落とし穴と眉間と全速前進
リリィの言う通り、俺は幅500メートル深さ1キロくらいの穴を掘り上げた。
「本当にこの作戦は成功するんだろうな!?」
俺は不安に思った事を籠手──魂が籠手に封じられている状態──にぶつける。
『成功するわよ!ルル!!』
俺の問いに対して、リリィは惑う事なく作戦の成功を断言すると、黒い狐の背後に回っていたルルに声を掛ける。
彼女が塔のように大きくて太い尾に触れた途端、自称神様とその背に乗っていた平行世界の俺──大学生の俺──の姿が消えた。
それとほぼ同じタイミングで、疲弊した騎士団長の姿も跡形もなく消えてしまう。
『コウ!私達の姿があいつの瞳に映ると同時に浮上して!!』
「あ、ああ……!」
ルルは東京タワーよりも遥かに高くて大きい敵の尾にしがみつくと、魔法で超強化した身体能力をフルに活用する事で狐の巨体を持ち上げる。
「どっせええええええ!!!!」
ルルは黒い狐の巨体を俺達の方に向かって投げつけた。
彼女の超強化した身体能力でも荷が重かったのか、飛距離はそこまでない。
大地に叩きつけられた黒い狐は、凹凸だらけの地面の上を滑る。
すぐさま体勢を整えた黒い狐は、俺と籠手とレイの姿を視界に捉えると、先程自分を害したルルではなく、俺達を害そうとした。
「なっ……!?」
『コウっ!』
視界が黒い狐の巨体に覆われる。
その姿は、まさに黒い壁。
黒い壁が俺達を圧殺しようと迫り来る。
ギリギリの所まで引きつける。
そして、引きつけられる限界まで引きつけると、黄金の風を使って、俺とレイの身体を遥か上空に打ち上げた。
「■■!」
俺達にタックルを仕掛けようとした黒い狐の巨体は、勢いを殺す事なく、超巨大な穴の中に落っこちてしまう。
「ガチで引っかかりやがった……!」
落とし穴に引っかかるラスボスを見て、俺は呆れ半分嘆き半分の叫びを発する。
『そりゃあ、そうよ。だって、あの黒い狐は目に映るものを全て傷つける存在。"知性"なんていう高尚なものはないんだから……!』
籠手の発言により、俺は今までの攻防を思い出す。
敵は俺の攻撃を防ぐ事なく、バカの一つ覚えみたいに受け続けた。
俺の動きを先読みする事なく、ただ乱雑に攻撃を繰り出していた。
さっきも攻撃して来た腹ペコを優先的に攻撃するのではなく、偶々、目に入った俺達を攻撃しようとしていた。
『だから、あいつは必ず落とし穴に引っかかる!だって、落とし穴を避ける程の知能がないから!』
黒い狐は唸り声を上げながら、俺が作った落とし穴の底に落ちる。
そして、すぐさま体勢を整えると、落とし穴から出るための翅を背中に付着させた。
『これであいつの動きは制限されたわ……!あいつは落とし穴から出る事と、落とし穴から出ようとする私達を攻撃する事しかできなくなった……!』
落とし穴から出ようとする敵を邪魔する。
それをやるだけで時間を稼ぐ事ができるだろう。
しかし、籠手の狙いは短期決戦。
最大火力をぶつけるため、彼女はこの状況を作り出したのだ。
「作戦通り来たわよ!」
狼の姿になった自称神様とその背中に乗った大学生の俺と騎士団長とルルが、宙に浮上した俺の横に現れる。
恐らく自称神様の力で瞬間移動して来たのだろう。
自称神様の顔には疲労が滲み出ていた。
「で、こっちからどうやってトドメに持ち込む訳!?」
『あいつの眉間目掛けて、みんなの最大火力をぶつける!その前にルルッ!』
自称神様の疑問に答えつつ、籠手はルルに指示を飛ばす。
『可能な限りレイを魔法で強化して!レイっ!貴女は這い上がって来る狐の邪魔をして!』
「はいっ!」
「うっす!」
『自称神様は大人びたコウを眉間の所まで連れて行って!大人びたコウは、眉間に纏わりついた黒い炎を破壊!』
「はいはい、分かったわ」
「おお、……あっちのリリィよりも頭がキレてる」
大学生の俺が感心したような声を上げる。
いや、こいつの頭がキレてるのはピンチの時だけです。
『黒い炎が破壊された後、騎士団長とコウは最大火力をぶっ放して!』
「私に命令するな、偽物のリリィ」
嫌そうな顔をしながら、騎士団長は自称神様の背中から飛び降りると、俺とレイが足場にしている黄金の風に飛び乗る。
「勘違いするな。私が協力するのは、貴様のためじゃない。リリィのためだ」
「……お前、本当にリリィの事しか見えていないんだな」
呆れたような口調で呟く大学生の俺。
そんな俺を騎士団長は激しい憎悪と殺意を込めた視線で睨みつけた。
その視線を向けられているのが俺じゃないにも関わらず、おしっこがチビりそうになる。
おい、大学生の俺。
一体、お前は騎士団長に何をしたんだ?
俺でさえもそんな目で睨まれた事がないぞ。
『それでダメだったら、撤退!以上、作戦タイム終わり!』
彼女が作戦を告げると同時に、黒い狐が穴から這い出ようとする。
作戦が雑過ぎるという指摘をしている余裕はなかった。
考えている暇はない。
俺達は彼女の作戦に従う事にした。
『さあ、行くわよ!全速前進!』
籠手の掛け声を契機に俺達は猛攻を仕掛ける。
穴の底に落ちた黒い狐は知性なき瞳で俺達を睨みつけていた。
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