奴隷になる理由と魔王軍幹部と脳破壊
「歓迎するわ、ようこそ私達のパーティに。一緒に"西の果て"に行って、伝説と言われた下界に共に行きましょ……」
「勝手に話を進めるな」
先走るバカ令嬢──リリィを止めようとする。
「パーティに入れる云々よりも聞かなきゃいけない事があるだろ」
周囲の状況──気絶したならず者や貴族と思われる者を眺めながら、俺は疑問の言葉を吐き出す事を選択する。
「なぁ、レイ……だっけ?これ、お前がやったのか?」
「あ、はい。その人達は私のご主人様には相応しくなかったんで、軽くボコらせて貰ったっす」
彼女は奴隷商人らしき男の顔を踏みつけると、呆れたように溜息を吐き出しながら、こう言った。
「折角、このオークションに潜り込んだというのに、私に寄って集るのは、性奉仕だの肉体労働だの、テンプレ的な発言しかしない愚物だらけだったんすよ。面白くなかったんで、みんなボコっちゃいました」
「潜り込んだ……?じゃあ、貴女は拉致されて奴隷になった訳じゃないのですか?」
「あ、はい。プロの奴隷になるために。ボロ布1枚羽織って潜り込んだっす」
「ごめん。お前が何を言っているのか、よく分からないんだけど」
「端的に言えば、誰よりも自由になるためっす」
所々、破れているボロ布を手で弄びながら、ステージ上にいる少女はつまらなそうに言葉を紡ぐ。
「私、子どもの頃からずっと親にあれしろだの、これしろだの言われて来たんですよね。それが堪らなく嫌だった訳で。私は誰よりも自由になりたかった。だから、私は選択したんです。──プロの奴隷になる道を」
途中までは何となく共感できたが、プロの奴隷云々は全く共感できなかった。
ていうか、奴隷になったら自由じゃなくなるのでは?
「甘いっすね。自らの手で自由を手放す事こそが真の自由でしょうが!」
「ごめん。本気で何言っているか、よく分からない」
リリィとルルの方を見る。
ルルも分からなかったようで、苦笑いを浮かべていた。
「で、貴女のご主人様になるためには、どうすれば良いのかしら?」
「別に何もしなくて良いっすよ。お尋ね者のお嬢様に元勇者パーティの僧侶様、そして、魔力を一切持たない正体不明の男の子との旅とかテンション上がりますし。その上、危険区域である"西の果て"に行こうとしてるんでしょ?めちゃくちゃ面白そうじゃないですか」
まだ何も話していないにも関わらず、彼女はバカ令嬢と腹ペコ僧侶の事を把握していた。
もしかして、知り合いなのだろうか。
バカ令嬢達の方を見る。
彼女達は首を横に振り、知り合いでない事をアピールしていた。
「ええ、良いっすよ。"西の果て"でも下界でも。私を飽きさせないんだったら、どこでも付き合ってやりますよ。その代わり、……」
「お嬢様ぁぁああああああ!!!!」
奴隷志願の少女の声は野太い声に掻き消されてしまう。
振り返る。
出入り口である階段付近には、ガタイの良い高そうな鎧に身を包んだ豚人間──テレビやゲームなどでオークと呼ばれる外見──が立っていた。
「人語を喋る魔獣……!?」
初めて遭遇する知性が人間並に高い魔獣を見て、俺は思わず身構える。
「コウ、あれは魔獣じゃないわ。魔人──魔術の力で魔獣と同化した元人間よ」
バカ令嬢は額に冷や汗を流しながら、説明の言葉を垂れ流す。
腹ペコ僧侶は魔人を見るや否や震え始めた。
「あばばばば……あ、あれ、魔王軍ですよ……な、何でこんな事に……」
「魔王軍……?それって、例の真王とやらに敵対しているっていうあの……!?」
「ええ、そうよ」
バカ令嬢──リリィは焦りを寸前の所で堪えながら、突如現れた魔人をじっと見つめる。
「し、しかも、あの人、魔王軍の幹部ですよ……!見てください!あの鎧の紋章を……!あれ、幹部の人しか刻む事が許されていない代物なんですよ……!!あばばば……殺される……もっとお腹いっぱい食べとけば良かった……」
「いや、お嬢ちゃん。取って食う気はないから安心しろ。オレにはあんたらを殺す理由ないんだから」
オークっぽい魔人は後頭部を掻くと、ステージ上にいる奴隷志願の少女を見る。
恐らく彼の用事は俺らではなく、彼女なのだろう。
「さ、見つけましたよ、お嬢様!早く魔王様の所に帰りましょう!心配していますよ!!」
「ごめん、オークキング。私、なりたいものを見つけたんです。だから、家には帰れません」
