穴の外と混沌と木刀
突如、生じた閃光によって俺の目が眩む。
その瞬間、俺の首根っこは何者かに掴まれてしまった。
「うおっ……!?」
俺の身体が何者かに引っ張られる。
気がつくと、俺と腹ペコの身体は荒野に寝転がっていた。
「間一髪だったわね、下手したら死んでいたわよ」
人の形に戻った自称神様が地面に寝転がる俺の顔を覗き込む。
俺は上半身だけ起き上がらせると、ゆっくり周囲を見渡した。
先ず目に映ったのは。城下街だった荒野。
かつて人で賑わっていたディア街は、俺達と黒い狐の攻防によって破壊し尽くされてしまった。
次に目に入ったのはレイと騎士団地と大学生の俺──カミデラ・コウ。
彼等は体力を使い切ったのか、肩で息をしていた。
「……お前が助けてくれたのか?」
隣で寝そべっている白目を剥いたルル──多分、さっきの閃光にビックリして気絶したんだろう──を横目で見ながら、自称神様に疑問をぶつける。
「そういう事。ほら、状況把握できたら、さっさと立ち上がる。──まだ闘いは終わっていないんだから」
自称神様に急かされる形で立ち上がった俺は、黒い狐がいるであろう穴の方を見る。
穴から立ち上る爆煙の所為で、狐の安否を視覚情報だけで把握する事はできなかった。
「……敵はどうなった?」
「健在かどうかは、九尾が穴から出て来ないと分からな……っ!」
突如、空間に空いた穴によって、自称神様の言葉は遮られる。
何の前触れもなく空いた穴から、血だらけのフクロウ──平行世界のカミナガレ・コウ──と見覚えはあるけど見慣れない姿をした女性──本物のリリィが飛び出てきた。
『あー!!!お嬢さ、………あ、別人でした』
「私よ!私の貴女のお嬢様よ!」
リリィの身体を1.5倍膨張させたような体型をした本物のリリィが、俺の左腕に纏わりついた籠手に抗議する。
『嘘だ!私が知っているお嬢様は、もっと細身だったわ!少なくとも貴女みたいなコミカルな体型をしていない!』
「ちょっと太っただけで、私は本物のリリードリ・バランピーノよ!!」
『嘘だああああ!!たった1ヶ月ちょっとでお嬢がこんなに肥えるなんてええええ!!ねえ、私、お嬢のお父様やお母様からお嬢の健康管理してくれと頼まれているんだけどぉ!!??このままじゃ、私、お嬢のお母様から滅茶苦茶怒られてしまううううう!!!!』
「大丈夫よ!私、この騒動が終わったら、あっちの世界に永住するから!貴女が怒られる事はないわ!……たぶん」
『多分ってどういう事!?私が怒られる可能性はあるって事!?』
「おい、リリィ。あっちの世界に永住って、どういう事だ。そこにいる男に何を吹き込まれた?詳しく聞かせろ」
悲鳴を上げるリリィ。
殺意以外込められていない視線で大学生の俺を睨みつつ、本物のリリィに疑問をぶつける騎士団長。
そして、無駄にドヤ顔を晒す本物のリリィ。
……一瞬で緊迫感溢れる雰囲気は締まりのないものになってしまう。
本物のリリィという本物のシリアスブレイカーの所為で。
『うう、……うるさいです。一体、何を言い争っているんですか?』
籠手の中からリリィのものじゃない声が聞こえて来る。
『ん……?腕が動かない……?足を動かす所か目を閉じる事もできな……って、あれ?何で私の身体が、あそこにあるんですか……?』
籠手の中から聞こえるルルの声により、俺の顔が青褪める。
「まさか、腹ペコ、……お前も籠手の中に魂を封じられ、……」
『そうみたいね、うぇるかむとぅー籠手わーるど。今日から貴女も籠手の住人よ』
『え!?籠手!?どういう事です!?私もリリィさんと同じ状態になったという事ですか!?え、何で!?どうして!?』
パニック状態に陥ったルルが出した甲高い声により、俺の鼓膜が激しく揺さぶられる。
『私に聞かれても分からないわよ!真王に聞いて!』
『真王さんはどこ行ったんですか!?』
