到着と奇行と苦渋の決断
町を出て2日後。
俺達は何とか港町──ルーデルワークに辿り着く事ができた。
「……やっと、着きました」
疲れたような声で煉瓦造りの町を眺める腹ペコ僧侶──ルル。
その顔には疲労が滲んでいた。
「……ここまで来るのに何回魔獣に攫われた事か」
バカ令嬢──リリィは乾いた笑みを浮かべながら、明後日の方向を見つめる。
いつもみたいな無駄口を叩く余裕はないくらいに疲れ切っていた。
「……38回だよ」
俺はというと、ここ数日の激戦によりまともに身体を動かせない状況に陥っていた。
今はリリィとルルの肩を借りる事で、何とか歩けている。
「魔獣と闘っている間にお前らが攫われ、お前らを救いに行ったら、またお前らが攫われて……本当、…………大変だった」
「「ごめんなさい」」
無駄に疲れる原因となった彼女達はバツの悪そうな顔をしながら、俺に謝罪の言葉を告げる。
「……まあ、多種多様な魔獣との闘いのお陰で、前より強くなったから無駄じゃなかったと思うよ。けど、無駄な闘いも多かったと思う」
「もっと食糧を買い込むべきだったわね。昨日今日なんか食糧尽きて、ルルの魔法使えなかった訳だし。正直、この子の食欲を侮っていたわ」
道中をぼんやり思い出す。
腹ペコ僧侶のバフを受けたバカ令嬢──リリィは何度か魔獣と闘った。
C級冒険者が手こずる魔獣を素手で圧倒していた事から、腹ペコ僧侶さえ機能すれば、そこそこの戦力になり得るだろう。
……機能すればの話だが。
「わ、私の食糧云々よりも馬車とかヘグウェイとか買った方が良いと思いますよ。"西の果て"まで結構距離がありますから。このままじゃ移動するだけで身体壊しますよ」
「馬車と馬は次の町で買いましょうか。ここで買ったら、船に乗せるのに高いお金を払わなきゃいけなくなるし」
「あ、あの、リリィさんは馬車を操縦できるんですか?」
「マイダーリン、馬車を操縦した経験ある?」
「ない。あと俺はお前のダーリンじゃない」
「だ、誰も操縦できないんだったら、馬車を買っても持て余すだけなのでは……?」
「とりあえず、この町の冒険者ギルドに行きましょう。そこで馬車を操縦できる人を募集したら何とかなると思うわ」
リリィは投げやり気味に言い放つと、重い足取りで冒険者ギルドに向かい始めた。
俺達もその後に続くように重い身体を引き摺るように歩き始める。
もう俺達の頭の中は"宿で休みたい"という欲求でいっぱいだった。
冒険者ギルドの掲示板で仲間募集の張り紙を貼った後、俺達は町の中心部から少し離れた所にある湖の見える安宿に向かう。
そして、俺達は、2〜3日程、宿の中に引き篭もった。
度重なる戦闘と過酷な旅路により、俺達の身体はこれ以上ないくらい疲れ切っていたのだ。
(もしこれが漫画やアニメだったら、休む暇なく、次の町に向かったり、ギルドでクエストを受注したりしていただろうな)
そんなどうでもいい事を考えながら、俺は惰眠を貪る。
全快とまではいかないが、ある程度の疲れが抜けるまで3日かかかった。
これ以上休んでいたら身体が鈍ると判断した俺は、これからの話をするため、リリィ達が借りている部屋に向かう。
「おーい、入ってもいいか?」
部屋の扉をノックしながら、中にいるであろう彼女達に声をかける。
「いいわよ」
リリィは緊迫感溢れる声で俺に入室許可を出した。
その声を聞いた瞬間、俺の胸中に何故か一抹の不安が宿る。
「……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、さ、入って入って」
バカ令嬢の緊張したような声色は俺の不安を更に駆り立てた。
恐る恐る扉を開ける。
すると、俺の視界に全裸でトランプに興じているバカ令嬢と腹ペコ僧侶の姿が映り込んだ。
「全然、大丈夫じゃなかった!!」
勢い良く扉を閉めながら、俺は熱くなった両頬を両手で覆い隠す。
扉に体重を預ける形で俺はその場に座り込んでしまった。
初めて生きている女の人の裸を見てしまった。
いや、幼稚園くらいの頃、今は亡き実母と一緒にお風呂入っていたから、厳密に言うと初めてじゃないのか?
