大食いと隠しステータスと帰還した勇者
何やかんやで町まで戻ってきた俺とリリィと元僧侶──流石に下着姿で連れ回すのはアレだったんで服を着てもらった。彼女は嫌そうな顔をしながらシスター服に袖を通した──は、冒険者ギルドの食堂で晩飯を食べていた。
「……おいおい、こいつ、俺の5倍くらい食っているぞ」
食べ盛りの男子高校生の俺を遥かに超える量の料理を元僧侶──名前はルル──は腹に詰め込む。
その顔はとても幸せそうに見えた。
「おかわりいいですか?」
「ええ、いいわよ」
リリィはドン引きする事なく、淡々とお替わりを許可する。
「おい、本当に良いのかよ。金、あんのかよ?」
「大丈夫よ、今日の下宿代を削れば」
「下宿代削っている時点で大丈夫じゃないだろ」
無駄にキメ顔を決めるリリィ──バカ令嬢にツッコんでいる内に、ルルはお替わりの分を平らげる。
「……あ、あの、すみません。もう1回、おかわりしてもいいですか?」
「いいわよ」
涼しい顔を浮かべるバカ令嬢の額から冷や汗が垂れ落ちる。
「おい、本当に良いのかよ」
「大丈夫よ、財布の底が見えてきただけだから」
「大丈夫じゃないだろ、それ」
「大丈夫よ。この後、大金が手に入るのだから」
「あの、……この無能で憐れな豚にもう1度だけおかわりチャンスを与えてくれないでしょうか?」
「大金が入ったとしてもダメかもしれない」
「おい」
想定以上に飯を食べるルルを見て、バカ令嬢はデスイーターと対峙した時以上の焦りを見せつける。
……勇者からコスパが悪いと言われるのも納得の食欲だった。
ただ彼女の食欲がハイリスクだったとしても、リターンはリスク以上にある。
(どう考えても、追放するには惜しい人材だと思うんだけどな)
ギルド内を見渡し、勇者達の姿を探す。
勇者達はまだ町に戻って来ていなかった。
リリィとルルの話が正しければ、他の町のギルドでデスイーター討伐報酬を貰う事ができないらしい。
そのため、勇者達はデスイーターの討伐報酬を貰うために、このギルドに来ないといけないんだとか。
現在、俺達は勇者達から報酬金を取り戻すために、ギルドに併設されている酒場で待ち伏せしている。
「で、リリ──バカ令嬢」
「何で言い直したのよ」
「どうやって勇者達からデスイーターの報酬金を奪い取るんだよ」
「ルルのバフを浴びて無敵になったコウが勇者達に"ざまぁ"する」
「何も考えていない事だけはよく分かった」
「安心して。あいつらを辱めるのは私がやるから」
どこからか取り出した手持ち花火をかっこよさげに構えながら、バカ令嬢は勇者の尻を睨みつける。
「ていうか、お前のその尻に対する情熱は何なんだよ。呪いでもかけられてんのか?」
「別に好きで尻を攻めている訳じゃないわよ。お嬢様が"相手を辱めるのは尻を責めるのが最適だ"って言ってたから、それを参考にしているだけで。どっちかというと、私は責めるよりも責められる方が好きだわ」
「さり気なく性癖を暴露してんじゃねぇよ」
聞きたくなかったと思いながら、俺は彼女の発言に少しだけ引っかかってしまう。
(ん?こいつ、何か変な事を言わなかったか?)
「あの、リリィさん。魔力が回復しました」
「んじゃあ、早速試し撃ちしていきましょうか」
「具体的にどういうバフをコウさんにかけるのですか?」
何の肉か分からない肉料理を貪り尽くしながら、ルルはバカ令嬢に質問を投げかける。
先程のバカ令嬢の発言で感じた違和感は後でゆっくり考えようと思いながら、彼女達の話に耳を傾ける。
「一応、今後のために聞いておくけど、ルル、貴女はどのステータスを+9999にする事ができるのかしら?」
「基本的にギルドカードに載っているステータスなら。ちなみに運や回避などのギルドカードに載っていないステータスも+9999にする事ができます」
俺の文字化けだらけで使い物にならないギルドカードを見る。
「ギルドカードに載っているのは……体力・魔力・筋力・防御力・知力・抵抗力・器用さ・素早さだな。それ以外に何かあるのか?」
「今のところ、確認できているのは運と回避率……それと命中率くらいですね。それ以外のは残数もあり、試した事がないです」
「じゃあ、折角だし、試してみましょうか」
「試すって何を試すんだよ」
「隠しステータスよ。何個か思いついたから、片っ端から試しましょう。善は急げって言うし」
「それ、俺で試したりとかしないよな?」
「…………」
「おい、無視するな。答えろ」
新しい玩具が手に入った時の子どもみたいに目を輝かせる彼女を見て、俺は言葉を呑み込む。
ここで下手に刺激したら、俺が彼女のアイデアの餌食になりかねない。
それだけは何としてでも避けなければ。
そんな事を考えている内にギルドの外から複数の敵意を感じ取った。
数はざっと十数人。
ここにいる冒険者達──勇者達よりも強そうな雰囲気を纏っていた。
その強そうな雰囲気の群れの中心に勇者達の雰囲気を感じ取る。
俺は隣の席に置いていた刀を握り締めると、いつ戦闘になってもいいように身構えた。
「……来たぞ」
デスイーターや勇者達の戦闘により、疲れ切った身体に鞭を打つ。
その瞬間、沢山のならず者を集めた勇者達がギルド内に入って来た。
馬鹿でも分かる。
俺に襲われてもいいよう、勇者達はあのならず者達に護衛させているのだ。
恐らくデスイーター討伐報酬を餌にして雇ったのだろう。
ここまで小物ムーブを見せつけられると、苛立ちよりも戸惑いを覚えてしまう。
事実は小説よりも奇なりとよく言うが、まさかフィクションで描かれる小物よりも小物かつ恥知らずが現実にいるとは思わなかった。
「よし、行くわよ。ルル、私の合図と同時にさっき言った事をやってちょうだい」
「え、でも、私、お嬢様が指示したようなステータスにバフした事がなくて……その、できないかもしれないというか……」
「大丈夫よ。ダメだったら、コウが何とかしてくれるから」
「おい」
「貴女は言われた事を言われた通りにやれば良いのよ。たとえ失敗したとしても、それは指示した私の責任で、貴女の責任になり得ないから。堂々と指示通りこなしなさい。貴女の魔法は天下一品よ」
自身なさげなルルをリリィは優しく諭すように話しかける。
「は、はい!リリィさん達の期待に応えられるよう、全力で頑張ります!!」
「よし、よく言った!じゃ、行くわよ!コウ!!」
「はいはい、地獄の底までついていきますよ、お嬢様」
そう言って、俺とリリィはギルドの受付嬢の下に向かおうとする勇者の前まで移動する。
「──デスイーターの腕を返して貰うわ」
勇者達の周りにいるならず者達に怯える事なく、リリィは堂々と啖呵を切った。
いつでもリリィを守れるように、俺は彼女の真後ろに移動する。
勇者は疲れ切った様子の俺とリリィを見た途端、粘着性のある笑みを浮かべた。
そして、獲物を狙う蛇みたいに俺らの事をじっくり見つめると、こう言った。
「んお゛オ゛ぉ゛っ♡♡♡♡」
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次の更新は明日の12時頃に予定しております。
これからも完結目指して頑張りますので、お付き合いよろしくお願い致します。




