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ダンジョンと彼女の底と謎の悲鳴

[前回までのあらすじ]

・バカ令嬢、勇者達に喧嘩を売る。

・コウ、ヒノキの棒で勇者パーティの一員である戦士に勝つ。


 勇者達を蹂躙した次の日。

 俺とバカ令嬢は『デスイーター』とかいう中学生が考えたようなふざけたモンスターを倒すため、町から少し離れた所にある"ダンジョン"という場所に向かっていた。


「なあ、バカ令嬢。本当に『デスイーター』を倒すつもりか?あれ、昨日泊まった宿の主人の話が本当なら、SSS級冒険者である勇者達でさえ手に負えないモンスターらしいぞ。駆け出し冒険者の俺達じゃ逆立ちしたって無理だって」


「そのSSS級を簡単にあしらった貴方なら大丈夫だって。本当、肝っ玉小さいわね。こういうのはノリとテンションでどうにかなるものなのよ」


「肝っ玉小さいんじゃなくて慎重なんだよ、俺は。お前みたいに行き当たりばったりで賭けに出るような迂闊な人間じゃない」


「人生は賭けの連続よ、マイダーリン」


「大穴狙わなくてもいい勝負もあるんだぞ、バカ令嬢」


 彼女の身体を張ったギャンブルに付き合わされている俺は重々しく溜息を吐き出す。


「ていうか、何でそんなにハイリスクハイリターンな手段を選ぶんだよ。もう少し安定した手段を選べるだろ……」


「選べないわよ。だって、私、お尋ね者だし。さっさと金稼いで、この町からおさらばしないと追っ手に追いつかれるっての」


 ……今更、彼女がハイリスクハイリターンな手段を取る理由に気づかされる。

 彼女はギャンブル的な手段を取りたくて取ったのではなく、取らざるを得なかったのだ。


「もし私がこの町にいる事を知られたら、冒険者ギルドに登録した事が知られたら、間違いなく登録は抹消されるでしょうね。だから、王国軍の追っ手が来る前にこの町からおさらばしないといけないのよ。これからも冒険者としてお金を稼ぐために」


「いや、王国軍がこの町の冒険者ギルドに来たら、間違いなくお前の登録抹消されるだろ。お前の名前がギルドに登録されている訳なんだし。結局、これから冒険者として稼ぐには無理があるんじゃ……」


「コウ、よく思い出して。書類にもギルドカードにも名前書く欄なかったじゃない」


「あ……」


「だから、私の顔を知っている人に私の顔さえ見られなければ、幾らでも冒険者が続けられるって訳。だって、このギルドカードに登録されている番号の持ち主と指名手配犯である私を繋げる証拠がどこにもないんだから」