やべ、動揺し過ぎて頭がこんがらがってるわ。
女体の破壊力、マジヤバ。
「どうしたのよ、コウ。中に入っても良いって言ってるじゃな……あれ?開かない?」
俺が寄りかかっている所為で、扉が開けられないのか、部屋の中からバカ令嬢の戸惑う声が聞こえて来る。
「なあ、バカ令嬢。お前、さっき入っても大丈夫って言ってたじゃんか」
「ん?言っていたけど?」
「全然、大丈夫じゃなかったじゃん」
「大丈夫よ」
「いや、お前ら、全裸だったじゃん」
「いいえ、全裸じゃない。ほぼ全裸よ、現在進行形で」
「さっさと服着ろ!!変態バカ令嬢!!」
「いいえ、そういう訳にはいかないのよ。今、ルルとトランプしているから」
「何でトランプで全裸になる異常事態に陥ってんだよ!!??頭おかしいのか!!??」
「罰ゲームつきの勝負をやっているからよ。負けた方が身につけているものを1つ1つ取っていくルールなの」
「全裸の時点でもう勝負ついてるじゃん!!」
「いいえ、まだ私にはピアスが、ルルにはネックレスが残っているわ」
「何で装飾品よりも先に服を脱いんだんだよ!?そういう脱衣拳的な勝負って、服は最後まで残すもんだろ!!??」
「背水の陣よ。先に下着を脱ぎ捨てる事で後に退けない状況を作り出したのよ、私達は」
「そうです、これは戦略的思考です。決して全裸になりたいとか解放感を味わいたいとかいう邪な気持ちを持ち合わせていません」
「だったら、その戦略は破綻してるよ!全裸になった時点で!!とりあえず、服着ろ!バカ痴女共!!」
一瞬とはいえ、男である俺に裸を見られたにも関わらず、彼女達は平常運転だった。
……あれ?俺がおかしいのか?
自身の常識を疑った所で閑話休題。
宿の近くにある食堂で、朝食を摂りながら、バカ痴女達──勿論、服は着ている──と今後について話し合う。
「そういや、メンバー募集の方はどうなったんだよ」
「ボーカルとギターは集まったわ。後はベースとカスタネットだけね」
「何の募集してんだよ」
「ちなみに私はボーカルとギター、どちらですか?」
「無駄に話を広げるな」
「ルルはアスパラガスよ」
「無駄にボケるな」
「私は野菜だったんですか……?」
「な訳ねぇだろ」
「人は皆野菜から始まり野菜で終わると言っても過言じゃないわ」
「過言だよ」
「つまり、私達の祖先……ガイア神は野菜だったんですか!?」
「ええ、そうよ。それがこの世界の真理よ」
「そろそろブレーキ踏めよ、お前ら」
バカが2人揃っただけで収拾つかなくなる。
え、俺、この先ずっとこの2人と旅しなきゃならないの?
このペースでこいつらが暴走し続けていたら、俺、持たないんだけど。
「馬車操縦できる人の話をしてんだよ、俺は。どうなったんだ、あれ?」
「そっちは難航しているわ。やっぱ、"西の果て"付近まで行く物好きはいないみたい」
「物好き……?それってどういう意味だ?」
「現在、"西の果て"付近は人が住んでいないんです」
腹ペコ僧侶はバケツみたいな器に入っている唐揚げみたいなものを口の中に放り込みながら答える。
「"西の果て"付近は砂漠と険しい山を越えた先にあるのよ。その上、A級冒険者が束になってようやく勝てる魔獣がうじゃうじゃいるみたいだし」
「なるほど。"西の果て"に着いてくる奴は変人か狂人しかいないって事か」
薄い肉を挟んだ味のしないパンを咀嚼しながら、俺は目の前にいる変人2人を見る。
こいつらがもう1人増えると思うと溜息しか出てこなかった。
「で、どうするんだよ。変人が引っかかるまで待つつもりか?」
「そんな時間はないわ」
「なら、どうするんだよ」
「奴隷を買う、というのはどうでしょうか」
腹ペコ僧侶の口から出た単語──奴隷──を聞いて俺とバカ令嬢はほぼ同時に顔を顰める。
「確かにルルの言う通り、奴隷を買うのが1番効率の良いやり方なのは間違いないわね」
渋々ながらバカ令嬢──リリィはルルの言い分を認める。
俺はというと、現代的価値観もあり、人間を買うという行為に対して、少しだけ嫌悪感を感じていた。
「ここでグチグチ考えても仕方ないわ。一応、奴隷オークションを見てみましょうか。もしかしたら、西の果てに行きたい奴隷がいるかもしれないし」
「どんな奴隷だよ」
という訳で、俺達は奴隷オークションに参加する事になった。
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