『知らないわよ!多分、死んでんじゃないの!?』
『ならば、元々神に仕えていた者としてお祈り致しましょう。らーめん』
「美味しそうな祈りの言葉だな……じゃなくて!」
『ねえ、コウ。もしかして、下界には"らーめん"という美味しい食べ物があるの?』
『コウさん、大変です!この状態だとお腹が減りません!』
「空位を読め!ふざけている場合じゃないんだよ!まだ敵はピンピンしているんだよ!」
「分かったっす!私が脱ぐっす!!」
「無理に存在感を醸し出すな!」
リリィとルルの魂が封じられた籠手を肩で息しているレイに投げつける。
彼女の頭に籠手が直撃した途端、彼女もルルと同じように白目を剥いて倒れてしまった。
『うそーん!私も籠手になっちゃったっすうううううう!!!!!』
『ちょ、ルル!押さないで!感覚ないけど、何か押されているような気がする!』
『狭いんですよ!レイさんが籠手に入って来た所為で!!』
籠手の中に魂を封じられたバカ・腹ペコ・変態を見て、自称神様は怒声を上げつつ俺の頭をど突く。
「あんたが変な事をする所為で、あいつら、面倒臭い事になってんじゃん!」
「ごめんなさい!」
すみません、悪気はなかったんです。
まさかあの籠手をぶつけただけで、レイの魂も籠手の中に入るとは思わなかったんです。
『お嬢様ー!へるぷ!へるぷ、みー!!私達を籠手から解放してえええええ!!!』
「リリィ。下界にはね、ラーメンと呼ばれる美味しい食べ物があるのよ。私がオススメするのは豚骨ラーメンね」
『強引に話を戻した!?』
『流石、本物のリリィさんです!人の話を聞いていません!』
『いや、お嬢と違って、本物のお嬢はタチが悪いっす!見てください、あの目!食べる事しか考えていないっすよ……!」
籠手と化したリリィ・ルル・レイから目を逸らしながら、本物のリリィは腹を豪快に鳴らす。
「"らーめん"は良い!リリィ!永住とは何の話だ!?と言うより、何だ、そのだらしない体型は!?あの男か!?あの男の所為で、お前はそんなだらしない体型になったのか!?」
本物のリリィを騎士団長は鬼のような形相で問い詰める。
「ちょ、だらしない連呼しないでくれる!?今の世の中は多様性よ!これも1つの美!いつまでも痩せ型至上主義だと時代に乗り遅れるわよ!」
「バカ!私はお前の健康を心配しているんだ!このままだと、お前の尿から甘い汁が出てくるぞ!」
「コウみたいに正論で殴ってくるの止めて!何も言い返せなくなるから!!」
「コウ!?お前、あの男を下の名前で呼んでいるのか!?おい、答えろ。あの男とどこまで行った!?さっさと言え!」
言い争う本物のリリィと騎士団長。
ピークチャ喚く籠手の中に入ったリリィ・ルル・レイ。
女が3人寄れば姦しいと言うが、こいつらが男でも同じような結果になっていたと思う。
どいつもこいつも我が強いから。
ああ、何て混沌。
ていうか、お前ら、まだラスボス生きているからな?
何で終わったみたいな空気を醸し出してんだよ。
「自称神様、あんた、神様なんだろ?この状況をどうにかしてくれ」
「馬の耳に説法、鹿の頭に神託って言葉知ってる?というか、あの籠手に関してはあんたが原因だから、あんたが何とかしなさいよ」
自称神様と貧乏くじを押し付け合う。
すると、甲高い金属音が俺達の鼓膜を貫いた。
音源の方を見る。
そこには血だらけのフクロウに木刀で斬りかかる大学生の俺が立っていた。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・レビューを送ってくださった方に新しくブクマしてくれた方、本当にありがとうございます。
次の更新は明後日2月9日22時頃に更新予定です。
また、今回のお話は後日修正致しますので、ご理解の程よろしくお願い致します。




