トドメと足音と見覚えのある顔
通路内に巻き起こる黄金の嵐は、瞬く間に赤い髑髏達を飲み込む。
黄金の嵐は赤い髑髏達は後も形もなく切り刻んだ。
辛うじて、黄金の嵐から逃れたデスイーターは、身体中にできた刀傷を押さえながら、俺を睨みつける。
そして、周囲に溶け込むようにデスイーターは姿を消した。
「ふっ、流石は私のマイダーリン。土壇場で覚醒するって信じていたわ」
何故か自分の手柄のようにバカ令嬢は勝ち誇る。
おい、油断するな。
まだ肝心のデスイーターは倒せていないんだぞ。
油断し切ったバカ令嬢に忠告を告げようとする。
声を張り上げようとした瞬間、俺の身体に痛みが走った。
右手に刀を握ったまま、俺はその場に膝を突いてしまう。
「ちょ、コウ!?何か苦しそうだけど!?え、大丈夫なの!?」
口を動かそうとした瞬間、身体中に鈍痛が走る。
即座に理解した。
これは先程の剣技──風斬とやらの代償である事を。
今の俺の身体では反動が強過ぎて、あの技を十二分に扱う事ができないのだ。
ピリピリした空気が俺の肌を揺さぶる。
まだ奴はここにいる。
身体中に走る鈍痛に耐えながら、のほほんとした表情を浮かべるバカ令嬢に忠告を告げた。
「だ、……大丈夫だ、それよりも油断するな……!まだ奴は逃げていない……!」
「え?あいつ尻尾巻いて逃げたわよ」
「……逃げて、ない」
周囲から漂う刺々しい気配を感じながら、俺は首を横に振る。
その瞬間、俺の眼前は黒い亀裂によって遮られた。
「奴は、まだ、……ここにいる……!」
気怠い身体を無理に動かし、俺は空間に走った黒の亀裂を持っていた刀で遮る。
刀に強い衝撃が走った。
瞬間、刀から火花が飛び散る。
かつてない程の危機感を感じた俺は、つい刀を振るってしまった。
「風斬!!」
刀から放たれた金色の暴風が周囲の空間を吹き飛ばす。
俺の苦し紛れの攻撃の餌食になったのか、俺達の前から姿を消したデスイーターは、通路の壁に減り込んでいた。
「こいつ……!?もしかして、姿を消していたの!?」
バカ令嬢の驚く声が通路全体に響き渡る。
彼女の驚愕の声が俺の危機感を更に駆り立てた。
デスイーターの胸辺りに赤い斑点が見える。
それを視界に入れた瞬間、俺は思いっきり地面を蹴り上げると、奴の赤い斑点に向けて、渾身の突きを繰り出した。
「グギャア……!?」
デスイーターの胸に俺の刀が深々と突き刺さる。
突きが効いたのか、初めて奴の口から声が漏れた。
奴が次のアクションを取る前に追撃を与えようとする。
が、2発目の"風斬"の反動により、俺の身体は思うように動かなかった。
全身に広がる筋肉痛のような痛みが俺の身体を蝕む。
その所為で、デスイーターの苦し紛れの蹴りを腹部に受けてしまった。
蹴られた拍子で奴の身体から刀は抜け、蹴飛ばされた俺は刀を手放してしまう。
刀と俺の身体は情けなく通路の上を転がった。
俺はすぐさま起き上がると、即座に体勢を整える。
ズキズキした痛みが腹部に走った。
一応、傷の具合を確かめるために俺は腹部を撫でる。
どうやら脇腹が折れているという訳ではなさそうだ。
内臓に損傷を受けている訳でもない。
恐らく奴の蹴りは浅く入ったのだろう。
だが、唯一の武器である刀を手放してしまうのは致命的だった。
元々勝てる見込みが薄かったのに、より薄くなってしまう。
急いで床に落ちた刀を拾おうと手を伸ばした。
が、俺の動きはバカ令嬢の発した声により止まってしまう。
「いえ、もうチェックメイトよ」
いつの間にかバカ令嬢はピアスを銃に変形させていた。
銃口をデスイーターに突きつける。
デスイーターはピクリとも動かなかった。
「恐らく最初に放った黄金のアレで致命傷を負ったんでしょう。ほら、見てよ、アレ」
そう言って、バカ令嬢は少し離れた所を指差す。
そこには赤い血溜まりができていた。
「グギャァ……」
デスイーターは腕を動かそうとする。
だが、奴の右腕はズタズタに引き裂かれており、機能していなかった。
左腕はついていなかった。
視界の片隅に落ちている肉塊を見る。
その肉塊はデスイーターの左腕だったものだった。
恐らく両腕の傷は、2度目の斬撃を受けた際についたものだろう。
