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西の果てと交渉とあいらぶゆー

前回のあらすじ:バカ令嬢と人型フクロウの魔術で浮遊大陸に呼び出された俺──上流光は、地上に帰してくれと訴える。

 が、人型フクロウはコウの話を聞く事なく退場してしまった。

 


 煉瓦造りの家から抜け出すと、メルヘンな世界だった。

 中世ヨーロッパみたいな街並みと手から出た炎で洗濯物を乾かしているパツ金おばさんを見て、俺はここが日本ではない事を把握する。

 途方に暮れた俺は空を仰ぐ。

 空はいつもよりも青の色が濃かった。

 恐らく俺が生まれ育った地上よりも宇宙に近い所為で、藍色に見えるのだろう。

 本当に現実世界かどうかは分からないが、ここが高度何万メートルの所にある事だけは把握する。

 試しに息を吸い込む。

 高度何万メートルの所にあるにも関わらず、空気が薄いとは感じなかった。

 多分、不思議な力で酸素が供給されているからだろう。

 もう1度、周囲を見渡す。

 街はバカでかい壁に囲まれていた。

 灰色の壁は壁の内にいる俺達に圧迫感に似た何かを感じさせる。

 なんとなく不愉快なものだった。

 他の所に視線を移す。

 すると、子どもの姿が視界に飛び込んだ。

 子どもは掌から出た水で花に水を与えていた。

 ……この世界についての考察を止める。

 多分、俺が知っている常識とは違う常識が機能しているんだろう。

 考える材料が殆どない今、考えるだけ時間の無駄だ。

 今、分かっている事は3つだけ。

 この世界は俺がいた場所とは違う事。

 王子の尻を爆破したバカ令嬢が捕まったら人類は滅亡してしまう事。

 そして、俺が元いた場所に戻るには"西の果て"に行かなければいけない事。

 

「……何で俺がこんな目に」


 溜息を吐き出しながら、バカ令嬢がいる煉瓦造の家に戻る。

 自業自得でお尋ね者になったバカ令嬢は、偉そうに椅子に座りながら、キリッとした表情でこう言った。


「で、話ができるくらいには落ち着いたかしら?」


「………………おう」


 無駄に偉そうな彼女に苛つきを覚えるが、寸前の所で堪える。

 ここでバカ令嬢を投げ飛ばしても、事態は何も好転しない。

 とりあえず、俺は少しでもこの困惑を解消するために、彼女に質問をする事にした。


「で、バカ令嬢」


「誰がバカ令嬢よ!!」


「王子の尻を爆破した挙句、王宮にいらない混乱を招いたバカはバカ呼ばわりでいいと思う。……どうしてもバカって呼ばれたくなかったら、今すぐ俺を元いた場所に戻せ」


「無理よ。私、初級魔術しか扱えないし。ていうか、人を召喚する魔術なんて、この時代の魔術師じゃ誰もできっこないわ。神話の時代の魔術師だし」


 俺を召喚した魔術とやらは、あの人型フクロウしか使えない事を把握する。


「という事は、あのフクロウを見つけるか"西の果て"とやらにある神なんちゃら兵器を取りに行かなければいけないって事か……なあ、バカ令嬢。あいつがどこに行ったか大体の予測はつくか?」


「知っている訳ないじゃない。あれと会ったの、つい数時間前の話だし」


「……は?」


「いや、さっき会ったのよ。あのフクロウみたいなのと。酒場でヤケ酒ならぬヤケミルク飲んでたら、意気投合しちゃって。で、"私、指名手配犯にされて困ってるんです〜"みたいな事を言ったら、"なら、貴方の助けになる人を呼びましょう"ってなったの。だから、私も聞きたかったのよね。あのフクロウが何者かって。ねぇ、貴方、あのフクロウって一体なんなの?貴方の知り合い?」


 ……どうやらこのバカ令嬢もあのフクロウについて何も知らないみたいだ。


「知る訳ねぇだろ、俺だってさっき会ったばっかだし。……で、もう1つ質問だが、さっきの人類の危機だとか、ガイ何とかとか言ってたけど、アレは何だ?」


「さあ?私もさっき初めて聞いたわ」


 …………頭が痛くなる。

 どうやら彼女も俺と同じくらいしか知らないらしい。

 ならば、彼女でも知っていそうな話を聞く事にする。


「俺らがいるここ、空の上にあるらしいけど、一体ここはどこだ?」


「ここはトスカリナ王国首都から数キロ離れた所にある街──ディア街よ」


 聞いた事のない国。

 聞いた事のない街。

 ここまでは予想通りだ。

 だが、俺が聞きたい情報はこれではない。


「質問が悪かった。俺が聞きたいのはこの国やこの街の正式名称じゃない。俺らが立っているこの地面の事だ。……本当に、ここは空の上にあるのか……?」


「この国の神話が正しければね。昔の偉い人が言ってた話が正しければ、ここは空の上にあるらしいわよ。まあ、誰もこの大陸が空に浮いているか確認していないから眉唾ものなんだけど」


