化物と血溜まりと赤い髑髏
俺達の前に現れたのは異形の化物──人型の狼だった。
血走った目と身体にこびりついた血の所為で否応なしに奴の名前を理解させられる。
「デス、イーター……!」
刀を鞘から解き放った俺は、目の前の異形がいつ襲いかかって来ても良いように身構える。
化物は血に濡れた身体を気にする事なく、鼻を鳴らすと、空間が震えるくらいの声量で雄叫びを上げ始めた。
俺の手と足の先が震える。
生まれて初めて感じる得体の知れない脅威に背筋が凍てつく。
刀を強く握り直した瞬間、俺の視界は真っ黒に染まった。
比喩表現ではない。
文字通り、俺の視界は黒一色に塗り潰された。
本能が身体を突き動かす。
俺は刀を振る度、手に強烈な一撃が走る。
金属の鳴き声が聞こえて来る。
頬に鈍い痛みが走ったかと思いきや、身体中に切り傷が刻み込まれる。
傷を受けて理解した。
今、俺は攻撃を受けているのだ。
そして、俺の身体は迫り来る攻撃を弾くために動いているのだ。
本能に従うまま、刀を振るう。
攻撃が止むと同時に、視界が元の状態に戻った。
自分の身体のよう様子を見る。
羽織っていたジャージは傷だらけになっていた。
身体中、切り傷塗れだ。
致命傷を貰っていないのは不幸中の幸いだが、それも時間の問題。
このまま闘い続けたら、間違いなく致命傷を貰ってしまう。
(一か八かだ……!)
──持っていた刀を左手に持ち替える。
そして、躊躇う事なく、左手で剣を振るう。
空間に走った深紅の亀裂をなぞった刀から文字通り、"斬撃が飛んだ"。
飛翔した斬撃は瞬く間に化物の左腕を両断してしまう。
斬り落とされた奴の腕が床に落ちた瞬間、俺は自分の選択ミスを本能的に悟った。
「コウ、こっち!」
バカ令嬢の声を知覚するよりも先に俺は彼女の下に向かって駆け出す。
彼女は右耳につけていたピアスを取り外すと、それを銃の形に変形させた。
大規模の爆炎を起こす超広範囲の武器を躊躇う事なく手に取った彼女を見て、俺は驚くと同時に納得してしまう。
彼女の元に辿り着いた瞬間、俺は反射的に振り返る。
デスイーターの足元には赤い水溜りが広がっていた。
奴の血だ。
床一面に広がる赤い水溜り。
その中から、何の前触れもなく、赤い髑髏が這い出た。
まるで地獄の底から這い出たような貫禄で次々に赤い水溜りの中から大量の赤い髑髏が陸に上がる。
赤い髑髏は人型のものだけではなかった。
動物みたいな骨格をしたものものも赤い水溜りの中から次々に出て来る。
真紅に染まった数の暴力を見た瞬間、俺は何故こいつ──デスイーターが誰にも倒せなかったのか理解する。
こいつは数の暴力で冒険者達を叩き伏せてきたのだ。
たとえ卓越した技能を持っていたとしても、個人の力では集団には敵わない。
数は正義だ。
だから、個人の力では敵わないものと闘う際、人は徒党を組む。
集団に属する事で世界に潜む理不尽と闘い続けた。
その結果が今だ。
人類が文明を築く事ができたのは、この星の支配者となったのは集団で闘い続けたからだ。
だから、俺達人間は遺伝子単位で理解している。
数の暴力の恐ろしさを。
恐らく赤い水溜りから這い出た赤い髑髏は今までデスイーターが捕食してきたものなのだろう。
奴は数の暴力を駆使する事で、自分が食べたものを武器に変える事で、この生存競争を勝ち抜いてきたのだろう。
間違いなく言える事はただ1つ。
今の今まで闘争とは無縁だった環境下で過ごしていた俺達には手に負えない代物である事。
これだけは確かだ。
赤い水溜りから這い出た骸骨の集団が行進を始める。
ゆっくりと迫り来る数の暴力。
この状況を切り抜ける術を頭の中で模索する。
が、俺が答えを出すよりも先に事態は急転した。
「コウ、伏せて」
俺よりも先に答えを出したバカ令嬢──リリィの声が俺の鼓膜を揺らす。
次の瞬間、俺の視界は真っ白に染まっていた。
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ブクマ100件に着実に近づいているのは皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。
現在、この作品の更新ペースを上げるため、話数のストックを増やしています。
公募用の小説が書き終わり次第、こちらに注力しますので、もう暫く週1更新が続きそうです。
更新ペースを上げる際は、最新話の後書き・活動報告・Twitter(@norito8989・@Yomogi89892)で告知致しますので、よろしくお願い致します。
また、昨日から新連載「願望が叶うとしたら」を投稿し始めました。
この作品と雰囲気が180度違う作品ですが、もしよろしければ読んでみてください。
次の更新は5月12日(水)13時頃に予定しております。
完結まで書き上げますので最後までお付き合いよろしくお願い致します。