「何言っているんです!!??」
「どうしてもなりたいものが見つかったんです。だから、黙って応援してください」
「なりたいものが見つかったのは結構です!ですが、それとこれとは話が別!とりあえず、一旦、魔王様の所に戻ってください!!でないと、王国との戦争に勝てなく……」
「どうしても奴隷になりたいんです!そして、理想のご主人様に朝から晩まで心身共々、陵辱されたいんです!!オークキングが隠し持っていたエロ本みたいに!!」
「俺の所為でお嬢が道を誤られた!!」
責任を痛感した魔人は床に膝を突く。
その姿は哀愁が漂っていた。
赤髪少女はステージから降りると、俺の腕に抱きつく。
彼女が腕に抱きついた瞬間、バカ令嬢の口からアホそうな叫び声が漏れ出た。
「だから、ごめん、オークキング。私、この人に○○○とか×××とか△△△とかして貰いたいんです。人間として生まれてきた事を後悔するような調教を受ける事で人の言葉も話す事を許されないような家畜になりたいんですよ。正統派なエロが好きなお父さんには分からないかもしれないけど、陵辱系エロ大好きなオークキングなら分かるでしょ?私の気持ち」
「分かんねぇよ!!お嬢の考えている事、俺、全然分かんねぇよ!!」
俺にもよく分からなかった。
というか、ナチュラルに俺が調教する前提で話進んでいるような。
俺、そんな性癖持ち合わせていないんだけど。
そんなハードプレイで興奮しないんだけど。
バカ令嬢──リリィに助けを求めようとする。
彼女は何故か目に涙を溜めながら、床を殴りつけていた。
「うわあああああああ!!!!コウが寝取られたあああああああ!!!!」
「リリィさん!落ち着いてください!リリィさんとコウさんは恋人関係じゃないから、寝取られじゃありません!片思いの相手を他の人に持っていかれているだけですから!!」
「違うもん!私とコウは両思いだもん!これは寝取りだもん!」
「そうなんですか、コウさん!?」
「両思いでない事だけは確かだ」
「うわあああああ!!!!!一緒に旅しようって言ったのにぃぃぃいいいい!!!あの時、私の事を愛しているとか何とか言ってた癖にぃぃぃいいいい!!!他に女ができたら私はお払い箱って訳ぇ!?」
「コウさん!」
「旅しようとは言ったが、愛しているとか言っていない!!濡れ衣だ!!」
「一緒に夜を過ごしたじゃん!一緒に寝たじゃん!!あの夜をなかった事にする訳!?」
「普通に野宿しただけじゃん!お前に手は出していない!だから、腹ペコ僧侶!その目を止めろ!俺は何もしていない!!」
クズ男でも見るかのような目で俺を眺める腹ペコ僧侶に抗議の言葉を言い放つ。
ただでさえカオスだった状況が更にカオスになった。
……え?どうすんの?これ?
ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、新しく評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
本当にありがとうございます。
皆様の応援のお陰で本作品のブクマ件数が90件突破(6月16日12時現在)致しました。
ブクマ100件まで後僅かの所まで来れたのは応援してくださった皆様のお陰です。
この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。
皆様から頂いたブクマや評価ポイントを糧にこれからも頑張りますので最後までお付き合いよろしくお願い致します。
また、先日、2万PV突破致しましたので、来週月曜日12時頃から2万突破記念キャンペーンをやりたいと思います。
具体的なキャンペーン内容に関しては、以下の期間中、最新話を毎日12時頃に更新致します。
第1弾:6月21日(月)〜6月25日(金)
第2段:7月5日(月)〜7月9日(金)
まだ来週の分は書きかけですが、来週の月曜日までに書き終わりますので、楽しみにお待ちください。
もし日程に変更が生じた場合、最新話の後書きや活動報告、Twitter(雑談垢:norito8989・宣伝垢:Yomogi89892)で告知致しますのでよろしくお願い致します。
次の更新は6月21日月曜日の12時頃に予定しております。
これからも完結目指して更新していきますので、お付き合いよろしくお願い致します。