 彼女は無駄に自信に満ちた表情を浮かべると、大袈裟に胸を張る。


「けど、まあ、いつヘマをして登録抹消されても分からないし。金は稼げる時に稼いだ方がいいのだけは事実よ」


「は、はあ……」


 バカ令嬢は俺よりもちゃんとこの後の事を考えていた。

 感心と同意が入り混じった俺の言葉を聞いた途端、彼女は"もっと褒めなさい"と無言で圧力をかけ始める。

 敢えてそれに気づかないフリをした。

 ここで彼女に気を許してしまったら、いつか足下を掬われてしまうと直感的に思ったから。

 そうこうしている内に、俺達は古い遺跡みたいな場所に辿り着いてしまう。

 多分、ここがダンジョンなんだろう。

 隣にいるバカ令嬢の横顔を覗く。

 俺の視線に気づいた彼女は、偉そうな態度で俺に説明し始めた。


「ええ、お察しの通り、ここはダンジョンじゃないわ」


 全然察せていなかった。


「ダンジョンはこの遺跡の下にあるわ。ほら、あそこに石造りの塔があるでしょ?あの塔の中にある階段を下る事でダンジョンの中に入れるらしいわ」


「その中にデスイーターがいるのか」


「デスイーターだけじゃないわ。噂によると、魔獣もウジャウジャいるらしいわよ。倒しても倒しても何故か無限に湧き上がるんだって、このダンジョン」


「つまり、連戦になるって訳か。……ていうか、バカ令嬢。俺、何十連戦もできる程、体力ある訳じゃないんだけど……そこら辺、考えて行動している、よな?」


「一応はね。私も今日明日でデスイーターと遭遇できるって思っていないし。今日は出会した魔獣の素材を剥ぎ取るだけで終わるつもりよ」


 ちゃんと彼女が先々の事を考えて行動しているのを知った俺は安堵の溜息を溢す。

 そして、ある疑問を抱いた。


「ん?素材剥ぎ取るだけで金貰えるのか?」


「ええ、そうよ」


「だったら、デスイーターとかいう危険な魔獣に手を出さなくても良くね?無限に出てくる魔獣を狩り続ければ、余裕で大金稼げるだろ」


「小銭を拾った所で大金持ちになれると思う?」


「素材剥ぎ取った所で二束三文にしかならないって事か」


「ザッツライト。ネームドの魔獣を狩らないと大金は得られないって訳よ」


 彼女から最低限の情報を聞き出しながら、俺達はカビ臭い塔の中に入る。

 塔の中に入った瞬間、地下に続く螺旋階段が俺達の前に現れた。


「んじゃ、入り……ましょうか」


 バカ令嬢は少しだけ声を張り上げると、緊張した面持ちで階段を降ろうとする。

 ようやく彼女も俺同様、それなりの心配を抱えている事に気づく。

 多分、ここまで考えがまとまっているのは心配を少しでも解消しようとした結果なのだろう。

 今まで底が見えなかった彼女の底を見る事ができたような気がした。

 ロボットみたいにガチガチした動作で階段を降りるバカ令嬢。

 その様子がついおかしくて、俺はつい笑ってしまった。


「な、何がおかしいのよ!」


「いや、お前って、破天荒キャラ演じている割には結構感性普通なんだなって」


「はぁ!?いつ誰が破天荒キャラ演じたのよ!?私はいつだってクールビューティーキャラ演じているんですけどぉ!?」


「はいはい。戯言はそこまでにして、とっとと先に進むぞ」


「ちょ、戯言ってどういう事よ!?」


 動揺している彼女よりも先に俺は階段を下る。

 階段を下った俺達に待ち受けていたのは、淡く発光する天井と煉瓦に覆われた壁と床の通路だった。

 ゲームとかでよく見るザ・ダンジョン的な通路だ。


「なあ、バカ令嬢。これ、どう進めば良いんだ?」


「さぁ?とりあえず道なりに進んだら?」


 不貞腐れながら俺の質問に答えるバカ令嬢。

 初めて入ったダンジョンにウキウキ半分不安半分といった表情を浮かべながら彼女は周囲を注意深く観察する。

 周囲を警戒し過ぎた所為なのか、彼女は何もない所で転ぶと、顔面から地面にダイブしてしまう。


「お、おい、大丈夫か……?」


 バカ令嬢は赤くなった鼻頭を押さえながら立ち上がると、強張った口調で俺に忠告を告げる。


「気をつけなさい、コウ。…….ここ、トラップ満載だわ」


「自分の失態をトラップの所為にすんな」


 そして、俺達はダンジョンの中を探索し始める。

 と、言っても代わり映えしない通路を延々と歩き続けた。

 浅い階層だからなのか。

 1時間くらい歩いても魔獣と遭遇する事はなかった。

 このままではタダ働きになってしまうので、俺とバカ令嬢は下の階に降りる。 

 が、下の階にも魔獣はいなかった。


「階層が浅いから、魔獣と遭遇しないのか?」


「いや、階層の浅い深いの問題じゃないわね。恐らく私達よりも先に入った奴等がここにいた魔獣を皆殺しにしたんでしょう。ほら、アレを見なさい」


 バカ令嬢が指差した方を見る。

 そこには原型が分からないくらい、ぐちゃぐちゃになった魔獣の死骸が転がっていた。

 まだ生き物の死骸を見慣れていない俺は、つい顔を顰めてしまう。


「パッと見、死後数十分程度。金になりそうな部位が残っているのを見る限り、この魔獣を殺したのは人間じゃないわね」


「人間じゃないんだったら、誰が殺したんだよ」


 俺がそれを聞いた瞬間、下の階から人の悲鳴が聞こえて来る。

 その悲鳴は今まで聞いた事がないくらい悲痛なものだった。




 


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、そして、ブクマしてくれた方と評価ポイントを送ってくださった方にお礼を申し上げます。

 皆様のお陰でブクマ件数が25件になりました。

 ブクマ100件に着実に近づけているのは皆様のお陰です。

 本当にありがとうございます。

 また、この作品の感想を頂きました。

 感想を書いて頂いた吐息さん、本当にありがとうございます。

 この場を借りて厚く厚くお礼を申し上げます。


 次の更新は4月28日水曜日13時頃を予定しております。

 次の話もお付き合い頂けると嬉しいです。

 これからもよろしくお願い致します。

 


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