「誰も果てまで行った事がないのか……?」


「地の果てを見た者は王国の人から処刑されちゃうからね。果てに何があるのか、それを知っているのは王族だけって訳よ」


 どうやらこの国には複雑な事情があるらしい。


「ていうか、下界って本当にあるのね。今まで神話に出てくる空想の産物だと思ったわ」


 彼女は俺の格好──学校指定用ジャージを見つめながら小刻みに頷く。

 思っている以上に彼女は聡く柔軟な人間らしい。

 俺の格好を見ただけで、俺が下界から来た事を受け入れたようだ。

 …….ただのバカだと思っていたら、近い将来、痛い目に遭うかもしれない。

 これ以上、この話を掘り下げても発展性がない事を理解した俺は質問を変える。


「ありがとう、バカ令嬢。大体の事は理解できた。で、最後の質問なんだが……どうやったら"西の果て"とやらに行ける?俺は元いた場所……下界に戻る事ができる?」


「先ずはあの壁の向こう側に行かなくちゃ何も始まらないわ」


 バカ令嬢が窓の方を指差す。

 窓の外には全長30メートルくらいの壁が聳え立っていた。


「トスカリナ王国を取り囲む全長30メートルの城壁。あれを超える事ができるのは王国からの許可を得た者のみ。もし許可なき者があの壁を越えようとしたら、城壁を警備している騎士達から袋叩きされてしまうわ」


「俺が元いた場所に戻るには、先ず騎士達の監視を掻い潜る必要があるって事か」


「ええ。ただ、運良く騎士達の目を掻い潜り壁を越えられたとしても、壁の向こう側にいる魔獣達が間違いなく私達の行手を阻むと思うわ」


「魔獣?それって、一体……」


「簡単に言えば、人に仇を為すモンスターね。冒険者とかが生計を立てるために狩っているんだけど、未だに壁の外には魔獣が沢山生息しているらしいわ」


「あー、なるほど。簡単に言っちゃうと、ゲームやアニメに出てくる系のやつか……もしかして、その魔獣、ギルドとかで討伐依頼されたりしてんのか?」


「うん、そうだけど……え、下界にも魔獣いるのかしら?」


「いや、いない。ただ魔獣みたいなのを狩る事をメインにした創作物が沢山ある」


「なるほど。魔獣は下界において、フィクションの産物なのね」


 彼女の口からフィクションという言葉を聞いた瞬間、今更ながら俺と彼女が何の問題もなく話している事実に違和感を抱く。

 もしかして、あのフクロウが俺と彼女の言葉が通じるように、何かしらの細工をしたのだろうか?

 ……いや、こんなの考えるだけ無駄だ。

 早く家に帰らないと、テストにも間に合わないし、義父母に要らない心配をかける。

 一刻も早く、俺は"西の果て"に辿り着き、元いた場所に戻るのだ。

 ──ただの高校生に戻るために。


「ありがとな、バカ令嬢。色々教えてくれて。じゃ、これで解散。あとはお前1人で頑張ってくれ」


「ちょい!ちょい!ちょい!ちょい!!」


 彼女と別れようとした瞬間、バカ令嬢は全力で俺の身体にしがみついた。


「助けてって言ったじゃん!ここで私を見捨てるのは良くないと思う!!捕まったら処刑されちゃうのよ、私!?可哀想だと思わない!!??」


「……まあ、死刑はやり過ぎだとは思うけど」


「でしょぉ!?」


「とりあえず、お前は王子に謝るべきだと思う。はい、この話はこれでお終い。あとは1人で頑張って……」


「お願いします。何でも言う事を聞くんで、私を助けてください」


 彼女は物凄い力で俺にしがみついた。

 彼女を引き剥がそうとする。

 が、幾ら力を込めても、彼女の身体は剥がれなかった。


「あのな、お前がどう思っているのか知らないけど、俺って唯の高校生なんだぞ。知識もなければ力もない。そんな奴がお前の力になれる訳が──」


「お願い、もう頼れるのは貴方しかいないの……!」


 涙目になりながら、彼女は俺の瞳を見つめる。

 ──今にも泣きそうな彼女を見た瞬間、俺は瓦礫の下敷きになった姉の姿を思い出した。


「り、リリードリ・バランピーノ。……俺と、その交渉しないか?」


 初めて彼女のフルネームを口に出した。


「俺はこの国についても、この壁の外側に何があるのかも全く知らない。加えて、俺は戦闘力がある人間でもない。ただの無知で無力なガキだ。何であのフクロウが俺をここに呼び出したのか分からないくらいにな。だが、俺には帰らなきゃいけない場所がある。だから、俺に力と知恵を貸して欲しい。俺の交渉に応じてくれるなら、お前が下界に降りた際の下宿先を用意してやる」


 考えてもいなかった言葉がペラペラ口から零れ落ちる。

 

「一応、俺はでかい神社の跡取りだからな。親に強請れば、お前1人くらい余裕で養える筈だ。……親の許しを得られるか分からないけど」


 短絡的かつ他力本願な案だと自覚している。

 けど、俺はそれを撤回する事をしなかった。

 助けを求める彼女を見捨てたくない、その一心で。


「……え?私を助けてくれるの?」


 恐る恐る首を縦に振る。

 俺が彼女の発言を肯定した途端、彼女は満面の笑みを浮かべると、俺の唇を強引に奪った。


「──っ!?」


 あっさり俺のファーストキスが奪われてしまった。

 俺の唇を強引に奪った彼女は、戸惑う俺の右手を彼女は強引に握り締める。

 そして、明日の天気を告げるかのような軽々しい口調でこう言った。


「あい、らぶ、ゆー」


 こうして、俺のファーストキスは変な女に奪われてしまった。


 ここまで読んでくれてありがとうございます。

 次の更新は20時頃を予定しております。


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[一言] レベルEのバカ王子みたいな扱いになってて草 迷惑度は似たようなものかもしれない
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