような息子になろうとした。

 勉強も頑張った。

 運動も頑張った。

 沢山の賞を取ったし、近所の人は俺を神童だって褒めてくれた。

 けれど、義父母は俺を褒めるだけで心の底から俺の事を褒めてくれなかった。

 ずっとぎこちない笑みを浮かべていた。

 だから、俺は義父母の恩に報いるために、義父母が運営している神社を引き継ぐと言った。

 義父母は表面上喜んでくれた。



 それから、夢の中の俺は神仏系の大学に進学できるように頑張った。

 頑張った結果、夢の中の俺は希望していた大学に進学できた。

 義父母は一応喜んでくれた。

 夢の中の俺は彼等の恩に報いるために今まで以上に頑張ろうとした。

 だが、夢の中の俺は彼等を真の意味で報いる事ができなかった。

 大学の入学式が終わった数日後、F県日暮市久遠村を震源にした大地震が起きた。

 その所為で義父母は死んだ。

 継ぐ筈だった神社もなくなった。

 夢の中の俺は再び天涯孤独になった。

 暫くして、夢の中の俺は地震の原因が始祖■■■である事を知った。

 それを知った俺は生者に報いるための生き方を止めた。

 ──俺は再び"上寺"の姓を名乗るようになった。

 それから、刀を手にした夢の中の俺は永い永い旅を始めた。

 全ては始祖■■■を倒すため。 

 死んでしまった人達に報いる生き方をする事で、俺は自分を──



「コウっ!!」


 ──リリィの声で現実に引き戻される。

 気がついたら、俺はレイと共に地面に寝転がっていた。

 慌てて立ち上がる。

 すると、ゆっくり立ち上がろうとする騎士団長の姿が見えた。

 先程の攻防から僅か数秒しか経っていない頃に気づかされる。


(……なんだ?今の白昼夢は……?)


 永い白昼夢だった。

 途中までは見覚えのある思い出(かこ)だったが、途中から俺のものではなくなった。

 未来でも視たのだろうか?

 夢の中の俺の闘いを思い出す。

 彼は永い永い時間をかける事で、基礎中の基礎である"風斬"を会得していた。

 その"風斬"を応用する事で、彼は自分よりも巨大かつ強力な相手と闘っていた。

 ……死んだ人に報いるために。

 正直、今の俺は夢の中の俺の生き方に賛同できない。

 それは、まだ俺が生きている人に報いる事ができるからだ。

 もし義父母が死んでしまったら、俺も夢の中の俺みたいに再び"上寺"を名乗るようになるだろう。


 騎士団長の腰が沈む。

 本能で悟った、次の攻防で白黒つくと。

 

「あー!!なんなんっすか!あのクソ鎧!! めちゃくちゃ硬くないっすか!? 私、手も足も出なかったんですけど!?」


 俺の隣で悔しがるレイから少しだけ離れる。

 そして、ルルとリリィを見た。

 心配そうに俺の顔を見つめる2人を見て、思わず笑みを零してしまう。


(……あいつらが死んだら、俺、かなり後悔するんだろうか)


 焼け爛れた両親、そして、黒い炭と化した姉の姿を思い浮かべる。


「なあ、騎士団長様」


 倒れているレイから十二分に距離を取った後、俺は奴に疑問を投げかける。


「お前が狙っているのはリリィだけか?」


 俺の視界に映り込むリリィがガッツポーズを披露する。

 おい、バカ、やめろ。

 緊張感を持て、ピンチだから。

 せめて状況が好転してからガッツポーズをしろ。

 そんなに愛称呼ばれる事、嬉しいのか、お前。


「騎士団長として今果たすべき事は4つ」


 奴は俺に不意を打たれないよう、緊張感を保ったまま語りかける。

 勇者達やオークキングのようにルルのバフ──感度を高める魔法──を騎士団長にかける事はできないだろう。

 かけようとした瞬間、素早い動きで避けられるから。

 それを分かっているのか、リリィもルルもピクリとも動かなかった。


「──1つ、リリードリ・バランピーノの確保」


 奴は剣を上段に構える。


「──2つ、魔王の娘の殺害」


 威風堂々。

 奴は微動だにする事なく、剣を上段に構え続ける。

 これは俺への挑戦状だ。

 先攻を俺に譲る事で、後の先を勝ち取ろうとしている。


「──3つ、勇者の全財産を奪い取った僧侶の斬殺」


「身に覚えのない罪を着せられている!?」


 ルルは絶望感が入り混じった声を出しながら項垂れる。


「大丈夫よ、ルル。身に覚えのない罪じゃないから」


 そう言って、リリィ──バカ令嬢は勇者から奪い取ったお金と宝石を見せつける。


「奪い取ったのリリィさんじゃないですか!!??なんで私が全面的に悪い扱いされているんですかー!!??」


 ルルの嘆きなんか知らないと言った様子で、騎士団長は淡々と自分のする事を機械的に告げる。


「──4つ、リリードリ・バランピーノの逃亡を助け、かつ魔王の娘を匿い、勇者を裏切った僧侶を保持するイレギュラーの討伐」


 騎士団長の剣から赤黒い光が漏れ始めた。

 身体から漏れ出る殺意。

 奴は俺の事を最大限に警戒している。

 奴から放たれるプレッシャーが俺の身体を──いや、周囲の空間さえも揺さぶった。

 地面も貨物も建物も人も、そして、湖面さえも殺意と剣から漏れ出た光で振動させる。


「──それが今、私が果たすべき事だ」


 赤い亀裂は未だ見えず。

 今の奴に有効打を与えられない事を否応なしに把握させられた。

 

 ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は本日21時に予定しております、

 本日で2万PV達成記念短編前半戦は終わりますが、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで騎士団がならず者勇者の味方するんだよ 明らかにチンピラだったろ?人の手柄奪ってたし
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