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泥濘んだ地面と効き目のないバフと仲間を連れ去る魔獣

  港町──ルーデルワークに向かって歩き始めて早数時間。

 現在、俺とバカ令嬢──リリィと腹ペコ僧侶──ルルは延々と続く山道を歩いていた。


「昨日、雨でも降ったんでしょうか?めちゃくちゃ歩き難いです」


 地面を見る。

 元いた場所(げかい)のようにアスファルトに覆われていないため、足元は泥濘んでいた。

 そのため、山道を歩き慣れていない俺やバカ令嬢、そして、腹ペコ僧侶は何回か転んでしまい、今では泥だらけになっている。

 特に腹ペコ僧侶は酷く、何回も転んでしまったため、泥人間のような容貌に変わり果てていた。

 

「うへぇ……ベトベトして気持ち悪い……早く洗い流したいわ……」

 

 頬についた泥を手で拭いながら、バカ令嬢は溜息を吐き出す。


「ちなみに次の町までどれくらいあるんだ?」


「多分、9キロくらい歩いたから……あと50キロくらい?」


「……この辺りで泥を洗い流す所はあるか?」


「20キロ先くらいに川があるらしいですよ」


「じゃあ、今日1日はこのままって事か……」


 あの町で替えの服を買っておけば良かったと後悔しながら、俺は足を前に進める。

 すると、遠くから樹木が折れる音が聞こえて来た。

 即座に音源の方に視線を傾ける。

 視線の先には巨大なモグラみたいな魔獣──全長10メートル級──が木々を薙ぎ倒しながら、地面の中から這い出ようとしていた。


「魔獣か……!?」


 帯刀していた刀を引き抜いた俺は、いつでも闘えるように身構える。


「な、なに立ち向かおうとしているんですか!?あれ、"ゴリモア"ですよ!B級冒険者が数人程度でやっと討伐できるくらいに強い魔獣ですよ!!1人で敵う訳ないじゃないですか!!??」


 折角、人がやる気になっているというのに腹ペコ僧侶は空気を読む事なく俺の戦意を削ぐような発言をする。


「ルル。コウはS級冒険者が束になっても倒す事ができないデスイーターをほぼ1人で倒する事ができたのよ。怯える事はないわ」


 バカ令嬢が取り乱す腹ペコ僧侶を宥める。


「あ、それもそうですね。うっかりド忘れしてました」


 腹ペコ僧侶は落ち着きを取り戻すと、その場で寝転ぶと懐に入れていた果物を齧り始めた。

 いや、落ち着き過ぎだろ。

 極端な事しかできないのか、お前は。


「折角だし、ルルのバフを受けたコウがどれくらい強くなるのか確認しときましょうか」


「……その確認、今する事か?」


「ぶっつけ本番以上に危ないものはないわ。──石橋はね、叩いて渡るものよ」


「今もぶっつけ本番みたいなもんだろ。というか、壁の外に出る時といい、勇者に喧嘩を売った時といい、デスイーターの時といい、ぶっつけ本番しかしてこなかったような」


「石橋を叩く余裕がないくらい、人生はぶっつけ本番の連続なのよ」


 巨大モグラの方から敵意みたいものを感じ取る。

 無駄口を叩いている暇はないと判断した俺は、魔獣のどんな攻撃にも対応できるよう、戦闘態勢に突入した。


「じゃあ、ルル、私に魅力+9999のバフをかけてちょうだい。それでコウをメロメロにするか……」


「あ?」


「あ、やべ、本音が出ちゃった。こほん……ルル、とりあえず、コウの素早さを+9999にしてみて」


「は、はい、分かりました……!」


 俺の足元に青白い魔法陣が展開される。

 魔法陣から出た青白い光が俺の身体を包み込んだかと思いきや、光は空気に溶けるように消え去ってしまった。

 光が消えると同時に魔法陣も消えてしまう。

 試しに身体を動かすが、何の変化も見られなかった。


「あ、あれ?」


 ルルはもう1度魔法陣を俺の足元に展開ささる。

 が、やはりルルの魔法は俺に作用しなかった。


「り、リリィさん……!コウさんに私の魔法が効きません……!!」


「なるほど、効かないのね。勉強になった……え?嘘、マジで?」


 落ち着いた様子から一転、バカ令嬢の声が焦りに満ちたものに変わってしまう。

 

