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戦士とヒノキの棒と油断ならない女

[前回までのあらすじ]

・自分のお家から高度何万メートルの所に位置する浮遊大陸に呼び出されたコウ、王子の尻を花火で爆破して指名手配犯バカ令嬢リリィと協力してお家に帰ろうとする。

・色々あって、コウとリリィは町に到着し、ギルドに登録。

・バカ令嬢の暴走により、コウはギルド一の実力者である勇者パーティに属している戦士と闘う事になる←今ココ

 大男が振るう戦斧は黒い亀裂をなぞるように振り下ろされた。

 視界に映し出された黒い亀裂に触れないよう、俺は少しだけ身体を動かす。

 彼が振り下ろした戦斧は俺に掠る事なく、地面に直撃した。


「はぁ!?よ、……避けんじゃねぇよ!!」


 黒い亀裂をなぞるように大男は戦斧を振り回し続ける。

 そのお陰で避けるのは非常に容易だった。

 空間に走った黒い亀裂が彼の意図を逐一俺に報告する。

 空間に黒い亀裂が走る度に、亀裂が身体に触れないようにすればいいだけだから。


(それでも赤い亀裂は見えないな)


 赤い亀裂──どの位置に攻撃すれば良いのか教えてくれる予測線──が見えないので、恐らく今の俺では有効的な一撃を大男に与える事はできないのだろう。

 このままではスタミナが尽きてしまうと判断した俺は、バカ令嬢に助けを求める。

 僧侶らしき格好をした女性とキャットファイトを繰り広げていた彼女は、俺のピンチを悟ると、自身の足元に落ちていた俺の刀──ではなく、ギルドの壁に立てかけていたヒノキの棒を投げ渡した。


「コウ!それを使って!!」


「ざっけんな!!普通に刀を投げ渡せ!!」


 大男の攻撃を避けながら、俺は投げ渡されたヒノキの棒を手に取る。

 その瞬間、幾千もの赤い亀裂が俺の視界に映し出された。

 赤い亀裂をなぞるようにヒノキの棒を振るう。

 俺が振るったヒノキの棒は、呆気なく大男の顎に直撃した。

 醜い呻き声が響くと共に目の前の敵の動きが硬直する。

 その隙を逃す事なく、俺はヒノキの棒を彼の右首──鎧に覆われていない部分──に叩き込む。

 

「うごぉ……」


 大男が怯んだ瞬間を見計らって、俺は彼の額目掛けて突きを放った。

 俺の突きをモロに喰らった彼は、数歩だけ後退すると、地面に膝を突いてしまう。

 そして、悔しそうに歯軋りをすると、血走った目で俺を睨みつけ始めた。


「き、……きさま、よくも俺の顔に……!!」


 恥辱に塗れた表情を浮かべながら、彼は背後にいる魔法使い風の少女に怒声を飛ばす。


「おい!エリス!!さっさと俺にバフかけろ!!」


「で、……でも、まだお腹いっぱいになっていませ……」


「乾パン食わせただろうが!!」


「あ、あれだけじゃ足りな……」


「ちっ!使えねぇや……うげっ!?」


 隙だらけだったので、彼の脳天目掛けてヒノキの棒を振り下ろす。

 彼は俺の攻撃を頭で受けると、白目を剥いて気絶してしまった。

 大男が地に伏せた途端、周囲から歓声が湧き上がる。

 それらは俺を詰るものでなく、どちらかというと、俺の勝利を歓迎するものだった。


(あのバカ令嬢の言う通り、……こいつら、本当に人望がないのか……?)


