俺とバカ令嬢と人型フクロウと
前回までのあらすじ
・悪役令嬢が王子の尻を爆破して婚約破棄を言い渡された。
リビングの扉を開けると知らない世界だった。
話は数時間前まで遡る。
深夜、7月の間に夏休みの宿題を片付けようと夜更かししていた俺──上流光は、カフェインを摂取しようとリビングの扉を開けた途端、何故か見知らぬ煉瓦造りの個室に到着してしまった。
「ようこそ、下界の民よ。私の名前はリリードリ・バランピーノ。この国─トスカリナ王国公爵家の令嬢よ」
煉瓦造りの部屋の中心に置かれている木製の椅子には、高そうなドレスを着た金髪金眼爆乳美女──リリィが座っていた。
彼女は10人が10人振り向く美貌を惜しみなく披露すると、切羽詰まった様子で俺に頭を下げ、こう言った。
「……お願い、貴方にしか頼めない事があるの。私を、……助けて……!」
状況を整理するのも兼ねて、俺は彼女の話を聞き続けた。
彼女の話を端的にまとめると、どうやら婚約者である王子の怒りを買った彼女は、不敬罪で投獄される前の思い出作りで大量の打ち上げ花火を打ち上げた結果、王宮にいらない混乱を招いた罪によりお尋ね者になったらしい。
十割十分、彼女に非しかない内容だった。
「お前が王子のケツを爆破したのがそもそもの原因じゃん?そりゃあ、指名手配犯にされても仕方ないと思うわ。大人しく自首しろ」
「で、でも、流石に教会焼いたりとか神造兵器盗んだりとかはしてないわよ!それで指名手配とかあり得なくない!!??ていうか、あいつ、婚約破棄したのは自分のお気に入りの女と結婚するためよ!!絶対、尻爆破されたから婚約破棄申し出た訳じゃないと思うわ!だから、私は悪く……」
「どんな大義名分があろうが、人のケツを爆破したらいけないんだよ」
この歳になって、俺と同い年くらいの女の子にこんな当たり前の事を言うなんて思いもしなかった。
「だ、誰も死なせていないからセーフ!」
「誰かを害した時点でアウトだぞ」
目の前の見栄麗しい女の子がヤバい奴だという事は分かった。
なので、大人しくお家に帰すよう要求する。
「元の世界も何も、ここは異世界ではありませんよ」
俺の要求を拒否したのは、目の前の女の子ではなく、人型フクロウだった。
ザ・中世的な家具に彩られた煉瓦造りの部屋の隅にいた人型フクロウは、穏やかな口調で俺に必要最低限の説明をする。
「貴方が生まれ育った下界は、私達の足下にあるんですよ」
人型フクロウの言っている事を瞬時に理解した俺は頭を抱える。
「……つまり、あれか?今、俺達が立っているこの地面は宙にでも浮いているとでも言いたいのか?俺が呼び出されたこの場所は空の上にでもあると言いたいのか?」
「その通りです。ここは浮遊大陸『アルカディア』。貴方が暮らしていた下界から高度50キロメートル地点にあるのです。ですから、魔法や魔術が使えない下界の人間でも高度50キロメートル地点に行く事ができる乗り物にさえ乗ればここに辿り着く事ができるんですよ」
「殆ど異世界みたいなもんじゃんか」
「いえ、異世界ではありませんよ。ただ、生活拠点が空中にあるか地面にあるかの違いでしかありません。貴方も食べるものや生活習慣が違うからという理由で隣の国を異世界扱いしたりしないでしょう。それと同じ事です」
「それ、ただの屁理屈だろ。……ていうか、それはどうでもいい。さっさと俺を元いた場所に戻してくれ。全国模試まで2週間しかないから」
「過去の──いや、上で……いやいや、上流くん、これはリリードリ・バランピーノやこの大陸に生息する人類だけでなく、下界の人類の危機でもあります」
「俺の話、ちゃんと聞いてる?」
「ガイア神に彼女と彼女が持っている神造兵器を渡したら、間違いなくこの世界の現人類は滅んでしまうでしょう。だから、上流くん。何としてでも彼女を守ってください。この世界の人類のために」
「勝手に話を盛り上げるな。こっちは全く話ついていけてねぇんだよ。もう少し言葉を重ねろ。何がヤバいのか、もっと具体的に伝えろ。頼むから会話のキャッチボールしてくれ」
「上流くん、彼女を頼みますよ。彼女を貴方がいる下界まで連れて行ってください」
「話が物凄い速さで進んでいるんだが、これだけは言わせてくれ。……俺をここに呼ぶくらいなら、こいつを下界に送った方が早くないか?」
「いいえ、それをやる事はできません。今の私では今の貴方をここに呼ぶ事はできても、彼女を下界に送り届ける事はできないのです」
人型フクロウは懐に隠し持っていたアナログ時計を見ると、床に置いていたシルクハットを拾う。
「上流くん。彼女を"西の果て"まで連れて行きなさい。そして、"西の果て"にある神造兵器を用いて下界に降りるのです。そうすれば、この浮島に縛り付けられているガイア神の分霊は彼女という器を諦めるでしょう」
シルクハットを被った人型フクロウは、丁寧にお辞儀を披露する。
「いや、言っている内容の殆ど理解できないんだが。もっと詳しく説明してく……」
「では、お時間です。リリィ、陰ながらでありますが貴方の無事を心から祈っています。上流くん、彼女の事を託しました。──必ずガイア神の魔の手から彼女を守ってやってください」
「俺の話を聞けええええええ!!!!」
人型フクロウは俺の話を聞く事なく、煙のように消え去ってしまった。
唯一、話が通じそうだった人型フクロウもアレだった事が分かった俺は、露骨に肩を落とす。
その様子を見ていた公爵家令嬢とやらは、落ち込む俺の肩を叩くと、爽やかな笑みを浮かべながら、こう言った。
「どんまい⭐︎」
他人事みたいな態度を取る彼女に苛ついた俺は、彼女の身体を投げ飛ばした。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次の更新は13時頃を予定しております。
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