「あと、さっきので魔力が尽きました!!もう魔法は使えません……!」


「………コウ!!」


 目の前の敵から目を逸らす事なく、俺は彼女の呼びかけに応える。


「何だ?」


「万策尽きたわ!後は頼ん……うぎゃあ!?」


「うぱぁ!!」


 バカ令嬢と腹ペコ僧侶のアホみたいな声が聞こえて来た。

 反射的に振り返る。

 そこには頭以外の部分が地面に埋まった彼女達がいた。


「え、何で私達地面に埋まってんの!?え!?」


「ゴリモアの習性ですよ!!ゴリモアは地中に獲物を引き摺り込んだ後……」


 腹ペコ僧侶の解説が終わらない内に、彼女達の近くにある地面から"ゴリモア"と呼ばれる巨大モグラが2匹出てくる。


「……地面に引き摺り込んだ獲物の頭から捕食するんです」


「コォォオオオオオオオオウゥゥウウウウウウウウ!!助けてぇえええええええええええ!!!!」


 恥も外聞も掻き捨ててバカ令嬢は俺に助けを求める。

 彼女の緊迫感に満ちた声に連鎖するように腹ペコ僧侶も動揺し始めた。


「いやだああああああ!!!!!まだ死にたくなぁぁあああいいいいいいいい!!!!!まだお腹破裂する程、ご飯食べれてなあいああああいいいいいいいい!!!!!うぎゃああああああああ!!!!!」


 身体にある水分を体外に全て排出する勢いで号泣し始める腹ペコ僧侶。

 今の彼女達は置物でしかなかった。


「手間かかる奴がもう1人増えただけじゃねぇか!!??クソが!!!!!」


 すぐに彼女を助け出そうと、俺は目の前にいる敵に背を向けた。

 その瞬間、背中に強烈な殺意──デスイーターのものと比べると非常に弱々しい──が突き刺さった。


「グモオオオオオオオオ!!!!!」


 聞いた事のない魔獣の雄叫びが俺の背中を震撼させる。


「うるせぇな」


 苛々したまま、俺は刀を強く握り締める。

 すると、赤い亀裂──ではなく、金色の亀裂が俺の視界に飛び込んで来た。

 黄金色の風が俺の刀に纏わり付く。

 感情が昂ぶったまま、俺は後先考える事なく、金色の亀裂を刀でなぞった。


「──風斬(ふうぎり)っ!!」


 刀から解き放たれた黄金の嵐が魔獣を瞬く間に肉片にする。

 黄金の嵐の余波を喰らったバカ令嬢達は、収穫された根野菜のように地面からすっぽり抜けると、近くにあった木の幹に頭をぶつけた。

 技を放った反動により、俺の身体全体に鈍い痛みが走る。

 やはりこの"風斬(ふうぎり)は俺の身体に多大な負荷がかかるらしい。

 前日のデスイーターや勇者との闘いにより疲弊していた俺の身体は鉛のように重くなってしまう。

 もう1発、風斬(ふうぎり)を放つと指1本動かせなくなるに違いない。


(全快時で最大4発。疲れている時は精々2発って事か)


 どういう原理で放っているのかは分からないが、今後は無闇矢鱈に放たないでおこう。

 そうじゃないと、とてもじゃないが、地上まで──お家まで帰れそうにない。

 

(腹ペコ僧侶の魔法は俺に効かないし、折角身につけた必殺技は連発できる代物じゃない。……やっぱ、地道に強くなるしかないのか)


 そんな事を考えながら、俺は重たい身体を引き摺るようにバカ令嬢達の下に向かい始める。


「あれ?いない……?」


 その場で1回転しながら、俺は消えた彼女達を探す。

 そしたら、豚と人を合わせたような魔獣に連れて行かれる気絶した彼女達の姿が目に入った。

 疲れ切った身体を無理に動かし、俺は魔獣に連れ去られる彼女達を助けようと試みる。

 彼女達の後を追いかけながら、俺は思った。



 ……本当、こんな調子で俺はお家に帰れるのでしょうか?


 ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方・新しく評価ポイントを送ってくださった方に厚くお礼を申し上げます。

 累計PV2万突破しそうなのも、ブクマ100件が現実味を帯び始めているのも皆様のお陰です。

 本当にありがとうございます。


 今回同様、累計PV2万突破したら、一定期間毎日更新致しますので、よろしくお願い致します。

 また、ブクマ100件突破したら、本編完結後にブクマ100件を記念した中編を投稿するつもりです。

 ブクマ100件記念中編は本編完結後のお話にするつもりなので、よろしくお願い致します。


 次の更新は明日の12時頃です。

 明後日でPV1万突破記念キャンペーンは終わりますが、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

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