 情報提供者であるバカ令嬢の方を見る。

 彼女はキャットファイトに勝利したみたいで、勇者の仲間と思わしき女の尻をパンパン叩いていた。

 ……だから、お前の尻に対する拘りなんなの

 

「あ、そっちも終わったのね」


 少しだけボロボロになったバカ令嬢は、お尻叩きを止めると、見窄らしい格好をした僧侶の方に視線を向ける。


「んじゃ、2人でこいつをボコボコにしましょうか」


「ひぃ!」


「普通に可哀想だから止めろ」


 小動物みたいに怯える女の子に襲いかかろうとしたバカ令嬢を止める。


「もう目的は果たしたからお終いでいいだろ。お前の所為で俺の実力は分かったんだから」


「へ?間違ってない?所為じゃなくてお陰じゃないの?」


「正しい言葉遣いだよ、バカ」


 恩着せがましい事を言い出したバカ令嬢の首根っこを掴んだ俺は、刀を回収すると、この場から離れようとする。


「あ、ちょっと待って。まだやり残した事があるから」


 そう言って、俺の手から逃れた彼女はギルドの出入り口付近に立っていた受付嬢の下に駆け寄る。

 そして、戸惑い続ける受付嬢に持っていた依頼書──デスイーター討伐──を突きつけると、こう言った。


「これで証明できたかしら?私達の方が勇者達よりも優秀である事を」


「は、はぁ……確かに貴女はともかく、お連れ様の方の実力は卓越している事は分かりましたが……」


「なら、手続きをよろしくできるかしら?」


「え、……は、はい。今からやって来ます……!」


 受付嬢がギルドの中に入るのを見届けた後、バカ令嬢は妙に晴々しい表情を浮かべると、俺の下に戻って来る。

 先程の会話をちゃんと聞いていた俺は、痛む頭を押さえながら、彼女に質問を投げかけた。


「……もしかして、デスイーターとやらの依頼、今さっき許可得たのか?」


「うん」


「で、その依頼を受ける許可を得るため、お前は勇者達に喧嘩を売ったのか?」


「うん」


「じゃあ、お前がさっき言っていた違約金云々は?」


「ああ、あれは嘘よ」


 目を大きく見開いた俺は彼女を詰るような視線で見つめる。

 今すぐにでも暴力を振るいたかったが我慢した。

 俺は自制できる男だから。


「まあ、これで初心者冒険者である私達が一攫千金獲得するチャンスを得たって訳。感謝しなさい。私の巧みな交渉術で『デスイーター』討伐依頼を引き受ける事ができたんだから」


 "褒めて"アピールする彼女をジト目で睨みながら、俺は露骨に溜息を吐き出す。


「それに貴方だって自信ついたでしょ。ヒノキの棒でSSS級冒険者の1人をあしらう事ができたんだから。もしまだ自信がないって言うなら、あいつら叩き起こすけど」


 口に大量の手持ち花火を突っ込んだ勇者と頭にたんこぶができた戦士、そして、尻が腫れた魔法使いを指さしながら、バカ令嬢は拳を鳴らす。

 野次馬達は醜態を晒している勇者達に同情する事なく、むしろ積極的に死屍累々と化した彼等に死体蹴り(物理的に)を行っていた。


「止めろ。これ以上、犠牲者を増やすな」


 少しだけ彼女に危機感を覚えながら、俺は彼女の額にデコピンをお見舞いする。

 俺も勇者も受付嬢も野次馬も、この場にいる全員、彼女の掌の上で踊らされていた。

 意識的に掌握したのか、それとも無意識的に掌握したのか俺には分からない。

 が、彼女は人心掌握に長けている事は火を見るよりも明らか。

 色々お粗末な点はあったが、それでも彼女がこの場をコントロールした事実に変わりはない。

 

(……油断していると、俺もあんな風になりそうだな)


 物理的に死体蹴りされている勇者達を眺めながら、俺はバカ令嬢に危機感を募らせた。


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、そして、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、本当にありがとうございます。

 みなさんのお陰でブクマ20件超え・累計PVも4000PV超える事ができました。

 前作「価値あるものに花束を」よりも早いペースでPVもブクマも伸びているのは皆様のお陰です。

 厚くお礼を申し上げます。

 次の更新は4月21日13時頃に投稿致します。

 公募用の小説に注力しているため、毎日更新できなくて恐縮ですが、完結までお付き合い頂けると嬉しいです。

 これからもよろしくお願い致します。

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