とてもじゃないが、今の奴には俺の刀を抜ける余裕を持ち合わせているように見えなかった。
「これで終わりよ、デスイーター。何か言い残す事はあるのかしら?」
デスイーターは身を捩るのを止めると、バカ令嬢を睨みつける。
そして、厳かに口を動かした。
「貴様がどこに逃げようが、我等の主人、ガイ──」
デスイーターの口から人の言葉が漏れ出る。
彼の言葉を聞いた途端、俺の背筋に悪寒が走った。
……が、カチッという音の所為で、俺の危機感は少しだけ薄れてしまう。
「あ」
バカ令嬢の間抜けな声を知覚すると同時に、視界が閃光により真っ白に染まる。
爆風が少しだけ俺の身体を炙った。
瞬く間に視界は元の状態に戻る。
俺が先ず目にしたのは、銃口に息を吹きかけるバカ令嬢の姿と大きな穴が空いた壁だった。
デスイーターの姿はどこにも見当たらない。
恐らく彼女の銃撃により、跡形もなく吹き飛んだのだろう。
……突然話し始めたデスイーターの言葉を最後まで聞かずに。
「おい、バカ令嬢。何か重要そうな事を言いかけていたぞ」
バカ令嬢は額から冷や汗を垂れ流す。
恐らくうっかり引き金を引いたのだろう。
「ごめん、マイダーリン。急に喋り出したから、キモって思って、引き金引いちゃった」
「そんな理由であいつを殺したのかよ!?」
「しょうがないじゃん!びっくりしたんだもん!!」
「びっくりしたんだもんじゃねぇよ!なんか、あいつお前の存在を知ってそうだったけど!?お前、あいつと知り合いだったのか!?」
「魔獣の知り合いなんている訳ないでしょ!!??貴方は私をなんだと思っているの!!??」
「バカ令嬢」
「はぁ!?私、バカじゃないんですけど!?未来の旦那様だからって容赦はしないわよ!?やるならやるぞ、コラァ!」
「何で結婚する前提で話してんだよ!?」
「好きだから!!」
「ていうか、お前、本当に俺の事を好きな訳!?その割には全然アプローチされていないんだけど!!??」
「はぁ!?私、結構アプローチしているんだけど!!??このダンジョン探索中でも、コウの背中に何度も投げキッス浴びせたんだけど!!??」
「気づかねぇよ!!なんだよ、その周りくどいアプローチ!!??どうせするなら、もっと分かりやすいアプローチしろよ!!!!」
「分かりやすいアプローチ……?はっ!もしかして、私の投げキッス姿を見たい訳!!??エッチ!!変態!!大好き!!」
「やっぱ、お前の頭の中、理解できねぇ!!」
やはり彼女の思考を読む事はできそうにない。
何故、彼女は俺に好意があるような事を言うのだろうか。
その癖、俺に好意がある素振りを見せないのだろうか。
もしかしたら、好意をチラつかせる事で、俺みたいな年齢イコール彼女いない歴な男を掌の上で転がそうとしているかもしれない。
時折見せる彼女の計算高さから、その可能性は十二分に考えられる。
なので、これからも彼女の好き発言を本気にしないようにしようと思った。
ギャーギャー喚いていると、入り口の方から足音が聞こえてきた。
筋肉痛に似た痛みに襲われる身体に鞭を打ち、俺は足元の方に視線を向ける。
俺らの下にやって来たのは、見覚えのある顔ぶれだった。
ここまで読んでくれた方・過去にブクマしてくれた方、過去に評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方・新しく評価ポイントを送ってくださった方に厚くお礼を申し上げます。
皆様のお陰でブクマ50件まであと僅かになりました。
ブクマ100件まで折り返し近くまで来れたのは皆様のお陰です。
この場を借りて、感謝の言葉を申し上げます。
本当にありがとうございます。
あと、先週告知していたPV1万突破記念キャンペーンは再来週金曜日から始めるつもりです。
キャンペーンといっても、6月4日から6月11日までの間、本編を毎日更新するだけですが、お付き合いしてくれると嬉しいです。
具体的な事が決まり次第、活動報告やTwitter(@norito8989・@Yomogi89892)にて告知致しますのでよろしくお願い致します。
次の更新は来週水曜日5月26日13時頃を予定しております。
よろしくお願い致します。




